Beast's & Nightmare 大森海の転生者 作:ペットボトム
おねショタ好きな作者には、ちょっぴり残念に感じたけど、よかったら皆さんも読んでみてね~
この小説のヒロインおねぇちゃんキャラにしておねショタしてしまおうかしらん(´・ω・`)
「父上。折り入ってお話があります」
夕食が終わって自室に戻ろうとしたとき、愛息子が明るく弾んだとても楽しそうなソプラノボイスでこう切り出してきた。
その顔には微笑が浮かべられていて、こうしてみると妻そっくりだ。つぶらな瞳が瑞々しい輝きを発していて、見ていると吸い込まれそうな感覚を覚える。
もし、この顔と声で頼みごとなどされてしまったら、大抵の人間は快く引き受けてしまうだろう。もちろん父であるウブイルも例外ではない。
「なんだい?ソーマ、もしかして幻獣騎士に関係することかな?」
この息子は物心ついたような頃から、勉強熱心で思慮深く、その所為なのか遠慮がちな所があってあまりわがままを言わないのだが、唯一
その熱意は現役騎操士であるウブイルですら適わないと思うぐらいだから、今回もきっとそれに違いないと彼は思ったのだ。
「それに関係はありますが、人を紹介して欲しいのです。」
人の紹介とはな、とウブイルは意外に感じた。
「誰を紹介して欲しいんだ?もしくはどんな人物を?」
「それはですねぇ、なるべく若くて、精力が有り余ってて、新しいものが好きで、幻獣騎士に乗れる素敵な人です♪」
あまりに艶やかな表情と声で放たれたその言葉を聞いて、ソブイルは盛大に突っ伏した。
まさか、愛息子は「そっち」方面に興味を示し始めたというのだろうか?
この上街において、
「あ、できたら経験は浅い方がいいですね。」
「け、経験!?・・・・・・そ、ソーマぁ、お父さんはお前はまだそういうことは早いかなぁって思うぞぉ?」
動揺と混乱で震える声でそう言うウブイルに、ソーマは更なる追い討ちをかけた。
「そうでしょうか?こういうのはなるべく早く始めないと、開発が進みませんから・・・・・・・」
「開発!!??」
色々と口には出せない想像が脳を駆け巡り、顔色がドンドン悪くなっていくウブイル。
「ええ、データ取りはなるべく早くに始めておかないといけませんからね。いつまでたっても量産には入れません。」
「うごご、ソーマぁ 一体いつの間にそんな子に・・・・・・うん? データ?量産?」
ショッキングピンクの想像で脳内が染まっていたウブイルに投げかけられた息子の発言は、彼が想像していたものとは随分毛色が違っていた。
どうやら何か勘違いをしていたらしい。咳払いをして邪な想像を振り払い、今度こそ息子の真意をちゃんと汲み取ろうと、気を取り直そうとした瞬間、
「ええ、新型動力源を搭載した次世代幻獣騎士のテスト、それは早いほうがいいでしょう?」
汲み取ろうとした柄杓が溶け落ちた。そんな感覚を味わった。
今、ソーマはなんと言った?新型の動力源? 次世代幻獣騎士?荒唐無稽にしかウブイルには感じられなかった。
息子は一体どうしてしまったというのか?妄想と現実の区別がついていないのだろうか?
だが、同時に自分の息子がわずか8歳で決闘級魔獣を生身で倒してしまうようなとんでもない人物であることも思い出した。
陛下の命で御前に参り、そこで何かを話してきたようだが、それから帰ってきた息子は以前にも増して奇矯な行動を取るようになった。
邸宅の倉庫を借り受けて何かを楽し気に組み立てていたのは知っていた。なぜロシナンテを連れ込む必要があるのかは疑問であったが、遊びの一環だろうと気にしていなかった。
今思えば、何か関係があるのかもしれない。
そう思案していた彼の目の前にソーマは容赦なく“陛下直々の許可証”と“新型兵装並びに魔力増幅器の仕様書”という劇物を提示した。
読み進めるごとに、彼の手の震えと脂汗は激しくなっていく。
それは革命であった。より量産に適した新型動力源“
これらを搭載するための新型幻獣騎士を模索するための開発・実験用機体の製造と、その騎操士のスカウトを許可する旨が記されていたのだ。
「父上、昨年から俺が組み立てていたものをご存知ですね?」
「ああ、ロシナンテを倉庫に連れ込んでなにやら作っていたな?」
やはり関係していたようだ。
「あれはそこに書いている新型動力源のテストをするための機材だったんですよ」
自宅でなんと言うものを組み立てているのだこの子は。機密も何もあったものではない。
「で、陛下から下賜された俺の専用機にそれと併せて、たまたま思いついて設計してみた魔導兵装を搭載してみたんですけど・・・・・・」
専用機!?息子はいつの間に騎操士になっていたというのだ?
まて、今 魔導兵装を設計してみたとも言ってなかったか?
ウブイルの頭を混乱が埋め尽くす。
「そうして完成した俺の愛機“カマドウマ”っていうんですけど、色々事情があって、これは他の人が操縦することが不可能なものになっちゃって、これの設計をそのまま量産型幻獣騎士に採用するのは無理だという結論になりましてね。
そこで、他の騎操士でも操縦できるような物を模索するために、次世代型試作機を作るので、その騎操士をやってくれそうな人を探しているんですよ」
頭痛がしてきた。知らない間に息子はそんな一大事業に関わっていたのか。わずか9歳だというのに。
「最初は陛下が近衛騎士を斡旋してくれると仰ってくれたんですが、近衛の方々は経験豊富なベテランで固められているとお聞きしました。
今後作られる次世代機は操縦感覚が旧来機と大きく異なるものになりそうなので、できたら若くて従来の機体を操縦した経験が浅い騎士にお願いした方がいいと思いまして、指導教官的な立場に立っている父上ならそういう人をご存知ではないかと思ったんですよ」
「ぐ、具体的にはどう違うんだい?教えてくれると助かるんだが」
そう質問してかえってきた内容が以下の通りだ。
・操縦者自身の魔力を流し込み、増幅して機体に供給するため、体調やテンション次第で性能が変わる。
・法撃時に狙いをつけられるように頭部に魔導兵装を内蔵している。こちらは搭載スペースの都合上、そこまで術式規模を拡大できないため、威力弱めで長射程の牽制用兵器。
・更に強力な火力を発揮できるよう腹部にも魔道兵装が搭載されており、こちらは中・近距離で放つ仕様となっている。
などである。常識が涙が出るぐらい無残に破壊されていた。
「・・・・・・これはたしかに操縦感覚が激変しそうだ」
蚊の泣くような声でウブイルはそう同意した。一番目の仕様が特に酷い。
「う~む、わかった。この条件に合致するような人物に心当たりがある。その者に声をかけてみよう。」
「ありがとうございます!」
ウブイルの憔悴しきった声に反して、彼の愛息子の声はどこまでも明るく艶やかであった。
「それで俺を呼んだということなんですか、ソリフガエ教官?」
「そういうことなんだ。頼めるか、フリッツ?」
まだまだ新米な騎士フリッツ・ファラジオンが先輩騎士にして、自身の教官を務めてくれているウブイル・ソリフガエに頼まれごとをするという珍しい光景だった。
「経験が浅い若輩者だからっていうのが気になりますが、その次世代機ってのには興味がありますんで、引き受けるのはかまわないですよ俺は」
「ありがとう。」
目の前の人物は教官として自分を厳しく鍛え上げもしたが、仕事上の様々な悩みを聞いてくれたり、実際に助けてくれたりした。
その恩師が頼みごとをしてきたのだ。この機に恩を少しは返しておかないとならないだろう。
それに新しい機体とやらに興味があるのは事実だ
そうして、フリッツは数日後、郊外に設置された試験場に派遣されることになった。
そこにあったのは聞いていた通り従来機とは全く異なる機体だった。
フリッツが今まで乗っていたハーベスト・マンをはじめとするアラクネイド・タイプが猫背気味で腕が多関節構造になっていて細長いのに対して、こちらは人間に近い二脚での直立姿勢をとっている。
その脚は太く、腕も装甲の間から見え隠れする筋肉が盛り上がっていて力強さを感じさせる。
そうやって全体的なフォルムを把握していたのだが、ある一点に眼が引き付けられた。
頭部だ。頭部に口があるのだ。それも人間や獣のような横ではない、縦に裂けた口。それは凶悪な虫の顎だった。
こんな異形の幻獣騎士に自分は乗るのだろうかと、今から不安になってきたフリッツだった
そんな彼に声をかけてくる人物がいた。
「もしかして、あなたがフリッツさんですか?」
心地よいソプラノに振り向いてみれば、そこにいたのは、愛らしい少女であった。
いや、違う。あの髪色には見覚えがある。以前見た教官の奥さんと同じストロベリー・ブロンド。この子がおそらくソーマ・ソリフガエだろう。
若干8歳で決闘級魔獣を討伐した英雄にして、今回の次世代開発の中心人物であるソリフガエ教官の息子だ。
「いかにも、そういう君はソーマ君なんだね?初めまして。・・・・・・話に聞いていた通り、本当にかわいらしい姿をしているんだねぇ。」
「ふふふ、口説くんなら女性相手にしてくださいな。」
微笑んでこう返してくる少年はやはり、男とはとても思えなかった。
「ところで、俺がテストしろといわれているのは、この機体なのか?えらく変わってるが・・・・・・」
「いえ、これは俺の専用機、カマドウマですよ。フリッツさんに用意している機体は別にあります」
来てくださいといって連れてこられた、整備場のハンガーに鎮座していた機体はたしかに先ほどのカマドウマとは別の機体だった。こちらはよりスリムになっている。
胸郭の一部にこそアラクネイドタイプの名残があるがそれ以外は従来機と全くの別物だ。
頭部は顎など存在しない。カマドウマとは違いおとなしいデザインで安心する。額に何かついているようだが。
だが、それ以上に眼を引くのが腕だった。具体的に言うとそれは鎌、蟷螂の前足のそれである。
蟷螂の上半身をした幻獣騎士。そこにあったのはそんな機体だったのだ。カマドウマとは別ベクトルの異形。
「俺はこれをマントディアと呼んでます。あなたにはこれを操縦し・・・・・・」
「ごめん、帰っていい?」
苦虫を噛み潰したような顔でフリッツはそう言った。
「ああ!?帰らないでください!見捨てないでぇ!性能は良いんですよこの子!・・・・・・多分だけど」
その言葉になお帰りたくなったフリッツであった。
なんとか宥めすかしてフリッツにマントディアに乗ることを了承させたソーマは彼に機体の説明をした。
「う~む、たしかに法撃戦を展開できるのは便利だね」
そうでしょう、そうでしょうとソーマはドヤ顔を決める
「でも、だからってなんで腕がカマキリなのさ?従来機と同じで鉤爪でいいだろうに?」
この人として当然の疑問にソーマはこう応えた。
「金属資源が使えない以上、強化魔法をかけやすいように腕と一体化した武器を取り付けるべきだと思ったんですよ。この鎌も言わば爪の延長線上にあるものといえます。
骨や甲殻を研いだ刃を取り付けて、対象を切り刻む。そして、敵の攻撃を受け止めるためにも、それは長いほうがいい。そうやって延長していったらこのデザインにたどり着いたのです」
にしてもあまりにも禍々しいデザインだと文句の一つも言いたくなるのが人情というものだ。
「とにかく乗ってみて欲しいんです。わけあって俺はこの機体には乗れないので、代わりに乗ってくれる騎操士を探していたんです。少なくとも格闘性能は従来機より上がってるはずです。だからお願い見捨てないでぇ!」
そう泣き付かれて、フリッツも仕方なく操縦席に座った。
(悔しいけど、確かにこの武器は鉤爪より扱いやすいようだ)
試験場で鎌状アームパーツを振り回していて、フリッツはそう思った。
見た目こそ禍々しいが、これは鉤爪に比べれば剣術の動きを反映させやすくなるように造られていて、正直従来機の格闘戦に違和感を覚えていたフリッツはこちらの方が扱いやすいと感じた。
二刀流の片刃双剣とも言うべきこの鎌を振り回して、標的となる巨大な丸太を切り刻んでいく。
見た目が酷いのはこの際眼を瞑ろう。そう思う程度にはこの兵装が気に入ったフリッツだった。何気にチョロい。
そう思っていると、ソーマから次の指示が来た。次は魔導兵装の試験をするようにとのことだ。
鎌を畳んで、先ほど切り刻んだ標的とは別のそれに目をつける。
(彼は視線がそのまま射線軸になると言ってたな。ここかな?)
注入された魔力が、魔力増幅器を通して拡大・増幅され、額に埋め込まれた触媒結晶に注ぎ込まれると、魔法現象が発現する。
風の基礎系統に属する魔法、
続いて左の操縦桿を押し込むと、腹部シャッターが開いてそこからも、触媒結晶が露出する。そこから撃ち放たれた魔法は同じく風の基礎系統に属する
(素晴らしい威力だ。そしてこの魔力増幅器を使った操縦方式・・・・・・こちらの方が魔力転換炉より量産しやすいらしいがそれだけじゃないぞ)
先ほどの格闘戦テストのときもそうだが、魔力を注ぎ込んで操縦するこの操縦法は騎操士が疲れやすくなったとも言えるが、適度な疲労感が機体の疲労を感じ取っているかのようで、自身が幻獣騎士になったかのような没入感を与えるのだ。
これを一体感による快感と捉えるものも現れるだろう。他ならぬ自分のように。
「フリッツさん、この機体に魔力を込めるときは静かにしてちゃ駄目です。腹に力こめて、思いっきり叫んでください」
後ろからそんな台詞を投げかけられた。振り返ってみると、カマドウマが歩いてきていた。ソーマが乗っているらしい。
「叫ぶって何をだい?」
「今からお手本を見せましょう」
そう言って、標的の前に立ち、
「コヒィィィレント・ストォォォォォォム!」
その言葉と共に頭部にある顎が横に大きく開いて、触媒結晶が露出する。収束した風の“線”が標的に着弾するとそれを切断した。
それは先ほど自分が放ったそれよりも収束率が上がっていて、貫通力も上昇していたように感じた
「クラッシャァァ・トルネェェェェェド!」
腹部シャッターが開いて露出した触媒結晶が高威力旋風を作り出し、地面を掃き清め、抉り取る。ついでの様に標的が巻き込まれると、バラバラになって細かく分解され、跡形もなくなってしまった。
こちらも自身のそれより威力が上昇している。
「これでわかったと思いますが、注ぎ込める魔力はテンションによって上下します。ここぞというときは大きく叫んでテンションをあげて、魔力を注ぎ込めば、威力が上昇しますよ」
これには実は少しだけ嘘が含まれている。確かに魔力増幅器は供給者のテンションによって注ぎ込まれる魔力が上下するため、魔力を注ぎ込むときは叫んだりして、気分を盛り上げることは有効なのだが、ソーマが乗っているカマドウマの動力源となっているのはロシナンテなのだ。本来はソーマのテンションは関係ない。
だが、この賢馬は空気が読めるので、ソーマのテンションが上がっていると自分もテンションを上げて、注ぎ込む魔力を上昇させる。なんと忠義の厚い馬なのであろうか。さすが
「随分と疲れる仕様なんだねぇ。だが、確かに面白い。俺も真似てみよう」
この日、訓練場は拡声された
訓練の場ではもう少し大人しめの声で練習しましょう、そういうことになりましたとさ。