あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~ 作:あるすとろめりあ改
私の技量ではこういうエピソードを挟まないと次に進めなくて……申し訳ないです。
そして懲りずに三人称視点に手を出してみる。
アイアンマンとISの活躍は、当然ながら日本に留まらず世界に衝撃を与えた。
そして身構える間も無い内に記者会見で開発者が名乗りを上げたが……それが、まさかお互いに弱冠15歳の中学生という事実まで付いてきたのだから、もう堪らない。
あろう事か、日本政府・国連と経由をした上で情報開示が行われ、アイアンマンの詳細資料と、ISに至っては白騎士がそのまま提供されていた。
…………の、だが。
「不可能とは、どう言うことだ?」
急遽、アメリカではISとアイアンマンの解析を任とした専門チームが官民問わずに選抜されたメンバーによって編成され、それぞれが開示された資料を血眼になって分析し、何としてでも再現しようと躍起になっていた。
彼は長年の功績が認められ、アイアンマン解析チームの主任に抜擢され、意気揚々と職務を全うしていたのだが……
「何から何まで不可能です。人が内部に入る事が前提で中身は
えらくアッサリと断言され、米軍から派遣された将校も思わず面食らってしまう。
それでも気を取り直して、何とか催促しようと躍起になる。
「……だったら、あと幾ら予算があれば出来る?」
「金の問題ではありません。考えてもみてください、気球しか作った事のない職人に飛行機が作れますか?」
「アレを作ったのは成人もしていないガキなんだぞ!ロッキードやボーイングの技術者を集めて────」
「チームにはF-35やF-22の開発スタッフも参加しているんです!でも、無理な物は無理だ!」
お互いに激昂して、それで一先ず冷静になる。
意見が闇雲に衝突するだけでは物事は進まないと、彼らは経験から学んでいた。
「…………仮にそれらが奇跡的に作れたとしましょう、しかしその動力源が無い」
「なに?」
「資料にはありましたよ、アークリアクターという機関が……しかしアレをそのまま同じ様に作っても出来上がるのはパラジウムを使った無意味に高価なオブジェだ…………核融合反応なんて、起きる訳が無い」
「……意図的に偽りの情報を掴まされた可能性は?」
「さぁ……もうそうなったらお手上げです。我々にはあの資料の正誤を理解する術も無いのですから」
本当に両手を挙げて、諦めた顔で左右にブンブンと振ってみせた。
将校も困り果てた。
こんな状況をどう報告すれば良いのやら……考えるだけでも胃が痛くなってくる。
「せめて、設計図か実機があれば或いは……」
「…………仮に実機があったら、ソレをどうする?」
「そうですね、徹底的に分解して解析するしかありませんが」
「元に戻せるか?」
「うーん……正直、元通りに機能する様に直すのは不可能かもしれません。あの資料が事実なら一つでも配線が狂えば機能しないでしょうし…………」
「そうか……」
「どうしたと言うんです?」
しかし、将校はそんな事は分かっていたと言わんばかりに諦観した顔で小さく頷いていた。
訝しんだ主任は、何があったのか問う。
「……上の連中は我慢出来なくてな、直接交渉を持ち掛けたらしいんだ」
「まさか、コタロ=クラモチに?」
「どうにもそうらしい。買ってやるからアイアンマンを寄越せ、ってな」
我が国らしい、と呆れながらも先を促す。
「まあ……そうしたら随分と吹っかけられたらしくてな」
「おやおや」
「買い取りは断固として拒否、レンタルのみで契約を結ぶのなら……月2億ドル、仮にも破損したり不具合が生じた場合には損害請求として最低400億ドルを払え、と言われたそうだ」
「それはまた……しかし、その程度であれば支払えるのでは?」
「独占出来ればその価値もあるだろうが、遠くない内に国連を介して加盟国を対象にアイアンマンの販売を行うそうだ」
「……であれば、別に我々が急かされる必要は無いのでは?」
「私もトップの思惑なんぞ知らんよ。威信だとか、モンキーモデルを押し付けられるとか、懸念もあるんだろうさ」
解っているのは、ここで木っ端が幾ら議論を交わした所で事態は何も変わらないし、どう足掻いてもアイアンマンの解析は進まないと言う事だ。
互いに俯きながら溜息をついて、頭を抱えるだけだった。
◯
ISとアイアンマン、その存在と開発者である僕たちの事を世界に公表してから実に数ヶ月が経過した。
これから色々と厄介な問題が積み重なるであろう事は想像に難くなく、僕は早々に日本政府とのパイプの構築を求めた。
持つべきは親のコネという事か、驚く程トントン拍子に話は着いていく。
交渉役として派遣されたのは防衛省直属の“戦略的危機介入並びに諜報的支援管理局”…………という部署の局長を務める
「何時も思うんですが……長くないですか?戦略的危機介入並びに何とか──って」
「ハハハ、どうしても出来たばかりの部署ですからな、今は略称を検討中です」
印象としては柔和な笑みを浮かべ穏やかな話し方をする好々爺……だが、何というか掴みどころの無い人、というのが正直な感想だ。
何でも長らく防衛省で防諜の仕事をしていたと言うが……つまり、スパイの類という訳か。
「それでは、本日も宜しくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
基本的に話し合いは我が家の応接室で行われ、IS関連の話題も交わされるので彼女も同席している。
轡木さんがお土産に持ってきてくれた紅茶の茶葉を淹れ、それを飲みながら話は始まった。
「それでは、まずアイアンマンの国連との契約、それと各国の反応からですが……」
轡木さんを介して、僕は日本政府だけでなく国連とも交渉を行う事が出来た。
具体的には、研究資金の提供や国への発言権、緊急時に超法規的措置を認める措置などの要求、現時点におけるアイアンマンの技術的な情報開示を行うつもりは無いが、国連を介して加盟国への販売を検討している事……など。
まあ、自衛隊への売り込みは直接交渉に応じるとか、日本政府も今回の事を材料にして国連での常任理事国入りを目指しているとか……何も一方的に押し付けている訳では無い。
その他にも諸々あるが、国を問わず駆け抜けて交渉で勝ちを掴み続けている轡木さんの手腕は流石と言う他になかった。
「──対して、アメリカやロシアは直接交渉を提案して来ましたが、此方の方で適当にあしらっておきました」
「何時もありがとうございます」
「いえいえ、コレも仕事ですからな」
戦略的危機介入…………轡木さんという防波堤を得た事で、僕や彼女に直接ちょっかいを出してくる様な連中はシャットアウトされる様になった。
そのお陰で僕達は自分の仕事に集中する事が出来る。
「さて、それとISについてですが」
「…………ん」
「ああ、すみません……どうも相変わらず人見知りで」
「ほほほ、構いませんよ」
実は彼女もさっきからいるのだが……ずっと無言のままで何一つ喋ろうとしない。
だから僕が通訳を務めないと轡木さんとも会話が成立せず……治せと提案しているのだが、一向に治る気配が無くて困っている。
……記者会見の時は普通に出来たんだから、あの通りに接してくれれば良いと思うのに、無理だと拒まれる。
彼女が他人と普通の会話を交わせる様になるまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
「篠ノ之さんの提案通り、ISにつきましては軍事利用の一切を禁止する事を条件に白騎士の情報開示を行わせて頂きました」
「……」
「えっと、国際条約の方は?」
「確実な物にする為にも日本が常任理事国入りを果たしてからになるでしょうが、そちらも準備は着々と進んでいます」
「…………」
「だから自分の口で……技術交換や宇宙開発などを目的とした国際的な拠点については?」
「まだ提案の段階ですが、以前に頓挫した太平洋沖にメガフロートを浮かべ軌道エレベーターを建造する日米合同の案、これを再利用しようかと思います」
「具体的には?」
「各国から参加と出資を募って世界規模のプロジェクトに仕切り直す事になるかと。草案では軌道エレベーターのみでしたが、メガフロートの規模を拡大して軌道エレベーターよりも先に教育機関や研究機関を設置します」
そう言いながら轡木さんは資料を手渡してくる。
総面積は150平方キロメートルの大都市で、メガフロートと言う性質上拡張も可能とのこと。
現時点では青写真でしか無いが、それだけに壮大な計画だった。
「凄いですね、これじゃまるで街を浮かべる様なものだ……」
「ええ、そしてISを用いて軌道エレベーターを建造するという実績が作られれば……」
「ISは兵器では無く、宇宙開発の道具であると刷り込む事が出来ると?」
「ええ、飽くまでも皮算用ですけどね」
それだけ聴くと、とても良い案の様に思える。
しかし……懸念としては利権確保の為に各国が足の引っ張り合いに興じる可能性があるのでは無いか、そう考えてしまう。
「確かに問題もあります。海の真ん中に浮かべるのでエネルギーをどうやって賄うか、等々」
「でしたらアークリアクターを提供しますよ」
「おやおや、それは非常に助かります」
「おい……安請け合いし過ぎ」
「そ、そうかな……」
アークリアクターの提案について言及すると、直ぐに彼女から苦言を呈されてしまう。
言われてみれば、何も考えずに二つ返事で了承してしまっていた。
…………これから自分の発言には注意しないとな。
「それでは、話が纏まりましたら改めてお話に伺わせて頂きます」
「何から何まで、ありがとうございます」
「私個人としましても、お二人とは良好な関係を築いていきたいので……では、失礼しますね」
そう言って、お辞儀をすると轡木さんは我が家を後にしていった。
何度かこうやって轡木さんと話す機会はあったが、不都合な事は無かったし、寧ろ有利な交渉を行う事が出来ている。
……そう思わせるのが上手い人材を宛がわれた、と考えるべきかもしれないが。
「…………やっと帰ったか」
「そんな厄介者みたいに言ってやるなよ……」
「だってアイツ胡散臭いんだもん……何考えてるかわかんないし」
「まあ、それは否定できないかな……」
あの貼り付いた笑顔の裏にどんな思考があるのか……正直、皆目見当も付かない。
だけれども、表面上かもしれないが基本的には此方の味方でいてくれる……筈である。
「はぁ、疲れたー」
「…………君は何もしてないだろう?」
ソファーの横に座っていた彼女が飛び付く様に抱きついてきた。
それを払いのける理由も無いので、身体が徐々に傾斜しながらも抵抗はしない。
これくらいなら構わないのだが……彼女には悪い癖がある。
「うふふ…………!」
「ぅ、ひゃあっ!?」
ペロリと、僕の右耳を舐めてきた。
去年のとある一件以来、癖にでもなったのか度々こうやって奇襲してくる。
抵抗しようにも力の差では引き剥がせないし、元々くすぐりは苦手だったのに彼女のせいで尚更弱くなってしまっていた。
いつも通り緩急をつけたり、吸い付いてきたり……
因みに、彼女のお気に入りは右耳らしい。
「こうたろー、終わったんだったら────あら?」
「あ」
「わ」
そんな思春期にはとても相応しいとは言えない行為が断行されている最中に、母さんが応接室を覗きに来た。
終わったら報告をしろという約束を僕が違えたせいなのだが……正直、気まずい。
何と言い訳したものかと、頭をフル回転して考えていると────
「なーんだ……じゃあ、ごゆっくりと~」
あろう事か、何事も無かったかのようにスルーしようとする。
「えっ、それでいいの!?」
「何よ今更、小学生でもあるまいし」
それは、一体どう言う意味なのかな?
中学生でも高校生でも大問題だと思うのだが、母さんは全く気にした様子も無い。
寧ろ何かを見守るような温かい目で見つめていた。
「それじゃ、夕飯までにはリビングに来るのよ。あっ、束ちゃんも良かったら
言いたいことだけ言って、母さんは無慈悲にも扉を閉めてしまう。
そう、あっさりと僕は母親に見捨てられたのだ。
「……ゆっくり、していってだってよ?」
「いや、ちょっと待とうか……?」
「それに食べていっても良いって言われたし」
「違う違う!夕飯って言ってたよ?!」
しかし、彼女は問答無用で詰め寄ってくる。
只でさえ至近距離だったのに、最早逃げ場が無い程にまで追い詰められて…………
「待っ────」
その日、結局彼女は夕飯を
活動報告にて行われているアンケートですが、予想に反して沢山の投票を頂いて正直驚いています。
投票はアベンジャーズが圧倒的に多いのでまずはアベンジャーズから書き始めると思いますが、時間と気力に余力があればホームカミングとか他の時系列にも手を出してみようかな……なんて考えています。