男子がカラオケでフィーバーしている頃、所変わって原宿の某所。
外はガヤガヤと人々の往来で喧騒に包まれている中、とある女子高生十二人はケーキバイキングを満喫していた。
テストの答案返却が行われ、夏休みの宿題の配布のみが行われた授業も午前中で終わり、その学校帰りだ。
そんな中に、ケーキもそこそこにして、珈琲カップ片手に隣のクラスメイトと談笑している少女が一人――速水奏である。
「奏さんもイオちゃん曰く結構いい順位だったようだね」
「そうみたい。氷室くんは去年一年間成績トップだったからこそ、それが話題になってみんな知っているからいいけど、私たちの成績順位自体は本来クローズドなのに」
「朝一のホームルームで、みんな成績が五十位以上で学年主任の先生から褒められちゃった、って言ってしまっていたが」
「あの抜けているところがイオちゃんの可愛らしいところでしょ」
「奏さんが言うと、どちらが年上かわからなくってしまうな」
イオちゃんとは奏らのクラスを担当する女教師の名で、フルネームは
昨年度から奏らの通う高校に赴任してきた、スタイル良く、愛嬌もある教師歴二年目の新米美人教師である。
奏に匹敵するほどの人気を男子から持つが、柔らかい性格もあって女子からの信頼も篤い。
ただし、生徒の中ではとある男子生徒との噂が実しやかに囁かれている。
「
「いつも通り、と言えば聞こえは悪くないけど、氷室くんのおかげでもある」
「それはウチのクラスのほとんどがでしょ」
「彼の解説はわかりやすいし、加えてヤマを張るのも上手い。勉強会も実に有意義なものだった」
奏と会話をするクラスメイト――
奏はそんな友人の姿を眺めながら手元のケーキを一口パクリ。
スポンジの間に挟まれた生クリームの甘さとイチゴの酸味が程よい口当たりを作り出している。
「まあ、そんな話は奏さんには言うまでもないか」
「いつの間にあの勉強会、毎回クラスの半数以上が参加するものになったのかしらね」
「キミ自身という存在が参加していることと、その参加した結果によるものだろう」
「真っ先に増えたメンバーが何を言っているのやら」
「ちょうど本多くんが参加しようとしていたし、私自身もフェンシングの試合で授業を休んでしまったところもあったからね。ちょうどいい機会だと思って」
「フェンシングの方は順調?」
「私個人の話になるが、私自身は順調だと思っている。三年になると部活を卒業しないといけないことを考えると、今のうちに打ち込んでおきたい」
「そう……そうよね、来年はもう受験なのね」
あからさまに嫌気を前面に出して言う。
砂糖もミルクも入れていないブラックの珈琲を口に含んでも、表情は変わらない。
「奏さんも進学するの?」
「同じプロジェクトの大学生メンバーの様子を見ていても、アイドルをしながらでも何とかなりそうなの。むしろ大学では講義を選べる分、あちこちやりやすいかもしれないわ」
「氷室くんと同じく国立狙い?」
「そこで彼は関係ないでしょう」
「上を目指す、という意味では彼と同じところを志しておくのは悪いことでもないと思うけど? 私自身もまだ判定を見てみないとわからないところもあるが、一応は志望を出してみようかと思っているし」
「まあ、その辺りは追々ね」
「私としては、彼や奏さんと同じキャンパスでの生活も面白そうだから、期待しているよ」
と、ここまで話していたところで他のクラスメイトが新しくケーキを取りに行くというので、奏と怜両名とも自身の手元の皿をクラスメイトらに渡し、追加の要望を伝えた。
二人ともスラリとした肢体を持つ細身の女性ではあるが、同時にカロリー消費の激しい活動をしているのも事実。
奏側も食い意地が張っているというわけでもないが、アイドルとしてある程度給料をもらっている身であるものの、払った金額分はどうにか食べておきたいところである。
「そういえば、
「それはお隣の――――シンデレラプロジェクトの双葉さんね」
そう答えて、奏は首を傾げる。
「確かにアイドルの学力はどうなっているのか少し気になるところではあるわね。何人かは頭良さそうに感じる人もいるけれど、本音を言わせてもらうなら、その逆もそこそこにはいそうよ。あくまでも推測だけど」
「人気によってはあまり勉強をする機会もないんじゃない?」
「さて、それは私からは何とも。私自身、氷室くんに教えられていなかったら、今ほどやってもいなかっただろうけど」
入学当初の奏の成績は良くも悪くもなく、平均点の前後辺りであった。
入学してすぐの頃に体調不良で高校を欠席した翌日に隣の席にいた忠次に昨日の授業内容を把握するため、話し掛けた。
自身の容姿やそれによる効果を理解していた奏は、あわよくば色々と教えてもらうと思っていたのだが、その際に奏の授業内容への中途半端な理解度を確認され、それに呆れた忠次の指摘に奏は反発した。
それなら貴方が教えてみなさいよ。
今思い返せば、黒歴史認定するほどの偉そうな発言であったが、この言葉を忠次は承認。
今の関係と状態のキッカケとなる、第一回勉強会が開催されたのである。
もちろん、こんなこともわからないのか、こうするともっと早い、もっとわかりやすい、と勉強会の内容で奏は上から目線な言葉分やり返された。
「今度みんなに話して聞いてみることにするわ。とても面白そうだし」
「問題ない程度に結果のリークを待っているよ」
二人で、ふふふ、と黒い笑みを浮かべていたところで、ケーキを取りに行っていたクラスメイトらが帰ってきた。
チョコレートケーキなどが乗ったプレートを受け取り、クラスメイトらに礼を告げたあとに一口頬張る。
どうやらビターチョコらしく、ほろ苦い甘さが口内を包む。
「アイドル仲間とこんな感じに出かけたりはあるの?」
「たまにね。でも、美城には社内にカフェがあるから基本はそこで、になるかしら」
「あぁ、そういえばニュース辺りで見たことがあったような……」
「ニュースに出たのは知らないけど、事務所にさえ行っているタイミングなら社内から出ずに行けちゃうから便利なの。ついつい散財してしちゃうのだけは問題点ね」
贅沢な問題、と二人して顔を突き合わせて言っていると、ぶん、と機械的な振動音が二人の手元辺りから響いてくる。
振動元を追うと、そこにあるのは机の上に裏向きで置かれた、シンプルな白いスマートフォン。怜のものだ。
所有者である怜は、右手に持ったフォークからスマートフォンへと持ち替え、画面を見ると、左上の通知を示すLEDが緑色に点滅していた。
どうやらSNS伝いでメッセージが届いたようだ。
「……本多くんから?」
「確か男子はカラオケに行っていたんだったかしら」
「そう聞いている。動画を送ってきたみたいだ――ふふ、なるほど」
送り主はどうやら本多貴明であるらしく、メッセージを読み進めていた怜が破顔する。
「面白い動画を撮ったから、奏さんと見るように、だって」
「私と?」
言われた内容に奏は怪訝な目を怜のスマートフォンに向ける。
しかし、数瞬置いてから、ぱちくりと瞬きを数回して、その顔つきは悪いものへと変貌した。
「それはとても興味がそそられる誘い文句ね」
「では、再生してみよう」
周りでは談笑を楽しむクラスメイトらの姿があるので、その邪魔になってしまうことも考慮して、怜は足元に置いていた鞄からイヤホンを取り出し、スマートフォンのイヤホンジャックに挿入、片方を奏へと差し出す。
イヤホンを受け取った奏は右耳へとイヤホンを当て、怜と共にスマートフォンを覗き込む。
面の割れた相手に今時ブラクラを送りつけることもないだろうと、二人は動画の再生ボタンを押したのだった。
「むぅ……」
「これ、奏さんの曲か。確か――」
「Hotel Moonside」
「それそれ。へぇ、氷室くんって歌までうまかったんだね」
スマートフォンに映るのは、カラオケボックスの中でマイク片手に奏のソロ楽曲である『Hotel Moonside』を熱唱する忠次の姿。
ジッと歌詞の映るモニタを見つめているために貴明が撮影していることに気付かなかったようだ。
「歌詞や音程の把握具合からして、ある程度は曲を聴き込んでいるのかな、これ」
「嬉しいことにそうみたいね……前に本多くんと一緒に氷室くんの家に遊びに行ったときは、如月千早と楓さんのCDしかなかったのに」
「最近はインターネット上でも聴けるし、そっちで聴いていたんじゃ?」
「確かにそれは確認のしようがないわね」
一曲分の動画を再生し終わったところで、貴明とのメッセージに新しいものが届く。
スマートフォンを操作していく怜。
メッセージを一読してから、その内容を奏へと伝えた。
「本多くんから追加のメッセージで、氷室くん曰く『歌い辛くて仕方がない。よく速水は歌うな』って」
「今度会ったときに後ろからドロップキックしてやるわ」
「アイドルからドロップキックなんて、そうそうない絵になりそうだ」
起こり得る未来の状態を想像した怜は、呆れたような、言葉にならない表情をして乾いた笑みを浮かべる。
対する奏は、腕を組んで思案顔。
どうやら、忠次にどう当てるか考え込んでいるようだ。
「……この表情、本当にするつもりみたいだ。氷室くん、頑張ってね――――」
なお、後日実際に出合い頭に忠次へとドロップキックを放った奏であるが、軌道を完全に読まれ切ってしまい、奇襲は失敗。
真横へとスッと回避した忠次に横抱きの形で受け止められ、とてもイイ笑顔をした忠次にその状態のまま歩き回られてしまうのであった。
後に匿名の委員長は語る。
「あれは素晴らしい飛び蹴りであったが、それ以上に素晴らしい受け止め方だった。特に勢いの殺し方、そして速水さんを晒し上げる手腕は見事と言う他なし。
離して、と顔を真っ赤にして言う速水さんに対して、何ぃ?聞こえんなぁ、と意地の悪い顔をしてお姫様抱っこを敢行し続ける忠次はとてもサマになっていた。
ただ、動画を撮っていたのは謝るので、俺に対して会うたびにボディブローをキメてくるのは本当に勘弁してください」
暇を見つけてはコツコツと。
たぶん今後も速度はこんな感じになるかと思います。
いくつか感想を頂いて、ありがとうございます。
感想でこの話のオチが読まれていて困りました。
あくまでもメインは氷室くんと奏さんの二人でやっていくのは変わりなしなんですが、なまじっか高校生活を送ってしまっているので、どうしてもクラスメイトが必要となり、オリキャラと他作品からキャラクターを登場させています。
一応コラボしたことあるとこから拝借。
やってた人いるのだろうか。
次回は夏休み回、そしてその後は文化祭回を予定しています。
モチベーションによっては番外編を挟むかもしれません。
この世界での事務所での奏さんとか。
ついでに基本的にはアニメ後モドキな時間軸設定です。
・学級委員長 本多貴明
槍本多でもヅカ本多でもない本多くん。
出身は東京な自称江戸っ子(江戸っ子要素はない)。
実家住まい、妹がいる。
趣味は模型作りであり、かなりガチにやっている。
それこそ模型店に飾られていたり、時折何かしらで入賞していたりする程度には作っている。
模型店で黒いニット帽に眼鏡の、明らかに素性を隠そうとしている謎の男性と出会い、自身が作った作品を通して意気投合。それ以降その男性と男性の友人と言う男性二人とチャットで会話したり、ゲームしたりしている。
なお、チャットでのアカウント名は「甘党」、「ラー・チャオ☆」、「WC」。皆酷い名前であるが、貴明自身も「ホンダム」とやりたい放題である。
・ケーキバイキング
スイパラとかじゃないかな。
・支倉伊緒
CV:伊藤静
プリコネのキャラ。
プロポーション抜群、巨乳。
パートナーストーリー(キャラのカードを手に入れることで見れるストーリー)では、どう考えてもサービスシーン担当。
イオちゃんドジっ子可愛い。
・とある男子高校生
コミュちからオバケ。
悪乗りして墓穴を掘るタイプではあるが、根は善良。困っている人はとりあえず助けてみる。
老若男女どころかアルパカにすら好かれる。微妙に羨ましくないハーレム。
怜の友人であり、伊緒たちのナイトくん。
・士条怜
CV:早見沙織
プリコネのメインキャラ(青)。
フェンシング部に所属している。
趣味は釣り。
・シンデレラプロジェクトの双葉さん
双葉杏。印税生活を目指すアイドル。
CV:五十嵐裕美
不労所得のためならば労力を惜しまない、廃スペックの無駄遣い。
なお、中の人曰く、印税生活はすこぶる働かないと無理だよ、とのこと。そりゃねぇ……。
杏ちゃんカワイイ。
・『Hotel Moonside』を熱唱する忠次
たぶん立って歌っている。
歌が上手いというよりはカラオケが上手いタイプ。