Beast's & Nightmare 大森海の転生者 作:ペットボトム
というわけで、この作品で引き続き妄想設定を垂れ流すことにしますwこれからもよろしくお願いしまーす
その日、彼の目の前に美しい徒人の少女がやってきた。父が連れてきた娘だった。
「年頃が近いお前が友人になってやって欲しい」
そう言って彼女を紹介した。
彼は笑った。
「何が“年が近い”だ。私達と徒人とでは寿命も成長速度も違いすぎる。この娘がヨボヨボの老婆になる頃に私はやっと大人の仲間入りを果たすのだぞ」
父はそれを叱ろうとした。今にして思えば、父はこの森にたった三人しかいない同属である彼が寂しい思いから鬱屈とした気持ちを抱えて生きていたのを何とかしたかったのだと思う。
だが、娘はそれを停めた。
「事実ですから、それは仕方が無いことです」と。
しかし、その言葉には続きがあった。
「でも特性の違いを理由に他と壁を作って交流をすることを放棄することはとても悲しいことです。“私達”はそれを学んだ。あなたもそれに気付いてくれるといいんですが」
その時こそ、彼はそれを笑ったが、その言葉が今までの彼を支えていたとも言える。
その時以来、彼女は事あるごとに彼に話しかけてきて、交流を持とうとした。
最初は煙たがっていた彼も、彼女の働きかけに次第に態度を軟化させていき、いつしか楽しく談笑をする仲になっていた。
そして思った。他者と話して心を交わすとは、こんなにも楽しい物だったのだと。
こんな時間がいつまでも続いて欲しいと、そう思っていた
「夢か、久しぶりだな。彼女が夢の中に出てきてくれたのは」
執務室の机に突っ伏して、いつの間にかこの上街の支配者である
それは彼にとって、もっとも美しい時代の記憶だった。
もし、あの時彼女に出会わなければ彼は他種族、いや、自分と家族以外の全ての存在に対する興味を失って、もっと卑屈な男になっていただろうから。
オベロンは、目元の涙を拭う。
「彼と出会ったからなのかもしれないな」
机の上に積み重なっている膨大な資料を見て苦笑する。
ソーマ・ソリフガエ。はるか昔に一度滅ぼされ、森伐遠征軍の末裔である自分達上街の住人の前に再び現れた
初めは魔力転換炉の増産を手伝わせるための工員としてしか見ていなかった人材だったが、彼にアールヴの秘伝である
生命の詩の一部を切り抜いて、簡易型動力炉として
全く冗談のような成果だ。
ソーマのつっ込みどころ満載の大活躍とそれに伴う常識大破壊にあの頃の王は憔悴しきっていて、いつもはオベロンの指導者らしくない態度に顔を顰めて遠巻きに見ている侍従や官僚達でさえも心配して声をかけてくる始末だった。
「陛下、大丈夫でございますか!?顔がブルーベリーの様になっておりますぞ!?」
などと肩を貸してくれたのは誰だったろうか。あの時は意識が朦朧としてて記憶が無かったが、皆に本当に心配をかけてしまった。
ソーマの活躍に伴う諸問題を処理するのに少々時間がかかったが、彼の活躍が小康状態になった今ならより冷静に
それを思いだすと笑いが止まらなくなる。
使い勝手の悪い魔獣素材と生体部品を利用して、幻獣を参考にしつつ幻晶騎士を無理やり再現しようと試みたこの兵器は、これ以上の強化は不可能な代物だと思っていた。
機体の出力強化などしようとしても、生体アクチュエーターである筋蚕の品種改良は夢魔族が繊維・食用昆虫として完成させてしまっていた所為なのか、遅々として進まず、
金属資源を
それをソーマはあっという間に打ち砕いた。限界などと言う物はつまらない思い込みに過ぎないのだと言わんばかりに。
当初こそ、精神的ショックを受けたが、今では痛快に感じる。無意識のうちに付けていた上蓋をあっさりはずされたとでも言おうか。「私達はもっと上を目指せるのだ」と気付かされた。
彼には感謝しなければなるまい。オベロンはほくそ笑む。彼の心の中深くに仕舞われていた狂気が再び顔を出し始めた。
「そうだ、今私が開発している“もう一つの兵器群”と彼の開発する幻獣騎士が合わされば、もう巨人族など恐れるに足らん!あれを量産ベースに載せるのにはいま少しの猶予が必要だろうが、もう少しの辛抱だ。必ず復讐は成し遂げられるだろう!」
王はそれまでとは打って変わって慈しみに満ちた表情で、彼の懐に仕舞われていたロケットを開けてそこにはめ込まれた肖像画を見つめる。
「だから、それまで待っていてね。 ラミア」
上街よりやや離れた洞窟の中でソーマは腕を組んで唸っていた。
彼の前には巨大な樹の皮が並べられていて、そこには様々な
これらはソーマがこの街の
彼自身も魔導兵装の量産のために駆けずり回っている構文師たちの手を煩わす事の無い様にと、極大魔法を行使するための紋章術式を効率化させるための、研鑽を積んでいるのだ。
そして遂にそれらの魔法術式の内訳とその構文の組み方のコツを習得することが出来た。
「ただし、風魔法に限る」
そうなのだ。この上街で生産される魔導兵装は風の
何故かと言うと、筋蚕が作る繭からとった糸を使った絹、
ソーマもこれに気付くまでに「風と炎を後方から吐き出す魔法装置を作れば、ジェットエンジンにできるんじゃね?」などと考えて実験してみたことがあった。結果は大失敗。紋章術式を構成していた魔絹が溶け落ちてただのガラクタになった魔法装置はそのあと、風の魔導兵装に改造されてカマドウマの腹部に収まっている。
そして、「雷の魔法で、イオノクラフトも出来るのでは?」などと考えていたものも同様で、こちらは頭部に納められている魔導兵装の原型になった。どちらも流用されたのは筐体だけで、紋章術式は書き直さなければならなかったが。
「まあ、魔導兵装用はこれでいいや あとはミコーちゃんに教える魔法についてだけど・・・・・・」
巨人族の少女、ミコー。ソーマの手によって魔術演算領域を励起させられるようになった彼女は
「ねぇ、ソーマぁ また私と一緒に魔法を使ってよ!」
凄まじい熱意を持ってこれに挑んでいた。その命を危険に晒しかねないほどに。故にソーマは叱る。
「駄目だよ、ミコーちゃん。今、君は魔力をかなり消費してるんだから、回復するまで待ちなさい。魔力を使い切っちゃったら死ぬよ?」
「大丈夫だよぉ、ほら、もうこんなに回復して・・・・・・あれれ?」「ほら、眩暈がするほど疲弊しているじゃないか。まだ休憩していなさい!」「ぶ~ぶ~」「むくれても駄目だよ」
彼女達巨人族は強化魔法を本能的に行使して、自身の決闘級の体を支えている。故に万が一、その強化魔法に回す分の魔力を使い切ってしまえば、肉体が崩れて息絶えることになってしまう。
だから、ソーマも魔力切れを警戒して余裕を持って休憩を取ることにしたのだが、彼女は休憩時間中も魔法練習をさせて欲しいとソーマに懇願してきた。
彼女の熱意が魔法そのものではなく、ソーマが自身の魔術演算領域へのアクセスをする際に発生する快楽目当てのものであることを、彼は未だに気付いていない。
「魔法を使えるようになったのが嬉しいんだろう。自分もそうだった」と初めて魔法を使ったときのことを思い出して感心しているだけだ。
(この調子なら、彼女は魔法を習得してくれるだろう・・・・・・だが、彼女の熱意に反して魔力回復能が追いついていないのが心配だ)
このままでは自分の監督外の場所で勝手に魔法を使ってしまい、その身に宿る魔力を使い果たして彼女は死んでしまうかもしれない。ソーマはそう考えた。
それを避けるためには・・・・・・彼はある策を思いついていたが、これは上街に対する裏切り行為にもなりかねないものだ。そして、彼の“一台でも多くの幻獣騎士が生産されて欲しい”という願いとも矛盾する。
ソーマはしばらく頭を抱えて唸っていたが、
「・・・・・・ミコーちゃんを放っておくことなど、もうできないし、裏切りと言うなら彼女を匿う行為も該当するから今更だよな。腹くくるしかないなぁ、ソーマ」
そう自身に言い聞かせた彼はカマドウマに乗って、ある場所に向かった。
「よし、まだ誰にも気付かれていなかったようだな」
あれから3時間程たった後、彼は魔獣が跋扈する森の奥を訪れていた。ここは決闘級魔獣の生息密度が高すぎて、小鬼族の幻獣騎士部隊はおろかルーベル氏族の戦士達も滅多に近づかない危険地帯。
最近はこの地帯で素材となる魔獣を狩っていたソーマはあるものを見つけていた。そのまま持って帰ろうと思っていたが、あるアイディアが脳裏を過ぎり、そのときはしばらく放置しておくことにした。
この日もお目当てのものがある場所にたどり着くまでに何体かの魔獣が襲ってきたが、ソーマは全て血祭りに挙げていた。そのためカマドウマは血塗れだ。割といつものことだが。、
そうしてたどり着いた物の前にソーマは立っている。
それは大分古い型の幻獣騎士の残骸。おそらくは決闘級以上の魔獣に狩られたものだろう。あまりにも危険な地帯であるが故に回収を諦めて放棄された、と推測できるその機体は筐体がズタズタに引き裂かれていて、操縦席も中が“食い荒らされて”いるため原形をとどめていない。内部骨格もまとわり付いていた筋蚕を貪られたせいなのだろう、滅茶苦茶にされていた。
だが、この機体においてほとんど破壊されていない箇所がある。それが胸郭の後側に搭載されている魔導演算機と魔力転換炉だった。金属で出来ている故に魔獣も興味を示さ無かったのだろう。ほぼ無傷だった。
「たぶん、大昔にこの危険地帯にうっかり足を踏み入れちゃって、複数体の魔獣に集われてこうなったんだろうな。最初は街に持っていって再利用してもらおうと思ったんだけど、気が変わったんでね、ちょっと違う使い方をさせてもらうよ」
ソーマは潰された筐体を丁寧に解体して両者を取り出すと、それらをカマドウマの両手に抱えてその場所を後にした。
それから洞窟に戻ったカマドウマをミコーが迎えた。
「ソーマおかえりなさい。いきなり出掛けてくるって、言って出て行ったものだから、びっくりしたけど、どこ行ってたの?」
心配そうに胸部装甲を開けたカマドウマの操縦席を覗き込むミコーに彼は応えた。
「ちょっと、森の奥までね。取ってきたいものがあったんだ」
彼はカマドウマを操作して、片手に掴んでいた魔力転換炉をミコーに渡すと、彼女の肩に乗ってこう言った。
「ミコーちゃん、今からこの機械を壊して、その虹色に光ってる金属を捏ねて塊にしてくれる?今からそのための魔法を一緒に紡ぐから」
ソーマは彼女の魔術演算領域にアクセスを始めた。ミコーはそれに伴う快楽に蕩けた笑顔になってるが、彼はやっぱり気付いていない。演算に集中しているからだ。
(あぁ・・・・・・やっぱりこれ気持ちいい・・・・・・ハッ、いけない。ソーマの言うとおりにしなきゃ!)
彼女は掌にソーマが演算した魔法を纏わせて、魔力転換炉を握りつぶした。中に流れていた
「ひゃあ!?うぅ・・・・・・何、これ?」
「ごめん、魔力転換炉にはこれが入っているのを忘れてたよ。毒があるわけじゃないから拭うだけで大丈夫だよ」
顔や胸に掛かってしまったそれを拭ってから、ミコーは引き続き作業を始めた。
(大掛かりな加工は多少拙くとも彼女にやってもらって、細かな調整と作りこみは俺がやろう。デザインはどうしようかな?)
それを見ながらソーマはこれから作る装置の設計について思いを巡らせていた。
(これに拡大術式を刻み込んでいけば、魔力増幅器が作れる。強力な魔力が流れても大丈夫なように耐久力に全振りしたものを作ろう。増幅率はいい所2倍程度になるだろうが、大元の魔力が大きければ十分な魔力供給量になるさ。それを彼女に使ってもらえば、もう魔力切れの心配はなくなるだろう。)
最初は一部だけ削りだしてきて、他は上街に持って帰ることも考えたが、そんなことをすれば「減った質量の分はどこに行った?」と疑われて横領したことがバレてしまう。故にこれは丸ごと使うしかないのだ。幻獣騎士用増幅器3機分の精霊銀は確かに痛いが、ソーマは覚悟を決めていた。
(まあ、これも“メカ”には違いない。“バレなきゃ犯罪じゃないんですよ”って言うしなぁ。“巨人用魔力増幅器”必ず完成させて見せるぞ)
決意と共に設計を練っているソーマの顔には笑みが刻まれていた。
ミコーの魔力についてのつっ込みを頂いたこともあったので、ブーストしちゃうことにしました☆ 「ロボットいらなくね?」となるのを防ぐために増幅効率を落とす言い訳を考えるのに苦労しましたw
感想欄のアンケート募集の規約に掠ってると言われて、確かにそうだと考え直しました><
というわけで、活動報告欄にてアイディア募集してみようと思います。torinさんご忠告ありがとう!