Beast's & Nightmare 大森海の転生者 作:ペットボトム
森の中を一頭の魔獣が駆ける。
それは白い獣だった。所々に黒い模様が入っているその体躯は近辺に暮らしている巨人族達を凌駕するほど大きく、その爪牙はそれらの肉や甲殻をたやすく切り裂くであろう。
魔獣は飢えていた。ここ最近、自身が狩れるような食いでのある獲物にめぐり合えなかったからだ。
だが、ようやく自身の経験上、容易く狩ることが出来そうな生き物を見つけることが出来た。
そのおいしそうな獲物に向かって魔獣は背後から忍び寄ると、一気呵成に飛び掛り、
直後、横合いから飛んできた何かによって大きくその軌道を変えられた。すさまじい衝撃が魔獣を襲い、近くの樹に体を叩きつけられる。
だが、この程度では獣の命を刈り取るには足らない。全身を本能的に強化魔法で守った獣は、“何か”が飛んできた方向を睨んだ。
それは大きな人型の存在。だが、巨人では無い“何か”であった。
「
鈴を転がすような声を放ったその“何か”は、あまりにも異様な風体をしている。
筋肉質の巨漢を思わせる体躯、それを包む光沢を放つ外骨格、その上に載っている昆虫のような頭部。
この森に存在するどの生物もこんな奇怪な容姿はしていない。
それもそのはず、これは複数の魔獣の死骸から引き剥がしてきた骨と甲殻を使って作り上げられた人造の存在、
「気合入れて行こう、ロシナンテ!」
幻獣騎士“カマドウマ”の胸郭の内側で小さな一人の少女のような少年、ソーマ・ソリフガエは胸郭内部の機械と一体化して今や座席と化している愛馬を鼓舞する。
すると、筐体を構成する機械、
通常の生物に在らざる膨大な魔力の感覚に、ロシナンテは高揚感を覚え力強い嘶きと共に主であるソーマへと流し込む。ロシナンテはこの瞬間が大好きだ。自身が普段とは違う大きな何かに変わっていく感覚はたまらなく心地よい。
それは魔力を流し込まれ、共に魔法を紡ぐソーマにとっても同じだった。ソーマはそれを自身の脳髄と連動した
筋肉として張り巡らされた芋虫型魔獣“筋蚕”はそれに応えた。カマドウマはその巨体に見合わぬ敏捷性と、その巨体に見合った質量エネルギーを武器に縞獅子に突撃をかけた。
対する縞獅子も黙って攻撃を受けるだけではない。急な邪魔が入って驚いたが、この狩りの邪魔をしてきた“何か”には嗅ぎ覚えのある匂いが混ざっている。矮小な小人達の匂いが。
縞獅子は知っている。この匂いを発する生き物ではない何かは大きさこそ巨人と同じだが、大して美味くもないかわりに、強くも無い。遊びで襲って壊したこともある弱い存在だ。
そして、その中に入っている小人は食べ応えは無いが、そこそこな味だったはずだ。
生意気に狩りを邪魔してきた償いをさせてやろう。そう思ったかどうかはわからないが、とにかく怒っていた縞獅子は目前の身の程知らずにその前足に生えた爪を振り下ろした。
「お生憎様、アラクネイドとは違うんでね!」
一撃で大抵の動物の肉を引き裂く爪は、その太い腕によって受けとめられた。すかさずもう片方の爪でも攻撃するが、同じく無効化される。
この機体は縞獅子の今まで襲ってきた幻獣騎士に比して大量の筋蚕が張り巡らされている。故にもはや獅子の力程度では根負けしてしまうほどの馬力を発揮しているのだ。体重を載せた圧し掛かりをしようとしてもびくともしない。
縞獅子は戦法を変えることにしたようだ。その大きく裂けた顎とそこから生えた牙をもってして、目前の敵の頭部を噛み砕こうとしている。
「待ってました♪大口開けてくれてありがとう!」
カマドウマの頭部の顎が開き、その奥から結晶が露出すると、その先端部に周辺の大気が集まってくる。風の基礎系統に属する魔法が、収束された空気分子の奔流を引き起こして、縞獅子の口腔めがけて“照射”された。
「コヒィィィレント・ストォォォォォォム!」
雄叫びと共に吐き出された風魔法が、縞獅子の体を内部から削り壊し、肉を引き裂き、骨を分解し、夥しい血液を周囲に飛散させる。頭部が原型を留めなくなるほど破壊されて縞獅子の命脈は絶たれた。
力を失っていく縞獅子を優しく抱きとめたカマドウマは、強化魔法を失って脆くなった体が崩れないように丁寧に地面に下ろした。
「なんとか、頭部だけ破壊できたな。こんなに若くて新鮮な素材が手に入れられたんだから、俺ってば、ついてる♪」
機体の動作テストがてら森の中を散策していた彼が縞獅子を見つけたのは全くの偶然であった。その体から取れる骨は希少価値が高く幻獣騎士素材になると聞く魔獣だ。一台でも多くの幻獣騎士が作り上げられて欲しいと願う彼にとってそれに戦いを挑むことなどに躊躇は無かった。
縞獅子の骨は寿命を迎えた個体のそれから剥ぎ取られたことがあったのだが、強化魔法に対する応答性が高く、グレードの高い幻獣騎士のフレーム素材として重宝されていた。
だがこの魔獣は幻獣騎士1個小隊に匹敵すると言われるほどの力を持った大型魔獣。その癖、動きが早くて大抵の場合数を頼みに攻撃しようとしても各個撃破されたり、逃げられたりしてしまう。ましてや一機で渡り合うことなど不可能だと言われて来た。
故にその素材は大変高価で、状態のいいものは下手な金属資源より希少性が高いといわれていたのだが、それが丸々一頭分手に入るなど、今までであれば考えられないことだった。
それを可能とするカマドウマが今までの幻獣騎士の標準性能をブッちぎっているのは間違いない。
「ん?」
死体を解体して、骨と皮を剥ごうとしたソーマはふと視線を感じて、横を振り向いた。
その視線の主の正体は女であった。それも人間で言えば、12歳前後の容姿に見える褐色肌の美しい少女。
だが、その体躯は7m前後と大変巨大であり、その顔にある3つの瞳はそれが人間ではないことを示している。
巨人族の少女。それが先ほどこの縞獅子が獲物として襲い掛かり、偶然ソーマが助けてしまう形になった視線の主だった。
その3つの瞳は震え、涙を浮かべている。なにやら腰の辺りが濡れている。そして地面を蹴って、ここから逃げようとしているが、うまく力が入らないのか 失敗している。
巨木の枝を槍のようにこちらに向けているが、ガタガタと震えていて矛先が定まっていない。
この事から察するに、恐怖で腰を抜かしてしまったのだろうと思われた。
今のこの娘が恐怖しているのが、縞獅子なのか、ソーマのカマドウマなのか。片方が頭部を失って横たわっているのを見れば、考えるまでもあるまい。、
「・・・・・・どうしようかね、この子」
なんだか妙なことになった。
ソーマは素材を剥ぎ取るために縞獅子を屠殺したのであって、この娘を助けるつもりが在ったわけではないのだが。
そう思っていたソーマではあったが、こんな失禁している少女にまでそんな感情を向ける気にはなれない。彼が憎んでいるのはあくまで「ロボットや兵器を作るのを邪魔するやつら」なのだから。
ふと、ちょっとした好奇心から、彼は操縦席のハッチを開けて外に出てみることにした。
少女から反応があった。信じられないものを見たような眼でこちらを見つめてくる。
「おびえないでくれよー ボク わるいゴブリンじゃないよ」
やってみたかったネタ台詞を炸裂させるソーマ。もっともそんなネタを目の前の巨人少女が理解できるはずは無いが。
しかし、効果はあったのか、少女の体の震えは収まっていき、落ち着きを取り戻していく。
「あなたは小鬼族?・・・・・・これはあなたの
この問いに対して、ソーマは首を縦に振ると、少女に忠告した。
「お嬢さんはルーベル氏族の方ですか?この辺は結構強くて怖い魔獣がたくさん犇いている場所ですよ?あなたのような人がうろついていると食べられちゃいますよ?お家に帰った方がいいですよ」
ルーベル氏族。この近辺を支配している巨人たちの氏族であり、森伐遠征軍の生き残り達を隷属している巨人族最大の氏族。
この辺は彼らの縄張りなので、目の前の少女はその氏族の一員だと思ったのだ。
だが、娘は首を横に振った。
「私は、ルーベル氏族じゃない・・・・・・」
怪訝な顔をするソーマ。他の氏族の子が迷い込んできたというだろうか?
更に事情を聞こうとしたソーマだったが、突如起こった大きな物音に驚いて、周囲を警戒し始める。
(他の魔獣が現れたのか?)
一瞬そう思ったのだが、すぐに違うことがわかったのだ。音は目の前の少女が発していた。その腹部から。
腹の虫が盛大に鳴き喚いていたのだ。お腹すいたと。
「なにやってるんだろうねぇ、俺」
そう自嘲しつつも、ソーマはカマドウマを使って、縞獅子の死体を丁寧に解体し、調理していた。どうも彼女を放って置けなくなってしまったらしい。
本来、骨と皮のみ取り出して捨てておくつもりだった肉を、周辺の樹を使って即席で作った簡単な道具で固定すると、その辺の枯れ木を薪にした焚き火で炙っていく。種火は炎魔法で付けた。
「はじめて作った道具だけど、何とかなるもんだねぇ」
機体から降りて、いい感じに中まで焼けたか確認し、火が通っていることを確認した肉を巨大な葉の上に載せていく。
軽く味見してみる。あんまり美味しくない。でも食べられないほどじゃない。肉食獣の肉だ。あまり贅沢はいえまい。
「は~い、できたよ~ 召し上がれ!」
そう言って巨人少女に渡したのだが、受け取ろうとしない。
「毒なんか入ってないよ。ほら」
一切れちぎって食べて見せると、彼女も食べ始めた。どんどん食べる勢いが増して行くあたり余程お腹を空かしていたんだろう。
食べ終わった所でソーマは話しかけた。
「お腹が膨れたんなら、事情を聞かせてくれないかな?あなたが誰で、どうしてこんな所に居たのか」
そうして、彼女は名乗った。彼女の名前はミコー。ルーベル氏族とは違う諸氏族の内の一つ、アドゥーストス氏族の村で暮らしていた少女だそうだ。
「だとしたら、ミコーさん、ここはルーベル氏族の領域に差し掛かっている。彼らに見つかる前にあなたの氏族の所に帰ったほうがいい。
俺は会った事がないけど、ルーベル氏族は乱暴な輩が多くて、他の氏族が自分達の領域に入ってくることを嫌う排他的連中だと聞く。
こんなところに居るのがばれたら、何をされるかわからないよ?」
優しげにこう語りかけたが、またも首を横に振られてしまった。
「私に帰る場所はないわ・・・・・・氏族の皆は死んでしまった。大きな獣がやってきて食べられてしまった。父も母も、もういない・・・・・・・」
そういえば、聞いたことがある。巨人族の氏族の一つが、師団級に匹敵する巨大な亀の魔獣に襲われて、滅んでしまったのだと。
滅多にはいないのだが、この森には幻獣騎士が束になっても適わないような旅団級・師団級魔獣と言われる超大型魔獣が現れることがある。
彼らは巨人の一人や二人ぐらい軽く平らげるほどの巨躯で、村や町を襲うことがある。おそらく彼女の言っている獣がそれなのだろう。
その魔獣災害から彼女だけが生き残って、逃げ延びたらしい。その獣ははるか西の地に行ってしまったのでもうこの近辺でそいつに襲われる心配は無いらしいのだが、
見れば、彼女の3つの瞳からは涙がこぼれていた。家族を失った悲しみを思い出してしまったらしい。
悪いことを聞いてしまった。ソーマは気まずい気分になった。
「しかし、何にしてもここは危険だよ。他の氏族の所に行くことはできそうにない?」
ソーマはそう尋ねるが、またも首を横に振られる。他の氏族の所を当たってみたらしいが、ほぼ断られてしまったそうだ。
彼女の足で行けそうなところは全て当たったのだが、残ったのは遠く離れたカエルレウス氏族とフラーウム氏族ぐらいのもので、しかも彼女は普段交流が無かった彼らの村の所在地がわからないのだそうな。
そうやって、行く当てが無く彷徨っていたら、先ほどの魔獣に襲われそうになって現在に至るということらしい。
「ルーベル氏族に紹介して引き取ってもらう・・・・・・のは無しだな。それは彼女があんまりにもかわいそうだ」
聞いたところによると、連中は平定した他の士族の村娘を相手に性的な乱暴を働くこともあるそうで、そんな連中の所にこんな若い娘を放り込むなどろくな未来が待ってないだろう。
故に却下するのはソーマの良心では当然といえる。
「よし、ここなら大丈夫だろう」
ミコーを連れたソーマがやってきたのは上街から少し離れた場所にある古い鉱山の跡地だ。
資源を取り尽くして、ルーベル氏族からも上街の人間からも見向きもされなくなった鉱山で、巨大な洞穴が口を開けている。ここならば、しばらくの間は誰にもばれずに彼女を匿えるだろうとソーマは考えたのだ。
中に決闘級にも満たない魔獣が住み着いていて、侵入者を撃退しようとしてきたが、彼らはソーマがカマドウマを使って撲殺したため、穴の中で哀れな屍をさらしている。
「よ~し、あらかた掃除が終わったからもう大丈夫だと思うよ。しばらくはここで過ごしてくれる?」「う、うん・・・・・・」
魔獣を血祭りにあげて、返り血を浴びまくったカマドウマの全身は赤黒く汚れており、その姿にミコーの表情は引き攣っているが、ソーマは気にせずそれらの魔獣を加工して、彼女の胃袋に入れるべく、先ほどやったような手順で解体していく。
「う~ん、今度塩を買ってきて、干し肉にでも作るかな。ミコーちゃんどう思う?」
そんなことを言いながら、ソーマは彼女の今後について考えていた。
「ソーマ、いらっしゃい。今日も来てくれたの?ありがとう!」
そう言ってミコーが洞穴に入ってきたソーマを歓迎してくれる。
あれからほぼ毎日洞窟に通いつめているソーマ。当初表情が硬かったミコーも今ではソーマの前で笑顔を見せるようになった。
途中でカマドウマで撲殺したり、ロシナンテの上からぶっ放す魔法で殺した魔獣を持ってきては彼女のために解体し、調理していく。
あの日持って帰った縞獅子の素材を上街の工場に持ち込んだら、大変な貴重な素材故に何か褒美を取らそうということになったらしい。
それに対して、彼は「棒給を上げてくれるのなら、定期的に魔獣素材を狩って持ってきましょう」と言って、それが許可されたため、増額された給金を岩塩の購入に当てて、それを彼女の所に持っていくようになった。
故に、彼女の食べる魔獣料理のレパートリーは大分増えてきている。
「このハンバーグっていう料理すごく美味しい」「ソースもないし、卵ぐらいしかつなぎになるようなものが無いんで、正直不満もあるんだけど喜んでくれてよかった」
このサイズの生物が腹を満たせるような料理に使う穀類やその加工品など手に入れるのは現状不可能なので、鳥類型魔獣の巣から取ってきた卵を使って作ってみたものだ。
ハンバーグといっても材料のひき肉は幻獣騎士のマニュピレーターで作った粗いものなので、とても人間が食べられたものではないのだが、彼女の咬合力の前にはこの程度のものでも「今まで食べたことが無いぐらいやわらかくて美味しいもの」らしい。
ちなみに彼女の食事の間は、自分用サイズに調理したものをソーマは食べている。こちらはより丹念に挽いた肉と小麦粉や鶏卵をつなぎにして作った人間でも食べられるものだ。
「ねぇ、ミコーちゃん、俺もあれから色々考えたんだけど、君の今後の方針について聞いてくれる?」
この日のソーマは食事が終わるとまじめな顔をして、彼女を見つめてこう言った。
「うん・・・・・・ソーマの考えを聞かせて」
ミコーも見つめ返してくる。
彼女はたまたま迷い込んできただけなので、この近辺の地理にも詳しくは無く、また知識を手に入れる伝も無い。五里霧中と言える。
故にこの近辺のことを知っていて、それ以上の情報を手に入れる手段を幾つか持っているソーマだけが頼りだ。
小鬼族だからなどという侮りは、縞獅子を始めとする巨人でも苦戦が免れない大型魔獣を幻獣騎士を使ったとは言えど、ほとんど一方的に屠る様を見て、吹き飛んでしまった。また食事も寝床も用意してもらって置きながら侮る気になるほど恩知らずではなかった。
彼女はソーマを信じていた。そのソーマが自分について賢明に考えてくれたのなら、それを聞かせて欲しい。そう思っていた。
「あれから色々調べてみて君が言っていた、フラーウム氏族とカエルレウス氏族の大体の場所がわかったんだよ」
彼は簡単な地図を地面に書き始める。自分達小鬼族の上街や下村、ルーベル氏族の街である「百都」、そして各氏族の大体の位置。そして最後に彼女が言っていた二つの氏族の集落の位置。
「見て解ってもらえたと思うけど、かなり遠いね。たぶん、道中で魔獣に襲われる可能性もあることを考えれば、ここに向かうのは今の君には危険だ。かと言って、ルーベル氏族を頼るのは問題外だし、俺達小鬼族の街や村では養うことは不可能だろう」
縞獅子のような魔獣が跋扈するような場所を歩くことは危険だ。そして、ルーベル氏族のような強姦魔の巣窟(少なくともソーマのイメージでは)に彼女をやるのは別の意味で危険であるし、巨人へのヘイトや恐怖を溜め込んでいる人類の集落では揉め事の種となるだろう。それに小鬼族は自分たちの生活で手一杯でこれだけの質量を持った巨人という生物を養えるだけの余裕などあるまい。
「じゃあ、ここでこのまま暮らしていくべきかな?」
ミコーは何故か嬉しそうな表情でそう言う。
「いや、うちの
ソーマのその台詞を聞いて、何やらションボリしてしまったミコー。それは八方塞りな現状に悩んでいると言うより、好きなものを取り上げれらた子供のような表情。何かをとても惜しんでいるような顔だった。
「そこで発想を変えたんだよ。君に巨人達の集落への道中を無事に乗り越えられるだけの力をつけて貰おうって」
「力をつける?」
ミコーはソーマの言葉の真意を測りかねていた。
「君に魔法を教えるよ。それを習得して下手な魔獣なんか追い払えるようになってもらう」
「ま、魔法!?でも、私は
巨人族は生まれ持った眼の数による厳格な
なんでも、このルールに不満を抱いている派閥の筆頭核こそが何を隠そうルーベル氏族で、それ故に周辺の氏族とのいさかいが絶えないのだとか。彼らが「眼位に関係なく皆が自分の特性を発揮できる社会を」といった理想を掲げているならソーマも感心しただろうが(現実的ではなかったとしても)、彼らの氏族長が
話がそれたが、このように眼の数と階級によって役割が決まっている巨人族社会において魔法が使うことが出来るのは
しかし、ソーマにしてみればそのような理屈など笑止千万である。
「いや、君達は無意識のうちに魔法を使っているんだよ。君達巨人はその質量を支えるために本能的に強化魔法を自らにかけている。だからこそ、そうして生きて、立っていられるんだ」
「???・・・・・・よくわからない」
ミコーは理解できないようだ。
しかし、これは無理も無いことだろう。彼女達の社会は原始的で、現代地球どころかこの世界の人類の文明にも届いてはいない。故に科学的・魔法学的視点から己の体を分析するようなことも出来ないし、その発想も無い。
そのような種族に、「あなたたちの体のサイズを維持するのには強化魔法が必要なはずだ。そうでなければ、自重に負けて体が崩れてしまうはずなんだ」などと説いても実感など湧くまい。
「とにかく、君は生物としては魔法が使える条件は揃ってるはずなんだよ。あとは君が意識して魔法を使うために必要な器官、
ミコーが手を差し出すと、ソーマはその指を握って、彼女の魔術演算領域へのアクセスを試みた。ロシナンテの時と同じく彼女の魔法を“開拓”しようとしているのだ。
(見つけたぞ。ロシナンテのときに比べれば桁違いに反応が強い。だが、全く使われてなくて縮こまってるみたいだ。これを開拓するには骨が折れるぞ。だが、根気よく刺激していけば必ず・・・・・・)
だが、ソーマがこのように冷静でいられるのとは対照的に、ミコーは彼が魔術演算領域へのアクセスを始めた時から発生している未知の感覚に翻弄されていた。
(!? 何?何なのこの感覚!? 彼に優しく抱きしめられるような、それでいて無理やり乱暴なことをされているような でも嫌じゃないような この不思議な感覚は!?)
他者の魔術演算領域に干渉する。いわば、脳にハッキングをかけるようなものだ。自分の脳にハッキングなどされたら想像しがたいほどの違和感を持つであろう。
だが、
実を言うとこれこそが彼らが“夢魔族”などと言われて、大陸の西方においてアールヴや人類が彼らを強く嫌悪して滅ぼしてしまった原因の一つなのだが。
魔獣を従えて操るのみならず、この“快楽”を武器に知的生物の社会において権勢を深めようとした者もいたということだ。
「よし、なんとか魔術演算領域の励起に成功したようだね。あとはこれを何度も続けていけば、いずれは魔法が使えるようになるはずだよ」
「えぇ!?こ、これを何度も? そ、そんな事されたら私・・・・・・」
「大丈夫だって、うちのロシナンテだって、元々魔法なんか使えない普通の馬だったんだよ?それに比べれば君は元々素養はあるはずなんだ。自分を信じて!」
「そ、そういうことじゃなくて・・・・・・」
結局、これ以降ミコーは魔術演算領域の使い方を“理解させられて”彼の手によって魔法が使えるように“改造”されていくことになってしまった。
その過程で彼女が絶え間ない快楽の渦にさらされたことは言うまでもあるまい。
(ソーマぁ、私、もうあなた無しで生きて行けないよぉ・・・・・・カエルレウスもフラーウムもどうでもいい。あなたと一緒に生きていきたいよ)
故に彼女がとろける脳でそう思うのも無理からぬことだったのだ。巣立ちをさせるために力をつけるつもりで、己への依存度を高めているなどとは想像の外であったソーマ。実に罪作りな少年だ。
「どうしたの、ロシナンテ?今日は馬鹿に機嫌が悪いね?なんでそんなに怒ってるの?」
そして、忠義者として評価していた愛馬がなんだか妙に怒っていて、ソーマは宥めるのに苦労したようだ。彼は
やっと、ヒロインが出せた~
そうです、巨人をヒロインにしたいがために、主人公に早めに機体を手に入れて欲しかったのです。なんかよくあるモンスター娘がヒロインのエ○ゲみたいなシチュエーションになってるけど、気にしない、気にしないったら気にしない(><)