"それ"は穢れている   作:とぱ

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1 いじめられっ子のハーマイオニー

少女、ハーマイオニー・ジーン・グレンジャーにとって、プライマリースクールは苦痛以外の何物でもなかった。

 

ハーマイオニーにしてみれば、級友は皆、礼儀知らずで無教養で意地の汚い差別主義者で、彼らから心と身を守る為に常に張りつめていなければならなかったからである。

 

級友達はこと有るごとにハーマイオニーをなじった。

ある時は前歯や髪といった容姿を馬鹿にされ、

ある時は両親がフランス生まれであることを馬鹿にされ、

ある時は生真面目な性格を馬鹿にされ、

極めつけに教科書(それは聖書に等しい)にでかでかと落書きをされる。

 

有り体に言えばハーマイオニーはつまらない虐めを受けていた。

 

それはプライマリーに通い始めてからずっとそうだったし、性別を問わず、誰もがハーマイオニーをからかった。

 

つまらない虐めの原因は単純だ。

ハーマイオニーは優秀過ぎた、プライマリーのどの生徒よりも賢く、どの生徒よりも美しかった。

 

集団において、人は突出したものに対して過剰に反応する。

特に心身ともに未発達な幼年期にはその傾向が顕著で、殆どの場合において、集団に迎合させようと無理やり押さえつけるか、恐怖を感じて遠巻きにするかの2択となる。

 

級友達は前者の反応を示した。

ハーマイオニーを馬鹿にすることで、この子は自分より優れていないと己に思い込ませることにしたのだ。

 

客観的に見れば、それが不器用な嫉妬や羨望によるものであることは直ぐに分かったが、不幸な事に本来手を差し伸べるべき立場の教師は見て見ぬふりをし、ハーマイオニーの両親や級友の両親の誰もそのことに気が付いたり、知っていても咎めたりすることはなかった。

 

足掛け6年続いたその状態は最早日常の一部で、ハーマイオニーにとっても級友達にとっても、この関係は不変であるかに思われた。

 

しかしその日、6月の終わり。

ハーマイオニーはプライマリーの6年間で始めて、心地良い気持ちで1日の大半を過ごすことに成功した。

皆どこか浮かれ気分で、ハーマイオニーに構う事をしなかった。

なぜならその日はプライマリーの卒業日だったからである。

 

とはいえ結局の所、プライマリーはたったの1日の休息すらハーマイオニーに与えてはくれなかった。

下校時刻に折り悪く、いじめっ子達に捕まってしまったのだ。

 

 

そして、少女の運命を決める出来事が起きた。

 

 

「ボンジュール!グレンジャー。これからお国へお帰りかい?」

「いいえ、卒業のお祝いがあるから家に帰るわ。」

「お祝い?そりゃあいい!」

「丁度よく夏だ。君たちのメインディッシュもさぞ旬だろうさ。」

「croak-croak!僕おいしいよーってな。」

 

いつもであればハーマイオニーは俯いて、耳を塞ぎながら校門に向かって走っただろう。

パパの車に乗り込んで、悟られまいと気丈に振る舞いながら帰ったに違いない。

そしてベットでめそめそと涙を流すのだ。

 

しかしその日のハーマイオニーには余裕があった。

始めて1日の大半を心地良く過ごせた事で、理不尽に怒るだけの精神的余裕があったのだ。

 

「お国に帰れば!フンども相手にパパは旗振りママは馬乗り!」

「ッ黙れー!」

 

生まれて初めてハーマイオニーは心の底から怒った。

目を瞑り、大声で、小さな体に持ちうるあらゆる力で怒りを発した。

陰湿で下らない級友達に、陰で笑う教師達に、泣いてばかりの自分自身に。

 

するとどうだろう、急に辺りは静かになった。

ハーマイオニーを囲んであれだけ騒いでいたのが嘘のように、不気味なほどの静けさが訪れた。

 

ハーマイオニーはチャンスだと思った。

いじめっ子達は大声に驚いて静かになったのだと。

今のうちにパパの所へ走ろうと目を開け、そして見た。

 

両手で喉を抑え、嘔吐きながら蹲る級友達の姿を。

 

「ッひ!」

 

血走った目をした級友達が、

泡を噴きながらハーマイオニーを凝視している。

あまりの恐怖に逃げるはずの足は萎え、くしゃりと膝が崩れてしまう。

 

パチン!

 

乾いた音が響き、眼前を真っ赤な布が覆った。

それはマントだった。

 

見上げると真っ白な髪の女性が鋭く細い木の棒を構え、油断なくハーマイオニーを見ている。

 

「こんにちは。お嬢さん、お名前は?」

「・・・ハーマイオニー。」

「フルネームで!」

けんの有る鋭い声で凄まれ、ハーマイオニーはすくみ上った。

 

「ハッ、ハーマイオニー・ジーン・グレンジャー!」

「よろしいハーマイオニー、私は魔法省魔法法執行部のニンファドーラ・トンクスよ。」

トンクスと呼んで頂戴、と白髪の女性は言った。

 

「・・・魔法?」

「そうよ、魔法法執行部。入ったばかりの新人だけどね。」

「・・・。」

「まぁいいわ、いいかしら?えぇっと、未成年の魔法使用はって・・・あぁ。」

得心がいったとばかりに、トンクスは構えていた棒を降ろすと柔和に笑った。

 

「グレンジャーなんて家名聞いたこともないし、惚けている感じでもない。・・・あたなマグル生まれね。」

「マグル?」

「あぁ、大丈夫、今は分からなくていいわ。」

 

トンクスは手を差し伸べ、ハーマイオニーを助け起こす。

そして立ち上がるのを待ってこう言った。

 

「ようこそ、魔法の世界へ。新たな魔女さん。」

 

まずはこの呪いを何とかしないとね、とウインクしながら棒を振るった。

 

 

その日から、いじめられっ子のハーマイオニーは、マグル生まれの魔女ハーマイオニーとなった。




もうね、2000字で限界を感じた。

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