八神コウを攻略するために、俺は遠山りんも攻略する 作:グリーンやまこう
それにしても、私自身ロスが激しいですね。ため息しか出ません。早く、サンシャイン始まらないかなぁ~。
こちらのサイトで書かれている別のNEWGAME作品も一区切りを迎えたので余計に寂しいです。多分、読んだことのある人が大半なのではないでしょうか?
まぁ、そんなわけで様々なロスと戦いつつ書いていました。疲れました……。
涼風さんに、俺とりんの部屋が隣同士だということがばれかけた次の日。
「あれ? 涼風さん、もう出社してたの?」
9時になる少し前に出社した俺は、既に自分の席でキャラデザをしていた涼風さんに驚きの声を上げる。てっきり、今日は一番乗りだと思っていたからな。
俺がこんなに早い時間に出社しているのはご存知の通り、企画の仕事がまだ葉月ボスの許可を得ていないからである。早く終わらせないと洒落にならない。
「あっ、興梠さん。おはようございます」
ペコっと頭を下げる涼風さん。
「それは、昨日リテイクを指示されてた村人のNPC?」
「はい、そうです! 昨日、ねね……友達との電話で少しヒントを得たので、朝早く出社して直そうかなと」
俺が画面を覗き込むと、昨日あれだけ苦しんでいた村人のNPCは格段に良くなっていた。表情も柔らかくなったし、より親しみやすいキャラに変貌している。
友人と何を話したのかは知らないけど、いいアドバイスをもらったんだろうな。
もちろん、メインのキャラほどのインパクトはない。しかし、名脇役のキャラから滲み出す渋さみたいなのが増した。うん、俺そういうキャラ大好きだよ。
「すごく、よくなってるじゃん。これなら多分、コウの許可も出ると思うよ」
「そうなればいいんですけど……」
そこで、コウのデスク辺りから『ピピピ……』という目覚ましの音が聞こえてくる。あいつ、昨日も泊まったのかよ……。
「おはよう、青葉にタケル。今日は早いなぁ~」
しばらくすると、眠たげな瞳を擦りながらコウが歩いてきた。
相変わらず、Tシャツとパンツだけの姿で。うーん、眼福眼福。
「あ、おはようございます……って、スカート履いてくださいよ!! た、タケルさんもいるんですよ!?」
「へっ?」
スカートを履いていないコウに、涼風さんが少し顔を赤くしてツッコむ。スカートを履いていない人にしっかりとツッコむのが、本来の姿なのだろう。
しかし、俺はパンツ見たさにツッコむことを止めてしまった。元気にツッコむ涼風さんを見習わないと。
それにしても、八神さんがいつも通りで泣きそう。
「うーん、タケルなら見られても別にいいかなって。恥ずかしくないし」
もっと泣きそう。
「八神さんも女の子なんですから、もっと身だしなみに気を付けたほうがいいと思いますよ?」
「女の子って……てへへ」
「褒めてないです」
なぜか照れて頭をかくコウ。そんな彼女に向かって、涼風さんが辛辣なツッコミを入れる。
「そうだぞ、コウ。お前も、一応女の子なんだからもっとお洒落に気を遣え。もっとフリフリの格好をしろ」
「それは絶対にイヤ。何度でも言うけど私、色気皆無だし……」
いやいや、今現在のパンツ姿はかなりの色気がありますよ? 普通の男なら一発でノックアウトです。あんたは自分の魅力を、もう少し自覚してください。
それに、フリフリの格好をしていけばりんが「可愛いっ!!」と言って喜ぶからな。機嫌もよくなり、俺への攻撃も少なくなるので一石二鳥である。
「それよりもコウ。涼風さんから話があるみたいだぞ」
「えっ? 話?」
「あっ、はい! 丁度、村人のキャラデザが終わったので、チェックをお願いできますか?」
そう言って彼女は、コウに村人のNPCを見せる。
「うん、わかった。それじゃあ確認するね」
コウは涼風さんの席に座り、キャラの確認をし始めた。キャラを上下左右動かしながら、真剣な瞳で涼風さんの村人をチェックしていく。そして、
「OK。すごくよくなった!」
遂にコウからの了承を得た涼風さんは顔を綻ばせ「やった!」と、両手でガッツポーズ。可愛い。
「青葉的にはどう? 満足?」
嬉しそうな涼風さんにコウが訊ねる。
「これは満足ですけど、また一から作ったら、もっといいのができる気がします。後、時間がかかりすぎですね……」
うーん、今の若い子はしっかりしてるなぁ。とても高卒一年目のセリフとは思えない。
俺なんか「満足です。もう作りたくないです」とか、口走る気がする。
「確かに一週間は時間、かかりすぎだね。じゃあ、次は三日で作ってみようか」
「えっ?」
「だから、スリーデイズ!」
やべぇ、うちの同期がとんでもないことを言い出した。高卒一年目にキャラデザをスリーデイズでとか、鬼畜以外の何物でもない。
俺だってキャラデザには最低でも二日、三日かかる。コウはそれだけ、涼風さんに期待してるということなんだろうけど……。
「せ、せめて4日になりませんか?」
「お、俺もそっちの方が現実的だと思うんだけど」
さりげなく助け船を出す。しかし、うちの同期はどこまでも高いレベルを掲げる人だった。
「何言ってんだよ。最終的には一日一体、作ってもらおうと思ってんだからね!」
当然という口調でコウが言い切る。おいおい、一日一体だなんて俺でも無理だ。
「ひふみ先輩が言ってた帰れなくなるって、こういうことですか?」
ひふみも、余計なことを涼風さんに吹き込んじゃ駄目だよ。会社の闇を涼風さんに見せるのはまだ早い。むしろ、闇を知ってるのは俺たち上司だけでいい。
「ま、まぁ、終われば帰れるし」
涼風さんの質問に、苦しい言い訳でコウが返答する。正直、何の解決にもなっていない。
「嫌です! 私、下着姿で寝るなんてありえないです!」
「なにおう!!」
「そっちかよ!!」
ツッコまざるを得なかった。というか、普通の人は会社で、男がいる中で下着姿で寝ないからね!!?
☆ ★ ☆
涼風さんのキャラデザが無事終わってから二日経過した仕事後。
「それでは少し遅くなっちゃいましたが、涼風青葉ちゃんの新人歓迎会を行いたいと思います。乾杯!」
『乾杯!!』
りんの音頭で俺たちは各々飲み物が入ったグラスを持ち上げ、カチンと合わせる。そして、俺はグラスに注がれていたビールでのどを潤す。
今日の夜は、あらかじめ予定されていた涼風さんの歓迎会だった。
出席者はキャラデザ班(コウ、ひふみ、ゆん、涼風さん)と、はじめとりんと俺。ちなみに俺はひふみの右隣。コウの横に行こうと思ったら、遠山さんにものすごい瞳で睨まれこの席に落ち着いた。
べ、別に悔しくなんてないんだからね。ここの席だとトイレとか行くのに便利だし!!
「今日は会社のおごりだから!」
ほんと、こういう所は気前のよい会社だと思う。普通、飲み会の費用なんて社員負担が当たり前だろうし。
「よっしゃー! 食うぜ!!」
コウが鍋に入っていた肉を根こそぎ箸で掴み、自分の皿へと移す。
「あー!! そんなに肉をもっていかないで下さいよ!!」
それを見ていたはじめが声を上げる。全く、二人は食い意地の張った小学生かよ……。ひとしきり肉をもぐもぐした後、コウはテーブルの上に置いてあったたこ焼きを涼風さんに差し出す。あっ、嫌な予感しかしない。まっ、止めないんだけどね!
「青葉! 入社祝いにこれ食べてみ」
「えっ、なんですか?」
怪訝そうな瞳を向ける涼風さん。
「まぁ、ほれほれ」
「!?」
無理やり口に突っ込まれ(たこ焼きだよ!)、涼風さんはびっくりしていたようだったが、
「けほっ、けほっ! なにこれ、辛いぃ!!」
からし入りロシアンタコ焼きに悶絶していた。そんな彼女を見て、コウはケラケラと笑っている。
涼風さんには申し訳ないが、これも新入社員の通る道だ。俺も新人の時はやられたし……。えっ? 誰にって? もちろん、葉月さんだよ!!
「青葉ちゃんは、こういう飲み会は初めて?」
「は、はい」
「というか、まだお酒飲めへんもんね~」
ゆんの奴、顔が真っ赤だ。もう酔っているのだろう。彼女はお酒、もの凄く弱いからな。反対に、
「……おいしい」
隣のひふみは、淡々と日本酒を飲み続けている。彼女はべらぼうに強い。俺なんかよりよっぽどだ。多分、この中の誰よりも強いだろう。
俺も強いほうだと思うんだけど、ひふみと飲むと毎回俺が先に潰れるからな。
(さて、グラスのビールも飲み終えたことだし……)
手をあげて店員さんを呼ぶ。
「すいません、このサワーを一つ」
注文を終えて視線を前に移すと、ニヤニヤ顔のコウと目が合った。
「な、なんだよ?」
「いや、タケルってば相変わらずビールが苦手なのかなって」
「うるさいな。苦手なものは苦手なんだよ!」
「タケルさんって、どうしてビール苦手なんですか?」
はじめが無邪気な瞳で聞いてくる。その横では相変わらずニヤニヤ顔のコウ。からかわれるだろうから、絶対に言いたくない。
「……特に理由はない」
「タケルは、苦いからビール嫌いなんだよ!」
「えっ! そうだったんですか?」
「コウ! 俺の許可もなしに言うんじゃねぇ!!」
「アハハッ、子供みたいな理由でしょ?」
コウに笑われて顔が熱くなる。隣ではりんまでニヤニヤと笑っていて……これだから言いたくなかったんだよ!
「でも、ブラックコーヒーは普通に飲んでいますよね?」
「それはそうなんだけど……同じ苦さでも、なんか違うんだよなぁ」
とにかく、苦手なものは苦手だということだ。これ以上追及されたくなかった俺は、コウたちから視線を逸らす。
そして運ばれてきたピーチサワーを飲んでいると、涼風さんがこちらを見ていることに気付いた。
「ん? どうかした、涼風さん?」
「いや、興梠さんって意外と可愛いなぁと。サワー飲むって、なんだか女の子みたいですね!」
「…………」
新入社員にまでいじられる始末。素でやってるのか、計算してやっているのかは知らないが、新入社員にいじられるのはとんでもなく恥ずかしい。
まぁ、強姦魔と恐れられるよりはましなんだけど……。別にいいじゃねぇか。男がサワー飲んだって!! ビールが嫌いだって!!
それにしても、涼風さんは意外とSなのかもしれない。その後、しばらく飲み食いしながら談笑を続ける。
途中、葉月さんがやってきて、コウの事をいじったり、肉を大量に食べたりしたが、飲み会は平和に進んでいった。
1時間くらい経過したころ、
「青葉って、彼氏いんの?」
「へっ!?」
唐突にコウが口を開いて、涼風さんに彼氏の有無を尋ね始めた。脈絡のない質問に涼風さんも驚いている。
「い、いるわけないじゃないですか!!」
なるほど、涼風さんには彼氏がいないのか。彼女の可愛さならいても不思議じゃないんだけど。
学校が女子高だったとか、何か理由があるのかな? 共学なら、男が放っておくはずがないほど、可愛いし。
すると、涼風さんが反撃とばかりに口を開く。
「……でも、八神さんはいそうですよね?」
「へっ!?」
『えっ!?』
彼女の質問に、コウではない二人の目つきが変わった。主に、俺とりんである。
コウに彼氏なんて、俺が絶対に許さないからな。こちとら何年コウの事を想い続けてると思ってるんだよ。入社から今までの間ずっと。7年間だよ!? 確かに、関係が進展していないのには俺にも原因はある。しかし、それでも彼女への想いは誰にも負けないつもりだ。恋愛は時間じゃないといつやつもいるけど、俺は時間こそ正義だと思っている。ぽっと出の奴なんかにコウを奪われてたまるか。そもそも、彼女の良さは他の男に理解できるわけがない。理解できているとしたら、俺かりんだけである。断言してもいい。つまり、俺が彼氏? として認める相手はりんだけである。りんがコウの事を射止めたら、俺も引き下がるほかない。彼女ならきっとコウを幸せにできるだろう。だけど、俺も毛頭負けるつもりなんてない。俺だってコウのことが好きなんだからな。
……おっと、予想外の質問に少しだけ動揺してしまった。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ない。
まぁ、目の前に座るりんも黒いオーラを出しているので、気持ちは同じなのだろう。
「い、いるわけないじゃん!」
「なに初々しく照れてるんすか……」
呆れるはじめを他所に、俺とりんは「ふぅ……」と安どのため息を漏らす。
これで彼氏がいるとか言ったら、テーブルをひっくり返しているところだった。
「仕事ばっかしてっとよー、そんな暇ねぇっつーの!!」
いやいや、仕事をしていてもそんな暇はありますよ。あなたの事を好きな男性が目の前にいますよ?
「ご、ゴホンッ、ゴホンッ」
俺はわざとらしく咳払いをする。これで少しはコウも――
「タケルってば風邪? 風邪なら早く病院に行ったほうがいいじゃない?」
「…………」
号泣しそう。オイコラ、りん。ほくそ笑んでんじゃねぇよ! コウの反応に気をよくしたのか、
「ちょっとコウちゃん、飲み過ぎじゃない? これは私が飲むわ」
「えっ、ちょ、その酒強い……」
強いというコウの制止も聞かずに、りんはグラスを奪い取るとグイグイとお酒を流し込む。飲み終えたりんは瞳をとろんとさせ、
「私も彼氏いないわ……」
「聞いてねー」
コウはゲラゲラと笑い、涼風さんは困惑気味。そして俺は、「でしょうね~」という反応。
彼氏がいないのは当たり前である。そもそも、りんに彼氏がいればコウを奪い合うといった事態にはなっていない。
「あおばちゃん! しんじんはせんぱいにおさけをつぐものれす!」
「は、はぁ……」
うわぁ……りんのやつ完全に出来上がってるな。呂律も回ってないし、涼風さんに絡んでるし……。涼風さんが可哀想だ。
言われるがままに、涼風さんがりんのグラスにビールを注ぐ。
「えっと、こんな感じでいいのかな?」
当然、ビールなんて注いだことのない涼風さんは戸惑うばかりだ。ほんと、うちの同期が申し訳ない。
「…………」
りんは注がれたビールのグラスを見て、ため息交じりに首をふった。
「す、すいません!」
「びーるのただしいつぎかたってのはね~、こうするのよ! こうちゃん!!」
名指しされたコウは、慣れた手つきでビールを注いでいく。すると、CMでよく見る様なグラスの感じになった。
「これがべすとなの!」
「おぉ……」
グラスを見た涼風さんが感動している。
「いや、そこ感動するとこ違うから……」
ナイスツッコミだはじめ。もっと言ってやれ。
その後、飲み過ぎて突っ伏してしまったりんはそのまま寝かせておき、俺たちは再び談笑を始める。
「ところでひふみ先輩」
「……どう、したの?」
涼風さんがひふみに話をふる。ちなみにこの少し前に、涼風さんはひふみのお酒を注文したりしていた。
実をいうと、頼まれたのは俺なのだが、面白そうだったので涼風さんに頼んでみたというわけである。
ひふみが顔を真っ赤にして焦る姿だったり、お酒の名前を言い間違えたりした涼風さんが可愛かった。
「どうして興梠さんとは積極的に話すんですか?」
「っ!?」
そして話は先ほどに戻るというわけである。渦中のひふみさんは、涼風さんの質問に顔を真っ赤にしていた。
「そ、そそ……そんな風に……見えた?」
「はい! 今日も興梠さんと楽し気に話していましたし。それと、興梠さんには自然な笑顔を見せるんだなぁと」
「っ!!」
追撃を受け、ひふみの顔がさらに赤く染まる。傍から見ると完全にいじられてるよな、ひふみ。涼風さんに悪気は全くないと思うんだけど。
やっぱり、涼風さんは天性のSなのだろう。
「まぁ、ひふみにとって俺は元上司だしな。他の人より喋りやすいんだろう」
このままだとひふみが、無意識的に羞恥プレイを受けると悟った俺は助け舟を出す。
「あっ! そうだったんですね」
納得といった表情で頷く涼風さん。
「そうだったんだよ。上司でいた期間もそれなりに長かったしな。話す機会は他の人より格段に多かったんだよ。だよな、ひふみ?」
確認をとるためにひふみに視線を向けると、なぜか彼女はむすっとした様子で口をとがらせていた。
「ひふみ? どうかしたのか?」
「……なんでも、ないよ」
プイっと拗ねたようにそっぽを向くひふみ。そんな表情も天使……じゃなくて、どうしてひふみは怒っているのだろう?
「ひふみ先輩、どうかしたんでしょうか?」
「さぁ……」
涼風さんと共に首を傾げるも、結局答えは出てこなかった。
「タケル君の鈍感」
☆ ★ ☆
「それでは……二次会来る人!」
コウが大きめの声を出して参加を募る。
「私はゆんを送って帰りますー」
しかし、はじめは酔っぱらってふらふらとユンを送るといって参加せず、ひふみはいつの間にかいなくなっていた。
(俺も今日は疲れたし、帰ろうかな~)
流れに乗って俺もさりげなく帰ろうとしたのだが、
「私はいけます……」
とっくに限界を突破したと思われるりんが手を上げる。おいおい、大丈夫なのかよ……。
「よしっ、じゃあ4人でいこう!」
無理やりな感じで二次会参加が決定した。そのまま歩いていき、近くにあったバーへと入店する。
「マスター、なんかウイスキー。青葉は?」
「え、えっと……あっ、私はこのオレンジブロッサムで!」
「青葉、それお酒だよ?」
「えっ!?」
お酒、飲んだことないもんね。間違えてもしょうがないよね。
仕方がないので、俺がオレンジブロッサムを注文し、涼風さんはオレンジジュースに落ち着いた。個人的には、バーにオレンジジュースがあることに驚いたんだけど……。
その後はお酒を飲みつつ、少しだけ話をしてすぐに解散となった。しかし、問題は解散後にあって、
「そういえば、りんとタケルの家って近いんだっけ? りんってば、ふらふらだから送っていってあげてよ!」
「えっ……」
「じゃあ、よろしくね~」
文句を言う暇もなかった。コウが手を振りながら帰っていく。
「興梠さん、大丈夫ですか?」
「……あぁ、俺のことは気にしなくていいから、涼風さんも帰っちゃって大丈夫だよ。それに、早く帰らないと親御さんも心配するだろ?」
ほんとなら手伝ってほしいけど、高卒一年目の涼風さんを遅い時間まで連れまわすのも申し訳ない。
そもそもコウにしても涼風さんにしても、手伝わせると必然的に家が隣同士だということがばれてしまう。だから、りんを送るのは俺しかいないというわけだ。
「それじゃあ興梠さん、お疲れ様です」
「お疲れ。気を付けて帰れよ」
涼風さんを見送った後、どうしたもんかと腕を組む。こんなべろべろのりんを電車に乗せるわけにはいかないしな。
仕方がないので、適当にタクシーを捕まえ俺は何とかしてりんと乗り込む。幸い、ここから俺たちのマンションまで距離はないので助かった。
タクシーの運転手に道を教え、ふぅと息を吐く。
「……こうひゃん」
「……寝言までコウの名前を呼ぶのかよ」
悔しいけど、幸せそうに眠るりんの顔は可愛かった。そして無事マンションにタクシーが到着したのだが、
「どうやって運ぼう?」
りんは完全に眠ってしまい、起きる気配がない。
「はぁ、仕方がないな」
優しい運転手に手伝ってもらい、りんを自分の背中にのせる。そのまま運転手に頭を下げ、俺はマンションのエレベーターへ。
背負ってみて分かったことなのだが、彼女は驚くほど軽い。しかも、いい匂いがする。あと、おっぱいがやわらかい。
ドキドキするなと言い聞かせていると、ようやくりんの部屋の前に到着した。一度彼女を背中からおろし、申し訳ないと思いつつ彼女の鞄を漁る。
「鍵はどこだ……あっ、あったあった」
鞄の中に入っていてくれてよかった。これがスカートのポケットとかだったら、もっと四苦八苦していたところだろう。
「さて……」
鍵は開けた。しかし、降ろしてしまったのでもう一度背負いにくい。こうなれば、方法はもう一つしかないだろう。
「よっと!」
俺は寝ている彼女を横抱きにする。一瞬躊躇したものの、すぐに下ろして帰ればいいと自分を納得させ、部屋の中へと足を踏み入れた。
「……綺麗な部屋だな」
部屋はりんの性格を表したかのように整理整頓され、趣味のよい家具などが置かれている。ゲームとか漫画が散乱している俺の部屋とは大違いだ。
なんてことを考えつつ、俺はりんをベッドの上におろす。これで無事、任務完了だ。俺はテーブルの上に簡単なメモを残すと、彼女の部屋を後にする。
そして、自分の部屋に戻ると、勢いよくベッドにダイブした。
「つ、疲れた……」
酔っぱらいの相手がまさかこんなに疲れるだなんて……。
「酒は飲んでも飲まれるな、か」
この言葉がいろんな意味で身に染みる一日だった。
☆ ★ ☆
次の日。
「えっ、なにこれ?」
休日をいいことに昼まで寝ていたのだが、インターホンによって起こされ、玄関の前にいたお客に驚いていた。
「だから、昨日のタクシー代。それと、散々助けられたみたいだからそのお礼!」
若干怒りつつ、りんがタクシー代とケーキが入っている箱らしきものを押し付けてきている。
どうやら、ケーキ屋までいって買ってきたものらしい。
「いや、タクシー代は貰うけど、こっちの箱は別に――」
「いいから受け取って!」
強引に押し切られ、俺は仕方なく箱を受け取る。
「それじゃあ、これで借りはチャラだから!」
そう言って自分の部屋へ……帰る前に一度、俺の方に振り返る。
「き、昨日は、その……ありがとう」
少しだけ顔を赤くした彼女はそれだけ俺に伝え、今度こそ自分の部屋へ戻っていった。
しばらくの間、りんのいた場所を呆然と見つめていたのだが、
「いつも、あれくらい素直ならいいのに」
思わずそう呟いてしまった。