八神コウを攻略するために、俺は遠山りんも攻略する   作:グリーンやまこう

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 最近、ニセコイを読み直したんですけど、改めて小咲と結ばれてほしかったと思いました。別に千棘も嫌いじゃないんですけど……やっぱり私は小咲が好きだったんで。あぁ、小咲可愛いよ小咲。あと、春ちゃんも好きでしたね。というか、小野寺姉妹は大好きでした。
 次はニセコイの二次創作でも書こうかな。

 そんなわけで、話がものすごく脱線しましたが最新話です。


転ぶのは恥ずかしいし、キャラを間違えるのはもっと恥ずかしい

 涼風さんの新人歓迎会があったり、酔っぱらったりんを何とかして連れて帰ったり、そのりんが少しだけ素直になったりしてから休日を挟んで月曜日。

 

「…………」

 

 スマホで時刻を確認すると、午前9時。この時刻が何を意味するのか。

 

「やべぇ……寝坊した」

 いつもより一時間も遅い。準備とか色々含めると、ギリギリ間に合うか間に合わないくらいの時間になる。

 

「と、取り敢えず準備をして……」

 

 畜生、こんなことになるくらいなら好きなアニメのBD(SAO)を徹夜で見直すんじゃなかったぜ……。急いで身支度を整え、家を飛び出した。

 駅に到着し、改札をくぐる。ベストタイミングでやってきた電車に乗り込んだ俺は、そこでようやく一息ついた。

 しかし、まだまだ油断できない。電車というのは遅れるものだ。人身事故の影響で何度遅刻しかけたことか……。だが、今回の不安は杞憂に終わったらしい。遅れることもなく、スムーズに乗り換えを済ませる。

 すると、乗り換えた先の車両で見知った影を二人ほど見つけた。

 

「ゆんに、涼風さんじゃないか」

「あっ、タケルさん。おはようございます」

「興梠さん、おはようございます」

 

 俺の後輩であるゆんと涼風さんが頭を下げてくる。

 

「二人ともどうしたんだ、こんな時間に?」

「い、いやぁ~、ちょっと寝坊しちゃって……」

「うちもです……」

 

 どうやら彼女たちも俺と同じ理由で遅刻しているらしい。よかった、仲間がいた。……いや、仲間がいても遅刻は遅刻なんだけど。

 

「ところでタケルさんも遅刻ですか? 普段、こんな時間に出社しませんよね?」

「お、お恥ずかしながら俺も遅刻だよ。昨日、アニメのBDを徹夜で見ちゃって」

「相変わらず、タケルさんのアニメ好きは酷いですね……」

 

 呆れるゆんに俺は頭をかく。酷いとは何だ、酷いとは。アニメが好きで何が悪い! アニメは日本が海外に誇る文化の一つなんだぞ! クールジャパンなんだぞ!

 

「興梠さんって、アニメ好きなんですか?」

「アニメどころか、ゲームも漫画も好きだぞ。グッズはあんまり買わないんだけどな」

「グッズを買うお金がないからちゃいますか?」

「…………」

 

 ゆんにツッコまれた俺はぐうの音もでない。

 本当ならグッズも欲しいんだけど、いかんせんお金が絶望的に足りないのだ。アイマスとか、ラブライブとかのソシャゲに課金しちゃうし。

 

「あ、あはは……あっ! もう直ぐ降りる駅ですよ!」

 

 涼風さんの言葉に俺たちは我に返る。確かに、次の駅は俺たちの降りる駅となっていた。

 

「よしっ! 二人とも、まだギリギリ間に合うかもだから全力で走るぞ」

 

 走ると意気込む俺だったが、どうにも二人の表情が暗い。

 

「どうかしたのか?」

「す、すいません。私、運動神経が悪くて……」

「仲間や! うちもごっつい遅くて、いつもビリやねん~」

 

 ゆんも運動神経が悪いらしく、涼風さんの手を掴んで喜んでいる。確かに、ゆんも涼風さんも運動神経よさそうに見えないからな。

 

「ところで、興梠さんは運動神経いいんですか?」

 

 涼風さんの疑問に俺は胸を張る。

 

「俺は50メートル9秒台で走れるぞ」

「へぇ~、50メートル9秒台……あれっ?」

「タケルさん、それってめちゃくちゃ遅いんとちゃいますか?」

「自慢じゃないけど、俺も運動神経めっちゃ悪いぞ」

 

 高校時代の友人曰く、俺の走り方は抜群におかしいらしい。おかげで何度、クラスメイトに走っている姿を笑われたことか……。自覚はないのだが、タイムがタイムなので認めるしかないのである。

 

「興梠さんも運動神経悪いと聞いて、なんだか安心しました。……あっ! 着きますよ」

 

 涼風さんの言葉に俺とゆんは改めて身構える。

 

『○○駅~、○○駅~』

 

「つきました。行きましょう!」

 

 扉が開くと共に走り出した俺たち。人ごみをかき分け、階段を駆け下り、改札口を――。

 

ブーーーーー!!

 

「おわっ!?」

 

 改札に行く手を阻まれ、俺の身体はつんのめる。どうやらお金が足りなかったらしい。

 

「やべっ、チャージしてなかった」

「興梠さん!?」「もうっ! なにをしとるんですか!」

 

 別の改札口から出ていた二人に頭を下げる。

 

「わりぃ。チャージし直してくるから、二人は先に言ってて」

 

 怪訝そうな視線を向ける後ろの人にぺこぺこと頭を下げつつ、券売機でチャージを済ませる。どうでもいいけど、スイカの中に13円しか入ってなかったぞ……。

 そんなこんなでもう一度改札をくぐり直し、俺は先を行く二人を追いかける。

 

(おっ、意外と離れてなかったみたいだな)

 

 視線の先には女の子走りの二人。するとゆんが振り返り、涼風さんに向かって何かを叫ぶと、手を差し出した。その手に向かって涼風さんも手を伸ばし――。

 

ビターン!!

 

 涼風さんが盛大にズッコケた。しかも、頭からヘッドスライディングするみたいに。い、今のは絶対に痛かっただろうな……。

 

 そこで俺は涼風さんに注目しすぎてしまったらしい。彼女が転んだ拍子に鞄の中身が飛び出し、ペンらしきものが走る俺の進行方向へ。

 涼風さんに気を取られていた俺は、当然避けられるはずもなく、ペンを踏んずけて足を滑らせる。

 

「おわっ!?」

 

 運動神経の悪い俺が耐えられるはずもない。結局、涼風さん並みののヘッドスライディングをかましてズッコケたのだった。

 25歳にもなって、人前で転ぶのはキツイっす。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

『おはようございます』

 

 そのまま遅刻した俺たちは、同じく遅刻していたひふみを巻き込んでイーグルジャンプへと出社していた。しかし、遅刻という事実はどうすることもできない。というか、鼻めっちゃ痛い。

 

「おいおい、遅刻だってのに随分のんびりしてるね。自覚はあるの?」

 

 一方、目の前にいるコウは珍しく怒っている。

 

「す、すいません……」

「特に青葉。それにタケル!」

 

 名指しされ、俺と涼風さんはピクッと肩を震わせた。まぁ、俺は当然なんだけど……。

 

「青葉はまだ入社して一か月も経ってないのに。何時までも学生気分じゃ困るよ。タケルもこの年で遅刻って、上司としての自覚はあるの!」

『ご、ごめんなさい……』

 

 二人して頭を下げる。転んだとはいえ、遅刻は遅刻。最近、気持ちに緩みがあったのかもしれない。反省しないと。

 

「コウちゃん……会社の、前まで……は」

「……ん?」

「青葉ちゃんがさっき転んでしもて、鞄の中身が飛び出てしもたんですよ。その中身をタケルさんが踏んずけて転んで……」

 

 フォローしてくれるのはありがたい。でも、改めて聞くと当時の状況を聞くと、俺ってほんと恥ずかしいな。

 しかし、話を聞いたコウは途端に心配そうな顔になる。

 

「えっ? ちょっとこけたって大丈夫なの?」

『へっ?』

「それで二人とも鼻が赤かったのか……それならそうと、早く言ってよ! 勘違いしちゃったじゃん!」

 

 戸惑う俺と涼風さん。コウは頬をかきながら、

 

「青葉は何時も頑張ってるし、学生気分だなんて一度も思ったことないよ。……でも、一応上司だし」

 

 なるほど。慣れないことしてるなと思ったら、上司として怒っていたのか。

 

「タケルも上司として私より頑張ってると思うし、いつも私を助けてくれるし……」

 

 もごもごと歯切れが悪い。ただ、これだけは分かる。コウはやっぱりいいやつだなと。

 

「とはいえ、酷い事言ってごめん……」

 

 ここで素直に謝れる辺り、コウも優秀な上司だと思う。上司というのは自分のミスをなかなか認めず、プライドの塊みたいなやつが多いからな。転んだとはいえ、遅刻してごめんなさい。

 

「今日の所は三人とも遅刻じゃないことにしてあげるけど、三人とも遅刻届は出すように。タケルもだよ」

 

『は、はい……』

 

 一応俺も返事をする。さて、それじゃあ早いとこ遅刻届を書かないと。

 

 

 

 

 

「……で、これはなんなのかな?」

「えっ? 遅刻届ですけど」

 

 コウの質問に涼風さんが答える。

 

「そうじゃないよ! なんで遅刻理由が青葉もゆんも『寝坊』なの? これじゃあ帳消しにできないじゃん!」

『あっ……』

「書き直し」

 

 そして今度は視線をひふみと俺へ。

 

「ひふみちゃ~ん。これはなに……?」

 

 ひふみの遅刻届にはなんか顔文字が書かれていて……これは怒られるわ。

 

「……朝……ごはんが……おいしくて。……つい」

「んなこと聞いてないよ! まず書類に顔文字書かないでよ!! 最後にタケル!」

「えっ? 俺なんか変なところあった」

「むしろ変なところしかないよ! 『SAOはやっぱり最高だぜ』って何!? アニメのことなんて聞いてないし、タケルは何年会社にいるのさ!!」

「いや、遅刻したありのままの理由を書いた結果だよ。それにSAOは最近3期も決まって益々盛り上がる――」

「そんなこと聞いてない!!」

 

 あっ、はい。ごめんなさい。そこでコウは顔を真っ赤にして叫ぶのだった。

「ああもう! 反省して損した!!」

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「それ、青葉ちゃんのモデル?」

「ああ、そうだよ。今モーションつけてるんだ!」

 

 企画の仕事に頭を悩ませ、うんうん唸っていた俺の耳にゆんとはじめの会話が聞こえてきた。

 どうやら、はじめが涼風さんのキャラモデルにモーションをつけている最中らしい。

 

(自分の作ったキャラにモーションがつくと、すごく感動するんだよな~)

 

 俺も初めて作ったキャラにモーションが付いた時は、ものすごく嬉しかった。きっと涼風さんも喜ぶことだろう。

 

「待機モーションなんだけど、どうかな?」

「せやなぁ~、せっかくかわいいキャラモデルなんやから、もっとキュンとするようなのがええんとちゃう?」

「きゅんん~?」

 

 ゆんの指摘に、はじめはさっぱり分からないという声をあげている。まぁ、確かにキュンというのは分かるようでわからない。キュンキュンする瞬間なんて人それぞれだからな。

 その後、「こないな感じ」との会話をした後、

 

「へー、これが会話モーションなんや。へー、これが歩行もーしょんなんや。へー、これが――」

 

 ゆんの声が少しだけ大きくなり、からかいの色が混ざる。

 恐らく、涼風さんが自分のキャラが気になってチラチラ見ていたのだろう。それに気づいたゆんが彼女をからかうためにわざと大きな声を出して気を惹いた。こんな所だと俺は推測する。案の定、

 

「意地悪しないで下さい!」

 

 涼風さんが抗議の声をあげていた。どうでもいいけど、意地悪って言い方が可愛い。こりゃ、いじりたくもなる。

 さて、可愛い涼風さんに癒されたところでもう一度企画の仕事に戻りますか。

 

「コウちゃん、タブレットペン余ってない?」

「えっ? 持ってないよ」

「困ったわ。なんだか反応が悪くなっちゃって……」

 

 今度はうしろから声が聞こえてくる。振り返ると、困った顔でタブレットペンをいじるりんの姿が。

 

「俺のタブレットペン。余ってるから使う?」

「えぇ、じゃあそうさせて――」

「はじめと青葉に買いに行かせればいいよ! うん、それがいい!」

『えっ?』

 

 突然の提案に俺とりんは素っ頓狂な声を上げる。

 

「い、いや、買いに行かなくても俺のタブレットペンを貸せばいい話で――」

「はじめ、青葉~」

 

 俺の言葉を無視してコウは二人の元へ。残った俺とりんは顔を見合わせ、珍しく苦笑いを浮かべた。

 

「分かりやすいわね」「分かりやすいな」

 

 きっと、はじめと青葉を今よりもっと仲良くさせようとでも企んでいるのだろう。なんか、ほっこりする。

 

「あっ、ついでにタケルもついていってあげてよ!」

「……はい?」

 

 席に戻ってきたコウから二人について行けと命令が下る。なぜ巻き込まれた?

 

「別に二人だけでも、いいだろ?」

「一応だよ一応。それに、タケルもついていったほうが面白いと思うし」

 

 面白いって何だよ、面白いって! 確かに、この三人ってなかなか接点ないから面白いかもだけど……。こちとらまだ仕事が終わっていないんだ。

 しかし反論空しく、俺とはじめと涼風さんでタブレットペンを買いに行くことに。

 

 

 

 

 

「おつかいって頻繁にあるんですか?」

「ううん、たまにあるくらいだよ。タケルさんも行った事ありますよね?」

「まぁ、俺がまだ入社したての時くらいかな。それでもあんまり経験はないんだけど」

 

 三人で話しながら近くの家電量販店まで歩いていく。ちなみに、はじめと涼風さんが前を歩き、俺はそのすぐ後ろを歩いていた。

 

「でも次からは青葉ちゃん一人で行かされると思うから、レシートとか捨てないように注意ね!」

「は、はい! 気をつけます」

「おいおい、はじめがちゃんと先輩やってるよ」

「それってどういう意味ですか、タケルさん!」

 

 プンプン怒るはじめを宥めつつ、俺たちは到着した家電量販店へ。そのまま、タブレットペンが売ってあるフロアまで足を進める。

 タブレットペンのコーナーって久しぶりに来たけど、今は色々な種類があるんだなぁ。ちなみに、いつもはネットで買ってます。店員さんと話すの面倒だしね。べべべ、別にコミュ障じゃねぇし!

 

「タブレットペンって、太いのや細いのもあるんですね……。どれがいいんでしょう?」

「……普通のでいいんじゃないかな?」

「はじめ、今適当に言っただろ?」

「ぎくっ! ……じゃ、じゃあタケルさんはどれがいいと思うんですか?」

「……普通のでいいんじゃない?」

「タケルさんだって、違いが分かっていないじゃないですか!」

 

 結局誰一人タブレットペンの良し悪しが分からなかったため、普通のタブレットペンを買うということで落ち着いた。

 

「……あっ」

 

 そこでレジに向かおうとしていた涼風さんから声が上がる。

 

「どうした?」

「すいません、お財布を会社に忘れてきちゃいました……」

「ドジだなぁ~」

 

 やれやれと言った様子ではじめはポケットを漁り……顔が真っ青になった。

 

「なんだ? はじめも財布忘れたのか?」「もしかしてはじめさんもですか?」

 

 二人からの追求にはじめはふるふると首を振り、

 

「いや……、落としちゃったっぽい」

『えっ!?』

 

 俺と涼風さんの声が被る。いや、だって涼風さんのように忘れてきたのならともかく、落としたとなると結構まずい。俺が同じ立場ならもっと焦っている。

 財布の中にカードとか入ってるわけだしな。

 

「取り敢えず、店内を一度探してみようか」

 

 ここに来るまで歩いてきたところを逆走するも、はじめの財布はどこにも見当たらない。

 

「お店の中には落ちてなさそうですね~」

「となると、外で落とした可能性もあるな」

「うぅ……」

 

 財布が見つからず、意気消沈するはじめ。

 

「……私、サービスカウンターで聞いてくるよ」

「それじゃあ私は財布を取りに戻るついでに、はじめさんの財布を探しながら戻りますね」

「俺はさっきのタブレットペンの会計だけ済ませておくよ」

「ありがとう青葉ちゃん。タケルさんもありがとうございます」

 

 お礼をいってサービスカウンターへ向かうはじめと、会社へ戻る涼風さんを見送った後、俺はタブレットペンの会計を済ませる。

 普通とはいえ、割といいものだったらしく高かったのでカードを使いました。

 

(さて、はじめの所に行くか)

 

 店内図でサービスカウンターの場所を確認する。歩いていくと、用紙に向かってペンを走らせているはじめの姿が目に入った。

 しかも、なにやら物々呟いている。あっ、机を思いっきりドンッと叩いた。何してんだ、はじめの奴?

 

「でも青葉ちゃんはしっかりしてるなぁ……。それにいい子だし可愛いし。しかもまだ10代……なんてケシカランなんだ!!」

「21歳のお前が何言ってんだよ」

「あいたっ!?」

 

 取り敢えず、はじめの頭をチョップする。はじめなんて、まだまだ10代みたいなもんだ。25歳の俺が言うのはおこがましいかもしれないけど。

 

「た、タケルさん」

「財布は届いてたか?」

「いえ、サービスカウンターにも届いていませんでした……」

「後は涼風さんだけが頼りか」

 

 新入社員を頼りにするものどうかと思うが、仕事じゃないのでいいとしよう。しばらく二人で涼風さんの帰りを待っていると、

 

「はじめさん、興梠さん!」

 

 俺たちの元に涼風さんが走ってきた。

 

「青葉ちゃん、どうだった?」

 

 心配そうに尋ねるはじめに、涼風さんはニコニコ顔であるものを取り出した。

 

「ふふふ~、これなーんだ?」

 

 彼女が取り出したのは女物の財布。これはもしかして……。

 

「青葉ちゃん……」

「ちょっ、はじめさん大げさ」

 

 財布を手に涙を浮かべるはじめ。その反応を見るに、どうやら彼女の財布らしい。無事、見つかったみたいだ。俺もホッと一息つく。

 

「ところで、どこに落ちてたんだ?」

「会社に戻ったら、はじめさんのデスクの上に置きっぱなしになってたんですよ」

 

 なるほど。どうやらはじめのおっちょこちょいが今回の原因らしい。

 

「全く、今回は会社にあったからよかったけど、これからは気を付けるんだぞ?」

「うぅ……すいません、タケルさん。あと、青葉ちゃんも本当にありがと。おっちょこちょいな先輩でごめんね」

 

 謝るはじめに、涼風さんは「そんなことないです!」と首をふる。

 

「私もおっちょこちょいだから安心します。……って、そんな事言ったら怒られちゃいますね」

 

 そう言ってペロッと舌を出す涼風さん。

 

((可愛いなぁ、チクショー!))

 

 心の声がはじめと被った気がする。それくらい、今の仕草はあざといけど可愛かった。

 

「青葉ちゃんはそれでも可愛いし……」

「へ? は、はじめさんだって可愛いですよ! 興梠さんも、そう思いますよね?」

 

 だから、なぜ俺に話を振るし。この手の話題は苦手なんだよな。だからといって、涼風さんを無視するわけにもいかない。

 

「そうだな。はじめは涼風さんの言う通り可愛いよ」

 

 取り敢えず、思ったことを口に出す。別に可愛いのは本当だし、嘘は言っていない。

 

「そう、ですか? ……へぇ~」

 

 はじめが煮え切らない返事を返す。なんか顔も赤いけど、どうかしたのかな?

 

「……興梠さん、今のセリフってどういった意味で?」

「どういった意味? 意味も何も、ただ思ったことを言っただけなんだど」

「興梠さんって、天然なんですか?」

「涼風さんだけには言われたくないよ」

 

 小声で涼風さんとやり取りしていると、はじめがふぅと息を吐き、

 

 

 

「そ、そうかにゃ?」

 

『えっ?』

 

 

 

 とんでもないセリフが飛び出し、思わず固まってしまう俺と涼風さん。

 

「…………あっ! わ、わぁ、可愛いなぁ~」

 

 いち早く元に戻った涼風さんが苦し紛れに返事をする。とんでもない棒読みだったけど……。

 

「いや、やっぱり照れるな~」

 

 口では照れると言っているが、さほど照れていない様子のはじめさん。これは色々とまずい。

 

 

 

(す、涼風さん! どうしてあんなこと言っちゃったんだよ!?)

(だ、だって……)

(はじめは可愛いけど、ああいう感じの可愛さじゃない。完全にキャラ間違えてるよ)

(それは、確かにそうですけど……じゃあ、興梠さんがやんわり言って下さい。キャラ間違えてますよって。はじめさんの先輩なんですから)

(こういう時ばっかり先輩を持ち出すのはずるいと思う。涼風さんこそ、同じ女の子同士、やんわり指摘を……)

(こういう時ばっかり女の子を持ち出さないで下さい!)

 

 結局、どちらも注意できずに会社へと戻ってきてしまった。みんなからの反応が怖い。

 

「八神さん! 買ってきましたぁ」

「おお、お疲れ~」

「どうぞ!」

「!? あ、ああ。ありがとう」

 

 コウは様子のおかしいはじめに困惑気味だ。

 

「……どうしたの?」

「ほへ? 何がですか?」

「ほ、ほへ?」

 

 視線が俺と涼風さんの方に向く。そして彼女は視線だけで訴えてきた。「これは一体何!?」と。

 

『…………』

 しかし俺と涼風さんは口を真一文字に結び、首をぶんぶんと横に振る。俺たちは何も知らないと言わんばかりに。そこで別の所からとある声が上がった。

 

「あははっ! はじめったら、自分のキャラ間違えてんで」

 

 声の主はもちろんゆん。涼風さんは声を聞いた瞬間ビクッとしていたが、俺は逆に安心した。これではじめも元に戻るだろう。

 

「…………」

 

 ゆんの指摘に身体をプルプルと震わせるはじめ。そして、

 

「……分かってたよ、チクショー!!」

「は、はじめさーん!!」

 

 泣きながらオフィスを出ていったのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 ちなみにその後。俺は拗ねたはじめの機嫌を直すべく声をかけていた。

 

「はじめ。さっき可愛いって言ったのは本当なんだ。ゆんの言う通り、キャラを間違えていただけであって、普段のはじめは可愛い。これは本当だ! はじめは可愛いんだよ!」

 

 しかし説得も空しく、はじめは顔から耳から真っ赤にさせ、涙目になってトイレにこもってしまった。はぁ、完全に拗ねちまったよ……。

 

 

 

「興梠さん、やっぱりわざとやってますよね?」

「えっ? 何が?」


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