あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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どうにも筆が遅くなってしまった。

後で思ったのが、タイトルが意味深になってしまった(気のせい)


027 何か悪い物でも食べたんじゃ無いのか?違う?僕の作った物しか食べてない?ああ、そう。

 十二月。クリスマスシーズンの今、本州ならば長袖を手放せないであろうこんな時期でもサバナ気候のゲートブリッジでは未だに真夏の様相を呈していた。

 しかし夜となれば流石にそれもある程度緩和される。

 更に地下のガレージとなれば外気に晒される事もなく空調が室温をコントロールし、快適な環境を作り出す。人類だからこそ出来る特権だ。

 

 

「よし……始めるぞ、メーティス。映像はいつも通り残しておいてくれ」

『イエス』

 

 

 ガレージの開けた作業スペース、空中に浮遊するディスプレイでステータスを確認しながら僕は実験を開始した。

 勿論それはアイアンマン。新作スーツの装着試験だ。

 

 

「……やっ!」

 

 

 必要がある訳では無いが、何となく掛け声を出してみる。

 しかし、待てど暮らせどスーツが装着される気配は無かった。

 

 

「ふんっ、てぇい、デュワ!」

 

 

 掛け声やポーズを変えてみるが、一向にスーツは出てこない。

 明らかに失敗。何か問題があるようだ。

 だが、そもそも勝算があってこの実験を始めたのだが…………

 

 

「……メーティス、マニュアルを出してくれ」

『了解しました、どうぞ』

 

 

 該当するマニュアルを閲覧するが、しかし手順的には何も間違っていない様だ。

 では、何が駄目なのだろうか?

 

 

「なあメーティス、僕が生きてるって事は即ち使える筈だって事なんだよな?」

『イエス。そもそも使える理由も使えない理由も論拠が不明なので使用できないと断言出来ません』

「うーん……何が駄目だと思う?」

『気合い。でなければ、やはりブラックボックスに鍵があるかと』

「やっぱりそうなるのか……」

 

 

 メーティスでも解析が不可能と言わしめたブラックボックス。そこに正解があるとすれば僕の力だけではどうしようもない。

 身近にいる専門家に頼るという手も無いではなかったが、こっそりとやってお披露目して驚かせてやりたいという子供みたいな理由からそれは却下される。

 幸い、命に関わる事では無いので披露したところで怒られる事はないだろう。だといいな。

 

 

『気分転換に音楽でもかけましょう』

 

 

 気を利かせてくれたのか、メーティスがガレージのスピーカーから音楽を流す。

 聞き覚えのある軽妙なイントロの後に、やはり聞き馴染み深い歌詞。

 一瞬、当てつけかと思った。メーティスは知らない筈なんだけど。

 

 

「Dashing through the snow────ジングルベルか」

『クリスマスも近いですからね』

 

 

 しかも、よりによってあのリミックス版。これじゃあ完全に失敗フラグじゃないか!

 いや、まあもう既に失敗してるんだけどさ。

 

 しかし……この音楽を聴くと、踊りたくなってしまう。こう、腕をクネクネと。

 

 

『…………マスター』

「ん、どうした?」

『もしも私に“感情”が実装されていれば、私は今とてもにこやかに笑っていたでしょうね』

「それはつまり、僕を馬鹿にしてるのかな?」

『とても不思議な踊りです。奇抜ですよ』

 

 

 しかも態とらしく『あははは』と棒読みで笑いだす。

 全然愉快じゃない。AIに馬鹿にされるなんて。

 

 

「い、良いんだよ別に誰かに見られてる訳でも無いんだからさ────」

「ぷっ、あひゃ、が……わはははははははっ!! おまっ、何やってんだよ! くくくっ……お腹痛いっ」

『おや、見られていましたね』

「…………」

 

 

 さぞかし面白可笑しいのだろうか、下腹部を押さえながら束はゲラゲラと馬鹿笑いをする。

 

 おいメーティス、絶対に束が近くにいるって分かってただろ?

 それで尚且つ態と接近を教えなかったな。この野郎。じゃなくて女郎。で、良いのかな?どうでも良いか。

 

 

「あっははは! 何それー、もう一度やってみてよ!」

「嫌だよ……」

「ねえメーティス、録画してないの?」

『試験内容は映像記録として残す様に厳命されています。なので、勿論ありますよ』

 

 

 言った。確かに映像に残しておけって、言った。

 だけどそれは痴態を映しておけって意味じゃなくて、資料として残す為であって、しかも束に見せる為では決してない。

 あんな物が束の手に渡れば……何をされるか分かった物ではない。それは断固として阻止せねば。

 

 

「頼む束! それだけは止めてくれ!」

「えー、どうしよっかなー?」

「頼むよ、代わりに出来る限りの事はするから──」

「へぇ……じゃあ、許してあげよっかな?」

 

 

 あっ、失言。そう気付いた時には手遅れ。

 束は眼を細くして、右の口角だけを吊り上げ怪しげな笑みを浮かべる。

 実はこの表情、ちょっとトラウマだ。耳が痒くなってしまう。

 

 

「んぅ? 今、なんでもするって言ったよね?」

「いやいや! なんでもするとは言ってない!」

「まあいいじゃないの。今から私がする事に抵抗しないこと、いいね?」

「ちょっと待て、ここで何をするつもりだ?!」

「ぐへへ、往生際が悪いぞぅ……観念するんだなっ!」

「何だその笑い方、おっさんか! って、変な所に手を入れるな!」

「あはは、そうだよね、幸太郎はこっちの方が好きだもんね」

「おいっ、耳は止めっ────ふにゃあ」

 

 

『…………これも録画しておきますか。万に一つ、何かの役に立つかも知れません』

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい、幸太郎」

「さっ、上がって。今日はもうご飯も出来てるから」

 

 

 およそ半年振りぐらいに帰宅した我が家。

 この時の為にスケジュールを調整していてくれた両親は歓迎の様子で出迎えてくれる。

 数ヶ月振りに顔を見合わせた両親は相変わらず息災な様子だった。

 

 

「母さんの料理も久しぶりだな……」

「そうね、中々一緒に過ごす時間もなかったから」

「幸太郎も気軽に帰って来られる場所じゃないしね」

「うん、今回は良い機会だったよ」

 

 

 着々と準備が進められていったモンドグロッソ、その第一回大会が一月の末にスイスのジュネーヴで開催される事になった。

 国際連盟や国際連合と縁深いその地で行う事は、ISが飽くまでも宇宙開発を念頭においた平和活動を行なっていくという主張を言外に秘めているとも言える。

 

 そうして休みがタイミングよく重なった一月の半ば、僕たち三人は久々に本州に舞い戻っていた。

 ゲートブリッジから海外へ渡航する事は不可能だったし、代表選手である千冬の準備などの理由も重なって、スイスへ飛び立つ前に何日か実家で過ごす事がほぼ自然な流れで決まったのだ。

 

 

「父さんも母さんも仕事は大丈夫なの?」

「大丈夫よ、火急の要件は終わらせちゃったし」

「それに子会社の製品が出場する大会だから、って名目で視察の仕事にも出来るからね」

 

 

 今回、二人はモンドグロッソの催されるスイスへ同行するという。

 ウチの両親だけでなく、篠ノ之一家や一夏くんも一緒に千冬の試合を観戦し、更にスイス観光を楽しむ予定だ。

 関係者の身内が一堂に会するのは、もしかしたらコレが初めてかもしれない。

 

 

「それよりも、こんな機会だし幸太郎には聞きたい事があるのよね〜」

「え?」

「束ちゃんとの関係、どうなったんだい?」

 

 

 ああ……まあ、何となく予想通りだった。

 そもそも中学生ぐらいの頃から会う度に聞かれていた気がする。親としては気になるのだろう、その気持ちが分からないではない。

 

 

「同じ屋根の下で一緒に暮らしてるんでしょ? 何か進展はあったんじゃない?」

「進展って……学生だし、これ以上は」

「そんな重く考える必要は無いんじゃないかな? 僕は別に学生結婚でも構わないと思うけど」

 

 

 それは流石に世間体が……そんなの今更か。

 学生結婚は、別に選択肢の中に無い訳ではない。

 しかし最終手段というか、別に焦る必要もないし万が一でもなければ暫くこのままの関係が続く気がするけど────

 

 

「…………」

「なに、どうしたの母さん?」

「ううん。何だか、その万が一も充分に起こり得るんじゃないかな、って思ってね」

「え」

 

 

 何それ、怖い。

 

 

「40代で孫を抱っこするのも案外、夢じゃないかも知れないわよ?」

「そうだね、今の内に色々と準備しておいた方が良いかな?」

「あら、それは良い考えね」

「ちょ、ちょっと……」

 

 

 (ウチ)の両親は、ちょっと性急過ぎるのが玉に瑕だ。

 いや、僕が悠長すぎるのかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

 そして数日後、僕達はスイスはジュネーヴに降り立った。

 十三時間近くのフライトだったが、財力に物を言わせて我が家……と言うか両親のプライベートジェットに乗ってきたので、比較的快適な空の旅だったと思う。

 ファーストクラス並みの環境は()しもの束もおとなしくしていたぐらいで────

 

 

「うっ……げえええぇぇ、っ」

「わ、ったた、とお……っ!」

 

 

 咄嗟に袋が間に合って吐瀉物が拡散する事は未然に防ぐ事が出来た。

 袋を押さえていた手にも少し飛んでしまったが、まあいいか。

 顔色も悪い。かなり不調な様子だ。

 

 

「おい、大丈夫か?」

「ちょっと、駄目かも……」

「乗り物酔いなんて今まで無かったのに、珍しいな」

 

 

 振り返ってみれば、何時もの様にはしゃぐ事も無く、目を瞑ってフライト中は終始背もたれに寄っ掛かっていた。

 飛行機に乗るとどんなに短くても離陸して直ぐに寝入ってしまうので、そういう事かと思っていたが、どうにも違うらしい。

 明らかに何時もと様子が違う。

 

 

「うええっ、気持ち悪い……」

「暮桜の整備は僕がやっておくから、今日はホテルで休んでなよ」

「……うん」

 

 

 暮桜を設計したのは束だが、その基本設計は僕の仕上げた甲鉄(こうがね)がベースになっている為、細かい調整を除けば僕でも整備くらいなら可能だ。

 それにモンドグロッソの開会まではあと3日の猶予がある。流石に、それまでには体調も治っているとは思うのだが……

 

 

「ほら束ちゃん、お水は飲める?」

「んぅ……ありがとう、お母さん」

「束が体調を崩すなんて、初めて見たかもしれんな」

「そう言えばそうですね。姉さんが風邪をひいた所も見た事無いですし」

 

 

 束の異変に、篠ノ之一家が気付いて労りの言葉を掛ける。

 そう言われてみれば、束が風邪をひいて寝込んだという記憶はとんと無い。

 馬鹿でなくとも風邪はひかないのかと思っていたが。いや、でも馬鹿か。何とやらは紙一重と言うし。

 

 

「とりあえず千冬にも連絡しておくか。メーティス、電話を繋いでくれ」

 

 

 

 

 

 

 幸い、束は一日休んだのが功を奏してか、一晩で回復した。

 念の為に医者に診てもらう事も勧めたが、自己検診の限り問題無いからと突っぱねられてしまう。

 まあこの無免許医にはそれ相応の医学知識もあるだろうし、大事は無いと信じたいが…………

 

 

「だから、そんな心配する事ないって」

「心配もするさ、あんな事今までになかっただろ?」

「たまたま調子が悪かっただけだって言ってるじゃん。それにほら、全然大丈夫だし」

 

 

 そう言って、その場でクルンと一歩も後退せずにバク転をして見せる。

 確かに凄いけど、そう言う問題じゃ無い。

 

 

「良いから、日本に戻ったら一度医者に連れて行くぞ」

「いーやーだ! 絶対に注射は嫌っ!」

「子供かっ!?」

「おい、お前達……相変わらず仲睦まじいのは結構だが、早く終わらせてくれないか?」

 

 

 他愛もないやり取りをしていると、ガントリーに接続されたままの暮桜を纏う千冬が苦言を呈してくる。

 今は開会式の直前。暮桜の調整の最終段階が終わるのを待っていた。

 

 

「ああ、悪かったな千冬」

「ごめんねちーちゃん。ほんっと、この馬鹿が何時も余計な事を言うから……」

「何時も余計な事を言って周りに迷惑を掛けてるのは君の方じゃないか!」

「あぁん? お前がちょっかいを出してくるからだろ」

「いい加減にしないか! ここはお前らの夫婦漫才の会場じゃないっ!!」

 

 

 怒られた。

 

 

「な、なんだよちーちゃん、夫婦だなんて照れるじゃないか……」

「あー……駄目だ、最近尚更(たち)の悪い方向へどんどん悪化している気がする……」

「うん。協調性を模索した結果、結局は悪ふざけを演じる事しか出来なかったみたいでね」

 

 

 他人に対する態度は確かに軟化した。

 しかし、その表現方法が今までの方向から180度真逆にすれば良いんだろうという発想からか、それとも素に近付いたのかは定かではないが、変な事になっていた。

 今のもそう。本心がどうかは兎も角として、顔を紅に染めながら両手で頬を覆い隠してフルフルと震えている。

 つまり、人をおちょくっているのだが、何というかピエロみたいに滑稽なのだ。

 

 

「だからさ、それ止めた方が良いって。何だか気持ち悪い」

「気持ち悪いとは何さー! この束さんの感じも親しみ深いって結構好評なんだからね?」

「悪態と毒舌から産まれてきた様な本性を知ってるから、ねえ」

 

 

 まあ、悪態をつくのも恥ずかしさとか嫌悪から相手を遠ざける為に取っていた手段なので束の本質ともまた違うのだが。

 実は結構な寂しがりやで甘えん坊だ。本人に言うと全力で否定されるけど。

 

 

「ねぇ、ちーちゃん酷くなーい? 私に対しての評価が辛辣過ぎると思うんだよ!」

「私からも言ってやろうか? 気色悪い上に薄ら寒い、と」

 

 

 苦笑いかつ突き放すような口調で、本人に鋭く言葉が突きつけられた。

 

 

「が、ガビーン! ちーちゃんにも言われたよぉ……」

「束はさ、何でもかんでも極端過ぎるんだよ。何でそう、変な方向に振り切っちゃうのかな?」

「んー……マスコミとか、勝手に面白がってくれるのになあ」

 

 

 コロっと豹変するのは心臓に大変悪い。

 いや、普通の心臓じゃないから止まらないけどさ。

 そう言えば進学してからマスコミから取材される機会が増えた気がする。割合と二人同時でされる事の方が多いかな。

 本州から片道だけで数時間掛かるのに、ご苦労な事だ。

 

 

「そりゃあ滑稽だからね、お笑い芸人でも見てる様なもんだろうさ」

「うーん……」

「嫌なら止めれば良いのに」

「いやあ、それがやってる内にこのキャラも楽しくなって来ちゃったというか、何というかでしてー」

 

 

 だったらもう、好きにすれば良いと思う。

 しかし、僕はあんな狂ったみたいな束もまた束の一面であると受け入れるしか無いのだろうか。

 やれと言われればやれるだろう。でもやっぱり、違和感を禁じえない。

 

 

「良いから手を動かそうよ、こんなの真面目にやれば一瞬でしょ?」

「はいはい。ピッ、ポッパと……はい終わり!」

「本当に一瞬で終わらせたよ……」

 

 

 今まで僕が手伝っていた意味はあるのだろうか。出来るのなら初めから本気でやって貰いたかった。

 恨めしい目で見てみるが、束は惚けた顔をしながら千冬に調整内容を説明しており、完全に無視されてしまっている。

 

 

「ちーちゃんは空中で踏み込む癖があるから、敢えて対空時のバランサーを重心方向に傾ける様にしてあるからね」

「ふむ、なるほど」

「特に足運びはちーちゃんに合わせてピーキーに設定してあるけどいつも通りの感覚で使えると思うよ」

 

 

 チラとステータスを確認すれば、デフォルトとは豹変した数値の羅列が並んでいる。

 千冬専用に調整されたその数値は非常に繊細だ。常人がこのまま使えば空中で静止する事もままならずシールドの壁に激突する未来しか見えない。

 

 

「よし……それでは、行ってくる」

「はーい、いってらっしゃーい!」

「まあ、優勝は殆ど確実だとは思うけど、油断しないようにね」

「無論だ」

 

 

 ガントリーが解放されると千冬は電磁カタパルトまで歩行し、暮桜の足元が固定され、大会運営本部の指定するタイミングまで待機する事になる。

 そして、頭上に表示されたカウントが0になると同時に……千冬は飛び出した。

 モンドグロッソの開会宣言と同時に各国の代表選手が一堂に飛び交うのだ。

 

 

「さあて、それじゃ観覧席でゆっくり見物するとしましょうか」

「ああ、そうだね」

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、殆ど予想通りで千冬があらゆる競技に於いて一、二の結果を残していた。

 競技内容は通常の直接コースや障害物の設けられたレースから長距離射的、近接格闘戦など多岐に渡る。

 生身の人間との大きな相違点を挙げれば、隕石やデブリを標的とした競技が幾つか用意されている事だろうか。

 

 ラグナロック・ショックと称されるあの隕石騒動が世界に与えた影響は伊達では無く、ありとあらゆる影響を与えた。

 世界の滅亡が危ぶまれる程の規模では無かったのだが、物事には尾ひれが付いてしまう物だ。拡大解釈すれば、物流や金融の面から世界に打撃を与えたかもしれないとは考えられるが。

 今回のモンドグロッソの優勝者に与えられる称号も“ヴァルキリー”や“ブリュンヒルデ”なども、ラグナロックと同様に北欧神話が由来の言葉だ。

 

 北欧神話と言えばマイティー・ソーが思い起こされるが、この世界はアスガルドとは繋がっていない筈である。多分。

 

 

「このまま勝てば、千冬が総合優勝だな……圧倒的に」

 

 

 そして、最後の競技の開始も目前に迫っていた。

 最終競技は総合格闘戦。近接、射撃、特殊兵装を問わずにあらゆる戦法が許された一対一の真剣勝負である。

 しかし、まあ……この競技で圧倒的に優位なのは他でもない千冬なのだ。

 

 IS競技において、シールドエネルギーは一種のパラメータとして扱われ、ゲームで言うHPの様な物とされている。

 暮桜の零落白夜は相手ISのエネルギーバリアを消失させてしまい、強制的に絶対防御と呼ばれるISの最終防御プロトコルを発動させてシールドエネルギーを大幅に削り取ってしまう。

 当たればほぼ即死。撃っては消されるか斬られ、近寄っては斬られるか零落白夜、離れても接近される。

 暮桜の性能と千冬の規格外な技量が合わさり、その強さは既にチートの域に達していた。

 

 

「初めから結果なんて分かりきってるよ。誰もちーちゃんには勝てないって」

「オールレンジ攻撃でもあれば、少しは違うんだろうけど」

 

 

 千冬の防衛圏は飽くまでも雪片の届く範囲なので四方八方から攻撃すれば付け入る隙もあるだろう。

 しかし、大会関係者に配布されたタブレット端末で各国の代表選手が使用する機体を参照する限りではオールレンジ攻撃に対応した攻撃手段を装備する者はいなかった。

 要するに今大会では千冬を攻略し得る存在がいないという事だ。

 

 

「逆に言えば安心して見ていられるって事だけど……」

『マスター』

「メーティス? どうしたんだ?」

 

 

 この大会で起こり得るであろう惨状に対して憂いていると、唐突にメーティスがARの警告ポップと共に声を掛けてきた。

 そんな事までしてくるのだから、何か緊急事態でもあったのだろう。警戒して耳を傾ける。

 

 

『現在、北東の方向から飛行物体が接近しています』

「北東……この会場に、か?」

『機体の進行方向と、そこから導き出される私の計算が正しければですが』

「ところで、その飛行物体ってまさか?」

『未登録のISのようです。故に詳細は不明です』

「それは……穏やかじゃないな」

 

 

 この会場に襲撃を仕掛けるつもりなのかは定かでは無いが、接近を許せば大会にケチが付くのは間違いない。

 最悪の場合、大会が途中で中止になりかねないし、それは何としてでも阻止したかった。

 

 

「悪い束、ちょっとイタズラっ子を懲らしめて来るよ」

「ん……大丈夫なの?」

「まあ、防衛目的なら他国でもアイアンマンの使用は許可されているし、何とでも言い訳出来るよ」

「……そうじゃなくてさ!」

「大丈夫だよ、ISが相手でも遅れを取るつもりは無いから。それに、奥の手もちゃんとあるしね」

 

 

 とはいえ、使用が出来ないので用意をしていても奥の手と言えるかどうか分からないのだが。

 しかし、着実にアップデートを続けているアイアンマンならば何とかなるだろうとは思う。千冬と暮桜みたいなどうしようもない規格外でもやって来ない限りは。

 

 

「出来るだけ早く帰ってくるから、さ?」

「…………わかった」

 

 

 珍しく素直だ。と思ったら、目は閉じて口を突き出すように(つぐ)んでくる。

 えーっと、つまり……そういう事なの?

 

 

「いや、あのさ、身内が皆んな揃いも揃って凝視してくるんだけど……」

「良いじゃん別に。見せてあげれば?」

「よくもまあ、恥ずかしげもなく……!」

 

 

 後ろに振り返らない様にして、束の要求に応えてやる。

 これはつまり、儀式だ。いや、挨拶と言っても過言ではない。

 挨拶であるならば、別に人目を憚かる必要なんてないし、寧ろ挨拶は推奨されるべき行いではないだろうか?

 そう、だから何も問題は無いのだ。

 

 

「いってらっしゃい」

「はいはい、いってきます」




ヒロインに吐かせるとお気に入りが激減すると聞きました!ヤバイ!
でも仕方ないんだ、生理現象だからね。


【不思議な踊り】
別に混乱したりしない。
マーク42の装着シーンでは何故踊ったのか。もしかしてアドリブ?


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