とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》   作:タチガワルイ

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明けましておめでとうございます!
遅ればせながら、超電磁砲×シュタゲ第3幕(?)でございます。
皆さん、良いお年を!!


統合整理のブレインパズル

__2010.8.10.12:39:56__

 

「早速だが、俺達はこの街の組織に狙われている」

 

開口一番、俺はそう切り出した。

ジャッジメント第117支部の一角で俺、紅莉栖、ダルの『未来ガジェット研究所』の面子と、御坂、初春の『風紀委員(ジャッジメント)』が大きなテーブルを挟んで向かい合っていた。

御坂は厳密には風紀委員ではないのだが、初春さんと紅莉栖が同席を頼んでいた。インデックスは向こうの応接スペースでお菓子を食べてもらっている。話がややこしくなるからだ。ちなみに子守りはまゆりに頼んだ。理由は同じだ。

 

「それ、ここに来る時も聞いたけど、にわかには信じられないのよね····」

 

御坂が困惑した表情で続けた。

 

「アンタ達って『外』の見学者でしょ?それも一般の。···というか初春さん、今の時期って一般公開してたっけ?」

 

「例年では『大覇星祭』まではないはずですけど····あ、ありますね。今年から始まった企画みたいで、8/10、つまり今日だけですね。主に就職や転学向けの特別招待見学会を開催してるようです」

 

「つまり、大学生?」

 

「そうですね。....えーと。それで来たんですよね?」

 

初春さんが御坂さんの会話を繋げる形で俺たちに話を振った。

答えたのはダルだった。

 

「そうだお。丁度大学生向けの先行見学会?みたいなのやるってんで、先着2名様用のチケットがウチの大学にも来てたんだよね。で、それを競り落としたワケ」

 

「....ん?じゃあ残り2枚はどうした?」

 

その話だと、2枚までしか確保出来ていない。だがチケットは4枚存在していた。

 

「あ、それは私が」

 

すると、手を挙げたのは紅莉栖だった。

 

「助手が?」

 

「だから私は助手でもっ····いえ、いいわ。ヴィクコンの本校にも2枚来てたのを、教授が贈ってきたのよ。·····『気の置けない友人と楽しんできたまえ』ってムービーメール付きで」

 

紅莉栖がうつむき気味に低く唸った。なるほど、''あの''教授ならやりかねん。

チケットの件は了解した。さて、次の話題へ···、そう思ってコップのお茶に口をつけると、初春さんが首をかしげていた。

 

「あの、牧瀬さん」

 

「?なにかしら」

そう聞きながら彼女もまたお茶を口に運ぶ。

 

「牧瀬さんって、岡部さんの助手なんですか?」

 

ぶっふぉ!と同時に吹いた。

 

「げほ、ごほげは!」

 

「ちょ、牧瀬氏!?盛大にブッパしたお!?」

 

「げふ、ごへ、はぁー···橋田、うっさい····」

「え、えーと、えーと、そんなに爆弾でしたかねぇ···!?」

 

初春がわたわたするのを片手で制すと、俺はお茶を置いて口を開いた。

 

「クリスティーナは、我が『未来ガジェット研究所』のラボメンナンバー004(ゼロゼロヨン)であり、この俺、鳳凰院凶真のじょ「ただコイツのラボを手伝ってるだけ!私は岡部の助手になった覚えはないから!」

 

立ち上がって遮る紅莉栖に負けじと言い返す。だが、そこでふと我に帰ったのか初春達の方をちらりと見ると、席を立って俺の腕を掴んだ。

 

「___ちょっとこっちに来なさい!」

 

 

117支部のドアの外まで連れ出されると、早速詰め寄ってきた。

 

「岡部、あの子達の前では『助手』呼びはやめて!」

 

「ではなんと呼べばいいのだ?クリスティーナか?天才変態少女か?」

 

「ティーナって付けるな!あと変態じゃないし、この厨二病!」

 

「貴様こそ実験大好きっ子だろうに!我がラボに嬉々として乗り込んできたこと、忘れたとは言わせんぞ!」

 

「ぐ···、それは、アンタ達がなんか興味深いもの作ってたからでしょ!そもそも!アレがなんなのか分からないから私をラボメンにした、違う!?」

 

「うぐぐっ····!」

 

「ぐぬぬ···!」

 

ついにバチバチと視線をぶつけ合いの視殺戦に持ち込まれるが。それも数秒のみ。

紅莉栖は不意に腕を組んで背を向けてしまった。

 

「ともかく!クリスティーナもねらーも助手も今後一切禁止!····折角学園都市の知り合いの前なんだから、今日くらい普通に呼びなさいよ」

 

「·······すまん」

どうやら、本気で嫌がっていたらしい。しばしの沈黙に視線が泳ぐ。

 

「あー、ならば助手よ」

 

「まだ言うか」

 

「いや、違うぞこれはただの····ゴホン、実際問題、なんと呼べばいいのだ?」

 

「そんなの、牧瀬か牧瀬さんか紅莉栖か····普通に呼べばいいじゃないのそんなの。嫌なの!?」

 

中々困る選択肢だった。

だが、仕方がない。いつものラボメンの前ならばいざ知らず、こちらを一切知らない紅莉栖の友人の前だ。

1つ咳払いし、試しに呼んでみる事にした。

 

「ならば···牧瀬、サン····?」

 

「·················································································」

 

この時の紅莉栖の表情は、かなり形容し難かった。目を見開いているが、眉が片方だけ上がり、口が「へ」とも「一」ともつかない、微妙な形で固まり、何より自分を両腕で抱きしめてジリジリと後ずさりしているのだ。

だが、なんとも言えない顔に対して、心情は極めて正確に想像できた。

今更そう呼ばれても違和感しかない、と。

 

「·····岡部」

 

「····なんだ」

 

「·····助手でいい」

 

壁際まで逃げて俯いた紅莉栖の、声を絞り出された声は震えていた。体も若干悪寒が走っているのだろう。

ぶっちゃけ俺もだ。まさか苗字呼びがここまで余所余所しくなるとは····。

 

「····そうか、それでいいんだな?」

 

「えぇ。·····でも、他の呼び名は一切禁止だから。·····なんと言うか、アレね」

 

「なんだ」

 

「········コレジャナイ感酷い」

 

「····ねらーがバレるぞ」

 

「うっさい!」

 

結論、紅莉栖の事は助手呼びで統一となった。

 

閑話休題。

会議室に戻ってから御坂や初春さんが「やっぱり助手じゃないですかー!」とツッコミを入れたり、ダルが「牧瀬氏まじ牧瀬氏」などと意味不明な供述をしたり、騒ぎを聞き付けてインデックスやまゆりが乗り込んできたりとカオスを極めたが、特筆することなど何も無いので割愛する。

 

「えー、ゴホン」

 

咳払いで気を取り直し、改めて初春さんが向き直った。

 

「それでは、1番重要なことをお聞きしますが、襲われる理由に心当たりはありませんか?例えば何処かで何か拾ったとか、路地裏で怪しい会話を盗み聞きしたとか、或いは妙な人から変なものを渡されたとか·····」

 

想像以上にダークな例えが飛んできた。

 

「そう言ったことは特に心当たりはないが·····えらく生々しい例だな?」

 

俺の質問に対しては御坂が口を開いた。

 

「まぁ、その····恥ずかしい話、この街って決して治安はいいほうじゃないんですよね····」

 

どこか遠い目をしているのは懐かしんでいるのか、思いを馳せているのか。前者後者どちらにしたって『慣れ』が滲み出る反応なのでもうこの時点で若干怖い。

 

「た、例えば?」

 

「例えば──」

 

「えーと!では心当たりはないんですね!」

 

む、強引に打ち切ったな初春さん。

 

(御坂さん!この方々は外部の人ですよ!佐天さんとかならともかく、そう、簡単に事件の話をしようとしないでください!)

 

(悪かったわよ···気をつけるわ)

 

背中を向けてコソコソ話しているが聞こえてるぞ。

 

「ふぅ····話が進みません····」

 

「騒がしくてごめんなさいね、初春さん」

 

「い、いえいえ牧瀬さん!こちらの不慣れが原因なので!すみません!」

 

紅莉栖が気遣わしげに微笑むと、初春さんは慌てて頭を何度も下げた。先程の挨拶と言い、今のやり取りと言い、紅莉栖も実は『風紀委員(ジャッジメント)』なのだろうか?

そんな疑問を隅に追いやり、俺は改めて口を開いた。

 

「·····先程、心当たりは無いと言ったが、それは半分真実で、半分嘘だ」

 

「それは、どういうことですか?」

 

口調の変化を感じ取った初春さんが居住まいを正す。

 

「俺達は学園都市では、妙なものを拾ったわけでも、盗み聞きした訳でも、なにか渡された訳でもない。そういう意味では狙われる理由はない──が、俺達には、連中が狙いそうなものに関して1つ心当たりがある」

 

「岡部、まさか···!」

 

俺の言葉に真っ先に反応したのは紅莉栖だった。愕然とした表情で身を乗り出す。

続いて、ダルも勘づいたらしい。「あっ」と言ったきり目線を落として口元に手をやっている。

 

「その''心当たり''とは?」

 

「ダメよ岡部!それが本当なら、初春さん達は巻き込めない!」

 

初春さんの言葉を遮って紅莉栖が言い募る。俺は彼女を見返した。

 

「だが、それしかない上に俺達がマークされている以上、保護を求めるなら話すしかない。例えそれが『外』の話だったとしてもだ」

 

「でも···!」

 

「助手よ、狼狽えるな。もう問題はシフトした。『主神の導き作戦(オペレーション・フリブスキャルヴ)』は中止、ここから先は如何に安全にこの街を脱出するかに切り替える。いいな?」

 

「·······」

 

黙り込んでも尚、反対の視線を外さない紅莉栖に声を掛けたのは初春さんだった。

 

「牧瀬さん、私達は大丈夫ですよ。内容次第で手に負えないと判断すれば、すぐ『警備員(アンチスキル)』に連絡します。その判断の為にも、聞かせて貰えませんか?」

 

「···············分かったわ、でも岡部」

 

「なんだ」

 

「厨二病はやめて」

 

「当然だ、俺をなんだと思っている?」

 

「狂気のマッドサイエン──って言わせんな!」

 

「ノリがよくて何よりだ助手よ」

 

「〜〜〜···くっ」

 

そっぽ向いてしまった紅莉栖を一瞥して苦笑を漏らす初春に向き直り、俺は咳払いをひとつした。

 

「''心当たり''とは即ち──『電話レンジ(仮)』だ」

 


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