この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

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準備

再起動したカズマを荷車から出し、俺は再び準備を始めた。

 

今回は装備の確認は済んでいるからスキルの習得だな。レベル20あたりからポイント割り振るのもめんどくさくなってやってなかったからな。

ちなみに今のレベルは26、最後にポイントを割り振ったのが19の時だから今割り振れるのは7レベル分のポイント、14ポイントだな。

 

レベルが1上がるごとに2ポイント習得は少ないのか多いのか分からんが、伸びしろが悪くなってきたらこの世界のスキルにあるレベルドレインをしてもらうのも手なんだろうな。こっちの手に入れた情報ではスキルはドレインされないらしいから、スキル熟練度上げ放題だわ。

 

さて、冗談はさておき。

 

今回習得するのは『寒さ無効』『破壊王』だな。

 

『寒さ無効』は3ポイント。スキル名の通り寒さを感じなくなるスキルだ。

…まぁ、しょうもないと思われるのも仕方ないんだがな?これが意外と効くんだよ。寒くなってくると自分の身体が冷たくなって思ったように動かなくなるんだが、狩場で体が動かなくなるとか死も同然だからな。ただでさえ凍土とかにイビルジョーいるし。あれ狩るの面倒なんだよ……。

 

で、『破壊王』は10ポイント。これも文字通りモンスターの部位を破壊しやすくなるスキルだ。……正直部位破壊の強化とか必要ないんだが、これから強敵と戦うとこになるだろうしな。取っておいて損はない。

 

さて、これで俺のスキルは

『狩猟笛』以外の全ての武器スキル

『耳栓』

『回避性能+1』

『寒さ無効』

『破壊王』

になったわけだ。いやー……何したいのか分かんねぇなこれ。

 

それにしてもレベルが26になったってことはそれだけモンスター狩ってるってことだよな…。少し気になった俺はアイテムボックスに入っていたカード。つまりモンハンの方のギルドカードを見てみる。

 

紫と金色で装飾されたギルドカードの項目の一つに、モンスター狩猟記録なるものがある。これは冒険者カードと同じく、自分が討伐したモンスターを自動で記録するものだ。なぜかこの世界で討伐したモンスターも記録されている。

 

これによると一撃熊を21匹、初心者殺しを13匹討伐してるみたいだな。なんだ、そんなに狩ってなかったわ。すぐ上の項目のドスジャギィ討伐数232匹に比べたら…な。

ちなみに一撃熊となんとなく特徴が似てるアオアシラの討伐数は108匹だ。普通だな。どっちかって言うと平均以下だろう。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

セイラー一式を着込みギルドに向かうと、カズマの服装が大きく変わっていた。

 

今まで日本人感丸出しな緑のジャージを着ていたのが、今はこっちの世界の服の上に革製の胸当てに金属製の籠手、同じく金属製のすねあてを装備している。

 

そういえばミコトの装備を渡してやればよかったんじゃないかと一瞬考えたが、いくら身長が同じほぼとはいえ主に胸回りのサイズが違う。モガの村の鍛冶屋なんかも「防具は体型が変わると調整するのが大変」って言ってたしな。その人に合った装備を特注で作ってくれてるんだろう。どうせ渡してサイズがあってたとしてもカズマには重くて扱えんだろうしな

 

「装備を買ったのか。似合っているぞカズマ」

 

「お、おう」

 

軽く声をかけると目をそらされた。解せぬ。……って、今朝のことまだ引きずってんのか、解せた。

 

反応返してくれるだけマシか。昔本気で驚かせた上に煽りまくった友達は2日くらい口きいてくれなかったからな。

 

「ミコトは…なんだかよく分からない格好になってますね。カズマが冒険者らしくなったと思ったら今度はミコトですか?」

 

「いやいや、これも立派な防具だぞ。私が使った薬の効果を全員に行きわたらせる効果と水中でも呼吸が出来るようになる効果が現れる」

 

「なんですかその不思議な防具…」

 

めぐみんの怪訝な物を見るような目線を無視していると、カズマが口を開く。

 

「まぁ、それは置いといてさ。装備もそろえたことだし、クエストにでもいかないか?」

 

カズマの提案にダクネスがふむと頷く。俺は手ごたえのあるクエストに行きたいな。できれば討伐に2時間くらいかかるのが。

 

「ならばジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているから、それを……」

「「カエルはやめよう!」」

 

ダクネスの提案をアクアとめぐみんが強い口調で拒絶する。

 

「……なぜだ?カエルは刃物が通りやすく倒しやすいし、攻撃法も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい。薄い装備をしていると食われたりするが、今のカズマの装備なら、金属を嫌がって狙われないと思うぞ。アクアとめぐみんは私がきっちり盾になろう」

 

「あー……。この2人はカエルに食われかけたことがトラウマになってるんだ。アクアは頭からぱっくりいかれて粘液まみれになったからな」

 

「……あ、頭からぱっくり……。粘液まみれ……」

 

「ダクネス、まさか興奮してないだろうな」

 

「してない」

 

ダクネスは目を反らして即答してくるが、顔が赤いから不安になってきた。今度俺がカエルの駆除しておこう。

 

「とりあえずカエルはやめとくとして、他の行くか。緊急クエストのキャベツを除いたらこの面子での初クエストだ。楽に倒せるヤツがいいな」

 

……まぁ、俺以外は皆レベルが低いから簡単なのにするのはしょうがないか。ついでにカズマの剣の腕を鍛えてやろう。新人ハンターを指導する上級ハンターってのも憧れてたしな。

 

カズマの堅実な判断にこっちで勝手に納得しているとアクアがカズマを小馬鹿にし始める。

 

「これだから内向的なヒキニートは……。そりゃあ、カズマは1人だけ最弱職だから慎重になるのも分かるけど、この私を始め、上級職ばかりが集まったのよ?もっと難易度の高いクエストをバシバシこなして、ガンガンお金を稼いで、どんどんレベルを上げて、それで魔王をサクッと討伐するの!というわけで、一番難易度の高いヤツを行きましょう!」

 

「……お前、言いたくないけど……。まだ何の役にも立ってないよな」

「!?」

 

おっと、思わぬ反撃。カズマのことだから怒って怒鳴り散らすとばかり。

 

「本来ならば俺は、お前から強力な能力か装備を貰って、ここでの生活には困らないはずだったわけだ。そりゃあ、俺だって無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんてつけたくないよ?それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺なんだし!でも、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰ったわけなんだが、いまのところ、特殊能力や強力な武器並みにお前は役に立ってくれているのかと聞きたい。どうなんだ?最初は随分偉そうで自信たっぷりだったくせに、ちっとも役に立たない自称元なんとかさん」

 

「うう………。も、元じゃなく、その……。い、今も一応女神です……」

 

「女神!!女神ってあれだろ!?勇者を導いてみたり、魔王とかと戦って、勇者が一人前になるまで魔王を封印して時間稼いだりする!今回のキャベツ狩りクエストで、お前がしたことって何だ!?最終的には何とか沢山捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに翻弄されて、転んで泣いてただけだろ?お前、野菜に泣かされといて本当にそれでいいのか?そんなんで女神名乗っていいのか!?この、カエルに食われるしか脳がない、宴会芸しか取り柄がない穀潰しがぁ!」

 

「わ、わあああーっ!」

 

こ  れ  は  ひ  ど  い

 

何もフォローできないくらいに事実だし。正論の嵐とはこのことか。

 

「わ、私だって、回復魔法とか回復魔法とか回復魔法とか、一応役に立ってるわ!なにさ、ヒキニート!じゃあ、このままちんたらあやってたら魔王討伐なんでどれだけかかるか分かってんの!?何か考えがあるなら言ってみなさいよ!」

 

涙目でカズマを睨みつけるアクアの反論を鼻で笑う魔王……じゃなった。カズマ。

 

「高校もさぼりまくってプロのゲーマーとして着々と修業を積んでいた俺に、この手のことで何の考えもないと思っていたのか?」

 

「プロのゲーマーだったの?」

 

「……言ってみただけだ。いいかアクア。俺には物語に出てくる主人公みたいな凄い力なんてない。だが、日本で培った知識はある。そこで、俺にも簡単に作れ、かつこの世界にない日本の物とかを、売りにだしてみるってのはどうかと思ってな。ほら、俺は幸運が高い。商売でもやったらどうだって受付のお姉さんにも言われただろ?そこで金を集めて、今回のキャベツみたいに楽に経験値を集めようと思ってる」

 

俺以外に聞いてる人がいなかったからいいものを、この世界の人に日本がどうこうこの世界がどうこうって言ってるのを聞かれたら大変なことになるだろうな。

 

…それはともかく。アクアの考え方が通用するのはこの世界に転生してきたチート持ちと俺達ハンターだけだ。……あれ?ハンターって人外?

 

よく考えたら災害級のモンスターを制限時間付きで討伐するとか……転生者以上のチートなんじゃないか?ただの回避行動でも無敵になれる時間ってのがあるし…。

 

「ってわけで、お前もなにか考えろ!何か、手軽にできてもうかる商売でも考えろ!あと、お前の最後の取り柄の回復魔法をとっとと教えろよ!スキルポイントが溜まったら俺も回復魔法の1つくらい覚えたいんだ!」

 

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!嫌よぉ!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだからいいじゃない!嫌!嫌よおおお!」

 

……これ俺が全体回復魔法と似たようなのを使えるって言わないほうがいいよな。アクアの存在意義がマジでなくなるぞ。

 

「……何をやってるんですか?……結構えげつない口撃力がありますから、遠慮なく本音をぶちまけていると大概の女性は泣きますよ?」

 

「うむ。ストレスが溜まっているなら……。アクアの代わりに私を口汚く罵ってくれても構わないぞ。……クルセイダーたるもの、誰かの犠牲になるのは本望だ」

 

めぐみんとダクネスが帰ってきた。二人の視線はテーブルの上で泣き続けるアクアに注がれている。心配してほしいのか何なのか、何ながらチラチラとこちらの様子をうかがってくるのがイラッとする。

 

「こいつのことは気にしなくていい。しかし………ダクネスさんも着やせするタイプなんですね……」

 

今日のダクネスは結構薄着だからな。そういう感想が出るのも仕方がないだろう……まて、今『も』って言ったかこいつ。さっさと忘れてほしいんだが……。

 

「……む。今、私のことをエロい身体しやがってこのメス豚が!』といったか?」

「言ってねぇ」

 

こいつの耳、特殊なフィルターが入ってんじゃねぇのか?見た目は美人なのにもったいない…。……ん?何だカズマ、突然こっちを一瞥して。

 

「おい、今私をチラ見した意味を聞こうじゃないか」

 

「意味はないさ。ただ俺にロリコン属性が無くて良かったと思っただけだ」

 

「紅魔族は売られた喧嘩は買う種族です。よろしい、表に出ようじゃないですか」

 

ヤンキーかなんかか紅魔族ってのは。

 

「話を戻すが、クエストを受けるなら、アクアのレベル上げが出来るものにしないか?」

 

「どういう事だ?そんな都合のいいクエストがあるのか?」

 

「プリーストは一般的にレベル上げが難しい。なにせプリーストには攻撃魔法なんてものが無いからな。戦士のように前に出て敵を倒すわけでもなく、魔法使いのように極力な魔法で殲滅するわけでもない。そこで、プリーストたちが好んで狩るのがアンデット族だ。アンデットは不死という神の理に反したモンスター。彼らには、神の力がすべて逆に働く。回復魔法を請けると身体が崩れるのだ」

 

アンデットは不死……か。じゃあ腕のいい剣士を調教して俺の組手の相手をさせれば……嫌、駄目だ。上半身と下半身がおさらばするかもしれない。

 

「うん、悪くないな。問題はダクネスの鎧がまだ戻ってきてないことなんだが……」

 

「うむ、問題ない。だてに防御スキルに特化してるわけではない。鎧なしでもアダマンマイマイより硬い自信がある。それに、殴られた時、鎧なしの方が気持ちいいしな」

 

「……お前今殴られるのが気持ちいいって言ったか」

 

「言ってない」

 

「言ったろ」

 

「言ってない。問題はアクアにその気があるかだが………」

 

「…おい、いつまでもめそめそしてないで会話に参加しろよ。今、お前のレベルのこと……」

 

カズマがいまだにテーブルに伏せているアクアに声をかける。

 

「……すかー……」

 

アクアは泣き疲れて眠っているんだが。子供だろこいつ、精神面が特に。

 

あ、そうだ。

 

「カズマ、アンデッドの討伐なら装備を変えたい。少し遅れることになるがいいか?」

 

「別にいいけど……その装備じゃいけないのか?」

 

「ゾンビとかの腐っても歩行してくる敵に銃弾なんて打ち込んでも穴が開くだけだろう」

 

「お、おう」

 

というわけで俺は荷車に戻ろう。剣に持ち替えだ。最近使ってない双剣とかいいかもな。


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