とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》   作:タチガワルイ

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オカリン達が決死の大脱出を果たした『裏側』の話でございます。
今となっては懐かしいあの方やあの人を出したくて書きました。
それでは、御一読をば。


幕間②闇は暗がりにて鈍く輝く_shadow_contest.

_2010.8.10.13:00:17_

 

目標(ターゲット)1,2,3,4,及び『風紀委員(ジャッジメント)』、見当たりません!』

 

『こちら3FC班!何があった!?』

 

『ザザッ··らB班!ワゴン車がガピ─んだ、5─····症、うち2名が···ザザッしだ!こんなの····てないぞ!!』

 

『こちらA班、目標(ターゲット)1,2が民間人と思しき人物を連れて超電磁砲(レールガン)と逃亡!どうなってる····!?』

 

とある密室。部屋と呼ぶにはあまりにも横幅が広く、奥行がない。

さながら内装はスパイ映画にありがちな司令室であり、壁一面に並んだ何枚ものモニターは、何枚かが砂嵐で、何枚かがノイズ混じり、そして残りは各員の動揺を示すように激しく画面がブレていた。

スピーカーから流れてくる音声は、先程までの静寂からは打って変わって上へ下への大騒ぎだ。

 

『我々なら今すぐ追撃に向かえますが···!』

 

「追うな。こちらでマークしているから速やかに撤収しろ。もう既に周囲から通報されているんだ、5分もすれば警備員(アンチスキル)も来る。証拠は残すな。いいな?」

 

『りょ、了解!』

 

その通信を最後に、全てのモニターが防犯カメラの映像に切り替わる。

それを合図に、コンソール席に座っていたアロハの上に学ランを着た少年─土御門元春─は、ヘッドフォンから耳を離し、半ばたたきつける様にへ置いた。

 

「失敗、か····」

 

そんな土御門の背後から1歩近づいたのは、画面の向こうにいた彼らと似たような防弾服に身を包んだ、禿頭の大男。

 

「オメェ──わざと(・・・)逃がしたな?」

 

「なんの事だ?」

 

「最初の3分···初手で扉を突破できなかった時点で即座に『プランB』に切り替えてドアをぶち破るべきだろうが。なんで15分も待った」

 

彼の威圧の込めた詰問に、土御門はため息混じりに答えた。

 

「──その言葉、そっくりそのまま返すぞ『監視役』。何故あのタイミングだったんだ?

風紀委員(ジャッジメント)117支部、『表』の連中の中でもトップレベルの戦力が集中している場所で、よりによって第3位(レールガン)が詰めているタイミングでの襲撃だ。ただでさえハイリスクすぎる賭けなのに、『瞬間移動(ムーブポイント)』と『透視能力(クレアボイアンス)』に露見したから下手に退却も出来なくなった。強行突入に切り替えてみろ、即座に『跳ばれる』のがオチだ。そんなことも分からないのか?」

 

「オメェこそよく考えろ。寧ろ襲えるのはあの場面しかねぇだろうが。目標(ターゲット)の4人が1箇所に集まり尚且つ長時間滞在する。おか····目標(ターゲット)1と2があそこに入る前ならまだ難易度は低かったろうよ。が、入っちまったもんはどうしようもねぇ。あの後の流れくらい、オメェなら分かるよな?」

 

男の指摘に、土御門が苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

 

「·····警備員(アンチスキル)に通報、後に瞬間移動(テレポート)で向かうか、護送車に迎えられるか。何れにせよもう俺達が入り込む隙はない。護送中を襲おうにも向こうには第3位(レールガン)がいるしな」

 

「そういうこった。だからわざわざ高ぇ『キャパシティダウン』も貸したんだろうが。あれで足止め食わせて、その間に突入する。『プランB』はそういう手筈だったはずだぜ」

 

「そのキャパシティダウンも向こうの反撃で潰されたがな。まさかアレを見たから今の話を振ってるわけじゃないだろうな?」

 

今度は男の方が苦虫を噛み潰す番だった。面倒くさそうにため息をつくと、筋骨隆々の両腕を組んで、土御門を見下ろした。

 

「········こっちはな、その突入までになんで『15分』も間を取ったんだって聞いてんだ」

 

「決まってるだろう」

 

土御門は立ち上がると、禿頭の男に向き直る。

挑むように見据えながらも、人相の悪い笑みを浮かべている。

 

「『目標(ターゲット)』も弱らせる為だ。あの音波は対能力者用だが、普通に聞いていても騒音であることには変わりない。それを15分も浴び続ければ一般人もまともに身動き出来なくなるはずだと踏んだ」

 

「······苦しい言い訳だな」

 

「だがアンタもそう思った(・・・・・・・・・)。だから黙認した。違うか?」

 

その言葉は、言外に「見逃したアンタも同罪だ」と言っていた。

事実その通りである。本気で強行突入したければ土御門を即座に撃ち殺すなり無力化するなりして指揮権を奪ってしまえばいい。──だが、実際は彼もまた土御門と同じく15分黙っていた。

それはつまり、彼の方針に賛同したも同然。

『わざと逃がしたんだろう』、その言葉が文字通りそのまま自分に返ってきたワケだ。

『アンタもわざと逃がしたんだろう?』と。

 

フッ、と鼻を鳴らすと彼は忌々しげに禿頭を撫でた。

 

「······そう言うことにしといたらぁ。クソッタレ」

 

男が引き下がり、土御門が再び椅子に座り直した時、まるで見計らったかのように呼び出し音が室内に響いた。

一瞬の逡巡するが1つ嘆息すると、いやいやながらに回線を繋げる。

『VOICE ONLY』画面では、人の顔は分からない。しかしこのタイミングに、この場所に回線を開ける人物でることを踏まえて、挨拶もなしにいきなり怒鳴り始めるそのガラの悪い声を聞けば、自ずと誰かは明白だ。

 

『よぉ土御門(クソガキ)、やっぱ失敗してんじゃねーかよオイ!』

 

「随分な挨拶だな、『猟犬部隊(ハウンド・ドッグ)』。自分ができない仕事を返事も聞かずに最悪のタイミングで丸投げしたんだ、さぞやいい気分だろうな」

 

『ハッ──言うじゃねぇか。まるで自分には弱み(・・)がないような口ぶりだなァ?』

 

射殺さんばかりの殺気を放ちながらもぐっ···と黙り込む土御門の間を感じ取り、通話の主は殊更下卑びた笑い声を上げた。

 

『ギャハハ!いいぜェその反応!そういう反応が見たくて仕事振ったようなもんだよホントに!』

 

「····それで、要件はなんだ」

 

『決まってるじゃねぇか──どう落とし前付けてくれるんだ、ぇえ?せっかく幾つか貸してやったのに半分くらい使えなくなってるじゃねぇか!まぁ、もう捨てるけどよ(・・・・・・・・)

 

「·······いい加減、そのチンピラ喋りをやめたらどうだ。いつか流れ星にでもされるぞ」

 

『ハッ、この俺様をそんな風に出来んのはどっかのセロリくれぇなもんだよ。ま、殺るけどな。あぁケツも掘っとくかなぁ····そっちをヤるのも楽しそうだ!無論、ロボットアームでだがな!』

 

「········」

 

『おっと──、こういうジョークは好きじゃねぇってか?なら本題に入らせろよ、クソガキ。いいか、テメェは、失敗した。普通ならよ、テメェは今頃奇怪な芸術品に仕上がってんだよ。だが統括理事長が許可しねぇから俺は今それを抑えてやってるワケ。分かるか?分かるよな?分かってくれちゃうよな?』

 

1段声を低くして舐るように言い連ねる。

その純粋なまでの悪意に晒されても土御門の表情は変わることは無い。ただ無言のままに続きを促している。

しばしの沈黙の後、盛大なため息が聞こえた。

 

『だぁーったく、流石は統括理事長直々の手駒ってかァ?くそつまんねぇなオイ!」

 

「いいから続きはなんだ。俺も暇じゃないんだ、口封じするならさっさとそう言え。その場合俺はアンタの口を封じに行く」

 

『連れねェなぁ·····まぁいい、そんなに続きがお望みなら言ってやるよ。本来ならその高級車ごとぶっ飛ばしちまうところなんだが、生憎俺様は今機嫌がいい。テメェの失敗を加味した上で、統括理事長のご意向を賜ってやる』

 

そう言うと、口調とは裏腹に忌々しげに別のモニターを開き、そこに載っているであろう文書を眺めながら口を開いた。

 

『──''お仕事続行''だ、クソガキ。ただし対象を目標1の岡部倫太郎のみに搾る。目標2の牧瀬紅莉栖、目標3の橋田至、目標4の椎名まゆり、この3人はまぁ、捕まえたきゃ捕まえろ。岡部倫太郎(えもの)を釣るいい餌にはなる』

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

『そういうお達しだ、聞くんじゃねぇよカス』

 

「······そうかよ」

 

ただ、と声は続けた。

 

『これだけは言っといてやる。岡部倫太郎は統括理事長サマが現在''1番''欲しがってるもんだ。

理由はテメェで考えろ。あ、当然だが猟犬部隊(オレたち)に先越されるんじゃねぇぞ?そうなれば当然だがこの話はナシだ。契約無効、ノルマ未達成!めでたくテメェは妹共々(・・・)オブジェになる権利をいただけるって訳だ!』

 

気安く『人質』を玩具にする木原数多の物言いに、危うく反射的に通信を切りたくなる衝動に駆られる。

それを知ってか知らずか、人を馬鹿にしきった口調で言い切ると、まるでお使いリストに1品追加するような軽さで最悪の爆弾を投下した。

 

 

『あぁ、言うの忘れてたけどよ。この会話、警備員(アンチスキル)の緊急無線回線に乗せてんだわ』

 

「っ、な······!?」

 

耳を疑った土御門を置き去りに、ダメ押しとばかりに余計な一言を付け足した。

 

『──テメェの失敗に対するペナルティはこれでチャラにしてやる。せいぜい頑張れよ、''暗部諸君''!』

 

ブツンッ──、と。回線が切られた画面に、土御門は一瞬の思考の後に飛びついた。

拳銃を置きながらモニターを起動し、先程の通話の回線を調べる。

警備員(アンチスキル)、緊急無線回線。

それは、警備員(アンチスキル)が非常事態時に開く、警察無線とほぼ同じ意味を持つ無線通信回線である。

この際の非常事態とはテロ行為対策時の連絡や捜査範囲の指示、災害時の派遣指定など、多岐にわたるが──共通しているのは『非常時にある警備員(アンチスキル)の行動ほぼ全てを把握出来る』点にある。

その為、暗部はこの回線だけは『とりあえず』常時傍受しているのだ。

 

そしてその回線に今の会話を載せたという事は、これはまさに──暗部全体へ布告(・・・・・・)ではないのか。

 

「は、はは····笑えないぞ、木原数多」

 

「──わかったろ、これが俺らのご主人(・・・)さ」

 

「あぁ、あぁそうかクソ!全ては''この為''か!」

 

つまりは、そういう事だった。

あの無茶なタイミングで『(人質)』をとっての依頼も、作戦の失敗も織り込み済み。

全ては『仕事に失敗した土御門にペナルティを課す』という言い訳で以て、岡部倫太郎狩りを暗部全体に喧伝するための、木原数多の策略だったのだ。

『岡部倫太郎』という1人の男を探し、アレイスターに届けるために、木原数多は『暗部』全員を巻き込んだ。

この街に蠢くほぼ全ての勢力が、『岡部倫太郎』を狙い始めるのだ。

街全体を巡った水面下での争奪戦。

無論そうなれば岡部倫太郎はただでは済まない。

いや、オマケあつかいされた3人もまた然りだ。

『とりあえず餌だけでも確保しとこう』と動く組織は必ずある。

そうなれば水面上、水面下問わずどれほど被害が広がるか分かったものでは無い。

 

木原数多(あの野郎)·····街全てを巻き込んで岡部倫太郎狩りを始めるなんて、どういうつもりだ····!?」

 

「さぁな、下っ端には''上''のやる事なんざわかんねぇよ」

 

「·····慣れた調子だな、アンタ」

 

「そりゃあな。生まれた頃から振り回された人生だ、慣れでもしねぇとやってらんねぇよ。頭が変わろうがやるこた変わらねぇ、薄汚ぇ仕事と尻拭い、そんでもって残飯処理だ。こんなところに捕まってるオメェなら、そこんとこ分かんじゃねぇのか」

 

「結局やることは変わらない、か·····あん?」

 

拳を握り、対策に思案したとき、ポケットが不自然に震え始めた。

取り出すと、ケータイからの着信だった。

その着信名を見て、一瞬土御門が動きを止めた。

 

「·····どこへ行く」

 

「アンタには関係の無い話だろう。もう契約は切れた。狩りに行くなり、『鼻』を嗅ぐなり殺しに来るなり好きにしろ」

 

そう返しながら、土御門は踵を返し、壁の扉に触れる。複数の方式で登録が為された生体認証をパスすると、気密扉にも似た大型のドアがスライドした。

炎天下の外へ出ると、背後で扉が静かに閉まる。

全高2m超、全長は凡そ25mにも及ぶ超大型『公用車』──『グリフォンドライバー』が静かに走り去るのを見向きもせずにポケットをまさぐる。

そしてケータイを開け、耳に当てるとこう言った。

 

「ハイハイもしもし、暇人スパイことツッチーだにゃー!ちっちっち、内容は会ってから話そうぜい、ねーちん(・・・・)☆」

 

 

 

 

 

 

「はぁ·····全く、やってらんねぇぜ」

 

独りごちて、耳の中に巧妙に隠されたインカムに触れる。

 

「──はい」

 

『ブラウン、土御門はどうなった?』

 

「こちらとの契約を破棄、先程車を降りました」

 

『ッチ、あのガキ早々に切りやがったか。──まぁいい、切る手間が省けた。テメェは第10学区に行け。特力研跡地にオーソンとマイクの班を待たせている。回収しだい《追跡》開始だ』

 

「了解」

 

『んじゃあとは頼むぜ、』

 

通信の切れたインカムから手を離し、再び触れる。

 

『──こちらマイク、117支部からは撤退完了、現在第10学区の特力研跡に待機中です』

 

「おう、木原数多(飼い主)から聞いている。今からそっちに車を寄越す、それまでに装備の準備を整えておけ。追うぞ(・・・)

 

『了解、ブラウ──あ』

 

部下が失言に気づくと同時に、禿頭の男は静かに怒鳴った。

 

「二度と間違えるな。──俺ァまだFB(・・)だ。染まってんじゃねぇよ、M5」




はい、というわけでオール禁書──に見せかけたクロスオーバー!
M4がいるなら当然彼もいるよね?というわけで登場させて頂きました。

本編では分かりにくいかもしれないので補足しておきますと、
SERNが『学園都市』へ吸収され、その際に『ラウンダー』も学園都市の暗部に吸収されたわけですね。
で、そのラウンダーは木原数多の『猟犬部隊』となりました。
つまり、最初にオカリン達を狙ってやってきたM4の部隊(隠匿拘束のハウンドドック)がどこの部隊だったかおわか····もう知ってました?あ、タイトルでわかった?デスヨネー
そんでもって、その直後に木原数多(アマタ彗星)が土御門に『ラボメンの確保』を依頼という名の脅迫※(12:30頃)を持ち込み

装備を整え、動いた頃には40分を回っており、既にラボメンは117支部内に入ってしまったあとでしたー、と。

これが前話までの『暗部』の流れになります。

ちなみに『グリフォンドライバー』ですが。
新訳15巻に木原唯一のラボとして登場しただけの『公用車』です。ドマイナーです。私も気まぐれに15巻読むまで忘れてました。
木原神拳も唯一神拳の半端コピーだったようなので、ここぞと唯一のお下がりを貰っていた(奪っていた?)事に。まぁ買っただけかもしれませんが。

次回から更に分岐並行して話が進行するので、各話1番上の時刻表示(ハウンドドックのみ何故かタイトル表記)を確認しながら読んでいただければと思います!ではでは!

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