765プロダクションは大きく躍進と遂げ、39プロジェクトと言う新たなアイドルたちを迎え入れ、アイドルたちのためのシアターも開設した。

時は2025年の765プロダクション。そこでは新たな世代の物語が幕を開けようとしていた。

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プロローグ-あいさつ-

2025年。

現代の日本において、俳優や声優や歌手は最早本業というにはあまりに手を広げすぎた世界になった。

俳優が歌手を、声優が俳優を、そして歌手が声優を、人気があれば何の障害もなく仕事を行える世界になった日本で唯一、『IDOL』だけはその姿を変えずに芸能の世界を生き抜いていた。

そんな世界で今、一人の少女が厳しくも美しい世界へ飛び込もうとしていた。

 

「ついに・・・ついに来た。765プロダクション!」

 

少女は肩に少しかかるくらいのセミロングのストレートヘア。後ろでまとめた髪には赤色のリボンがついている。

赤のTシャツにウエストまでの白のショート丈ジャケットに紺色のロングスカートとピンクのスニーカーを履いている。

肩に765プロダクションのロゴが入った小さめのリュックを背負っている。

彼女は今、765プロダクションの前に立っていた。路上から上を見上げて窓ガラスにテープで記された『765』の数字を見ている。

キラキラした目で見ているのかと思えば、少し不安そうな顔で額から汗が一つ流れる。

 

「きょ、今日からここが私の事務所なんだ。が、頑張るぞ!」

 

少女は先日までアイドル候補生だった。

少数制の765プロの養成所40人からやっと所属が決まった女の子。

現在所属しているアイドルのレッスン場を臨時で借りに来てくれたプロデューサーがたまたま、ほんの数分だけレッスンを見ていたことで目に入ったことがキッカケで臨時の所属オーディションを受けて合格。

まさかのその場での本契約という流れに彼女は一つの奇跡を感じていた。

予想外の連続でレッスン場に戻って結果を仲間に話すと大歓声と称賛の声が飛び交った。

一足先に抜きんでた後ろめたい気持ちもあったが、仲間たちは快く送り出してくれた。

実のところ、765プロダクションの養成所は最初の入所オーディションが厳しいために入所出来れば自発的に辞めない限りプロダクション所属になるのが殆どだ。

しかし、本当に厳しいオーディションのため殆どが不合格で終わりクラスの大半がプロデューサーや社長がスカウトした女の子だった。

その中でオーデションを勝ち抜いて入所したのが今765プロダクションの前に佇む彼女だった。

母親譲りのよく転ぶ癖とお菓子作りが得意で優しい彼女はみんなから慕われる清純な女の子だ。

そんな彼女が新しい世界に飛び込もうとしている。

 

「よ、よし。入るぞ!」

 

横手の路地からドアを開いて埃っぽい匂いをさせた薄暗い階段が目の前に現れる。その横には故障中と書かれた紙を張り付けているエレベーターがある。階段手前には1階のたるき亭と呼ばれる食堂の職員入り口、階段を上がると横手に扉があってカラオケ教室の入り口があり、半ば折れて3階に上がるとそこにはあった。

スチール製でガラス窓には765プロダクションの名前がある。

その扉のノブをグッと握ってガチャッと開く。

開いた時の光景を彼女は目に焼き付けた。

細い通路。左手にすぐ社長室と書かれたドアがあって右手には敷居を挟んで机とキッチン。給湯室といったところか。進むとソファとテレビが置いてあって寛げるようになっている。左手にはパソコンとコピー機。スケジュールを描くボードに小物を置く戸棚。その奥に高そうなソファと机が置いてある応接場。そのとなりにまた敷居を挟んで職員用の机と資料がズラッとならんだ棚が置いてある。

 

「えっと・・・誰もいない・・・?」

 

と思ったら入り口の方から誰かが入ってきた。

コツコツと音を鳴らしながら部屋の真ん中に立っていた彼女に声をかける。

 

「あら、もう来たのね。」

 

「小鳥さん! お、お疲れ様です!」

 

深くお辞儀をした彼女は慌てたのか足が絡まって勢いよく転んでしまった。

どんがらがっしゃんと言わんばかりにうつ伏せになった彼女に手を伸ばす。

音無小鳥。765プロの事務員で長年アイドルたちを見守ってきた女性。元アイドルの音無小鳥は引退後に事務員としてこの事務所を支えてきた無くてはならない人だ。

後ろで括られて背中まで伸びる髪は深い緑色で口許の左に小さなホクロが一つ。小柄で童顔な彼女はとても40代とは思えない美貌を有している。

使い古した黄色のインカムに緑のジャケット。首元に黄色いリボンをつけて短いスカートと黒のニーソックス、まさに会社で働くOLか事務員というに相応しい格好をしている。

 

「だ、大丈夫?」

 

「いたたた、大丈夫です。いつものことですから。」

 

膝とスカートのすそをパタパタと叩くと小鳥がくすくすと笑っていた。

口に手を当てて笑う彼女はそれこそ少女のようにも見える。

 

「ど、どうかしました?」

 

「いいえ。ごめんね、ちょっと昔を思い出しちゃって。」

 

何となく察しがついたので少し恥ずかしくなった。

若干の赤面の後で本来の目的を思い出して小鳥に訊くことにする。

 

「あ、あの・・・今日は所属初日なのでプロデューサーさんと社長に挨拶をと思いまして。」

 

「あら、社長なら部屋にいたと思うけど・・・プロデューサーさんは外回りだからしばらく帰らないわ。」

 

少し残念だった。プロデューサーさんは20代半ばの男性で優めだけどタフな人だった。

気になっている人がいるかと聞かれたらその人を指すだろうということは、実は自覚している。

そのプロデューサーがいないことにちょっとの残念と少しの安心をもって小鳥に社長への執り成しを頼んだ。

快諾してくれた小鳥は社長室の扉をノックする。

 

「あなた・・・じゃなかった。社長。いらっしゃいましたよ。」

 

「あぁ、入りたまえ。」

 

ガチャッと開いたその先に一人の男性が椅子に腰かけていた。

高木順三郎社長。

風貌は真っ黒だけど優しい人だ。彼もこの事務所を長らく愛し、いろんな人の成長を見守ってきた。

その人の前に彼女は立った。

今まで様々なアイドルがこの机の前に立ったのだと思うと少し高揚した。

 

「よく来たねぇ。待ってたよ! お互い、よく知っている間柄だから堅苦しいのは無しにして、自己紹介だけを頼むとしようか。」

 

そう促されて彼女は息を大きく吸い込んでゆっくりと吐いた。

そしてしっかりと目を開いて笑顔でハキハキと言葉を口にする。

自己紹介が得意な彼女はその名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天海小春です! 今日から、よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな765プロの物語が始まる。

 

 

 

 

 

 

THE IDOLM@STER-Next・Generation-【序章】

 

 

 




小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY完結後に連載予定。
キャラ設定は完成してますのでプロットを書いてから着手します。

よろしければ是非ご期待ください。


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