甘くない偽物の恋   作:鼻眼鏡26号

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お久しぶりです。

読み返したら結構面白かったので勢いで書きました。




19話

「………」

 

 

「………」

 

 

気まずいな、さっきまで温泉で何も纏わない姿だったからな。

互いが目を合わせずしていると桐崎が手持ちのバックからタオルを取り出して前に突き出した。

 

 

「これ……忘れ物」

 

 

「…あ…ああ、ごめん。」

 

 

「……それと、ごめんなさい。私の家の人のせいで危うく犯罪者に。」

 

 

桐崎は頭を下げて、俺に謝る。

まぁ、互いに無事だったし気にしていないのだが、桐崎は気にするだろう。

 

 

「……一応理解はしておくけど、ちゃんと言っといてくれ。流石に今回のは洒落にならないから。」

 

 

「うん…きっちりと言っとく。」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

そこからまた言葉は無くなり静かになった。

 

 

「「戻ろっか」」

 

 

2人の言葉は重なりそれ以上は語らず。

しかし、頭の中では先ほどの光景を思い返すなど悶々としながら2人は歩く。

 

その後部屋に戻ってから集と楽が何故かベランダに吊るされていたけれど。特に気にせず布団に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

千棘side

 

 

暗い森の中。

私は手を引かれて歩き続ける。普段なら暗い所だと私の足は一歩も動かないはずだった。

でも、前を見ると…彼の顔を見ると不思議と力が湧いてくる。

握る掌は暖かくとても安心して不思議と力が湧いてくる。

そして顔が熱くて心臓の鼓動も早くなっていた。

 

 

「どこまで行くの?」

 

 

先の見えない道に私は彼に問いかける。

 

 

「もう少しだよ。君は必ず気にいるよ。」

 

 

彼の答えは説明になっていなかった。けれど、不思議と納得した。

歩き続け森の出口を見つけ少しずつ明るくなる。

そして着いた先にあるのは

 

 

「すごい…綺麗。」

 

 

その景色は邪魔する人工物は一つも無くただただ広がる満天の星空。

私はその景色に魅了されて歩き出すと。

 

 

「危ないよ」

 

 

彼はそう言うと私を後ろから抱きしめる。

体全体に広がる彼の暖かさ。

しかし、足元を見ると底の見えない崖だった。

目をギョッとさせ底を見ようとすると後ろの彼が私を向かい合わせにした。

月明かりで明るいはずなのに彼の顔が暗くて見えなかった。

けれど、私は彼を知っている。彼以外のはずがないと確信していた。

互いに見つめ合って彼はゆっくりと顔を近づけてきた。

このシチュエーションでこの行動。

どんなに鈍感な人でも何をするかはわかるはずで、私もそれを受け入れ目を閉じて顔を近づける。

しかし、いつまで経っても何の感触がなく目を見開いた。

目の前にいたのは。

 

 

 

 

私の顔を必死で抑えて顔を真っ赤にした小咲ちゃんだった。

次の瞬間に崖が崩れて私は自然落下する。

地面にぶつかった瞬間に私は身体を大きくビクつかせ目が覚めた。

 

そして朝から私は小咲ちゃんへ土下座した。

 

 

優side

 

 

早朝から同学年の同級生は今夜のイベントに話は持ちきりだった。

 

 

「なぁ〜頼むよ〜。」

 

 

「指定した紙を持ってくるだけだからさ〜」

 

 

朝から野郎どもが俺の席に集まり暑苦しかった。

こいつらの要望は今夜の肝試しのくじ引きの不正だった。

実は俺は今回の肝試しイベントの統括管理を任されていた。そのトップである俺にすがりつき可愛い子と一緒になりたいという願望の強い野郎どもに頼まれていたのだ。

 

 

「だから、何度言われようが無理って言ってんだろ。そもそも、女子もくじ引きを同時にやるんだから結局運任せだろ。」

 

 

俺の言葉にブーブー言う奴ら朝からめんどくさいことに巻き込まれてうんざりしてた。

まぁ、裏取引をさせないために俺が選ばれたのだからその仕事は全うしようと思う。

群がる男どもを避け食器を片すと先ほど2回目のモーニングセットを頼んでいた大食いの女子。桐崎千刺が食器を片していた。

 

 

「「あっ」」

 

 

二人の目が合い2人はすぐに昨晩の温泉でのことを思い出す。

千棘に至っては今朝の夢もあって余計に恥ずかしかった。

2人揃って顔を赤くして互いに視線を晒す。

 

 

「お…おはよう桐崎さん。」

 

 

「お…おはようございます。」

 

 

「「………」」

 

 

互いに沈黙が続き

 

 

「「そっ…それじゃまた後で」」

 

 

言葉が重なりそそくさと互いに歩き出す。

その日の夜になるまで2人は互いのことしか考えられなかった。

特に千棘に至っては今朝の夢もあって余計に悶々としていた。

 

 

その日の夜

肝試し当日

 

 

林間学校の学生の一大イベントと言ってもいい肝試し。

生徒の自主性を尊重しているため教師どもは酒盛りを始めていた。

そんな中で俺は統括管理として最終確認を行なっていた。

 

 

「幽霊役の体調は?」

 

 

「先程熱を測らせ体調管理シートを書かせ確認したところ異常ありませんでした。さらに、各員に一本ずつ飲料水を持たせました。」

 

 

「よし!あとは場所の最終確認とトランシーバーの所持確認。カメラ隊のカメラチェックだな。」

 

 

お化け役のリーダー、カメラ隊のリーダー、誘導隊リーダーの3人と最終確認を行い予定通り順調に事を進めていた。

その中で誘導隊リーダーは一足早く出て行きペアの割り振りくじ引きを始めさせその間に幽霊役とカメラ隊を配置につかせた。

予定通りに事を進めて予定通りに終わらせるのが今回の目標だ。

 

そしてそれを可能とするためしっかりと確認を

 

 

「ごめん、ライトの電池切れた〜」

 

 

しっかりとした準備を

 

 

「ごめーん、体調悪くて代わりの人に代わってもらっちゃった〜」

 

 

しっかりとした

 

 

「ねぇ地図無くしたんだけど知ってる人いない?」

 

 

もういっか(ヤケクソ)

俺は全係に開始の合図を出してくじ引き会場に向かう。

そこでは、様々なペアに一喜一憂している姿が見える。

何故か鶫が男子側となって宮本とペアを組んで涙を流していた。

ここで目立っていたのは、楽と小野寺ペアだった。

 

 

「楽の奴、何でこんなにも強運を持ってるんだよ。」

 

 

正直すごく嫉妬するが統括である俺は頭を振って自分の仕事に集中しよと思った。

そういえばさっき幽霊役が変わったって言ってたな、誰とどこで変わったか確認しないと。

そう思って俺は体調を崩した生徒のところまで足を運んだ。

 

 

「え?誰と変わったって?桐崎さんだけど。」

 

 

「嘘でしょ。」

 

 

よりにもよって暗いところが大の苦手な人に何でそうピンポイントで変わるのかな。

すぐさまトランシーバーで交信を取るべく連絡を入れるが他の幽霊役は返事があるのに桐崎さんだけは返事がなかったのだ。

もしや電池切れなのか?可能性を視野に入れて他の幽霊役にはそれぞれ仕事に全うしてもらうとして今現在動けるメンバーはこの中では俺だけだった。

 

 

 






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