あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~   作:あるすとろめりあ改

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一度書いて、結局全部消してまた書いて……

いかんな、早くアイアンマンを出さないと筆が遅くなる……!


022 来客にはお茶をお出しましょうか

 場所は変わらず、地下にある例のラボ。

 その場所と機材をお借りして、僕の胸に収まる予定になっているアークリアクターの解析を見守っていた。

 

 自分でやらないのかって?

 例えば、動画や音楽の拡張子を変換する時なんか自分でやらないでソフトに任せるでしょ。メーティスの方が圧倒的に速いから、見守る事にしたんだ。

 

 

『現在、解析の進捗は83%です』

「解析を始めたのはいつ頃からだ?」

『本日の午前4時43分12秒からです』

「と言うことは8時間20分弱ってところか……メーティスにしては梃子摺っているな」

 

 

 ISコアとアークリアクター。

 それぞれが単体でも人智を超越した存在であるが、あろう事かそれを組み合わせてしまう事になるとは思いもしなかった。

 如何なメーティスと言えども、それを解析するのは容易い事では無さそうだ。言い出しっぺなのに。

 

 

『プロセッサと思わしき部分の解析を開始してから何かに阻まれるかの様に進まないのです。データの集合体である事は間違い無いのですがマシン言語とは異なる未知のアルゴリズムで構成されている様で────』

「それについて見解は、開発者さん?」

「んー……理屈は解るけど、ちょっと私じゃ手伝えないかなー」

「どういう意味?」

「メーティスの思考アルゴリズムや組織構造式を説明してくれって言われて出来ますか、開発者さん?」

「あー、それは……難しいな……」

 

 

 今のメーティスは、開発者の僕でも全貌を掴むのは殆ど不可能になってしまっている。

 

 メーティスの特徴としては複数のプロセッサがそれぞれ独立した思考アルゴリズムで演算を行い、母体となるメインのプロセッサでその演算結果を集約・統合する、言わばヘテロジニアス・アーキテクチャの一種という訳だ。

 当初はソフトウエアで擬似的に実行していたそれも、資金に余裕がある今では複数のコンピュータをネットワーク化して構成している。

 例えば計算だけに特化したコンピュータがあったり、画像を認識してその詳細について精査する専門のコンピュータがあったりと……そう、人間の脳と同じである。

 

 まあ、何はともあれ。それぞれのコンピュータが何を処理しているのか、みたいな構造は把握出来ていても、今のメーティスがどう思考してその結果を出したのか、なんて問われても解らないとしか言いようが無い。

 これも人間と同じ。漢字の識別を後頭葉で視覚として捉え側頭葉で画像として処理され……なんて構造は解っても“荻”と“萩”という字を一瞬でどうやって判別しているのか、脳の処理機序について説明出来ないのと同じだ。

 

 

『申し訳ありません。今暫くお時間を頂きたいと思います』

「別に、良いんだけどさ……」

「どうしたん?」

「いや、何だろ……ちょっと嫌な予感、じゃないか、そんな感じがしてさ」

 

 

 何時だったか、ISのコアにはそれぞれ独立した自我が存在すると言っていた。

 もしもメーティスが引っ掛かっている部分が“ソレ”だとすれば……この、起動を試みる光景はとある映画の場面を連想してしまって、良くない。

 

 

「杞憂じゃないかな、ISコアに悪い物なんて含まれてないし」

「そんな食品みたいに」

「天然由来100%です」

「うわ、胡散臭い」

 

 

 天然由来成分とかって屁理屈じゃないかな。石油を原料にしてたって天然由来だし、どんなに加工しても由来は天然なんだからさ。

 そんな事言ったらアークリアクターだって天然由来100%で出来ている事になる。

 アイアンマンそのものだって……金属なんて総じて鉱石から加工してるんだから、やっぱり天然由来だ。

 

 

「食品と言えば」

「なに?」

「お腹すいた」

 

 

 器用にもお腹をグーっと鳴らしてみせる彼女を尻目に時計を見てみれば、時刻は13時を迎えようとしていた。

 確かに、そろそろ昼食を召し上がっても差し支えない時間帯だ。

 

 

「えっと箒ちゃんはデートで、お母さんは?」

「今日は習い事とか言ってたから、いないかも」

「そっか、じゃあ僕が作るよ」

「じゃあオムライス!」

「遠慮ないね。いや、全然バッチこいだけどさ」

 

 

 

 

 

 

「悪いね幸太郎くん。私の分も作って貰ってしまって」

「いえいえ。お邪魔させていただいてますし、これくらいさせて下さい」

 

 

 ──ごめんなさい、柳韻さんの事を忘れてました。

 いや、でも材料はあったし、ちゃんと作ったから言わなければ……セーフ。

 

 

「束は器用なんだが、知っての通り料理はからっきしでね」

「ええ……まあ」

「何時だったか、珍しく料理したと思ったら何と味の無いカレーを作ってね」

「うっさい……!」

「ははは……」

 

 

 味のないカレーって、どう言う事だろう。

 カレー粉かルーを使っていれば味の無いなんて事態は起こり得ないと思うのだが……いったい、どんなミラクルを起こせばそうなるのか?

 天才の無駄遣いと言うか、変なベクトルに才能を発揮してしまうのはとか、そう言う事なんだろうか。

 

 

「ん……?」

「あれ、どなたかいらっしゃったみたいですね」

 

 

 談笑の最中、インターホンが鳴り響いた。

 素早く反応した柳韻さんは立ち上がると受話器のボタンを押し、外の様子を画面越しに見る。

 液晶に映し出されたのは、見知らぬ中年の男性。

 スーツを纏った男は如何にも役所勤めといった印象で、画面越しに見える鋭い眼はいやに冷たい。

 

 

《失礼します。(わたくし)、法務省より参りました反町と申します》

「法務省……?霞ヶ関から態々、(うち)にどの様な御用でしょうか?」

《突然のご訪問になりまして申し訳ありません。実は篠ノ之束さんとそのご家族に政府からの通知がありまして。然し、少々デリケートな事案ですのでこうして直接お話しに伺わせて頂いた次第です》

「…………お待ちください。二人は、居間にいてくれ」

 

 

 釈然としない顔のまま、柳韻さんは玄関へ出て戸を開けた。

 僕達は言い付けを守って居間で待機しつつ、聞き耳を立てて隣の応接間で交わされる会話に耳を傾ける。

 

 

「不躾ですが早速本題から入らせて頂きます。我々政府は昨年のニューヨークにて発生した事件を大変重く受け止めておりまして、可及速やかに対応するべき事案であると判断致しました」

「…………」

「まず、為すべき対応としましてはISの開発者であります篠ノ之束さんとそのご家族の身柄の保護と護衛を行うべきであると判断致しました。よって、我々は省庁の垣根を越えて新たな基軸を築き、地盤を整えて来ました」

 

 

 そう言いながら、反町という男は一つの書類を柳韻さんに渡す。

 

 

「これは……重要人物、保護プログラム?」

「失礼ですが篠ノ之柳韻さん、証人保護プログラムと言うのはご存知でしょうか?」

「確か、米国などで行われている危害を加えられる可能性のある証人を手厚く保護する施策でしたかな」

「ええ、司法取引の一環でもあります。我々はそれを参考にして本人とご家族をお守りする為に全力を尽くす所存です」

「……その為に、名を偽り家族を離散させ監視を付けると?」

「リスクの分散です。我々の警護にも限界がありますから、一箇所に集まるのは危険なので」

巫山戯(ふざけ)るな!何が保護だ、これでは監獄に入れられるのと何も変わらないじゃないか!!」

「人命を優先するには多少の不自由にもご理解を頂きませんと」

「よくもまあ、いけしゃあしゃあと……!」

 

 

 柳韻さんが怒りに身を震わせているのに対して、反町という男は食ってかかる様な笑みを浮かべながら不遜な態度で受け流している。

 

 

「貴様、それでも法治国家の役人か?!」

「法律とはその名の通り国民を律する為に存在します。法が守るのは飽くまでも国であって民衆はその副産物の恩恵を与っているに過ぎないのですから」

「人権侵害も甚だしい……!」

「そんな物はですね、条文に『人権と人命の尊重し』なんて一文を書き足しておけば罷り通るんですよ」

 

 

 何と言うか、無暗に煽っていると言うか……その行動の真意が掴み取れなかった。

 まるで子供の論争だ。ただ怒りを焚きつける様に話しているだけで目的が見えてこないのだ。

 まさか、怒らせたいだけな訳があるまい。

 だったら……何をしようとしている?

 

 

「失礼します。お茶をお持ちしました」

「幸太郎くん……!?」

「これはこれは……まさか倉持幸太郎さんもご一緒とは。実は後程に貴方のお宅へもお邪魔させて頂く予定だったんですよ」

「先ほどの、重要人物保護プログラムですか?」

「ええ、特に貴方は昨年の事件で実際にターゲットになりましたからね……早急に対応すべきだと思いまして」

「僕としては、お断りしたい提案ですね」

「残念ながらそうもいきません。まだ法案として成立はしていませんが、済んでしまえば法的強制力を持ちますからね……そうなれば当人の意思に関わらず身柄を保護させて頂きます」

 

 

 そう言えば、冊子の何所かに書いてあったっけ。

 現行の法律ではSPの警護対象は内閣総理人などに限られているが著しい国益と成り得る指定された一般人も警護対象に設定するとか、当人の了承を得ずに所持品の改めを行えるようにする等、様々な周辺の法整備を進めるとか。

 しかし、ならばその方面を優先すべきなのでは?

 

 

「僕が懸念するのは、仮に昨年のニューヨークで起きたような事件が起きた場合にそれを対処する能力があるのかどうかですが、如何でしょうか?」

「それに関しましては、倉持さんにも是非ご協力頂きたいですね」

「は…………どう言う意味ですか?」

「警察庁及び警視庁にアイアンマンの提供をお願いしたい」

「……もしも仮に、僕が断った場合は?」

「そうですね……残念ながら、そうなってしまった場合には銃刀法などで理由を作りアイアンマンを接収させて頂くしかありません」

「銃刀法?僕はアイアンマンの所持を他ならぬ日本政府から認められているんですが?」

「それはアイアンマンに限った話でしょう?アイアンマン以外に銃器を所持している可能性がある……なんてでっち上げて令状を発行するのは簡単な事です」

 

 

 捜査令状なり、家宅捜索の令状を出すのは裁判所の仕事なのだから法務省がタッチ出来る事ではない筈だが……仮に癒着があるのならばそんなに難しい話でもないのだろう。

 

 しかし……やはり、急ぎ過ぎているのでは無いかという疑問と違和感が尽きないでいる。

 まるで何かに追われて促されている様な……妙な歪さがあって不自然極まりない。

 

 

「そんな追い込む様な真似をして、僕等が海外へ亡命でもしたらどうするんですか?」

「させるとお思いで?」

「出来ますよ。コッチはアイアンマンとISがあるんですよ?それも、正真正銘の最新鋭が」

「…………」

「……あまりにも見切り発車過ぎではありませんか?下準備が拙すぎる」

「さて、どうでしょう」

 

 

 探りを入れてみるが、反応は芳しく無い。

 

 いったい、こんな問答を続ける意味はなんだ?

 出来るとしても、時間稼ぎくらいにしかならないはず……

 

 

「……まあ、良いでしょう。転居や戸籍編製は未だ準備段階ですがプログラム自体は既に始動していますからね」

「始まっている……?」

「はい、現在外出しておられます篠ノ之束さんのお母様と妹さんに警護を付けさせて頂いています」

「待て……何時から妻と娘に?」

「先週から家の周囲と外出されたご家族に所轄の警察官を動員しました。ご安心ください、プライバシーの確保には努めています」

「四六時中監視してプライバシーだと?」

「最低限のプライバシーは保たれているかと」

「貴様……人をおちょくるのもいい加減にっ!」

「柳韻さん、抑えて。今日のところはお引き取りしてください」

「そうですね、どうやらこれ以上は其方も冷静に判断するのが難しそうですし。本日はお暇させて頂きます」

 

 

 男は、結局出されたお茶に手を付けずに篠ノ之宅を後にする。

 柳韻さんは座したまま動かなかったので、仕方なく僕が玄関先まで見送る事に。

 

 

「では、しかとお伝えしましたよ」

「…………?」

 

 

 最後にそれだけ言って、面に待たせていた車に乗ると躊躇いもなく去っていく。

 嵐の様に、 引っ掻き回すだけ引っ掻き回され、結局何も残らなかった。

 

 居間から隠れて見ていたであろう束も不機嫌さを隠そうともせず、しかめっ面で腕を組み憤りを露わにしていた。

 

 

「……今の、何しに来たの?」

「そう、それが不可解だ。あんなの別に伝えに来る必要なんて────伝えに来た?」

 

 

 憶測に過ぎないが、一つの可能性が浮かび上がる。

 最後の言葉も、まるで伝えに来たことを強調する様な内容だった。

 あの無意味な煽りの応酬。そんな言葉の遣り取り自体が本当に無意味で、訪ねる事こそが目的だっとしたら……?

 

 

「メーティス、箒ちゃんと一夏くん、それとお母さんの場所はわかるか?」

「イエス。常にGPSで捕捉しています」

 

 

 まあ、こちらとてプライバシーを損なっている気がしないでもないが。本人達の了承は得ているので些かマシだと思いたい。

 

 さて、眼鏡のディスプレイには箒ちゃんと一夏くんが近隣の大型ショッピングモールに、お母さんが隣街の生け花教室にいる事がマーカーで示されている。

 今のところ、GPSをトレースする限り異常は……いや、箒ちゃん達の移動スピードが些か速い様な?

 動いては止まり、また動き出すが止まり……少し不自然な動きだ。

 

 

「ん……電話?」

 

 

 ディスプレイに表示された着信は一夏くんによる物だった。

 名前を確認すると、ノータイムで電話を繋ぐ。

 

 

「もしもし?」

《幸兄さん!変なロボットが降ってきて……!》

 

 

 もしや、コレか?




というわけでまたこういう切れ目なのじゃ。

アイアンマンにとって、今更ロボットなんて敵じゃないよ。

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