Beast's & Nightmare 大森海の転生者 作:ペットボトム
書いた事の無い情景を無い知恵しぼりだして描写するのすごく大変ですね><
前回の閑話の誤字修正にご協力くださったronjinさん、ありがとうございました!この場を借りてお礼申し上げます。
「紹介するね、ミコーちゃん。この二人が俺の父、ウブイル・ソリフガエと、母のカミラ・ソリフガエだよ」
「よ、よろしくお願いしますソーマのお父さんとお母さん。ミコーといいます・・・・・・ソーマにはいつもお世話になってます」
「大分、敬語がうまくなってきたね、ミコーちゃん。その調子だよ」
「えへへ」
薄暗い洞窟の入り口で、息子とこのようなやり取りをしている
幾度も眼を擦って、瞬きを繰り返して、幾度も夢であって欲しいと思いながら確認を取るが、やはり目の前の少女は巨大で、息子と笑いあっている。なんだこれは。
「ソーマ・・・・・・その子がおまえの言っていた・・・・・・?」
「そうです。俺が陛下から許しを得て、俺の部下として雇い入れることになった騎士です」
「
「そこは伏せましたから、知らなくても仕方ありませんね。あ、一応機密ですから他所で吹聴するようなことはしないでくださいね?」
機密以前に、自分の息子が巨人族を部下としているなどと吹聴してしまえば、上街の貴族社会であらぬ噂を立てられてしまうだろう。頼まれたって口外などしない。ウブイルはそう思った。
彼は以前、「息子は悪意のある隠し事はしない子だ」と、評価していたのだが、その評価を取り下げる必要を感じた。こんな大事なことをあえて黙っているというのは、悪戯にしても性質が悪い。そう思ったからだ。
だがそれまでオチャらけた雰囲気であった息子は、とても理知的な微笑でもって、ウブイルに語りかけた。
「父上。上街の人間にとって巨人族という種族が、恐怖と屈辱の象徴であることは知っています。ですから、俺のやっていることは街に住まう多くの貴族の皆様方にとって裏切りに見えるかもしれません」
「それが解っていながら、何故・・・・・・!?」
ソーマはウブイルに王に語ったのと同じ、小鬼族の未来の可能性を提示した。現在の小鬼族を隷下としているルーベル氏族。彼らの下を抜け出して、他の巨人族との協力関係を構築し、新天地へ移住するという選択肢をだ。
息子がぶち上げた壮大な計画にただただ圧倒されるウブイル。まるで現実味が感じられない。それもそのはずだ。上街に住まう小鬼族にとって巨人族といえばルーベル氏族のみであり、情報として他の氏族の存在は知っていても、他の巨人族のイメージなど思い浮かばない。
だが、ウブイルはふと目線を褐色肌の巨人少女ミコーへと移す。しゃがんでソーマと自分達を見下ろしているが、それは圧倒的上位者が向けて来る傲岸不遜な視線などではない。邪気のない好奇心を湛えた瞳だ。わずかに不安げな雰囲気を感じるのは拒絶されるかもしれないことへの恐怖だろうか。
そこにはルーベル氏族のような傲慢な巨人などいない。友達の両親に初めて遭遇して緊張している少女がいるのみだ。
これを見てウブイルも段々とソーマの言っていた「他の氏族の巨人族」という言葉が脳に浸透していくのを感じていた。彼女の姿は少なくともウブイルにとっては、巨人族の恐ろしげなイメージを崩すのには十分であったようだ。この男も息子の常識破壊に慣れさせられつつある。適応が早い。
「・・・・・・なるほど、おまえの言うとおりルーベル氏族以外の巨人族というのが、必ずしも傲慢で乱暴な者とは限らないと言うのは、一理あるかもしれない。だが、それがこの娘だけの特質と言う可能性もあるんじゃないか?」
この言葉を予想していたように、ソーマはこう言いきった。
「それを確かめるためにも調査が必要でしょう?よしんばそうであったとしても、得がたい友人であり優秀な部下を、今更放り出す理由にはなり得ないです」
降参だ。ウブイルは息子の新しい友達を認めることにした。陛下の許可も取っていると聞いた以上自分が拒絶しても、息子とその友達の不興を買うばかりであまり意味がないだろう。苦笑気味にミコーとソーマに向けて首を縦に振った。
父親が首を縦に振ったことで、息子と少女の顔にも笑顔が浮かんできた。
ところで、カミラはどう感じていたのか気になって、ウブイルは妻の様子を伺ってみると、
「ソーマ!こんなにかわいい娘にどうしてこんなみすぼらしい服を着せているの!?駄目じゃない、素材が台無しよ!」
「か、カミラ・・・・・・?」
彼の愛妻は巨人少女の服にダメ出しをしていた。確かに魔獣の皮と思しき物で作られた服を彼女は着ている。みすぼらしいとはウブイルも思ったが、息子が友達兼部下にしたと言う巨人少女を見て、開口一番に言う台詞がそれと言うのは・・・・・・。
「カミラ、驚かないのかい?」
「驚いたわよ。息子がこんな可愛らしいガールフレンドを紹介してくれるんだもの。でも、服が致命的ね。これじゃあ、せっかくの素材が台無しよ」
「いや、巨人族の娘さんだよ?小鬼族の一員としてもうちょっと、他にないのかね?」
「あなた。“可愛いは正義”なのよ。それ以外は全て瑣末事なのよ!」
(言い切ったよこの女。無類の可愛い物好きなのは知っていたが、巨人相手でもそれを曲げないとは・・・・・・)
前から思っていた事だが、ソーマは容姿だけではなく性格までカミラ似らしい。錬金術に興味を示した所といい、己の欲望に忠実な所といい、そっくりである。
「ごめんなさい、母上。彼女の服なんですが、この前出現した
さらっと、五眼位の巨人を倒したとか言ってのける息子の荒行に目を剥くウブイルを尻目に、二人はそのようなことは瑣末事だと言わんばかりにミコーの服について話を進める。
「だからって、女の子にそんなみすぼらしい格好をさせたままなんて!?もうちょっとまともな服を用意・・・・・・できないのね。確かに巨人用服の入手なんてどうすればいいんだか」
「理解が早くて助かります母上。実は母上にここに来てもらったのも、この事を相談したかったからなんですよ。女の子の服について相談できる人が、母上しか思い当たらなくて・・・・・・何か良い知恵はありませんか?」
「むむむ、巨人族から何とか入手できないかしら?」
「
「小鬼族側で、巨人族用の服飾を作っている所・・・・・・あなた、何かご存じなくて?」
まさかこの話題で自分が意見を求められるとは思っておらず、ウブイルは応えに窮した。
「そ、そんなことを聞かれても私だって知らんよ。巨人用の服飾を作っている工房など上街には存在しないだろうし・・・・・・あるとすれば下村の方ではないかな?あれらの中には魔獣素材で巨人用の鎧を造る工場があったはずだ」
それを聞いたカミラとソーマの顔に笑みが浮かんだ。嫌な予感しかしない。
「それです!鎧の製造や寸法調整ができる人々なら、その技術は服を作る事にもきっと応用できるでしょう。行きましょう、その下村の工房に!」
「そうと決まれば私、参考資料用に家中のかわいい服かき集めてくるわ!知り合いの針子や年頃の娘さんがいる貴族にも相談して、この娘に似合う素敵な衣装のデザインを考えてくる。ふふふ、燃えてきたわ!」
「母上。お願いしますね。あ、でも彼女のことは口外しないでくださいね。一応、機密ですし」「解ってるわよ。知り合いの娘さんに着せる服だっていって誤魔化すわよ」
ハイテンションな二人の母子の会話に置いてけぼりにされつつあるウブイルは、自分の着る服について勝手に話を進められて困惑しているミコーにこう言った。
「・・・・・・ミコーさんと言ったね。これから息子が君を色々振り回す事になるかもしれないが、私からもよろしく頼む。あれは幼くして大きな功を得た所為なのか、元々精神的に早熟な所がある所為なのか、気の許せる年頃の友達というものが皆無でね。正直、友達ができてホッとしている所があるんだ」
ソーマも親戚の貴族の子供と遊ぶ機会等もなかったわけではないのだが、同年代の子供とは中々話が合わずに、わずか9歳で
息子は、両親に辛そうな顔など見せてはこなかったが、寂しさを感じてはいないかと。心配していた。(*なお、本人は本当に特に何も考えてはいなかったようである。「友達はその内できるでしょ」と気楽なものだった)
故に彼に友人が出来たことがウブイルは嬉しかったのだ。例え、それが巨人族だとしても。欲を言えば人間の友達であって欲しかったが。
「わ、私ソーマに命を助けてもらって、本当に彼にはお世話になりっぱなしなの・・・・・・です。だから、恩返ししたくて、その・・・・・・」
顔を赤くして、こう口にする少女の姿はとても可愛らしいものだった。カミラではないが、確かにその姿は守らなくてはならないという尊さを感じさせる気がする。
(やれやれ、私も大分染まったと言うことなのかな?しかし、これから歴史が動くのやも知れないな。それが吉と出るか、凶と出るかはわからないが)
ウブイルは3人の姿を見て、そんな予感を抱くのであった。
「さぁ!父上、母上、ミコーちゃん。いざ下村へ向けて出発しましょう!」
「待ちなさい。その前にいろいろと説明をしなさい!これらは一体何なんだ!?」
十分な準備期間を設けて、張り切って下村へ旅立とうとするソーマのカマドウマに、ウブイルはつっこみを入れる。
「何って、もちろん服を作るための素材と、向こうさんに持っていくお土産ですよ。まさか、無理を聞いてもらうのに報酬だけ渡すというのも、申し訳ないでしょう?」
「そこじゃない!いや、そこも気にはなるが、それ以前にお前が荷物を積んでいるそいつは何なんだ!?」
父親が愛機オプリオネスで指差す物を見て、ソーマは“これ”の説明を始める。
「ああ、
馬とも鹿ともつかない体をした動物が、背中にたくさんの素材を積載した状態で四本の足で立っていた。
なるほど、兎のような顔と耳は見ようによっては可愛らしく見えるかもしれない・・・・・・その大きさが決闘級魔獣のそれでなければだが。
「魔獣を飼いならすなんて・・・・・・いったいどうやって?」
「カマドウマとミコーちゃんで捕まえてきました。とても大人しいんですよ。大食漢ですけど、草食だからこの森では餌には困りませんしね」
いくら大人しいと言っても巨大な魔獣が小さな人間に懐くなど本来ならありえない。これがソーマの
この期に及んで未だにこの少年は、己の能力を「
(余談だが、これを飼いならしてからというもの、またしてもロシナンテが、しばらくの間機嫌を損ねていた。あの馬の心境にどのような変化があったのだろうか)
そんな哀れな犠牲者である馬体兎であるが、その辺の樹をミコーが口元に持っていくと、モシャモシャと食べ始める。兎のような顔がヒクヒクと小刻みに震えながら食物を咀嚼する様は、愛嬌があった。
それを見て、オプリオネスの操縦席に同席しているカミラの表情が恍惚としたものになっているが、ウブイルは無視して話を続ける。
「・・・・・・しかし、魔獣を連れて行くというのはなぁ」
「カマドウマとオプリオネスよりも積載量は大きいでしょうし、もし道中で魔獣に襲われるようなことになっても、幻獣騎士が戦闘において
馬体兎を連れて行く理由にはウブイルも納得したが、最初に自分が村人に説明をするべきだと思った。その原因は息子の愛機の外見だ。無用な混乱を避けるためには、自分がワンクッションはさむ形になったほうが良いだろうと考えたのだ。どう説得するか悩んでいるウブイル。
こうして一行は下村に向けて歩んでいった。
そこに住まう人々は、農民や工員が主なものであり、貴族階級を有する騎操士、機械の製造や整備技能を有した高位鍛冶師や構文師、魔法や科学の探求を行っている研究者や錬金術師などは一人とていない。とても素朴な生活をしている人々だ。
下村の中には、上街に供する食糧を生産する一番村、筋蚕の飼育やその糸を紡ぐ紡績工場を有する二番村などのように、上街によって手厚い保護を受けている豊かな村もあれば、それらから半ば見捨てられている状態となっている貧しい村もある。
そんな貧しい下村の一つである八番村の村人達は、魔獣の寄り付かないやや開けた森の一角で、今日も畑を耕して、ささやかな日々の糧を得ていた。
彼らの素朴な日常が音を立てて崩れたのは、村に巨大な影が現れてからだった。
村の家々など簡単に踏み潰すほどの巨大な正体不明のそれを見て、恐れ戦く子供達。だが、大人達の中にはそれの正体を知っている者もいた。
それは人が作り上げた知恵の結晶。貴人の乗り物。幻獣騎士だった。
恐縮している村人の中から、比較的高齢な男が、幻獣騎士の足元まで歩き、そこに這いつくばって、許しを請うかのように話しかける。
「こ、これは貴族様。このような下村に何の御用でございますか?まだ御納めの日には早いと存じますが・・・・・・」
幻獣騎士の操縦席が開いて、中から二人の人間が降りてきた。村人達に比べて上等な衣服に身を包んだ男女。やはり、それは貴族だった。
「いきなり押しかけてきてすまないな。私は上街の騎操士、ウブイル・ソリフガエと申すものだ」
「その妻のカミラ・ソリフガエですわ」
「わ、私どものような卑賤な身に過分なお言葉でございます、貴族様。私はこの村で村長をしておるものです」
貴族にしては傲慢さを感じない丁寧な挨拶に、村長は更に恐縮してしまう。
そんな村長にカミラと名乗った女性は村長に楽にして欲しいと伝えると、こう続けた
「村長。私達はあなた方八番村の人々に、あるものを造ってもらいに来たんですが、その前にこの村に入れていただきたい人達がいるの。構わないかしら?」
貴族様方を拒むことなどできようはずもありません、と応えようとした村長だったが、ノホホンとした様子の妻の顔を見て、ウブイルと名乗った騎士は焦ったような顔で、村長にこう言ってきた。
「すまない村長。私の息子とその愛機、そしてその友人である巨人族の女性がこの近辺に来ているんだが、まず私達が先行したんだ。無用な混乱を起こさないように協力して欲しいんだが、頼めるかな?」
巨人族が来るという話を聞いて、目を剥いている村長の耳に、どこかからとても大きな声が聞こえてきた。
「父上~もうそろそろ入りますよ~」
幼い少女のような声を上げて、村に入ってきた巨大なものの姿を見て、多くの村人は叫び声を上げた。
「ま、魔獣だぁ!逃げろぉ!」「子供達を安全な所に!早く!」
村は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
それも仕方の無いことであろう。現れた巨大な物体の姿はとてつもなく恐ろしいものであったから。子供達の中には、泣き出すものまで現れる始末だ。
巨人に匹敵する巨躯を硬質な装甲が覆い、巨人と同じ二本の脚と二本の腕を持ちながらも、下手な巨人より太く力強い四肢。そして極めつけは、人間の頭部に当たる場所にある禍々しい肉食昆虫のような顎の生えた頭部。
それに続いて、大きな兎のような顔をした蹄の生えた四足獣も入ってきた。外見的には遥かにマシだが、どちらも先に入ってきた幻獣騎士に匹敵するほどの巨躯である。その傍らには巨人少女の姿もあるが、それは異形の魔獣と四足獣のインパクトを前にしては印象が薄かった。
どこをどう見ても、立派な決闘級魔獣にしか見えないものが2体も村に入ってきたのだ。身を守る術を持たない村人達を恐怖のどん底に叩き込むのには十分なものだった。
それを見て、ウブイルは急いで操縦席に駆け上がると、拡声器を使ってその“魔獣”を叱りつけた。
「バッカモン!お前達がいきなり乗り付けてきたら、村人が怯えるとあれほど注意したじゃないか!何を考えてるんだ!?」
「え~、父上は大袈裟すぎなんですよ。ちょっと外見がアラクネイドと違うからって、こんなので怯える人なんていないですよ」
「ソーマ、私も初めて見たときはすごく怖かったよ、カマドウマ」
「あ、そういえばそうだったねぇ。しかし、そんなに怖いかな?カマドウマのデザイン」
「あぁ、もぅ!これを避けるために気を使ったというのに!」
心配していた事が現実になってしまって、この事態をどう収拾しようかと、頭を抱えるウブイル。
こんな混沌とした場にあって、村長は腰を抜かしていた。
(な、何なのだこの連中は?)
村長はこれからこの村がどうなってしまうのかと不安でいっぱいであった。
あれからウブイルと村長が、なんとか村人に説明をして回って、事態を収束させることに成功した。
操縦席からソーマが降りてきたことで、カマドウマが幻獣騎士であることは解ってもらえたのだが、馬体兎は紛う事無き魔獣なので説得に苦労する破目になったのだ。
「しかし、この村の人達、なんだか元気がないですねぇ」
父親から拳骨を貰って、頭にタンコブを作ったソーマが呟くのを見て、呆れた声でウブイルが返す。
「お前の所為で、皆驚き疲れたんだろう。全く余計な仕事を増やしてくれて・・・・・・」
自分と村長が払った労苦を少しは汲んで欲しい、とため息を洩らした。
「いえ、そういうことでなくてですね。皆さん疲れたから元気が無いというよりも、元々あまり元気が無いんじゃないですかねぇ?」
ソーマは村人達の“体”を見て、そう思ったのだ。
(彼らは、俺達貴族よりも肉体労働をする機会が多い人達だろう。この世界には耕運機などの機械は無い以上、農業をやっていくならどうしたって肉体を酷使する必要に駆られるはずだ。それなのに、筋肉の量がそこまで多くない)
(髪や肌も粗い。石鹸等で体を洗う習慣がない以上、それは避けられないことだろうが、この人達のそれは不潔にしてるというより、健康を維持し損ねている感じだ。これではまるで・・・・・・)
ソーマは思った。村人は何を食べて生きているのだろう?と。
「村長さん、村の皆さんは普段何を食べてらっしゃるんですか?」
まさか、貴族が下々の生活について聞いてくるなどとは思わずに、村長は面食らった。
今までも多くの貴族がこの村に“御納め”の時期になるとやってきたが、彼らは自分達のその暮らしを見ても何の興味も持たなかったからだ。まるで自分と異なる生物を“圧倒的な上位者”として観察するかのような眼で。
それも当たり前のことであろう。彼ら貴族には“幻獣騎士”という力がある。それだけではない優れた教育を受けることで研鑽された“知識”や“魔法”が自分達をいつでも簡単に叩き潰す事を可能としている。
自分達との間には厳然とした力の差があるのだ。同じ小鬼族といえど、そこには別種の生き物のような“壁”が存在している。彼らは自分達とは違うのだ。
村長は「そんな“別の生き物”が自分達の生活を気にかける理由はなんだろう?」と想像したとき、「もしやこの貴族達は滞在中の食事として、村の食料を当てにしているのではないか?」と考えた。もしそうなら、自分達も巨人や魔獣を養うほどの備蓄はない。これは困ったことになった、と不安な気持ちが募る。
しかし、もし食料を提供できないということになれば、あの2体の幻獣騎士と巨人や魔獣を嗾けて、脅してくるかもしれない。そう思えば、自分達はそれを拒絶できない。
「き、貴族様方のお口に合うものを用意できるかはわかりませぬが、可能な限りご用意致しますので、どうかご勘弁の程を・・・・・・」
「もしかして、食糧の備蓄が乏しいのですか?」
「こ、穀物の備蓄ならある程度は。しかし、貴族の方々が普段食べておられる肉類などは・・・・・・私どもにはご用意いたしかねます」
顔面を汗まみれにして、そう搾り出した村長の言葉を聞いて、ソーマは先程の村人達の姿を見て抱いた疑念が正しかったと確信した。
(やっぱり村人にはたんぱく質が不足しているんだな・・・・・・彼らの元気の無さはそれでか)
魔獣犇く森の中に踏み込んで狩りを行うことは現実的ではあるまい。そして、この村には家畜の姿は数えるほどしかいなかった。
一部の豊村や上街とは違い、下村には幻獣騎士は配備されては居ない。上街の貴族は末端の貧しい村の人間に関心を払っていないので、彼らにタンパク源となる肉や家畜などを融通することはあるまい。この村で飼われている家畜も食肉用ではなく労働用の家畜で、その数も少ない。
豆類等で補うということもやってはいるだろうが、やはり小麦などの穀物の生産を優先させるだろうし、そうなるとこの村の規模ではたんぱく質を補う手段は乏しくなってしまうだろう。
こうしてはいられない。ソーマはカマドウマに搭乗しようとする。
それを見て、村長は顔色を失った。やはり、先ほどの言葉は貴族達の逆鱗に触れるものであったのであろうかと。この村を滅ぼそうとしているのではないかと。
「そ、ソーマどうしたんだ?何故カマドウマに搭乗しなおすんだ?いったい何をするつもりなんだ?」
「お、お待ちください!出来る限りのことはします。どうか、どうかお慈悲を頂きたい!」
父親の疑問の言葉と、村長の悲痛な叫びを聞いて、ソーマはこう応えた。
「父上、今から俺達と村人用の食料を取って来ます。今日のところは決闘級魔獣を2頭ほど〆てくれば十分でしょう。村長、俺たちはあなた方に仕事を依頼するためにこの村にやってきました。しかし、栄養失調を起こしているような人員に仕事をお願いしても、クオリティの高い作業は期待できないでしょう。であるのならば、あなた方のコンディションを改善する所から始めなくてはなりません。狩ってきた食料はあなた方も食べてください。それで栄養を付けてくださいね」
そう言ってソーマはカマドウマで森に向かって行った。他の3人はお留守番だ。
母親であるカミラはそれを見送りながら、あっけに取られている様子の村長に語りかける。
「村長。息子が帰ってくるまで商談をまとめておきましょう。落ち着いてお話できる所に案内をおねがいしますね」「は、はぁ・・・・・・」
木々が次々と倒れ、その音が森に響き渡る。
巨大な魔獣達が繰り広げる生存競争。ボキューズ大森海の深部では、さして珍しくもない狩る者と狩られる者の戦いだ。
だが、今起こっている戦いはよくある動物同士のそれとは大分毛色が異なる物だった。
2体の巨大な物が争っている。その内1頭は森に暮らしている巨大な魔獣、
だが、それと対峙している1体の巨大な物は、魔獣ではなかった。
それは骨太な体型に昆虫のような頭部をしている幻獣騎士。言わずもがな、カマドウマだ。
「さて、君に恨みがあるわけじゃないが、村人と俺たちのたんぱく源になってもらうぞ」
カマドウマが咆哮し(*合成音声)昆虫頭の巨漢のような生体兵器は魔獣を食材にすべく、向かっていった。
それに警戒心を剥き出しにして、魔獣も吼える。そして、破城猪はその4本の蹄の生えた脚で強力な突進をかけて来た。これを受ければ如何に強力な幻獣騎士であるカマドウマでもひとたまりもない。
「コヒィィィレント・ストォォォォォォム!」
そこでソーマは距離が離れているうちに、破城猪の前脚を頭部の
だが、的確な狙いで放たれた風のレーザーとも言うべき空気分子の流れは、破城猪の脚の関節靭帯を切断し、その機動力を制限した。
鋭い痛みが走り、うまく前脚を動かせなくなった破城猪はもんどりうって倒れこむ。カマドウマはすかさず他の脚部も、同様に打ち貫いて身動きを取れなくしていく。
機動力と突進力が失われた破城猪にソーマは止めを刺すべく、近づいてその首をへし折ろうとしたのだが、そこに邪魔が入った。
別の魔物が、身動きの取れない破城猪を横取りしようとやってきたのだ。
「ちょっと!そいつは俺の獲物だよ!横からブン盗るなんてずるくない!?・・・・・・でも、ちょうどいい。君もお肉になってもらうとしよう。運が無かったね」
ソーマはカマドウマに両手を構えさせると、手についている4本の爪の内、1本に一際大きな魔力を流し込む。
「君にはこれの試し切りに付き合ってもらおうか!」
爪は耳障りな音を立て、細かな“振動”を始めた。それを振りかざしたカマドウマは、すばやく鎧熊の両前脚の肩口に振り下ろす。
劈く悲鳴と共に鮮血が迸り、鎧熊の両前脚は斬り飛ばされた。
「Good night♪」
反す刀で、鎧熊の首下に爪を走らせると、生首が夥しい血液と共に跳ね上がり、鎧熊の体は力なく倒れ伏した。
「新開発の
これは彼の風魔法研究の過程で生み出された空気分子や物体を“振えさせる魔法”の応用。物体を高周波で振動させることで、通常では考えられない切れ味を齎す。
地球のSFでよく描かれた振動剣というやつだ。現実でも模型工作用カッターや医療用メスに使われている技術だ。
金属を使った重さで斬る剣や、純粋な切れ味で斬る日本刀のような優れた刀剣類を生み出せない小鬼族の環境で、よく切れる刃物を求めた結果創り出された接近戦用魔導兵装である。その威力は頭と前脚を失った鎧熊が十二分に証明してくれた。
だが、オーバーテクノロジーとも言うべき身の丈にあわない技術を無理に使っている代償は確実に現れていた。
「・・・・・・刃先がもうダメになってやがる。やっぱり魔獣素材では高周波振動に耐えられないんだな」
振動剣というのは、振動によって多大な熱を発生させ、刃に大きな負荷をかけてしまう技術である。ましてや強化魔法をかけているとは言え、所詮は動物の体組織を研磨して作り出したもの。長時間の振動に耐えられる物ではないのだ。
「まあ、こうなることは想定していたから、替え刃はストックしている。ここまで寿命が短いのは想像してなかったけど、今後改良できるかもしれないし、産廃武器ってほどじゃない」
新兵器の性能に満足したソーマは、破城猪に止めを刺すと、2頭の血抜きをして村まで引きずっていく。
「・・・・・・本当に魔獣を狩って来てしまわれた。あの方は一体・・・・・・」
村長は、村人全員でも食べきれないほどの大量の魔獣肉を持ち込んだカマドウマとそれを操るソーマに、今まで見てきたどんな貴族とも異なる印象を抱いたのであった。
こうして、久しぶりの豪勢な肉が持ち込まれ、村はお祭り騒ぎとなった。
出しちゃいました高周波振動ブレードw エル君使わないのかなぁ。あの世界の魔法でも作れないことはない気がするのにと思ってたので、ソーマの必殺武器にしてしまいました。
現実の振動カッターは押し当てて切るような工具なので、ソーマが使ってるような斬り方したらへし折れる気がするけど、そこはフィクションということでかんべんしてください><