スタート
昼のカレーをみんなで味わい、一同は今日泊まる旅館へと足を運ぶ。
「おおー…広いな」
「こうゆう所はうちの学校、豪華だよな」
かなり広さのある大部屋の和室だ。襖を挟んでいるとはいえ、男女同じ部屋で寝るなんて頭おかしいんじゃないだろうか。と学校の考えに頭を働かせていると
「さてと、男子3人は廊下かベランダどっちで寝るの?」
「俺らは部屋で寝ちゃダメなの!?」
「あなたに信用があるとでも?」
しれっと集に向かい毒を吐く宮本。
流石に冗談だろうが。………冗談だよな?
その後、全員でトランプのババ抜きをやるが集合時間をとうに過ぎて見に来たキョーコちゃん先生に怒られ決着をつけられずに終わった。
その夜、夕食をたらふく食べて食休みにロビーの椅子に座っていると
「ん?…何してんだ、楽」
「優か…いや、先生にロビーから電話来てるって話を聞いたんだけど…誰からも来てないって言われて」
「新手のイジメじゃね?」
「そんなわけないだろ……っと、そろそろ風呂に行かないと」
「ちょっと待ってろ俺も行くよ」
多少休んだ事で腹も大分いい感じになったため重い腰を持ち上げる。
楽と話しながら廊下を歩きそのまま男と書かれたのれんをくぐり脱衣所に入る。
「楽…お前体細いな…白いし……しっかりと飯食えよ」
「仕方ねぇだろ…運動部に所属してるわけじゃ無いし、運動とは縁がないんだよ…だいたいそっちだって運動部ってわけじゃ無いのになんでそんなものすごい筋肉と傷が付くんだよ。運動部だってそんな傷つかない。」
「前に言っただろ……これは山籠りして食料現地調達とかしてると自然とこうなるんだよ。今度楽も来いよ」
「1日ともつ気がしねぇからパス」
そんな会話をしながら、服を畳みタオルを持ち温泉の扉を開ける。
そこには、台座とシャワーがいくつもありその奥に大きな温泉があった。
「掛け湯をしっかりとしろよ。楽」
「わかってるよ。優こそ、温泉に入る前にシャワーで一度頭を流せよな」
掛け湯は、心臓に遠い手や足にかけてそのままゆっくりと心臓に近づくようにかけます。これは脳卒中や心臓発作を起こさないために体を温泉の刺激に慣れさせる意味があります。
そして、シャワーで髪を流すと約7割ほどの髪についたゴミが流れるためとりあえず流してから温泉に入りましょう。
「さて、シャワーも掛け湯も済ましたし温泉入ろうぜ………ってなにやってんだ?優。」
「温泉に来たら温泉まで滑ってからの飛び込みに決まってるだろ。」
絶対に真似をしないようにマナー良く温泉に入りましょう。
「誰もいないからってそんな好き勝手に「行くぞ!」いや、待て!」
俺は、スライディングの要領で水面の水を滑る。
すごい速度だが温泉の縁石が近づき、手で地面を叩き上体を起こし両足を合わして地面を強く蹴り空中で体を丸めて一回転しあぐらの体制で着水する。
とてつもなくお尻に激痛が走るが、着水時の水しぶきの威力を見て痛みなど忘れた。
「いや、すごいけども!次は絶対にやるなよ!!」
楽の声も気にせず温泉を俺は満喫した。
そして、ゆっくりと楽が温泉に入ってきた。
「あん時殴って悪かったな。」
「なんだよ急に…」
「決闘を提案しといて放置して…その上殴るって中々やばい奴だな。って思って。」
「自覚はあったんだな。」
ゆっくりと温泉に浸かると過去を振り返るようになる。結構最近だが、思い返せばまだ半年も経っていない。
「つか、他のやつも遅いな。…早くしないと時間終わっちまうのに。」
「ここ…実は女湯だったりしてな。」
「そんなわけ「うわぁー広ーい!」…へ?」
楽の言葉を遮るように聞こえる聞いたことのある高い声。
湯気の陰から見える見たことのあるモデル体型のシルエット。
温泉だから当たり前だが、一糸纏わぬ姿の彼女ーー桐崎千棘が現れた。
「………」
「………」
「………」
「キャァァァァ!」「「ギャァァァァァ!」」
一通りお互いを見てから一瞬間をおいて叫ぶ。
その声に恐怖や驚き羞恥など様々な感情が入り混じっていた。
「こんのもやしぃぃ!!死に去らせぇぇ!!」
桐崎の動き出しは早かった。
叫んだ後にすぐ拳を握りしめて片手でタオルを持ち体を隠しながらも素早い動きで楽の懐に入り下から一気に拳を楽の顎にめり込ませ綺麗な昇竜拳を打つ。
その衝撃で楽はゲームキャラのように空を飛び柵を越えてとなりの温泉へと飛んで行った。
「…ハッ!?…お…大谷くん!あ…ああなたも早く出て行きなさーー」
桐崎は怒涛に言葉を繰り出すが、何かに気づいたように固まった。
「ご…ごめん、今すぐ出るから」
「……っ!…待って」
素早くこの場から去ろうとしたのだが、桐崎に腕を掴まれ止まった。
正直、俺は先ほどのこともあって俺も先ほどの楽のように昇竜拳の餌食になるかと体がこわばった。
「あ…いや…その…よく考えてみれば…これ、大谷くんのせいじゃ無いっぽいって感じで……思い当たる節があったりなかったり。」
「え?…なにそれ。…っ!?…桐崎…前隠せ!」
「あっ!……ありがとう…………そ…それで、その…うちのクロードっていうお目付け役の彼がさっきフロント近くに居て、多分だけど私ともやーーダーリンの事を不審に思ってその作戦に嵌められたんだと思うの。」
「クロード………ああ、あのメガネの人か。」
「うん…本当にごめんなさい。」
しゅんとした桐崎だが、ここに長居するのは良く無いため柵にある隣の温泉に移るドアがありそこに向かうことにした。
「事故とはいえ悪かったな桐崎さん。とりあえず俺は、ここに長居は出来ないからあのドアから出て行くことにするよ。」
「うん、そうね。…それじゃあまた「おー桐崎、もう入ってたのか。」…へ?」
桐崎の声が遮られた瞬間、俺は瞬きも許されないこの状況で一瞬にして気配を完全に消しそして、しっかりと息を吸い込み温泉に潜った。
もたもたしていたことが、ここに来て仇となったのだ。
ここは、女子風呂でさらに時間がズレて後からとはいえ遅くなった事から他の人が入ってくるのは当たり前である。
しかし、入ってきたメンツがまずい。
「お嬢!遅れました。」
「なかなか広い場所ね。」
「ちょっとるりちゃん置いてかないでよ〜」
我らがクラスメイト女子全員と担任だ。
もしも、見つかることになれば良くて退学、悪くて犯罪者だ。
「……!?…うんお風呂が楽しみでね!」
桐崎は素早くその場で湯船に浸かり俺の体を隠すように座ってくれた。
次々と入ってくる女子、このまま時間が過ぎれば過ぎるほど俺の脱出確率が下がってしまう。
正直、先程のドアだがすでにもう使えない。
要因としては、まず俺がこの湯から出て一瞬にして向かいそして鍵がかかっているかもわからないドアを開けて逃げるなどほぼ運ゲーで、賭けるほどの価値はない。
何よりも凄腕のヒットマンがいる鶫も厄介である。
現在気配を消しているが、不用意に動くと彼女のセンサーに引っかかる。
よって、先ほど潜った時に見つけた隣の湯と繋がっている穴、その穴からの脱出を試みようと思う。
「……桐崎さん、あっちの方に隣の湯と繋がってる穴を見つけた。だから、みんなの気を引いてくれ。」ボソボソ
「…わかったわ。」ボソボソ
小さな声で話し合って、桐崎は指示通り動き出していた。
最中だからあまり声も聞こえて来ないが遠く温泉の入り口あたりで大きな声で話し合っているのがわかった。
潜水で穴まであと少しというところまで来て多少安堵して向かったが。
そうは問屋が卸さないと言わんばかりにアクシデントは起きた。
「もー!いないったらいないってば〜!!」
(嘘だろ!!おおおお…小野寺〜〜!!)
穴の前に突然現れた小野寺(裸)に驚きながらも目の前の逃げ道を塞がれたことに戸惑り口から多少の空気が出て行った。
「……?ここに黒い何かが…」
(マズい!!バレる!)
とうとう人生が終わる瞬間が訪れるとそう思って諦めかけていたその時。
「お…小野寺さん!私とあっちで話しましょ!!」
救世主のように突如として現れた桐崎は小野寺を連れて他へと移動して行った。
そして、ようやく温泉の穴に到着して俺はようやく脱出した。
正直体がつっかえたりしたら死ぬかもしれない危険性があったが余裕で通り抜けて隣の男子風呂に到着した。
「ぶっは!!」
「うおっ!びっくりした!!…何やってんだ?優。」
「潜水。」
そうして俺は風呂から上がり更衣室に置いてある浴衣に着替えてさっさと上がった。
温泉に犬神家の死体のようになっていた楽は放置した。
千棘side
無事大谷くんを脱出させる事が出来て一安心した私はようやく落ち着けると思いゆっくりと温泉に浸かった。
そんな私にふと隣にいる小野寺さんが話しかけてきた。
「桐崎さんって大谷くんと仲良いよね。」
「ブッ!……ま…まぁ、友達としてね!」
「料理も教えてもらってたんだよね?」
「うん…部活の方で楽しく教えてもらってて、作り終わった時に自分で食べるだけじゃ無くて誰かに食べてもらう事を1番に考えながら料理すると、自然とやる気が出てくるの。」
まぁ、レシピ通りやれば失敗する事なかったんだけどね。
「あれ?このタオル誰のだろう。」
近くにいたクラスメイトの女の子が温泉の岩場にかかっていたタオルを持ち上げていた。
そして、皆んなは気づいていないけれど、私の視界に移ってしまったそれを見てすぐさまタオルを取りに行動していた。
「ご…ごめんね〜それ私のなの〜…ほら、温泉にタオルを入れちゃダメって言うからね。」
「そっか〜桐崎さんのだったんだ〜」
彼女はタオルを畳んで私に渡してくれた。
もう一度確認すると、タオルのタグに油性で書かれたY.Oと書かれたイニシャルだ。このクラスには、そのイニシャルに当てはまるのは1人だけだった。
しばらくして、温泉から上がり浴衣に着替えいる最中。
ふと、タオルに目がいった。
何の変哲も無いタオルで、あとで返さなきゃいけないと思いながらもタオルを持ってみた。
なによりも、彼には謝らないといけない。私の家の人の問題で彼を巻き込み危うく犯罪者にさせてしまう所であった。
持っていたタオルを見ているとゆっくりと顔を近づけて顔を埋めていた。
ゆっくりと吸い込むと温泉の匂いがしていた。
「………はっ!?」
勢いよくタオルを投げて私はいったい何をしていたのだ?
顔から火が出そうなくらい恥ずかしいと感じてすぐさま周りを見て誰が見ていないか確認をした。
幸い誰も見ておらず安心してすぐに着替えて出た。
「はぁ…顔をまともに見れそうに無いな。」
そう思いながらも部屋に戻る私だった。
しかしタオルの匂いを嗅いだ時、嫌とは思わなかった。
ちょっと変態性があるな。
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