Beast's & Nightmare 大森海の転生者 作:ペットボトム
今回使う予定だった設定を、漠然としたものしか用意しておらず、イメージを固めて、描写するのにえらく梃子摺ってしまいました。
まだモチベーションは高いつもりです。エタっているというわけではないので、そこはご安心を。
*前回の誤字報告をしてくださったMAXIMさんありがとうございました!
「いやぁ、まさか筐体の強度不足であんな事になるとは・・・・・・ミコーちゃん、本当にごめんね」
粘液で塗れてしまった巨人少女にペコペコと頭を下げるソーマ。
現在の彼女は、髪を洗った後、代えの服に着替えている。
「う、うん。気にしないで。ビックリはしたけど、痛かったわけじゃないし。それに・・・・・・なんだか気持ちよかったし」「え?」
後半は、恥ずかしげにやや小さな声で呟かれた。この意外な反応に、彼も首を傾げる。
(どういうことだろう?・・・・・・もしや、
「でも、洗濯すごく大変そうだったね。
粘液晶でネチョネチョになってしまった真っ白いワンピースは、村人に手伝ってもらって大急ぎで洗濯した。染みになってしまってはいけないからだ。
ミコーの体に合わせて造られた巨大な服であるため、その洗浄にはそれ相応の苦労が伴う。後で手伝ってくれた皆には、改めて礼と謝罪をしておこうと、ソーマは思った。
「そういえば、どうしてあの時はカマドウマを使わなかったの?いつもソーマは何か作るときとかは、
ふと、素朴な疑問を彼女は口にした。
今までソーマは、ミコーのための料理を作るときなどは、大まかな仕事は彼の愛機の
巨大な服の洗濯には、その力を借りた方が手っ取り早い気がしたのだ。
「いや、カマドウマの爪で服なんか洗濯したら、ビリビリに引き裂いちゃうよ。あれは本来武器なんだから」
彼の操縦テクニックは、かなり巧緻性の高い作業もこなせるレベルにまで上達しているのだが、本来は肉を抉り、甲殻を砕き、命を絶つ事を企図した近接兵装である幻獣騎士の爪は、服のような柔らかい物は容易に切り裂いてしまう。
これを料理から工作まで、器用に使いこなしてしまうソーマが異常なだけで、こんな用途は想定されていないのだから。
しかし、ミコーの言うことにも一理あるとソーマは感じた。
「うーん、考えてみれば“柔らかい物を優しく掴む”用途のマニュピレーターがカマドウマには付いていないな・・・・・・巨人族と接していけば、この先必要になることもあるかも」
幻獣騎士は兵器だ。常識的に考えれば、そんな機能を付けようとするのは無駄を増やしてしまう事に繋がる。兵器を開発する上では避けなければならない考えだろう。
だが、この森で幻獣騎士は兵器としての側面以外にも、もう一つの顔を持っている。それが“
小鬼族に侮りや蔑みの視線を向けてこないミコーはともかく、一般的な巨人族は人類を見下している。
10m近い巨躯を誇る巨人にとって、1~2m程度の生物である人間はどう映るだろうか?言葉を話す小動物という風に見えるはずだ。そんな者が交渉を持ちかけてきたとき、それを見た者の心に“憐み”“滑稽”“侮り”といった思いが浮かぶ事を、どうして責められるだろう。
故に、彼らと交渉をする上でも重要な意味を担っている機材が「幻獣騎士」なのだ。人型の兵器に搭乗し、自分を擬似的な巨人に見立てることで、人類は初めて彼らと交渉出来る様になったのだから。
そういった“コミュニケーション・ツール”として幻獣騎士を見た場合、カマドウマは必ずしもふさわしい機能を持っているとは言い難い。ただ強力な兵装を搭載するだけでは、相手を恫喝する事しか出来なくなってしまう。
もちろん、交渉において恫喝や脅迫は重要な選択肢である事は、ソーマも承知している。
しかし、もし、ミコーの他にも、小鬼族であっても侮らず、自分達と手を取って歩むことを選択できる、優しく賢明な巨人が現れたなら・・・・・・その手を握り返せるようにしておきたいと、ソーマは思った。
「優しく対象と触れ合うための装備・・・・・・これも用意する必要があるな。ちょうどいい技術には心当たりがあるし、飛行用装備と併せて造ってみよう」
工場にて、多くの職人がソーマの指導の下、壊れてしまった
「そうです。離型剤をちゃんと塗りつけておかないと、後で剥がすときに苦労しますから、気をつけて」
慣れぬ作業に悪戦苦闘している職人達。
彼らは石膏で出来た型の中に半透明の液体を、なるべく気泡が発生しないように慎重に注ぎ込む。
「よし、この型はこれでいいです。次は昨日注型しておいた方の型抜きをしましょう」
そう言って、同じような石膏で出来た型を持ってきて、丁寧に中身を取り出していく。
取り出された成型品は、管のような形をしているやや白みの掛かった半透明の物質で、指で圧すと弾むような弾性を有している。
樹脂ともゴムともつかないこの材質の名は、
かつての森伐遠征軍の残党、つまり上街や下村を建設した先人達が、当時まだ稼動していた
結晶筋肉のように、弾性を持ち、魔力をよく通し、魔力に対する応答で収縮する事を期待された素材であったが、当時の錬金術師たちは、肝心要の筋肉としての収縮性を全く持たない物質しか造ることができず、夢魔族との交流で手に入れた筋蚕を使った兵器“幻獣騎士”が登場したことで、それ以上の研究が行われなくなった素材なのだ。
しかし、ソーマはこの物質の存在を知ったとき、地球でよく使用されていた軟質樹脂やゴムのような素材として使えるのではないかと考えた。
その為に古い文献等も持ち出してきて、造り方を習得したのだが、その成型技術をこの村の職人達にも伝授しようとしていた。
もっとも、錬金術も魔法技術も馴染みの無いこの村では、浮揚粘膜同様に多くの失敗を繰り返していたが。
「うーん、大きな気泡が入っちゃってますね。これは空気漏れが激しくなりそうだから、使えそうに無いなぁ」
「へぇ。申し訳ない」
この型への注型作業を行った職人が頭を下げるが、ソーマは気にしないように言った。
「慣れない作業をやらせているのは承知していますし、失敗は次に活かせばいいんですよ」
すると、別の職人が彼に声をかけてきた。
「ソーマ様、こちらの型のヤツはうまく仕上がってるようです!」
「本当ですか?……うん、こっちは気泡が少ないですね。これを使ってテストしてみますか」
そう言ってソーマは、予めホワイトミストーで組み立てておいた紋章術式がびっしりと刻み込まれた箱型装置に、成型品を取り付けると、神経線維を通してカマドウマの魔力を流し込んでいく。
この装置は言わば、風魔法を使った
「さて、ここまでは予想通り。ここからが本番だ。思い通りにいってくれるかな?」
ソーマは、愛機の
その魔法術式の働きは、膨らんだ成型品に“ある変化”を与えた。
管状に成型された弾性結晶は、まるで蛇やある種の虫の幼虫が体を動かすかのように、大きく“屈曲”したのだ。
「よし、うまくいった!」
今回ソーマが造ろうとしていたのは、浮揚粘膜と同様にクレトヴァスティアの体内で働いていた魔法を、動力として取り出す装置。強化魔法と風魔法を使って動作するアクチュエーター“
送り込む空気によって膨張しようとする組織を強化魔法を使うことで制御する。
すると、ある部分では組織が硬く萎縮し、またある部分では抵抗がなくなるため大きく膨張する。
こうすることで、結果としてパイプ状の軟質物体を自在に動く運動装置にできてしまえると言うわけだ。
「筋蚕の他に、幻獣騎士用のアクチュエーターに新たな選択肢を用意できた意義は大きいぞ」
この種の筋肉は原理上、あまり強い力は出ないため、筋蚕を淘汰するような強力なものにはなりえないが、筋蚕とは違って全くの人工物だ。
それ故に自由に成型して様々な部品に応用が可能だろう。
地球でも“ソフト・ロボティクス”という軟質のアクチュエーターを使ったロボットの研究が盛んだった。ソーマはこの世界でもそれを踏襲しようとしているのだ。
「柔らかくてフレキシブルに動く幻獣騎士用部品……取るべき形が見えてきたぞ。フフフフフ」
そう言ってほくそ笑むソーマの姿を見て、その妖艶な表情にあるものは魅了され、あるものはドン引きしたという。
(ソーマ様は気前が良くて、失敗しても優しく諭してくれる良いお方だとは思うんだが、物を創ってるときのあの笑い方はどうにもなぁ……)
(なんか心臓がすくみ上がるような怖さがあるよな……)
(めんこいからずっと見ていたいけどな、俺は)
(俺も。あんな表情で罵られてみたい)
((ファ!?))
村人の中に、おかしな性癖を拗らせてしまった者が現れた事など、ソーマは知る由も無い。
「というわけで出来上がったもので、ミコーちゃんと握手をしようと思います。手を出して♪」
「嫌」
いつもはソーマがこのようにお願いをすれば、快く首を縦に振ってくれるミコーが、今は微妙な表情を浮かべて、拒絶の言葉を口にする。
「そ、そんな事言わずに協力してよ」
「だって……そんなものと握手なんてしたくないもの」
ミコーの視線の先にはカマドウマの背中側から伸びている、新しい装備があるのだが、その装備の見た目が“アレ”過ぎて、さしもの彼女でもドン引きしてしまっていた。
「ソーマ、彼女の言う通りだ。幾らなんでも、お前……それは無いだろう?」
引いているのはミコーだけではない。その装備の姿を見たものは全員が名状しがたいものを見たような、不気味そうな表情を浮かべていた。
実の父であるウブイルさえも例外ではない。盛大に天を仰いでいる。
「うーん、なんだか卑猥な形ではあるけど、これはこれでカワイイかもしれない……私は嫌いじゃないかも?」
「か、カミラ!?」
顔を赤らめてそんな事を言う妻の意外なリアクションに、愕然とした表情を浮かべるウブイル。
「みんな酷くない?確かに見慣れない形状かもしれないけど、巧緻性も高いし、便利な機能をいっぱい詰め込んだ素敵なツールなのに……」
身内からも批判を浴びて、カマドウマの操縦席で悲しげな表情を浮かべるソーマだったが、彼の愛馬までもが、この装備の形状を見た時は、怯えて宥めるのに苦労するほど暴れたぐらいだから、相当なものだった。
「ソーマ様、見たことのない形ですけど、結局これは何なんですか?」
そんな中で、ベーラだけが好奇心から来る質問を投げかける。
自らを生徒の好奇心を尊重する先生だと自負しているソーマは、その質問に快く答えた。
「これは幻獣騎士の新しいタイプの腕。その名も
カマドウマの背中からは3本の巨大な蠕動するチューブ状構造物が伸びていた。それは紛う事なき“触手”だった。
現在のこの機体の背中には、改修して構造をより頑強なものに改めた浮揚粘膜の筐体が取り付けられているのだが、それと並列搭載する形で、強力な空気圧縮装置も搭載されている。
これは筐体内部の粘液晶にエーテルを送り込むのみならず、その圧縮された大気をこの触手状のアームを動かすための動力と為しているのだ。
徒でさえ恐ろしいと言われている外見が、更に禍々しいものになって、完成した姿を見た他の子供達が怯える有様だ。ある意味では魔獣でさえ霞むほどの異形ぶりに、皆ドン引きしてしまうのも無理はあるまい。
「これなら巨人用の服の洗濯とかでも、すごく楽に作業ができるんだよ」
圧縮大気というものは、高い負荷をかける用途への適正は低いのだが、その分、繊細な扱いを要求される物を扱うのには、優れた駆動装置足り得る。
その為、地球において介護ロボットや工業用ロボットアームなどでも使われる、割とポピュラーな形式のアクチュエーターだ。
その作業性を最大限に引き出すべく参考にされることが多いのが、蛸や烏賊などの頭足類の触腕。ソーマはこの世界でもそれを再現して、愛機に搭載したわけだ。
しかし、どうやら小鬼族にとっても巨人族にとっても、あまりも異形すぎて受け入れ辛いようである。
まあ、それも当然だろう。ここはボキューズ大森海。まわりを巨木で覆われた大地だ。
海などという物は、少しも見当たらない。かつての西方から持ち込まれた文献等で存在を教えられても、見たことのある人などいない。巨人族に関しては、存在すら知らない。
当然、海棲生物など見たことのあるものはいないので、蛸や烏賊などの頭足類の姿を見たことのあるものもいない。
そんな彼らにとって、“軟質の触手”というものはまさしく“名状しがたいもの”としか形容しようが無いのだ。
「とりあえず触ってみてよ。触り心地は良い筈なんだから!ね?」
それからソーマはなんとか宥めすかして、ミコーに触手を握ってもらった。
握る瞬間までは、涙目になっていた彼女だったが、
「あ、暖かい。それにプニプにしてる」
「吹き込む空気を人肌程度に暖めてるんだよ。どうも暖めた方が粘液晶のエーテル溶度が上がって、装置の効率も上がるみたいだし」
姿形こそ卑猥で不気味かもしれないが、触手に優しく手を握り締めてもらう感触は、慣れると気持ちよいものがあるかもしれないとミコーは思った。
「それと、これにはこういう機能もあるんだよ」
ミコーは久しぶりの感覚に、驚喜した。
魔術演算領域への
(あぁ、やっぱりこの感覚……すごく、イイ!)
「これ自体、魔力を通すから、巨人族や魔獣への
幻獣騎士の腕は、手に持った物に魔力を流したりする機能は無い。この為、手持ち式の
文献によれば、かつての幻晶騎士は全身を触媒結晶で覆っていたため、手で持った物体に魔力を注ぎ込むことが出来たと言われているが、幻獣騎士には不可能な芸当なのだ。
その為、ソーマも魔獣や巨人族への魔法中枢への接続の為には、逐次操縦席から降りて、その体に直接触れなければならなかったのだが、この装備によって操縦席に座りながらにして、他者への接続が出来る様になった。
「更にこんなことも出来る様になったのさ」
ミコーの魔術演算領域を経由して、彼は魔力を少量吸い出してみた。
「んん!?」
今までの快楽とも違う味わい。過去、ソーマから行われたものなど比較にならない程の
「更に更にぃ、こんな事も出来ちゃうのだ!」
それまで吸引していた魔力を
「あふぁぁ!?」
今までに感じたことの無いほどの快楽に、彼女の表情が酷く艶やかなものに変わっていく。
「ありゃ?刺激が強すぎたかなぁ?ミコーちゃん、大丈夫?」
今までに見たことのない表情をしている彼女の様子に、心配になったソーマ。
それまで気にしていなかったが、よく考えたら固有化されている他の生物の魔法に、異なる魔力を大量に注ぎ込むというのは、実は危険な行為だったのではないだろうか?
自分の行ってきた実験が、知らぬうちに彼女を傷つけていたのではないか?
そう考えたソーマの心に一抹の不安が過ぎる。
「だ、大丈夫」
息も絶え絶えにこう言うミコーの表情を見て、心配の色を深めたソーマ。
「辛かったら、やめようか?単なるマニュピレーターとしてもこれは優秀なわけだし、この機能は別に封印しても……」
「やめないで!これすごくイイ!イイんだから!この触手、好きだから!好きになったから!」
余りにも必死な表情に、思わずソーマの方が驚く破目になったが、ここまで好意的に評価してくれているなら、継続しても良いのでは?と深く考えるのは辞めた。
(あぁ!ソーマの触手最高!私、気持ち悪いなんてもう二度と思わない!)
喜悦の表情で触手を撫で摩る巨人少女の一連の姿を見て、ウブイルは思わず呟いたのだった。
「……うちの息子が他人の娘さんに、取り返しの付かない事をしているように見えるのは、私の気のせいなのだろうか」
その言葉を聞いたとき、村人全員がこう思った。
絶対に気のせいではない、と。
今回は卑猥なネタに走り過ぎたかもw
触手はどうしてもやりたかったので、許してください(><)
カマドウマになんで触手?と思う方もいるかもしれませんが、カマドウマって“ある生物”の宿主になっていることでも有名な昆虫ですので、それをイメージしているのです。
(*グロいので、検索するときはお気をつけて)