とある世界の選択異譚《ターニング·リンク》   作:タチガワルイ

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Steins;Gate×とある魔術の禁書目録 のクロスオーバーです。
どちらの作品も好きなので書いてみました。
尚、自己解釈のオリジナル展開ですが、シュタゲは無印と0、禁書目録は旧約~新訳19までのネタバレ(小ネタ)を含みます。

オリキャラも数人混じる予定なので、かなり長くなると思いますが、暇潰しの一端になれればと思います。


第一周──10.435526%
状況確認のイントロダクション


 ───DV:―.――――――

 

すべては偶然だ。

 

だがその偶然は、あらかじめ決められていた世界の意志でもあった。

 

俺はイカれてなどいない。いたって正常だ。

ここでは真実を語っているんであって、断じて厨二病の妄想なんかじゃない。

 

きっかけはほんの些細なことだとしても、それが未来の大きな流れを決定付けてしまうこともある。

 

バタフライ効果という言葉を知っているか?

知らないとは言わせない。

それぐらいの慎重さが求められているのだということを理解した上で、その引き金を引いたはずだ。

 

俺は、何度踏み外せば気が済むのだろう。

 

自らの愚かしさを呪い、足掻き、そして抜け出した。

この世界の神には抗えぬのだと、それでも尚抗うのだと。

今度こそ──今度こそ、この世界を御し切ってみせる。

そう覚悟を決めて、再びこの旅に身を晒した。

 

やはり、俺は愚かであった。

 

理解していたはずなのだ。

その覚悟が、その考えがどれほど浅はかであるのかを。

 

にも関わらず、引き金を引いた。安易にその一線を踏み越えた。

 

あれほど考えたはずだ。

普段の人間の知覚は99%が遮断されている。

人は自分でも思ってる以上に愚鈍な生き物なのだ。

普段の生活の中に埋もれている何気ないことなど気にも留めず、知覚したとしてもすぐに忘れるか、脳が処理をしないかのどちらかなのだ。

 

だが、もう遅い。全ては『たられば』の域を出ず。

なにもかも『はずだった』と嘆くのみ。

自らの力に溺れ、神の秩序を乱した男の末路がこれだ。

 

あのときの俺に言ってやりたい。

 

迂闊なことをするなと、

軽率なことをするなと、

見て見ぬフリをするなと、

 

もっと注意を払えと。

 

陰謀の魔の手は、思った以上にずっと身近にあって、いつでもお前を陥れようと手ぐすね引いているのだと──····

 

 

─0.726541

───3.004298

──────6.115309

─────────8.226410

 

 

────────────10.334526%

 

 

─2010. 8.10.10:32:25─

 

 「──ぐぅッ!?」

 

視界がノイズに埋め尽くされ、グネグネと歪んだ認識から突然に覚醒する。

目眩にも似た鈍い衝撃がはしり、視界が明滅した。

今までで1番強烈な運命探知の魔眼(リーディングシュタイナー)に、立っていられず崩れ落ちる。

遠くで仲間の声が聞こえた気がした。だがくぐもって聞こえない。

世界線はどうなった?あの''試み''は成功したのか?紅莉栖は、まゆりは、そして比屋定さんは───?

 

雪崩込む疑問と運命探知の魔眼(リーディングシュタイナー)による混濁に耐えきれず、ついに俺の意識はグルンと暗転した。

 

 

 

 

「ん、あ······?」

 

騒がしいセミの鳴き声に目が覚めた。

蒸し暑い部屋だ。窓からはキツい日差しを辛うじて防ぐ薄いカーテンが微かに揺れており、

 扇風機が怪しい音を出しながらも健気に羽を回している。

 あせた天井にピントが合うまで少々時間を要した。

 

「──あ、岡部。気づいたのね」

 

 そんな俺を、真上から覗き込む影があった。

 サラサラの赤髪をストレートに流し、服はいつもの改造制服に白衣。ドクペ片手に心配そうにのぞき込むのは、牧瀬紅莉栖だ。

 

「大丈夫?どこか痛いところは?」

 

「····あぁ、もう大丈夫だ」

 

徐に起き上がろうと上体を起こす。「ちょっと、まだじっとしてなきゃ」と紅莉栖が止めたが、頭痛は引いていたので手で制した。

 

「それで、俺はどれくらい寝ていた?」

 

そう尋ねると、紅莉栖は真上の時計をちらりと確認して、「概ね五分程度ね」と答えた。

同じように時計を見あげる。時計は10:38を指していた。

すると、ラボの玄関の方から扉の開く音と、二人分の足音が聞こえてきた。

 

「あー、オカリン!大丈夫?突然倒れるからびっくりしたのです」

 

「あ、オカリン起きたん?いやー、確かに最近徹夜詰めだったけど、まさかぶっ倒れるとは思わなかったのだぜ」

 

先にラボへ上がった椎名まゆりが、「お見舞い」と称して渡してきたドクペを受け取り、蓋を開ける。

 

「すまないな、ありがとう」

 

「オカリンずっと働き詰めだったもんねぇ〜。でも、あんまり無茶するのはダメなのです」

 

「あぁ、気をつけるよ」

 

『岡部が普通になってる····!?』『弱る男を介抱する幼馴染····けしからん!』『この変態!』などと早速騒ぎ始めたラボメンを尻目に、一口煽る。

喉をはじけるこの炭酸。舌で跳ねるこの味わい。

やはりドクペは知的飲料水に相応しい。

まゆりが買ってきたおでん缶やドクペ、ゼロコーラなどを冷蔵庫に入れに行くのを見送り、''いつも通り''のラボメン達に内心安堵しながら、俺はふと気づいた。

 

「ダル。あのロリっ子はどうした?」

 

「ん?ロリっ子?綯たんのこと?」

 

「そっちは小動物だ!違う、『ロリっ子』と言えば比屋定真帆しか居ないだろう!」

 

あれほど騒がしかったラボが、一瞬にして静まり返った。

 

「………比屋定、ですって?」

 

 紅莉栖が不審げに声を落として聞き返してくる。『なんでアンタが知っている』とでも言いたげだ。

 

「いや、マジ誰なん?聞いたこともないですしお寿司」

 

ダルもまた首を傾げてこちらを見る。

なんという事だ。あの''試み''で比屋定真帆はラボメンにならない世界線へ移動したというのか。

····いかん、この程度で狼狽えてどうする。これくらい、想定の範囲内だろう。

 

「そ、そうか·····。なに、ただの記憶違いだ。気にするな」

 

「気にするなって····」

 

「そうだお、そんだけ具体的な名前出しといてそりゃないっしょ」

 

ダルが不満げにそう突っかかり、紅莉栖が詰め寄ってくる。

 

「さっき頭を打った影響かもしれないだろう。ともかくこの話は無しだっ」

 

「そう言われても納得出来ないわ。どこでその名前を聞いたか説明して」

 

「な、何故そうも突っかかる!このクリスティーナ!」

 

「ここぞとティーナ付けるな変態凶真!」

 

「ぬぁーらばクリ腐ティーナに改名してやろう!」

 

「腐らせるな!この厨二ティスト!」

 

「マァッドサイエンティストだ!いい加減覚えろ!」

 

「なっ──アンタこそいい加減人の名前覚えなさいよ!ティーナ付けたり腐らせたりゾンビ化したりなんなのよ!」

 

「+ねらーも付くな。どうした?ID真っ赤だぞ?ん?」

 

「なっとらんわ!」

 

「比屋定真帆····ロリっ子····真帆たん····?ハァ、ハァ····」

 

「「黙れ変態ッ!」」

 

チーン♪、と。

絶妙に間抜けた音がラボに響いた。

 

「わー、ジューシー唐揚げナンバワーン♪······あ、あれ?皆どうしたの?」

 

振り返ったまゆりが、戸惑って首を傾げる。

まゆりの視線の先には、完全に毒気を抜かれた俺達が転がっていた。

 

 

 

 

比屋定さんの件は保留となり、テーブルの上に準備された各々の飲み物を取る。軽めのお茶だ。とは言え──まゆり用の麦茶以外、誰1人お茶など飲んでいなかった。

俺と紅莉栖はドクペ。

ダルはコーラカロリーゼロ。

 

全員が一口飲み、息を着いた所で質問を変えることにした。比屋定真帆がラボメンになっていない、それ以外でどう世界線が変わったのか確認しなくてはならない。

ドクペをテーブルに置くと、慎重に切り出した。

 

「ところで、今の研究進捗はどうなのだ?」

 

「え?あー····電話レンジ(仮)mk-弐号改のこと?」

 

「それ以外何が····って、おい待てダル」

今ものすごく聞き捨てならない単語が飛び出した気がして、思わず制止をかけた。

 

「なんだその『電話レンジ(仮)mk-弐号改』って。俺はそんなゴテゴテした名前をあのガジェットに付けた覚えは無いぞ!」

 

「いや、ゴテゴテも何も、付けたのオカリンっしょ?」

 

「な、俺!?」

 

何を馬鹿な、と言いかけて踏みとどまる。そうだ、ここは世界線が変わっている。

ならばガジェットの名前くらい変わっていても·····いやおかしいだろう!?

しかし変わってしまったものは仕方がない。何故そんなゴテゴテした名前に変えたのか、自分のセンスが疑われるが、やはりそれでも仕方がないのだ。

 

「ま、まぁそうだったな···ふっ、どうやら右腕が俺を乗っ取っていたようだァ···」

 

「はいはいワロスワロス」

 

「厨二乙ですね分かります」

 

「クリスちゃん塩塩だねぇ〜」

 

うぐっ、と喉が詰まるがめげてはいけない。痛かろうが恥ずかしかろうが鳳凰院を貫く、そう決めたのだ。

 

「ゴホン···、それはいいのだ、さっさと続きを話したまえー」

 

「まぁ、進捗つっても今朝から進んでないけど·····電話レンジ(仮)mk-弐号改との同調の調整やってる所だお。もうすぐ結果出るんじゃね?」

 

「同調、だと·····?」

 

「知ったか」顔すら忘れて、思わず聞き返してしまう。一体電話レンジ(仮)を何と同調しようとしているのだこの世界線は?

しかももうすぐ結果が出る?····まるで何かにスキャンさせているみたいではないか。

次々に明らかとなっていく世界線変動の影響によるショックを立ち直らせる為に、ケータイに手を伸ばそうとして──やめる。

まだ『同士』に連絡するのは早い。そう言い聞かせてドクペを1口含んだ時、無人の筈の開発室から『声』が聴こえた。

 

『終わったわ、橋田』

 

───鼓動がドクン、と跳ね上がる。

震える手でドクペから口を離すと、喉が鳴った。ドクペを飲み込んだだけのはずだが、別の何かも呑んだ気がした。

正面でドクペを煽る紅莉栖に、声を落として尋ねる。

悪い予感で声が震えていることを悟られたくなかった。

 

「何が、終わったんだ?」

 

「え?私じゃないわよ。終わったのは──」

 

あっち、と指を真横に伸ばす。

その指を追って、視線を向ける。

違うと思いたかった。

頭の中で浮かんだ''ソレ''だけは違うと、そう思いたかった。

しかしこの世界線は、何処までも。

そう、何処までも狂っていて───。

 

「アマデ氏、調子どう?」

 

『えぇ、快調──とは言い難いけど。これで電話レンジは半分私のもの同然ね』

 

───俺を裏切って行く。

 あまりの衝撃に完全に固まっている俺を他所に、紅莉栖は立ち上がると、開発室の方へ、''彼女''がいる方へ向かって言った。

 

「──『Amadeus』、何かわかる事ってある?放電現象時の状況とか」

 

『そうね····起動してみないとなんとも、って所かしら。ただこのPC、いい加減買い換えるかして行かないと、ソフトはともかくハードがヤバそうよ?っていうか、こんなボロpcよく稼働してるわね。動きにくいったらありゃしないわ』

 

「全俺が泣いた」

 

楽しげに会話している紅莉栖達を見て、その現実に愕然とした。

何故。何故『それ』がここにある?しかも、よりによってこの時期に、この場所に。

ここは、α世界線のはずだ。

紅莉栖が生きているのがその証拠。

俺の記憶が正しければ、そのシステム──『Amadeus』システムが世間にお披露目されるのは2010年の冬。まだ先の話のはずだ。

紅莉栖が持ち込んだ?

いいや、それは有り得ないだろう。それならばタイムマシンに関する講義はどうなる?大体あれほどの大発明だ、紅莉栖がアメリカから持ち込んだのなら、当然比屋定さんにレスキネン教授も来ているはず。

それならば教授はともかく、比屋定さんがラボに来ていないのはおかしいし、ラボメンと顔を合わせていないのは不自然だ。

俺が行った''試み''は、彼女こそがキーマンであり、この''試み''が成功したか否かは彼女の口から聞く予定だったのだから。

しかし、Amadeusの出処を考えるとやはり紅莉栖以外は考えようがない。

思考を重ねるほど頭が混乱してくる。どこを繋げても辻褄が合わないのだ。

·····未だ情報が足りない。

 

シワのよった眉間を揉み、ドクペを置くと俺は開発室へと足を踏み入れた。

 

「………何故、『Amadeus』がここに?」

 

 「?Dメールのデータを収集するためでしょう?それでいっその事、『Amadeus』に設定操作を任せようって事でシステムの同調をしてたのよ····本当に大丈夫?倒れてからアンタ変よ?」

 

「····大丈夫だ」

 

怪訝そうに顔を覗き込む紅莉栖に片手をヒラヒラ振ると、話を進めた。

一々混乱している場合ではない。

衝撃を受けている自分を、内心でそう叱責する。

 

「つまり、こっちが『何日前にこんな内容のDメールを送れ』と言えばAmadeusがやってくれる、ということだな?」

 

「まぁ、それを目指してるんだけど····アマデ氏が出来るのは時間設定とレンジの起動までで、文章とか送信とかの····ケータイの操作は誰かがやらなきゃなんだよね」

 

「結局手動ではないかっ!」

 

この、肝心なところが抜けているのがなんとも未来ガジェットらしい。

 

「でも、一応備え付けのケータイとも連動できないか試してるお。流石に、ソケットに牧瀬氏のケータイ括り付けるのはまずいっしょ」

 

「不味すぎるわ。それでアプリがショートしたらこっち(HDD)の本体まで吹き飛びかねないわよ?」

 

『それは勘弁願いたいわね。初めての中なのに、こんなオンボロPCで死ぬのは死んでも死にきれない』

 

「····アマデ氏、アマデ氏」

『?』

 

「その····『初めての中なのに』って所、リピートプリーズ。出来れば恥ずかしがりつつ上目遣いで」

 

「『言うか変態!』」

 

「変態じゃないお、HENTAI紳士だお!」

 

······世界線は変わってもこの空気は変わらんらしい。

それにどこか救われたような気分になったのは、きっと俺の錯覚だ。

 

「あ、そうそうオカリン」

 

そんな中で、ダルが思い出したように俺の方を向いた。

 

「なんだ?」

 

「オカリンの言ってたヤツ、昨日ついにゲットしたんだよね、しかも2枚!」

 

 そう言ってポケットを漁るダル。

 

今度はなんだ。電話レンジ(仮)の名前と言い、Amadeusの参加といい、この世界線の俺はどうも記憶と食い違う行動をしている。

そう思いながらも俺は全くその事実の重大さに気づかないでいた。

 

だが、気づくべきであったのだ。

比屋定真帆の不在、電話レンジ(仮)mk-弐号改、Amadeus。これほど周囲の状況が変化していて、もう無いなどと誰が言えるものか。

しかし俺は楽観していた。事態を甘く見ていた。

これは因果応報、などと言う言葉では片付けられない。

そのしっぺ返しが、自らの犯した''試み''──即ち、過ちが全てを巻き込んだ『結果』が、これだったのだから。

 

「テッテレー!『学園都市』先行見学会のチケットだお!」

 

····························は?

 

『学園都市』、だと?何を言っている、学園都市のどこの学校へのチケットだ?それに、俺はそんなもの要求した覚えはない。

半ばジョークを聞き流すように思わず鼻で笑った。

 

「はっ、何を言い出すかと思えば····『学園都市』だと?八王子学園都市にでも行くのか?大体どこの学校を覗くつもりだ、俺達は映えある大学生だぞ?そんなみみっちい場所なんぞに縛られる俺ではないっ!」

 

ここから一番近いのは八王子学園都市だが、そこの学校はどれも入れる気がしないほどレベルが高い。更にいうならそのどこもタイムマシンの研究などやってなかった筈だし、何より俺達は大学生である。まゆりならともかく、何故いっぱしの大学生である俺達がそんな所にチケットまで取って出向かねばならない?

白衣を翻して仰々しく反論したが、背中に刺さる視線は痛い。厨二行動に呆れていると言うよりは、「これも覚えてないのか」という半ば心配と同情の交じった視線だった。

 

「·····岡部」

 

「分かった!何も言うな。皆まで言うでない。知っているぞ?学園都市だろう?····ふむ、『機関』が敷設した超巨大な総合学習機関、そう!全国から集められた、優秀なる素質を持つ選ばれし者のみが入ることを許される、言わば『機関』構成員育成都市──そうであろう?」

 

これでもかと厨二設定を盛り込んで大袈裟に嘘をついてやったはずなのだが。紅梨栖の反応は予想と大きく違っていた。

 

「·····まぁ、岡部語に訳せばそうなるか」

 

「え?」

 

てっきり『厨二乙』や『はいはいワロスワロス』と言った反応が来ると思っていたのだが、はて、何かおかしい。

何故ラボメン達は一様に納得しているのだ····?

すると、何を思ったのか、ダルはメガネのブリッジを上げると口を開いた。

 

「オカリン、『学園都市』っつったらあそこ一択っしょ」

 

「は?」

 

ダン!と椅子から立ち上がり、ダルはついに咆哮した。

 

「最先端科学の牙城にして、科学サイドの総本山!僕らの常識の20~30年はぶっ飛んでると言われる超科学力を1箇所に集結させた、まさに萌の聖地!そして何よりロマンのソウル、超・能・力!あぁ、異能美少女····僕は今、最高に感動してる!!」

 

「自重しろ変態!」

 

「フヒヒ、サーセン」

 

紅梨栖とダルのいつものやり取りに、先程とは真逆に、置いていかれたような錯覚に陥る。

よろよろと後ずさりすると、ソファに沈み込む。

 

なにが、どうなっている?俺のいた世界線にはそんな『学園都市』は存在しなかった。

超能力だと?ふざけている。

比屋定さんに行った''試み''は確かに大きな過去改変を生むものだった。

だがどう考えてもその存在はアトラクタフィールドを跨がなければ実現しそうに思えない。

いや、1%変わっても街の風景は変わらなかった。

新しい街はおろか、新しい技術や社会体制が生まれるような劇的な変化は見当たらなかった。

──まさか、知らないだけでその時点でも『超能力』に関する技術があったのか?

だとすれば、何故2036年時点でそれが日の目を見ていない?

分からないことが多すぎる。

 

「オカリン、大丈夫?怖い顔、してるよ?」

 

まゆりがドクペを持ってこちらを心配そうに覗き込んできた。

そんなに酷い顔をしていたか。

ドクペを受け取ると、笑ってみせる。

 

「大丈夫だまゆり。少し暑くて参ってただけだ」

 

「やっぱり、ちゃんと寝た方がいいよ〜···」

 

「案ずるな。俺は鳳凰院凶真だ、この程度でへばるわけがなかろう」

 

ドクペを煽り、心を落着ける。ポケットのケータイを強く意識しながら、開発室から出てきたダルに問うた。

 

「ダル!ならば問うが、タイムリープの方はどうなった?」

 

「タイムリープ?そんな話あったっけ?」

 

「なっ······」

 

「牧瀬氏ー、タイムリープするって話あったっけ?」

 

「聞いてないわよ、そんなの。幾らなんでもそんなの出来るわけないじゃない」

 

俺は、ダルの言葉に絶句した。

いやそんなはずはない。

何故ならSERNにハッキングを仕掛けて──そうだ、ハッキングの件がこの世界線ではどう転んだのだ。

 

「いやしかしそれなら、SERNへのハッキングはどうなった?ゼリーマンズレポートは見ただろう!?」

 

 「SERN?ゼリーマンズレポート····?なんぞそれ。つかオカリン『学園都市にこそ我が未来ガジェット、電話レンジ(仮)mk-弐号機改の次なるヒントが隠されてる!』つって、僕にチケット要求したんじゃん?それも忘れた感じ?」

 

「なっに······」

 

────SERNが無い。

 

俺は反射的に辺りを見渡し、歩き回った。ダルのエロゲ用PCの脇、ソファの隣、開発室のテーブル下、テレビの傍。

窓を開け放ち、通りを見下ろす。

熱風が頬を焼くだけで、まったく落ち着かなかった。

 

無い。

 

α世界線ではまずあるべき『アレ』が無い。

 

「·····IBN5100も、無いのか?」

 

「岡部?ホントにアンタ大丈夫?」

 

紅梨栖が何かを察したのか口調がからかうものから、本気の心配に変わっていた。

しかしそんなものに気づけるような余裕はなかった。

豹変しきった世界線に、ついに俺はケータイを取り出してしまった。

 

 「あぁ、俺だ!何がどうなっている!?電話レンジ(仮)は魔改造され、Amadeusが居候、ロリっ子は霞と消え、SERNは消滅、IBN5100は無かったことになったぞ!……何?これが『運命石の扉(シュタインズ・ゲート)』の選択だと?そんなわけが····ッ!·····なんだと?くそ、そういう事か!······あぁ、分かった。済まないな。やはりそうするしかないのならば、これもやはり『運命石の扉(シュタインズゲート)』の選択なのだろう····では健闘を祈る。エル・プサイ・コングルゥ」

 

「やっぱり厨二病か」

 

「オカリンたまに発作起こすのマジやめてクレメンス」

 

紅梨栖とダルが、厨二病の発作と片付けるのを尻目に、俺は覚悟を決めた。

この謎を、この世界線を解明するには、まず''そこ''から当たるしかないのだ。

 

「………オカリン?」

 

まゆりの心配そうな声が後ろから聞こえる。

ケータイをポケットに突っ込んだ俺は、通りを見下ろしたままダルに問うた。

 

 

「ダル、その見学チケットはいつまで有効だ?」

 

「き、今日だけだお」

 

「……分かった 」

 

ゆっくりと振り返り、こちらを見る3人を見据える。

 

これは、俺の過ちだ。

何故電話レンジ(仮)にAmabeusが同居し、『電話レンジ(仮)mk-弐号改』へ名を変えたのか。

何故比屋定真帆はラボメンとならなかったのか、そしてどこへ消えたのか。

何故SERNが消滅したのか。

 

そして何故、『学園都市』という謎の科学都市が生まれたのか。

 

全ての疑問を解明し、この世界線を元に戻さねばならない。

そう、これは俺の過ちだ。

着ていた白衣を翻し、声高々に宣言した。

 

 「現時刻を以て、『主神の導き作戦(オペレーションフリブスキャルヴ)』を発動させるッ!全員、学園都市を隅から隅まで分析し、我が電話レンジ(仮)の更なる改良の糧とするが良いッッッ!」




第1話、全面改稿致しました!
初めて読む方も、過去に読んでうんざりした方も、今一度お楽しみいただけると幸いです。

〜ネタ解説〜

・電話レンジ(仮)──Steins;Gate
未来ガジェット8号機。
元々は『電子レンジをケータイで遠隔操作する』というなんとも迷走したガジェットなのですが、とあるきっかけで『タイムマシン』になることが判明、やがて岡部を時間の旅へと絡め取っていくシュタゲを象徴するガジェットです。

今回は『mk-弐号改』と名前が変わっている。何故だ。

・『Amadeus』システム──Steins;Gate 0
比屋定真帆と紅梨栖が、レスキネン教授の研究室で作り上げた人工知能システム。
『人の頭脳を電子情報に置き換え、プログラム化してコンピュータに読み込ませる』ことで、人格と記憶のコピー及び保存を可能にした画期的な技術。
今回はヴィクコンのサーバではなく、HDDが本体の模様。

どうしてそうなった·······?


・SERN──Steins;Gate
現実世界では『C』ERN。
フランスとスイスの国境付近に存在する素粒子研究施設。
タイムマシン研究を行っており、非公式組織である『ラウンダー』でオカリン達を襲った、無印の黒幕サイド。

何故かこの世界線では存在しないらしい。


・IBN5100──Steins;Gate
現実世界ではIB『M』5100。
1975年発売の、IBN社製デスクトップPC。
IBN5100内に秘蔵された、とある特殊なプログラム言語が、SERNの最高機密資料の暗号に使われていた。

SERN共々ラボから消えたようだが·····。


・学園都市──とある魔術の禁書目録
科学サイドを支配する総本山。東京西部に位置する完全独立教育研究機関であり、あらゆる教育機関・研究組織の集合体。
学生が人口の8割を占める学生の街にして、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されている科学の街。また、人為的な超能力開発が実用化され学生全員に実施されており、超能力開発機関の側面が強い。

この世界線に何があった·····?

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