とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》 作:タチガワルイ
__2010.8.10.11:15:00__
『ふむ』
薄暗い部屋。光源は円環のように並べられた夥しい量のモニターと、その中心に聳える1本の培養ケースのような透明の筒。
円筒の中で逆さまに浮かび、ほくそ笑んでいるのは1人の『人間』。
聖人にも、罪人にも、男にも、女にも見えるその『人間』は、中性的な声でボソリと呟いた。
『
すると、人間の脳裏に『声』が響いた。
『―んじゃ、確保に向かうとしますかぁ』
『あぁ。頼むよ。これでようやく、
『さぁ、それはどうかしら?』
声が横合いから割り込んだ。
ハキハキとした女性の声だった。
『彼はきっと、『向こう』からやってきた彼よ。上条当麻も、一方通行も言ってしまえば『舞台の上の人間』。だけど彼は違う。『舞台の外から乗り込んできた人間』よ。貴方の『
『当然だろう』
さも当たり前のように人間は声に答えた。
『君を見つけ、そして知ってから早五年。五年もかけて準備したのだ。『
『まだ根に持ってるのね』
呆れたように鼻息を鳴らす声に、人間は静かに返した。
『根になど持っていない。ただ終わっていない。それだけだ』
そう言い切り、会話を切り上げようとするが、声は止めた。
『ねぇ、あなたは本気でこの『
『君が知る必要はない。·····だが、そうだな』
人間は少し思案すると、続きを口にした。
『この世界の構造は間違っている。『
『屁理屈ね』
『そうかもしれんな』
声が吐き捨てるのを平然と受け止めると、今度こそ会話を打ち切った。
誰の声もしなくなった円筒の中で、人間はほくそ笑んだ。
『数ある可能性の中の一つ。····賽はもう、振られた。さぁいつぞやの賭けを始めようか。比屋定真帆よ』