とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》   作:タチガワルイ

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怒濤謀略のクラッシュアウト

 __2010.8.10.11:40:30__

 

 

 「ぐぁッッッ!!?」

 

 唐突だった。

 突然だった。

 全くもって何が起きたのかさっぱり分からない。

 バスから降りた瞬間、背中を突き飛ばされ、地面を転がる。

 衝撃で霞んだ目をこじ開けると、真っ黒に燃え盛るバスが部品を撒き散らす瓦礫と化して地面に叩きつけられた。

 バスが吹き飛んだ?

 さっきの衝撃は、爆風か?

 ラウンダー···いや、そもそも『SERN』が無いのだからその可能性は低い。

 だとすると『学園都市』の治安が相当悪いか、別の勢力が俺達を狙ったか。万が一、億が一を考えるとここで寝ているわけにはいかなかった。

 軋む体を起こして立ち上がると、同じく地面に倒れた紅梨栖とまゆりを抱き起こす。

 

 「おい、立てるか。逃げるぞ!」

 

 「な、なによ今の····?」

 

 「う~ん···目がぐらぐらするのです~····」

 

 自分で起き上がったダルが目を白黒させて周囲を見渡した。

 

 「なんぞ今の、なんかのイベント!?」

 

 「こんな都市のど真ん中でバス爆破のイベントか!?そんなことよりも、ラウンダーだったらマズイ!ダル、逃げるぞ!」

 

 ダルにそう呼び掛けるが、彼は現実味の無さそうな顔でこちらを見て首をかしげた。

 

 「ちょい待ちオカリン、なんで逃げるん?」

 

 冷静に聞けば至極もっともな疑問なのだが、彼の悠長さが俺を余計に苛立たせた。

 

 「これがイタズラじゃなく本当の襲撃だったらどうする?仮にラウンダーだったら俺達は保護どころか捕まるぞ!だから逃げるんだ!」

 

 「またオカリンの厨二病乙?こんな時までそんな」

 

 「ダル」

 

 真っ直ぐダルを見据える。暫く睨み合ったが、ダルは根負けしたようにため息を1つ吐いた。

 

 「分かった、オカリンを信じる」

 

 「ありがとう、行くぞ!」

 

 燃え盛るバスを背に、逃げ惑う周囲の人間を押し退けながら、俺達四人は路地裏に駆け込んだ

 

            ※

 

 その後どこをどう走ったかさっぱり思い出せない。

 無我夢中で走り続け、気がつけばバス停から随分離れた、どこかも分からない路地裏に来ていた。

 現在地も分からないが、しかも更に悪いことにダル、まゆりとはぐれてしまった。

 

 「助手、まゆりは!ダルはどこいった!?」

 

 「分かんないわよ!どこかではぐれたのは確実だけど····。私も夢中になって走ってたから」

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、……クソ!」

 

 壁にもたれ、ズルズルと座り込む。リュックに全体重を載せる事になるが、まぁ壊れはしないだろう。今すぐ戻ってまゆり達を探したいが、体力が限界だった。

 だが、行かない訳には行かないだろう。そう思い、立ち上がるが、紅梨栖が肩で息をしながら立ちはだかる。

 

 「………ダメよ」

 

 「どくんだ助手」

 

 「アンタもうフラフラしてるじゃない!それに今闇雲に戻ってもまた迷うだけだわ!それなら現在地を把握して、まゆり達と連絡をとる方が先でしょう!?」

 

 「………………」

 

 確かに、その通りかも知れない。

 事実、あのバス爆発が俺達を狙ったものかどうか、確証はないのだ。ただ単にバスが『学園都市』の最先端駆動式で動いていて、それがたまたま爆発した可能性も、日常的にバス爆破が横行している可能性も、或いはダルの言った通り『バス爆破イベント』が今日であった可能性も、0とは言い切れない。

 俺はぐったりと壁に背中を預けた。

 

 「………そうだな。悪かっ___」

 

 「ニャー!」

 

 「「!?」」

 

 突然の猫の声に肩がビクリと震える貧弱二人組。

 猫は、俺達を見てもう一鳴きして寄ってくる。

 野良猫だろうか、と思ったが飼い主は意外に早く現れた。

 

 「あーコラコラダメなんだよスフィンクス!」

 

 飼い主は猫を『スフィンクス』と呼び、抱き上げた。

 そこでようやく俺達に気がついたらしく、俺達を見上げて無邪気に笑った。

 

 「ん?あ、お邪魔しましたなんだよ!···何やってたのかな?」

 

 幼い少女だった。大体ミスターブラウンの娘位だろうか。

 しかし、格好がとにかく奇抜だ。

 何故か肩などの布の継ぎ目にデカイ安全ピンを付けた白金の修道服(?)を着ており、頭にはシスターさんが被りそうな布の付いた帽子。だが髪の毛は隠しておらず、銀髪なのがわかった。

 一言で言うなら『銀髪碧眼のシスター』だろう。

 その少女は、不思議そうな目で無邪気に俺達を見上げる。

 適当にはぐらかすことも出来るのだが、少女の妙な圧力に堪りかねて厨二を引き出してしまった。

 

 「フフフ、我が名を知らないとはな。ならば名乗ってやるとしよう。我が名は鳳凰いぁが!?」

 

 いきなり爪先を踏み抜かれた。

 紅梨栖が射殺さんばかりに睨んで小声で「黙ってろ!」と脅しつけてくる。

 こちらも「分かったから、踏むな!」と文句を言ったが、その時には紅梨栖は、少女に向き直ってしゃがみこんでいた。

 

 「ごめんね、この人ちょっとアレだから。………えっとちょっと休憩してたのよ」

 

 「そーなんだ。あの、世にいう『カケオチ』って奴では無いんだね!」

 

「「なぁ!?」」

 

 駆け落ち!?どっから引き出せばそんな言葉が出てくる!?

 少女の妙な語彙力に戦々恐々していると、「グルルル………」と銀髪碧眼のシスターさんの腹が唸った。

 

 「おなか、減った……」

 

 まゆりのような笑顔で俺達に飯を要求してきた。

 

 「(ここは、断った方が良いんじゃないのか?)」

 

 紅莉栖に耳打ちするが、完全にスルーされた。

 

 「分かった。何食べたい?」

 

 「なんでも……いいよぉ〜……」

 

 既に夢現なぼんやりした目で俺達を捉えたのも一瞬。そのまま崩れるようにぶっ倒れた。

 スフィンクス(ねこ)が彼女の胸に押し潰される前に腕から逃げ出す。

 

 「な!?おい、大丈夫か!?」

 

 後ろでオロオロする中で、紅梨栖はテキパキと脈を図り、意識を確認する。

 

 「………空腹による熱中症のようね。とりあえず近くのファミレスとかで涼ませしょう。聞いてる!?岡部!」

 

 かくして、俺達は名も知らない銀髪碧眼シスターさんの看病の為、近くのファミレスへ行く羽目になった。


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