デジモンクロスウォーズ 叛逆のラグナロク   作:ちんみぃ

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どうして上手くいかないのだろう?

やはり素材が悪いのだろうか?

時間はあまりないというのに・・・


もっと特別なものを用意しなければ


とある男の日記より


第3話 もう1つの結末

かつて大輝のいた世界のデジタルワールドは、とあるデジモンによって侵食されようとしていた。

 

名前は〝グリムモン″。突如として現れた、悪意の塊。

グリムモンの力は凄まじく、そのままでは間違いなく世界を滅ぼしてしまっていただろう。

そこで、デジタルワールドの神とロイヤルナイツ達の意思決定により、この危機を救うために8人の子供達が選ばれた。

彼らはそれぞれを象徴とした力を持つ騎士達で、この世界の救世主である。

大輝はその8人の中の1人だった。

 

彼らはみずからの相棒デジモン達とこの危機に立ち向かった。

何としても世界を救うために、強大な悪に抗ったのだ。

 

 

だが結果は最悪だった。

彼らはグリムモンに勝つことは叶わなかったのだ。

そして、絶望に打ちひしがれる子供達と、徐々に闇に侵食されるデジモン達を前にグリムモンはとある装置を起動させる。

 

〝エリクサーシステム″

 

かつてグリムモンがそう呼んでいたとても大きな謎の装置。

それは、デジモンと人間を融合させ1つの生き物にしてしまうというものだった。

デジモンのデータとデータに変換した人間を合体させるのだ。

そしてそれは二度と戻ることはない。

その装置はいつからそこにあったのか。

誰が作ったのか、何の目的のためにそこにあるのか。

それは誰も知らない。

だが、この装置による利点はただ1つ。

超人的なデジモンを生み出すことができる、ということだ。

デジモンは人間の心のエネルギーを糧としている。

本来は人間から接種をするものであるが、融合したことにより、そのエネルギーを直に無限に得られるのだ。

備え付けのハードウェアを使っているものより、予め技能が取り込まれた機械のほうが遥かに効率と性能が良い。

その上、戦闘において弱い人間はデジモンの強大な力や身体能力を手に入れられる。

この2つが合わさることで、より強いデジモンが生み出されるのだ。

 

恐らくグリムモンはその場にいる子供達とデジモンを取り込んでしまおうと考えたのだろう。

だが、その目論見は失敗に終わった。

その後グリムモンがどこに行ってしまったかはわからない。

まだ生きているのかも、消えてしまったのかも。

だが、結果としてグリムモンの勝利に世界は滅び、闇が全てを飲み込んだ。

 

世界を滅ぼすほどの闇の力を前に生き残ることはまずほとんど不可能だろう。

だが、グリムモンが簡単に滅びそうにないと思ってしまうのも事実だ。

 

 

「 これが俺の知りうる世界の結末だ。恐らくグリムモンはまだ生きている。だけど、俺は残念ながらあいつがどこにいるのかも、そもそも何が目的で動いていたのかもわからない。」

 

「 デジタルワールドを征服とか、そういうのじゃねぇの?」

 

「 俺たちも初めはそう考えていたんだけどね。それなら世界を滅ぼしてしまうというのは、奴の目的からかけ離れているんじゃないかな。そう思うとどうにも腑に落ちなくて....」

 

少々ハッキリとしない物言いに、タギルも眉根を寄せた。

目的がハッキリとしない行動というのは、どうにも不気味で気持ちが悪い。

 

「 それにしてもデジモンと人間の融合か...

以前の英雄のなかに自分がデジモンとなって戦う人たちはいたけど、それとは別ってことみたいだね。デジクロスともまた違うものなのかな」

 

「 見てみないことにはなんとも言えない。だけど、俺にはあまり良いものだとは思えないんだ」

 

「 もしかして、君のあの力は...?」

 

そこまで聞いてタイキがあることに気がついた。

先ほどの戦闘で大輝が使ってみせた力は明らかに人が使えるものではない。

だが、デジモンと融合した場合ならば話は別だ。

タイキの言葉を聞いて同じように考えに至った全員に見つめられ、大輝は自嘲気味に少し笑ってみせた。

 

「 うん、その通り。俺のこの体も、既に半分はデジモンで構成されている」

「 それはグリムモンが起動した時に?」

 

「 そうなんだ。だけど、俺とは相性が悪かったみたいでね。実のところデジモンとしては三分の一程度にしか力が使えないんだ。普通はもう少し体なんかにも変化があるはずなんだけど、俺ができるのは空間に漂う電子データを構成して武器を作り出すことくらい」

 

そう言いながら大輝は手のひらを前に出し、力を込め始めた。

するとみるみる電子データが手に集まっていき、最後には先ほど使用していた剣が姿を現したのだ。

 

「 すっげぇ!こんなことできるのか!!」

 

「 ありがとう。でもさっきも言ったけど、できることはこれくらいで、パワーも多少の強化はあっても、もっと本格的な人に比べればかなり劣ってしまうんだ」

 

「 錬金術みたいなものか。君はどんなデジモンと融合したんだ?」

 

大輝が再び力を剣に込めると、ぱちっと音を立てて電子の剣は空気中に砕け散った。

それが花火のようで綺麗だな、と呑気なことをタギルは考えていた。

そしてゆるゆると大輝は首を横に振る。

 

「 ... 実は俺にもどんなデジモンと融合してしまったのか、わからないんだ。」

 

「 わからないの?それじゃあどんな力を使えるのか、詳しくは知らないってこと?」

「 うん、俺の周りにこんな力を使えたデジモンはいなかったから、この力の持ち主は恐らくあの騒動の時に近くに居て巻き込まれてしまったんだと思う」

 

 

だからこれが正しい力の使い方なのかもわからないのだ、と大輝は言う。

 

大体の概要は明らかになってきたが、所々で足りない情報があり一同は頭を抱える。

わからないことは4つ。

 

グリムモンの行方と目的

大輝のデジモンの正体

エリクサーシステムと呼ばれる謎の装置

そして、ワイルドハンターと呼ばれる謎の団体

 

そこではたとタギルはあることに気がついた。

それはずっと呈示されてはいたのに、あえて話題にしなかったと思えるほど不自然なものだった。

 

 

「 お前確か仲間がいたんだろ?そいつらはどうしたんだ?」

 

 

タギルの言葉にピタリと大輝の動きが止まった。

緑の瞳はどこか遠くを見つめ、心ここに在らずといった風である。

その視線の先に映っているのは、はたしてタギル達のだろうか。

それとも、もっと別の何かを見ているのか。

言葉を紡ごうと唇を動かしてはいるが、上手く纏まらないのか言葉にならない音が少し漏れるばかりだ。

 

 

ふと大輝の手に柔らかなものが触れた。

ハッとして視線を移せば、アリスモンが小さく柔らかな前足で手の甲を優しく撫でている。

少し低めの彼女の温度に触れて、徐々に彼は思考を取り戻していった。

「 大丈夫、君には僕がついてる。君は1人じゃないよ」

 

「 .... ありがとう」

 

 

小さくため息を吐いて、無意識のうちに体に入ってしまっていた余分な力を抜いた。

それでも、やはり事実を口にするのが怖かった。

情けない話だが、自分はあの現実を受け止めきれていないのだ。

あんなもの、どうやって自分の中に収めていいのかわからない。

昔からそれだけは誰も教えてはくれなかった。

 

「 ...話しにくいなら、無理はしなくていい。ゆっくり時間をかけて、君の決心がついてからでも俺たちは構わないからさ」

大輝の様子が明らかにおかしくなったことで、タイキがフォローをしてくれた。

それは正直大輝にとって有難い申し出だった。

 

だが、いつまでもそれではいけない。

あの現実を変えたいのなら、ここで立ち止まっていてはいけないのだから。

 

「 ありがとう。大丈夫、話すよ。君たちには助けて貰った恩がある。それにこの世界に迫る危機は、ある意味で俺たちが招いてしまったことだ。君たちには何が起こっているのかを知る権利がある。」

 

そう前置きして、ぐっと拳に力を入れた。

まだ恐怖やトラウマの類を克服できたわけではないためそうしていないと、震えてしまいそうな気がしたのだ。

それを察してくれたのか、アリスモンは大輝の手にそっと自らの手を置いて寄り添ってくれている。

今度は1人ではないということが感じられて、幾ばくか心が落ち着いた気がした。

 

 

 

「 .... グリムモンの選ばれし子供達とその相棒デジモンを吸収しようという企み、それは失敗に終わった。だけど、決して俺たちに影響がなかったわけじゃなかったんだ。実際俺はこうしてデジモンと化している。

他の仲間たちはそれぞれの相棒デジモンと融合してしまったんだ。」

 

 

「 君は自分の相棒と融合しなかったの?」

 

ユウがそう聞くと、大輝は微笑を浮かべた。

その笑顔が全てを物語っていた。

 

 

 

考えてみればアリスモンが相棒デジモンであると彼は公言していない。

2人の雰囲気などからこちらが勝手に推測したに過ぎないのだ。

そしてそれらしきデジモンの話は微塵も出てこない。

恐らく、先の戦いで彼のデジモンは...

 

 

「 君は、本当に沢山のものを失って来たんだな... 」

 

 

「 そうだね。だけど、まだ諦めるわけにはいかなかったんだ。今度は(・・・)取り戻すことができるかも知れないから」

 

( ... 今度は?)

 

何かを含んだような物言いに、タイキは引っかかった。

だが、それを話すつもりは大輝にはないらしい。

ならば、無理に聞くことはないだろう。

人は誰しも、知られたくないことや触れられたくないことの1つや2つはあるのだから。

 

 

「 で、他の仲間達は融合しちまって、そのあとどうしたんだ?今どこにいるんだ?」

特に気にすることなくタギルが先を促した。

大輝は口元に手を当てて何事か考えているようだった。

これまでも彼にとっては話しにくい内容であったと思うが、この先はさらに核心に迫るものであるため、慎重に何を言うべきか選んでいるのだろう。

やがて考えがまとまったのか、真っ直ぐに全員の顔を見返して来た。

 

「 仲間達は確かに相棒デジモンと融合してしまった。

 

だけど、そこに1つだけとんでもないエラーが起きたんだ。

俺たちは多くのものを失い、守りたいものを守れなかった。

その時の俺たちの心は間違いなく絶望一色だったと思う。

だけど、それが良くなかった。

デジモンは人の心の影響を受けやすいのだと思う。

特に俺たちの相棒として選ばれた8体は少し特殊なデジモンで、パートナーの影響にとても左右されやすい体質だったんだ。

 

そんな状態での融合は、誰がどう考えても最悪の結果しか生まない。

 

 

_______ 仲間達は絶望した心と、闇に落ちかけたデジモン達と融合し、そして....」

 

 

 

その時だった。

 

 

ドンっと一際大きな音が里中に響き渡った。

突然のことに全員が驚いて立ち上がる。

 

ここから西の方角、里のはずれから煙が上がっているのが見えた。

そして爆発はとどまらず、徐々に中心部に向けて移動している。

何者かが微笑みの里へ攻めて来たのだ!

 

 

 

 

「 一体何が起こってる!?」

 

「 .... まずいかもしれない」

 

全員が混乱する中、ぽつりと大輝が呟いた。

「 おい、まずいってどう言うことだ?お前はこの自体がなんなのか知っているのか!?」

 

自らの故郷のピンチにシャウトモンが今にもくってかかりそうな勢いで問いただす。

厳しい表情で大輝はシャウトモンを一瞥したあと、意を決したようにその場の全員に告げた。

 

「 おそらく、ワイルドハンターが攻めて来たんだ。俺とここにいる君ら、そして世界を壊すために」

 

「 なんだって!?」

 

「 急がないと間に合わなくなる。あの爆発的なエネルギー... 恐らく彼らのボスクラスがいるに違いない」

 

 

戦闘モードに入ったのか、再び大輝の表情が鋭いものになった。

元からツリ目気味の目は更に鋭さを増している。

しかし、そこに憎しみの色はなかった。

むしろその瞳はどこか悲哀に満ちているようにすら感じられる。

そんな大輝をアリスモンが足元から心配そうに見つめていた。

 

「 わかった、行こう!なんとしても里のみんなを守るんだ!!」

 

 

『 おうっ!!!!』

 

 

タイキの掛け声を合図に全員が走り出す。

 

 

その先に、どのような真実が待つのかも知らずに.....

 

 

 




いよいよ次から大輝達の真の敵が現れます。
バトルシーンを書くのはあまり得意ではないので、次の投稿は少し時間がかかるかと思いますが、一話の挿絵やちょこちょこ内容の継ぎ足しなどをするかなと考えておりますのでよろしくお願いします。
独自設定爆発してますが、あくまで大輝の世界ではということをご了承ください....

全く関係ありませんが、今回のストーリーではタギルに先輩として、ユウに友達として、タイキに英雄としての姿を大輝が学んでいかせられたらなと思って意識しております。
まだ先なんですけどね。
あと私はこんなにタギルを押して書いてますが、実のところタイキさんが好きだったりします。
もちろん、みんな好きなんですけどね

◇ 先ほど気がついたのですが、お気に入り登録ありがとうございます!正直、どなたか1人にだけでもいていただいていたら嬉しいと思っていたので、とても励みになります。
これからも少しずつですが頑張ります

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