非常に長くなりましたが四話目です。
前回までと書き方が変わってしまったと思いますが治せそうにありませんでした。すいません……
「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」
「しかもゲームの日取りは明日!?」
「それも敵のテリトリーの中で戦うなんて!」
「準備している時間もお金もありません!」
「一体どういう心算があってのことです!」
「聞いているのですか三人とも!!」
「「「むしゃくしゃしてやった。今は反省しています(している)」」」
「黙らっしゃい!!!」
あの後、黒うさぎと十六夜と合流し、ギフトゲームの事を話すと凄い勢いの質問攻めにあった。
すると、ニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。
「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この"契約書類"を見てください」
「[参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する]・・・まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを負ってまで短縮するんだからな」
「どうせなら金品とかも要求すれば良かったのに」
そして反永達のチップは、『罪を黙認する』というものだ。それは今回の人質の事に限らず、既に犯した罪、さらに、これから犯す罪も含まれるものだった。
「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供たちは・・・その・・・」
黒うさぎが言いずらそうにする。箱庭の貴族と呼ばれる黒うさぎさえも、フォレス・ガロがそこまで堕ちているとは、思いもしなかったんだろう。
「そう。人質は既にこの世に居ないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」
我は、やろうと思えばその場でガルドを文字通り『消滅』させることができた。だが、それをしなかったのは、ガルド本人ではなく、フォレス・ガロ全体に正当な裁きをあたえる為だ。たとえ、
「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の行動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃せば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」
「ま、まあ逃せば厄介かもしれませんけど」
「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」
「私もあの人間は逃がしたくない」
「何よりも、もう決めちゃったんだからどうしょうもないしね」
我としてもここで捕まえておきたい。いくら破れた世界から一方的に監視することが出来ても、沢山の人間を同時に監視することは不可能だ。ならばこの機会にまとめて捕まえた方が良い。
「はぁ〜・・・・・・。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも一緒ですし。『フォレス・ガロ』程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」
「何言ってんだよ。俺は参加しねえぞ」
「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」
そんな二人に黒うさぎは、口を出す。
「だ、駄目ですよ!御四人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういう事じゃねえよ黒ウサギ」
「いいか?この喧嘩はコイツらが売った。そして奴らが買った。なのに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、分かってるじゃない」
「・・・・・・ああもう、好きにしてください」
とうとう黒うさぎは折れ、「もうどうにでもなればいい」と呟き肩を落とす
「そろそろ行きましょうか。本当はみなさんを歓迎するために素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですが・・・不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」
「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」
黒うさぎは驚いた顔でジンを見て、ジンの申し訳なさそうな顔で悟った。
「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが・・・・・・黒ウサギ達も必死だったのです」
「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」
「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも・・・・・・あ、けど」
耀は、少し迷いながら言う。
その様子にジンは答えた。
「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来ることなら最低限の用意はさせてもらいます」
「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は・・・毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」
ジンの表情が固まった。何か条件が満たせないものがあったのだろう。
それを察したのか、耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。
「それなら大丈夫です!十六夜さんがこの大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要も無くなりますし、水路を復活させることも出来ます♪」
「水を売ることも出来るよね?」
「はい♪」
それを聞いたジンは、明るい表情になる。そして飛鳥も安心したような表情で口を開く。
「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が変われば文化も違うのよね。今日は理不尽に湖に投げ出されたから、お風呂には絶対に入りたかったところよ」
「それには同意だぜ。あんな手荒い歓迎は二度と御免だ」
「あう・・・そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ・・・」
風呂の話になったので我も前の世界を思い出す。
我の住んでいた所の近くには滝が上に流れている場所があった。そこから水を持ってきて、近くに作った石風呂に入れ、『鬼火』で湯を沸かしてそれに入っていた。良い風呂だったと思う。まあ、難点をいえば元の大きさじゃあ狭くて入れなかったこと位だ。
「あはは・・・・・・それじゃあ今日はコミュニティに帰る?」
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」
反永達は首を傾げて問う。
「『サウザンドアイズ』?コミュニティの名前?」
「Yes。"サウザンドアイズ"は特殊な"瞳"のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大な商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフトの鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することデス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
その質問に四人は複雑そうな表情をする。だが、我を含め、拒否はしなかった。まあ、我の力は自分が望んだ能力と擬人化なので、鑑定に行くのが少し面倒臭いと思ったからだが。
そして、"サウザンドアイズ"に向かいながら街並みを見ていた。街は石造で整備されていて、家も近代的なものはほとんどなくて、日本には少ないであろうレンガ造りの家がかなり多かった。一方で、街路樹は桃色の花を散らしていた。
「桜の木・・・・・・ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けている筈がないもの」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「・・・・・・?今は秋だったと思うけど」
「あれ?冬じゃなかった?」
「ん?四月辺りじゃないの?最近桜を見た気がする」
四人は顔を見合わせると、黒うさぎは笑って説明する。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」
「へぇ?パラレルワールドってやつか?」
「近しいですね。正しくは立体交差平行世界論という物なのですけども・・・今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」
黒うさぎは曖昧に濁し、振り返る。多分此処が目的地なんだろう。店の旗は、青い生地に向かい合う二人の女神が描いてある。
黒うさぎは、看板を下げる女性店員に話し掛ける。
「まっ」
「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっておりません」
どうやら此処に来るまでに結構時間がかかっていたようだ。確かに日が暮れかけている。
「なんて商売っ気のない店なのかしら」
「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!?これだけで出禁とかお客様舐めすぎで御座いますよ!?」
我は元々興味の無かったので、「ダメなら仕方ないか」と、割り切りコミュニティの事について考える。
「フカフカのベットがいいな~」と、考え始めると女性店員が口を開いた。
「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前を宜しいでしょうか?」
「・・・う」
言葉に詰まる黒うさぎ。だが十六夜は躊躇いなく名乗る。
「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」
「ほほう。では何処の"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
その店員の言葉に黙り込む。
(ま、まずいです。"サウザンドアイズ"の商店は"ノーネーム"お断りでした。このままだと本当に出禁にされるかも)
黒うさぎは焦り、どうしようか悩み、小声で言う。
「その・・・あの・・・私達に、旗はありま」
「いぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!!!」
その声と共に着物の様な服を着た白い髪の少女が、黒うさぎに引けを取らない速度で黒うさぎにフライングボディーアタックをかまして、そのまま二人は空中四回転半ひねりして街道の向こうにある水路にダイブした。
「きゃあーーーーー・・・・・・!」
水の音。そして遠くなった悲鳴。
店員は頭を抱え、他の人間三人と猫は目を丸くする。我もその光景を見て少し驚いていたが、竜になってから表情が変わりずらくなっていて二人を目で追うだけになった。
「・・・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「何なら有料でも」
「やりません」
十六夜と店員が真剣な表情で会話する一方で、白い髪の少女は、黒うさぎの胸に顔を埋めてなすり付けていた。
テレパシー使わなくてもわかる。この人頭の中ピンク色だ。
「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」
「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れて下さい!」
白夜叉と言う少女を引っぺがし、頭を掴んで店に投げつける。縦回転する白夜叉を十六夜が足で受け止める。
「てい」
「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
笑いながら自己紹介する十六夜。
そして呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。
「貴方はこのお店の人?」
「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育が良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」
冷静に店員が言う。多分何度も同じことを言っているんだろう。
そこに水路から上がってきた黒うさぎは呟く。
「うう・・・まさか私まで濡れる事になるなんて」
「因果応報・・・かな」
服を絞る黒うさぎ。
濡れても気にしない白夜叉は、我達を見てニヤリと笑った。
「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは・・・遂に黒うさぎが私のペットに」
「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」
耳を立てて怒る黒うさぎ。白夜叉は笑って店に招いた。
「まあいい。話があるなら店内で聞こう」
「宜しいのですか?彼らは旗も持たない"ノーネーム"のはず。規定では」
「"ノーネーム"と分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」
白夜叉はそう言い、店の中に入る。五人と一匹もそれにつづいた。
ショーウィンドには、展示された様々な品が並んでいる。
「あれってお金払えば私も買えるの?」
「勿論。さっきも言ったがおんしたちの身元は私が保証する。問題なく買えるぞ」
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の茶室で勘弁してくれ」
白夜叉に先導されて和風の中庭を進み、縁側で足を止めた。
広めの和室の上座に腰を下ろした白夜叉はこちらに向き直る。
「それではもう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
黒うさぎは白夜叉の言葉を受け流す。その隣で耀が首を傾げて問う。
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
白夜叉は、図を見せた。
どうやら此処は、全部で七つの支配層に分かれていて、それを仕切る門には数字が与えられている。外から七桁、六桁と数字が若くなっているらしい。そしてそれを見た三人は、
「・・・・・・超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな。どちらかと言えばバームクーヘンだ」
「うん。タマネギよりはバームクーヘンだね」
と話していた。個人的には年輪に見えた。
白夜叉は微笑していった。
「ふふ、上手いこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が棲んでおるぞ────その水樹の持ち主などな」
白夜叉は黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめして来たので御座いますよ」
自慢げに言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。
「なんと!?クリアではなく直接倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族に余程崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力で言うなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
神格とは文字通り神の格なのだろう。おそらくであるが、コイキングがギャラドスに進化するようなものだと思う。話を聞く限り蛇も人も持つことが出来るようだ。
それにしても、今の話の時に我の方を見ていた気がするのだが気のせいだろうか?
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も昔の話だがの」
胸を張り笑う白夜叉。だがそれを聞いた十六夜は瞳を光らせて問う。
「へえ?じゃあオマエはあの蛇より強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の"階層支配者"だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」
『最強の主催者』と、言う言葉に、十六夜、飛鳥、耀は瞳を輝かせる。反永も例外ではなく、少しワクワクしていて、「神格を与えられるのなら、多分白夜叉自身も神格を持っているのだろう」と、考えたからだ。
「そう・・・・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
「抜け目の無い童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むと?」
「え?ちょ、ちょっと御四人様!?」
慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。
「ふふ、そうか。────しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
「なんだ?」
白夜叉が着物の裾からカードを取り出しながら言った。
「おんしらが望むのは"挑戦"か────もしくは、"決闘"か?」
目の前に広がるのは、白夜の世界。
夜明けのように空は白澄み、地平の先には険しい山々が聳え並ぶ。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は白き夜の魔王── 太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは、試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」
2019 7/4
変なところで改行されていたので修正。