とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》   作:タチガワルイ

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お待たせしました·····!
外典書庫2冊に創約2巻と、かまちーが止まらない中私も泊まるわけにゃ行かないと頑張って書き上げました。
旧約4巻位のノリを目指して書いてみました、話が入り組んでるかもしれません、すみません····!


魔術世界のミッシングリンク

__2010.8.10.13:22:48__

 

 

一悶着(インデックスによる家主への制裁)を岡部と紅莉栖は引き剥がし、一段落。

火力発電機と化した御坂には落ち着いていただき、彼らはようやっと上条の寮へと足を踏み入れた。

部屋は至って簡素であり、予想に反してそこまで物は溢れていない。

しかしもみくちゃのベッドと言い、洗いさしの食器と言い、そして部屋の片隅にうずたかく寄せられた猫用品といい、中々に忙しない日常を送っているらしかった。

仕方ない、財布の恨みは多々あれど今回は見逃してやろう。

これは、譲歩から始まるさらなる報復の第1段階である。決して身勝手そうな同居人に噛まれる家主に同情したとか、貧困に喘ぐ様が見て取れるとか、高校生なのに大変だなと思ったとかそういうことではない。決してそうでは無い。違うったら違うのだ。

そして本来なら早々に退出してしまいたかったのだが、と岡部は腕を組んだまま視線を部屋の奥へと向ける。

 

そこには修羅場があった。

 

「あ、あああアンタこの銀髪シスターとど、どー言う関係なのよ!?」

 

「えーとこれはだなビリビ···」

 

「とうまは私が守ってあげてるんだよ!パートナーだからね!」

 

「ちょっ、おま」

 

「パ ァ ト ナ ァ ! ?」

 

「違うんだよ!パートナーってのは言葉の綾みてぇなもんで···!」

 

「むっ!言葉のあやってどういう意味かなとうま!」

 

「えぇあとそれはだないやとにかくお前ら落ち着けって」

 

「こんな小さい子連れ込んでパートナーですって!?アンタ犯罪よこんなの!」

 

「私ちっさくないもん!」

 

「何言ってんのよちんちくりんじゃない!」

 

「なにおう!?たんぱつなんかより胸あるもん!」

 

「な、あ、ん、で、すッッッ、て ぇ ! ? 」

 

さて。と岡部は目の前の修羅場をBGMに思考する。

 

この世界線の謎を初め、目の前には問題が山積している。

『学園都市』と呼ばれるこの都市が成立したこの世界線が自らの『試み』を端に発する変動であることは間違いないだろう。

しかし今回ばかりはバタフライエフェクトの振れ幅が尋常ではない。それだけに、あの『試み』を打ち消すための方法を探す上でも、この世界線の調査は必要不可欠だ。

だが問題はそればかりではない。

『暗部』とやらが追ってきている。調査はそれらの追跡を躱しながら行う事になる──が、そう。

我々は現在、『産業スパイ』として護送中の身だ。

ダルやまゆりも遠からず『警備員(アンチスキル)』とやらに引き渡されるのだろう。その組織が如何程のものなのかはともかく、警察と同等の権限を有するのであれば、当然我々には当分自由は来ない。

つまり、現在『暗部』か『警備員』か、捕まるならどちらがいいか、と突きつけられている訳だ。全く頭が痛くなる。

更には俺について、ラボメンにいつ話すべきかも悩みどころである。

仮に『暗部』にでも捕まった場合、俺の知識と記憶はパンドラの箱と化す。

そしてその記憶と出自を仲間に明かしてしまえば、彼らもまたパンドラの箱となってしまう。現状どちらに捕まるか分からない以上、下手に巻き込むのはむしろ危険。

来るべき時が来たら、としか言えないのが辛い。

 

まず目下は、『警備員(アンチスキル)』に保護してもらい、一度街の外へ出て体勢を立て直すのが得策だろうか····しかし比屋定真帆はどこへ、と考えたところで大事なことを思い出した。

そう、ジャッジメント117支部で紅莉栖が言いかけていた、あのセリフについて確かめていないのである。

 

岡部は隣で途方に暮れていた紅莉栖に向き直った。

 

「おい、助手、さっきの続きを聞いていないぞ」

 

「さっきっていつの話よ。心当たりがありすぎて分からない、時間を言え」

 

紅莉栖のにべもない態度に岡部の口調がきつくなる。

 

「ジャッジメント117支部、貴様がAmadeusについて言及した時だ。たしかあの時『先輩に託された』と言っていただろう、その先輩とは誰のことかと聞いている」

 

紅莉栖はあぁ、それかと得心行ったように目を見開くと同時に、怪訝そうに眉を顰める。

 

「····何故それを今聞くの?」

 

「確かめておきたいからだ」

 

「何を」

 

「なんでもだ」

 

「ふーん·····」

 

あ、信用してないなコイツ。

明らかに話す気がなさそうな態度なので、俺は言葉を追加する。

 

「····産業スパイの件、釈明するにしても入手先は聞かれるだろう、当然俺もだ。その時口裏を合わせといた方がいいだろう?」

 

「建前下手すぎか」

 

「うるさい!いいから教えろ『先輩』とは誰のことなのだ!」

 

さすがに苛立ちが募り始め、語尾を荒くすると、紅莉栖は諦めたように嘆息した。

 

「····岡部が知ってる人よ。知ってるはずがないのに、あんたが知ってる人」

 

心当たりなどひとつしかなかった。

 

「······比屋定真帆、か」

 

「そ」

 

短い肯定だった。だが紅莉栖はそこで話を終わらせる気はないらしく、すぐに「次は岡部の番」と切り返してきた。

 

「で、アンタは何故あの人の名前を?」

 

いっそ軽々しいくらいなまでにさらりと差し込まれたといかけに、岡部はぐ、と息を詰まらせた。

言うべきか迷う。無論、言うべきなのだろう。

俺は別の世界線からやってきて、比屋定真帆に対して’’とある試み’’を行った。その結果を知る必要がある、と。

だが、と彼は躊躇する。

言うべきだとはわかっていてもやはり。

それは、’’今’’ではないのだ。

 

「それは····そうだ、たまたまサイエンシーで名前をみかけて」

 

「それはない。あの人は1度も論文発表しなかったわ」

 

「な、ならばネイチャーにだな····」

 

「インタビューも受けてない」

 

「テレビの番組····」

 

「無いに決まっとろーが」

 

「えぇい貴様何故そこまで異様に詳しいのだっ!?」

 

耐えきれずに唾を飛ばす岡部に、紅莉栖は至極真っ当に返した。

 

「詳しいに決まってるでしょ、私が1番探したんだから」

 

「なにっ····」

 

「先輩──比屋定真帆は、天才だった」

 

それはどこか懐かしむような、微笑ましくも物悲しい、静かな声音。

 

「アインシュタインやニュートンと並べたっていい。まさに『学園都市』を代表する、いえ···『学園都市』を象徴する、そんな科学者だったわ。そんな凄い人なのに、私にとてもフランクに接してくれて、’’先輩’’なんて呼んでもらいたがって····とても可愛がってもらった」

 

「····ヴィクコン本校に、比屋定真帆は学園都市から’’派遣されてきた’’のか?」

 

紅莉栖は僅かに頷いた。

 

「彼女の肩書きは、『学園都市 海外派遣特別研究団主任研究員』だった。····まぁ、団って言いつつ来たのは先輩ひとりだったんだけどね。『たった1人の軍団よ』なんて言ってたっけ」

 

クスクスと、当時のことを思い出したのか小さく笑う彼女。

しかし、「つまり」と言葉を続けた時、その表情はすっと硬くなる。

 

「あの人は、『外』では存在が徹底して秘匿されたの。『学園都市(ここ)』は、外から内側に取り込むことはあっても、内側のものを外に晒すことは全くしない。機密保持という面ではきわめて妥当。だからヴィクコンに『学園都市から研究員が交流にくる』というのは構内で大変なニュースになった。

けど、それは直ぐに『デマ』として処理され、先輩は内々に招き入れられ、研究室にカンヅメになった。

だから、『外』の人間が──それも、ヴィクコンの中も知らない大学生が彼女の名を知るはずが無い」

 

「·······」

 

隙のない論破だった。比屋定真帆は──天才となり、学園都市の最高機密のひとつとなったのか。

市井の一般人ではその名前を知ることすら叶わぬほどの。

そこまで歴史は歪んでしまっていたのか。

あの’’試み’’は、彼女の人生を···そこまで歪めてしまったのか。

後悔などという言葉では到底片付けられぬ痛烈な苦しみに岡部は歯を食いしばる。

しかしそこでは終わらなかった。

紅莉栖の話には、続きがあった。

 

「──そしてそれは、『学園都市(ここ)』でも言えること」

 

一瞬、紅莉栖の言葉が理解できなかった。

 

「どういう事だ?」

 

「言葉の通りよ。比屋定真帆の名前は、学園都市でも全く聞かないの」

 

なんだって?

 

「意味がわからんぞ、彼女は学園都市が誇る天才なのだろう?」

 

「そう。そのはずだし、そのはずだった。だから私も学園都市に来るまで、彼女は学園都市のニュースや雑誌で取り上げられていると思ってたわ。例え学生の関心に触れなくても、記録や功績や論文はあるはずだと」

 

「·····まさか、無かったのか」

 

彼女は、力なく首を振った。

 

「えぇ、全くね。ほぼ皆無と言ってよかった」

 

「ほぼ····?ということは、ゼロではなかったのか?」

 

思わず詰め寄ると、彼女はギョ、と驚いたように目を丸くする。しかし直ぐに居住まいを正すと腕を組んでポツリと返した。

 

「都市伝説が、ひとつ」

 

「都市伝説だと?」

 

「確実性のない、非科学的で非論理的な俗説が1件だけヒットしたのよ。えぇ、この時点で私は先輩の存在を半分疑っていた」

 

過去形──ということは。

つまりは、そういうこと。

 

「都市伝説の内容は、こう。『この学園都市には虚数学区·五行機関と呼ばれる’’はじまりの学区’’が存在する。そしてそこのトップこそ、この学園都市で最初に研究を始め、能力開発の基礎を築いた人間。その人物の名は──』」

 

「──比屋定真帆」

 

「胡散臭いわよね」

 

自分でもわかる、と紅莉栖は漏らした。

けれど、と彼女は続けた。

 

「私が出会った先輩は、それに相応しいだけの能力を持っていた。だからちょっとね、私は頭ごなしに否定できない」

 

「·····そうか」

 

「そ。·····だから、私は気になる」

 

巡り巡って、問は最初へと還ってくる。

即ち。

 

「アンタはどこでどうやって先輩の名を、先輩を、比屋定真帆を知ったの」

 

教えて。そう真摯に見つめる紅莉栖に、岡部は視線を合わせられない。

しばしの逡巡の後、岡部は視線を引き剥がすと、断ち切るように言い切った。

 

「····今は、言えん!」

 

「何故」

 

「まだその時ではないからだ」

 

「····岡部、私は真剣に聞いてるの。いい加減厨二やめないなら····」

 

「勘違いするな助手これは厨二ではない、戦術上の判断だ!」

 

「おまえは何を言っているんだ」

 

「’’まだ’’その時では無い、俺はそう言っているのだ」

 

「つまり?」

 

「·····時が来れば、話す。大方貴様ならもう見当はついてるんだろう?」

 

「·······まぁ可能性は、ね」

 

「ならばそれはまだ秘めておけ。ここには無関係な輩が多すぎる」

 

岡部の言わんとしていることを理解したのか、それとも’’そういうこと’’として引き下がったのか。

兎にも角にも、紅莉栖は少しの沈黙の後、「わかった」とだけ口にした。

 

それと同時に、だった。

目の前で取っ組み合い秒読みに修羅場っていた御坂のポケットが振動したのだ。

初めの2秒は無視してインデックスと睨み合っていた御坂だったが、さすがに出なければマズいと思ったのだろう。

 

視線は外さないままケータイからカエルケータイを取り出す。

しかし、御坂はそこで固まった。

ポケットから取り出した時には、もう着信音は消えていたのだ。

 

「誰からなのよ····?」

 

修羅場の佳境を邪魔されて些か不機嫌なままケータイを押し開く。

しかし妙なのだ。

着信画面になんの名前もない。

普通は名前がわからない相手でも【非通知】と出るはずだ。

さらに妙なのが画面の右上に鎮座していた。

【圏外】。

ここは学園都市の真ん中、それも学生寮の一室である。

いくら電波が悪くても【圏外】はありえない。

 

「どうした?ビリビリ」

 

怪訝そうに首を傾げる上条に、御坂は顔を上げた。

 

「ねぇアンタ、ここってよく圏外になったりすんの?」

 

「え?いや、流石にそれは····」

 

そう言いながら彼もケータイを開いた。

 

【圏外】

 

「嘘だろ···?」

 

愕然とケータイを見つめる上条にインデックスが小首を傾げる。

そして紅莉栖が御坂に近づく。

 

「どうかしたの?」

 

「ケータイが圏外なのよね。着信があったのに」

 

「圏外ですって····?」

 

紅莉栖もケータイを確かめる。なるほど、確かにアンテナ1本立っていなかった。

全員が首を傾げる中、岡部は御坂に1つ尋ねた。

 

「で、その着信は誰からだったのだ?圏外云々も謎だがそれも謎だろう」

 

「······それが、分からないのよ」

 

着信履歴を漁った彼女は眉を顰めてそう答えた。

 

「なんだと?」

 

「着信履歴にも記録がない」

 

突然の圏外に、記録に残らぬ着信。

謎は深まるばかりだが、このタイミングでの着信だとすれば要件など1つしかない。

 

「長居しすぎたわね·····」

 

「そうらしいな」

 

紅莉栖の呟きに岡部が同意する。

何故突然圏外になったかはともかく、着信があった以上、相手は白井当たりと見るべきだろう。彼女らに何かあったのだとすれば、これ以上ここに留まる理由はない。

ケータイを閉じた御坂は、ケータイ画面を見てショックを受けたままの上条に向き直った。

 

「·····アンタ、この件は一旦預けておくわ。黒子と合流しなくちゃいけないから。···けど!」

 

ビシ!と人差し指を突きつけると最後の最後に言い放つ。

 

「私は全然納得してないから!終わったら洗いざらい全部話すことね!」

 

「話すことなんか何もないもん!へんだ!」

 

「アンタにゃ聞いてないっつーの!!」

 

とにかく分かったわね!じゃ!

 

──と、言い残して御坂と白衣の男、赤髪の女の子は嵐のように部屋をあとにした。

 

「一体なんだったんだよ······」

 

「二度とくんなー!」

 

歯をガッチンガッチン鳴らしながら威嚇するシスターの隣で、上条はただ困惑するしかなかった。

嵐の修羅場が過ぎ去って、2拍ほど。

上条は重大な事実を思い出した。

 

「·····って、あ!俺そういえばお礼言ってねぇじゃん!」

 

というかそもそも名前すら知らないのである。

御坂と一緒にインデックスを送り届けてくれた人物であるのは分かるのだが、直後に修羅場った為に全く言葉を交わす時間がなかった。

赤髪の女の子と、白衣の男。

彼らは結局何者だったのだろう。

 

「こ、こうしちゃいられねぇ。追うぞ、インデックス!今ならまだ追いつけ──」

 

「それは遠慮してほしいね」

 

不意に横合いから割り込まれた声に、上条の肩がはねる。

素早く振り返ると、窓を全開にしたお下げの少女が立っていた。

 

「鈴羽!·····そう言えばお前いつの間にどこ行ってたんだよ!?」

 

「ベランダだよ」

 

「なんで!?」

 

勢いのまま突っ込むと、意外にも鈴羽は気まずそうに目をそらしてお下げの髪を弄り始めた。

 

「····実は顔を合わせづらい人がいてさ」

 

「誰だよ」

 

「牧瀬紅莉栖。赤い髪の人だよ。····彼女には怨恨があるんだ。

あ、けど任務には支障はない、心配しないで」

 

「····?そうか、よくわかんねぇけどあの人は牧瀬紅莉栖って言うんだな。オーケー、ありがとうじゃあ行くぞインデックス!」

 

流れでそのまま部屋を飛び出そうとした上条の腕を引っ掴んだ鈴羽はそのまま上条を強引に引き倒す。

 

「ぶべらっ!?」

 

「だからダメだって言ったじゃん!彼女たちについて行くのは遠慮して!」

 

物の見事に後頭部から床に突っ込んだ上条からすればたまったものでは無い。

今度は一体なんなんだ。

 

「なんでだよ!」

 

「死ぬからさ」

 

そう言われて、上条が固まる。

 

「君は、彼女達を追って岡部倫太郎の1件に巻き込まれて、凶弾に倒れる。そう未来に記録が残ってるんだ」

 

「っ、ならそうならねぇようにアンタがついてくればいいだけで」

 

「そうもいかないんだよ。未来とはそんなに簡単に変えられるものじゃない。’’収束事象’’は特に、ね。だから君に彼女達を追わせる訳には行かなかったし」

 

ポケットからの黒い板を取り出して、独りごちた。

 

「岡部倫太郎にも早々に退出してもらわなきゃならなかった。御坂美琴のケータイを使って修羅場を中断してでもね」

 

「····さっきの着信ってまさか」

 

黒い板──後に’’スマホ’’と言われるそれ──を翳して、鈴羽はニコリともせずに言った。

 

「これで中継基地経由に御坂美琴のケータイを鳴らしたんだ。着信元を逆探されたら敵わないから、その後一帯の電波を一時的にダウンさせた。【圏外】にしてしまえば通信元をあの場で探しあてるのは御坂美琴でも不可能さ。あちらも今は大変なことになってるはずだから、一刻も早く白井黒子らと合流して貰わないと」

 

つらつらと事の真相を語る鈴羽に、上条の声が落ちる。

 

「·····なぁアンタ、そこまで分かってんならなんでこんな所で俺を足止めしてるんだ。アンタは一体、何を目指して動いてる?俺の命を守る’’だけ’’なら、接触してくる必要もなかった、遠くから監視して’’その瞬間’’が来た時に割込めば良かったんじゃないのか」

 

「········」

 

鈴羽の抱える何かに触れたような気がした。

未来の魔術師であり、タイムトラベラー。

自らをそう明かした彼女だが、まだ何かを抱えて、背負い、そして隠している。

それはきっと岡部倫太郎、とかいう人物のことではなく、きっと上条当麻のことでもない。

彼女自身の目的だ。

彼女の’’本音’’がどこにあるのか。

そう問いただそうとした時だった。

2人とも忘れていたのだ。あまりに静かだったので、

そして話の中身が中身であるが故に。

そう、ここにもう1人最重要(注意)人物がいることに。

警笛はガッチン、という咀嚼音だった。

 

「ねぇ、とぉうぅまぁー······?」

 

地獄の門番たるケルベロスだってきっとここまで低い唸り声は出さない。

文字通り地の底から這い上がるような振動(※声)に、上条の喉がヒュッ、と変な音を立てる。

 

「インデックス、サン?」

 

「とうま、私こんな人見たことないんだけど、この人一体だれなのかな?」

 

「あ、えぇ、と····」

 

「お姉さんはシスターだから、迷える子羊の懺悔は慈しみをもって聞いてあげるよ?」

 

「懺悔が前提かよ!?ちがっ、俺は何も罪はおかしてない!」

 

「こんな女の子ベランダに隠しておいてそんな言い訳が通用すると思ってるのかな!?しかも····こっ、こういう人が好みなの!?ねぇ!?」

 

「あらぬ疑いまで上乗せするんですかインデックスさん!?」

 

「はいはい、そこまで!そーこーまーでー!」

 

 

柏手を打ちながら強引に鈴羽が割り込む。

 

「あたしは上条当麻の護衛だよ。名前は阿万音鈴羽。よろしくね」

 

「·····あなたは’’どっち’’なの」

 

インデックスの敵愾心と警戒心に満ちた問いかけは、実に様々な意味を含んでいた。

科学サイドか、魔術サイドか、

能力者か、魔術師か、

そして敵か、味方か。

それを全てひっくるめて、鈴羽はインデックスの前に膝を折り、傅くと、こう答えた。

 

「十字教連合反乱軍『ワルキューレ』 英国教区、’’元’’イギリス清教第零聖堂区《必要悪の教会(ネセサリウス)》──阿万音鈴羽。

本任務では上条当麻及び、index librorum prohibitorum──あなたの護衛を務めます」

 

「嘘ばっかり言わないでホントのこと言って欲しいかも」

 

「これがあたしのいる組織ですよ」

 

「嘘だ!」

 

インデックスは1歩も引かずに声を張る。

 

「十字教は大きなものだけでもイギリス清教、ロシア成教、ローマ正教の三宗派に別れてるんだよ、それらは全く別種の組織。それらが’’連合’’を摂るなんてありえない!そして何に反乱しているの?何に対して反乱してるの?他文明の魔術師派閥でも潰して回ってるの?

しかも’’軍’’?魔術師は個人主義の集いだよ、シスターが特別に訓練を受けて部隊化することはある、けどそれは’’軍’’としての暴力機関じゃない!ネセサリウス(私たち)ですら、役職上は聖職者なの!しかも’’ワルキューレ’’?北欧神話と十字教は何の関係もないんだよ!なのに看板に掲げるのがなんで戦乙女なの?神話の発祥地も知らないの!?

何より変なのは’’元’’なんてついて、それ以降はネセサリウスの名前が続くこと!

まるで如何にもっ、」

 

息を小さく吸う。この大嘘つきの大罪はそこにこそあると言わんばかりに、インデックスはトドメを刺す。

 

「如何にも、その『反乱軍』とやらにネセサリウスが加わり、傘下に入ったみたいかも!ネセサリウスはイギリス清教の最奥部、異端中の異端、対魔術戦闘の祭壇なの!その部署が、『魔術師と一緒に何かと戦いましょう』なんて嘯かんばかりの’’軍’’に属するなんてありえないんだよ!!」

 

騙すにしてももっと設定をねって欲しいかも!

そう最後に言い切ったインデックスの目には涙すら溜まっていた。

それを最後まで聞き取り、受け止めた鈴羽は立ち上がると。

たはは、と破顔した。

 

「やっぱりこの啖呵、変わらないなぁインデックス姐さん」

 

「うぇ?」

 

唐突な「姐さん」発言にインデックスから変な声が漏れる。

 

「それも含めて説明するよ、上条当麻、インデックス姐さんに残ってもらったのはほかでもない、あっちはあっちでゴタゴタがあるように、こっちもこっちでゴタゴタがあるんだ」

 

「「·····??」」

 

全く同じタイミングで小首を傾げる『今代のパートナー』2人を後目に、鈴羽はベランダに出ると両手でメガホンを作って、隣の部屋に呼びかけた。

 

「おーい!もう入ってきていいよー!」

 

隣の部屋から反応がない。

聞こえてないのか?ともう一度メガホンを構えたら、反応があった。

ただし、真上(・・)から。

 

「聞こえてるぜい。今から降りるから顔を引っ込めな、じょーちゃん」

 

言うやいなや、人影が上条宅のベランダの手すりに着地する。

大柄な影が続いて降り立ち、最後に長い髪と刀を携えた人影が現れる。

 

「合図するから待てと言うから待ったが遅いぞ、何やってたんだ」

 

「色々説明するのに手間取ってね。それに闖入者もいたし」

 

「まぁなんにせよ、時間が無いのは変わりません。····ですが」

 

ポニーテールを揺らして、切れ目の三白眼を鈴羽に向けて牽制する。

 

「裏切ればその背中、斬りますよ」

 

「あんまり怖がらせてやんなよ、ねーちん」

 

最初に降りた人影が手すりから足を下ろすと、ようやく上条らと視線が合う。

インデックスも、上条当麻も硬直していた。

誰かわからなかったからでは無い。

逆だ。

 

そこには、知り合いしか並んでいなかったのだ。

 

「す、ステイルに神裂·····で、土御門!?」

 

「うっす、カミやん。今朝ぶりだな?」

 

「お前なんでここにいるんだよ!?」

 

「あー····本来なら’’魔術と科学の多角スパイ’’としてお前の前に現れるのはもうちと先の予定だったんだがな、今回は案件が案件だ。少々予定を前倒ししてもらったのさ」

 

まあ。そんなことはどうでもいい。

ぞんざいに自分の正体を明かすと、本題に入る。

まるで遊びにゲーセンへ誘うような軽い感覚で、土御門は2人にこう切り出したのだ。

 

「でだ。今ちょっと世界がヤバいから手を貸してくれ」

 




はい、というわけで上条サイドに視点を移した投了とさせて頂きました!
オカリンにはオカリンの戦いがあるように、カミやんにもまた、カミやんの戦いが幕を開けます。
【クロスオーバー】という作品を意識して、彼らの関わりを応援して頂ければと思います。





······あれ。結局オカリンとカミやん一言も会話してなくね?

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