とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》   作:タチガワルイ

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異次交錯のインデックス

__2010.8.10.12:05:45__

 

 「「……………………………」」

 

 「がつがつバクバクはぐはがもぐもぐごくがつがつ」

 

 「「…………………………………………」」

 

 『未来ガジェット研究所』なんてものをやっている俺だが、実のところそれ程金がある訳ではない。それは『こちら』の俺にも同じことが言えるらしい。

 だが、それでも『未来ガジェット研究所』を夏休みの間維持し、そして少しくらいなら贅沢しても余る程度にはこの財布に夢は詰まっていた。

 

 ____だが。

 

 「もぐもぐがつがつバクバクはぐはがもぐもぐウマウマぁーがつがつバクバク」

 

 ゲッソリとした気分で財布とくしゃくしゃに刺さっていく伝票を眺める。

 

 この状況を一言で言えば、目の前の銀髪碧眼のシスターさんに財布を食い荒らされている。

 食欲ののブラックホールと化した少女の対面で、俺と紅梨栖は顔面蒼白で頭を付き合わせていた。

 

 「く、クリスティーナよ、あれは一体何なんだ!?」

 

 「知らないわよ!まゆりと同じなんじゃないの!?」

 

 なるほど、と納得してしまう自分が怖かった。あれか、ヒロイン補正スキルの1つ、『いくら食べても太らない(ノーフットプロブレム)』の1種、いや原型なのか。

 いや、そんなことよりもだ。

 「好きなのを食っていい」とは言ったが誰がここまでの量を想定するだろうか。

 そんなことを話している内に、いつの間にかあれほど山盛りだった料理の数々を丸々更地に作り替えたシスターが店員を呼んでいた。

 

 「えっとねー!このジャンボカレーが欲し___」

 

 たまらず叫んだ。

 

 「ウェイウェイウェイ!!待て!ステイ!ストップだ暴食シスター!!」

 

 これ以上何を食う気なんだこの強欲シスターは!?確か『暴食』と『強欲』は大罪だったはずだぞ!

 

 

 

 ★

 

 

 

 「____それで?要は私たちにその『とうま』っていう保護者を探して欲しい、と」

 

 「そうなんだよ!」

 

 暴食という名の略奪行為を止めさせ、財布の不可侵条約を締結させた時に交換条件としてシスターから頼まれたのである。

曰く「散歩している間に道に迷ったからとうまのいる寮まで帰りたい」

とのこと。

 正直な話こんな所で油を売ってる場合ではないのだが、

 下手に食事を奢って交換条件として提示されている以上、ここで『さようなら』はあまりにも酷いだろう。

 

 俺はため息を漏らした。

 

 「……分かった。送り届けよう。俺もお前の家主には少しばかり文句が言いたいからな」

 

 嘘は言っていない。財布の中身が1食、しかも他人の胃袋に収まったのだ。『こちら』の俺がどれ程貯蓄を蓄えているか解らないが、文句の一つくらいは言ってやりたかった。

 

 「あぁそうだ。貴様、名前はなんという?」

 

 完全に忘れていたが俺達はまだこの銀髪碧眼シスターさんの名前を知らなかった。

 

 「ん?インデックスって言うんだよ!ご飯、ありがとうなんだよ!」

 

 「目次(インデックス)····?本名はなんだ?」

 

 『目次』とはこれまた随分おかしな名前だな。偽名だろうか。

 しかし、インデックスは頬を膨らませて両手に持ったナイフとフォークをテーブルに打ち付け始めた。

 

 「違うもん!私は魔導書図書館(インデックス)!れっきとした名前なんだよ!」

 

 テーブルは意外に響くらしく、店内中に音が響き渡る。

 ざわざわと客達が揺れ始めて店員が何事かと店内に飛び込んできたあたりで、即座に紅梨栖が宥めにかかる。

 

 「ごめんね、インデックス。私は牧瀬紅梨栖。よろしくね」

 

 「うん、よろしくお願いいたしますなんだよ!くりす!」

 

 「全く····騒がせな奴だ」

 

 俺も俺で客席と店員に頭を下げて再び腰を下ろした。

 すると紅梨栖の目配せとインデックスの視線が同時に突き刺さる。

 先に口を開いたのはインデックスだった。

 

 「おじさん!あなたの名前を教えてほしいかも!」

 

 「おじっ····!?」

 

 思わず「おじさんではない!」と怒鳴り付けかけたが、紅梨栖の前なので自重する。

 「····ククク、教えてほしいか?良いだろう···我が名は狂気のメァッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だ!そして断じて『おじさん』などではなぁい!」

 

 「本名教えてほしいかも」

 

 「岡部倫太郎だ····」

 

 少女の真顔のツッコミは意外と心臓にクるらしい。

 しかし少女(インデックス)は、純粋無垢な笑みで元気に言い放った。

 

 「くりす!おかべ!よろしくなんだよ!」

 

 かくして、俺達はこの銀髪碧眼シスター(インデックス)を彼女の学生寮へと送り届ける羽目になったのだ。


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