甘くない偽物の恋   作:鼻眼鏡26号

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本当に感想をくれた人達へ感謝を込めて作りました。

よろしくお願いします。




21話

森の中を駆け回る必要はなく、桐崎さんの居場所は大体予想はついていた。

彼女は暗い所が苦手なので、まず動き回る事はないため交代した場所から動いてはいないだろう。

そうなると今は急いでその場に向かい所在を確かめないといけない。

一応発見した際にはペアである集に渡した無線機で連絡する手筈となっている。

 

 

「まずは見つける事だな。」

 

 

木々を渡り進むが、内心焦ってもいたのだ。

彼女はほんの少し前に薄暗いところで死の恐怖を味わっていたのだ、時間が経ったとはいえ忘れられるわけがない。

10数年しか生きていないただの女の子なのだから。

 

 

「うおっと!」

 

 

そんな事を考えていたら手の力を緩めてしまい、木の枝から手を離してしまいその勢いのまま地面に落下して草むらに突っ込んだ。

 

ガサッ

 

幸い怪我は無くゆっくりと立ち上がる。

震える手は、思っていたより疲労していた。

自分の事も忘れるほど彼女のことを考えていたのだ。

自覚はしている、あの時から彼女の事が気になっていたのだ。

 

 

 

だけど、目を逸らし続けた。彼女の置かれている状況を知っているから、だからどうすればいいかわからなかった。

落ち込む俺は歩き出すと小さな声が聞こえた。

 

 

「うぅ…もういや…誰でもいいから…誰かたすけて。」

 

 

その声がきこえた瞬間、俺は駆け出し何も考えていなかった。

ただ、彼女のそばに居たいとそれだけを強く願っていた。

泣き崩れる彼女の前に膝をついて震えている手を彼女の頭にゆっくりと乗せる。

ここで気の利いたセリフを言いたかったが思い付かなかった。

 

 

「あー助けに来たぞ?」

 

 

苦手な作り笑いをして彼女の前に現れる。

 

 

 

桐崎side

 

 

 

目の前の不器用な笑みをする男の子に私の心臓は飛び跳ねるように大きく動いた。

そして同時に、さっきまで動かなかった足が動き出して私は彼に飛びついた。

 

 

「大谷くん!」

 

 

嬉しさかなんだかわからない感情が溢れ出す。

彼に抱きついてそのしっかりとした肉体に温かい体温を感じると私の感情は爆発していた。

 

 

「きききき…桐崎さん!?」

 

 

驚く彼だが、私はそれ以上に強く彼を抱きしめる。

 

 

「き…桐崎さん……」

 

 

彼に抱きついた事を後で思い出して絶対に恥ずかしさで悶えるだろうが今はこうしていたい。

彼が来てくれた事が嬉しくて力が強くなっていくのを感じる。それだけ嬉しかったのだと自分でもわかる。

 

 

「き…きり…さ…き…さーー」

 

 

そして、あまりに強過ぎた力が彼にとどめを刺していたことにもようやく気づいた。

 

 

「お…大谷くーーん!!」

 

 

助けに来てくれた彼はそのまま力無く倒れた。

 

 

私自ら絞め落とした相手を現在担いで森の中を歩く。

彼の持っていた地図を読んだが今どこにいるのか分からないためとりあえず移動を試みているのだ。

 

 

「ど…どこに行っても木ばっかり!ほ…本格的に遭難!?」

 

 

流石の私もここまで自分が方向音痴なのか本格的に悩み始める。

ちなみに千棘は、奇跡的な動きにより絶妙にルートから外れており隠れているお化け役とも遭遇することもなかった。

それゆえに末に到着したところはーー

 

 

「うわ……すっごい綺麗。」

 

 

そこは都会から離れていて空気が澄んでいるため満点の星空が目の前に広がっていた。

偶然にも到着したこの場所は、肝試しルートから少し離れた公園で時間帯的に人がいない時間帯だった。

近くにあるベンチに彼を座らせて私はゆっくりと散歩する。

 

「……確かに暗いのもたまには良いかもね。」

 

歩き終わった私は、彼の横に座る。

気を失った彼はゆっくりと寝息をたてていて起きる様子はない。

だから、私はゆっくりと彼の方へと寄りかかる。

すごく勇気を振り絞った。

彼の鼓動を聞いて私は確信した。

 

「……そっか、好きなんだこの人の事。」

 

そして同時にこの恋は叶わぬものだとも思った。

彼は一条楽との偽物の恋人である事は知っている。

前に泊まりに来た時に話してくれたから。

だけど、私ですら危ない目に遭っていたのにその恋人だと、一条楽みたいにヤクザの息子ならば大丈夫だけど、一般人である彼を巻き込んだらタダでは済まない事は少し考えればわかる。

 

「……終わっちゃったな…私の初恋。」

 

生まれた出自を恨むつもりはない。

偶々、そうなってしまっただけなのだから。

諦めなければならなかった。辛いけれどもこれからは私以外のもっと良い人を見つけて欲しい。幸せになってほしい。

 

「…そんなの…本気で思えるわけないじゃん。」

 

好きで好きでその感情が溢れ出て、ここまで思える人はそう簡単にいるわけない。友達第一号で、友達作りに悩んだ時には助けてくれて、私の料理を手伝ってくれて、そしてそれが美味しいと言ってくれて。

私のことを2回も助けに来てくれる私の好きな人。

そう思ってしまって胸が苦しくて涙が出てしまっていた。

 

「……グスッ…グスッ…」

 

握り拳の上から溢れる涙。

 

「桐崎さん?……どうして泣いてんだ?」

 

「…!?こ…これはーー」

 

突然起きた大谷くんに私は驚いて涙を拭うが、彼は優しく私の頭に他を置いた。

 

「…大丈夫だよ、暗くても俺がいる。」

 

「!!……うん…ありがとう。」

 

諦められるわけがない。

諦めたくない。

私は心の底からそう誓った。

 

 

 

 

その後、大谷くんはしっかりと目を覚まして(先程のことは覚えてないらしい)状況を確認して慌てていた。

そのあと、持ってきていたトランシーバーで連絡を取ったが、思ってた以上に時間をかけていたらしく他のみんなも混乱して大慌てだったらしい。

戻ったら酒臭い先生達から大目玉をもらいそのまま肝試しは終わった。

 

 





「お嬢と大谷様は一体何をしていたのだ。…だめだ、気になって眠れない。」



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