この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

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スキル

カエルの討伐の次の日の早朝。

 

俺は例の屋根付き荷車で目を覚ます。なんとこの世界では新人冒険者は馬小屋で寝泊まりするのが基本などというふざけた意識が根付いていたので宿が取れなかった。俺の装備を見ても冒険初心者と抜かしたあの宿主はある意味根性と良い観察眼があると思う。そういえば少し前にパーティーを組んだ少年も馬小屋に泊まっていると言っていたな。

 

そんなこんなで俺の荷車は適当な馬小屋の隣に泊めてある。まさかカズマたちが寝泊まりしている馬小屋とは思わなかったがな。

 

最近は冬が近くなり、だんだんと涼しくなってきた。おそらく真冬になるとマイナス気温に入るだろうが、馬小屋の冒険者たちは凍死しないのだろうか?もしくは冬の期間だけ宿をとるとかかな。まぁ俺は荷車を改造して寒さ対策してるけど。

 

具体的に言うと《白兎獣の豪剛毛》……まぁG級ウルクススの体毛だな。それを頑張って加工して絨毯みたいに床に敷き詰めたり布団にしたりしている。この絨毯の上に転がってこの布団をかけると、驚くほどふわっふわするものに包まれて即座に寝ることが出来る。寒冷地に生息する生物ということもあって耐寒性に優れており、冷たい空気なんか即シャットアウトされる。正直手放したくないが、他の冒険者にみっともないと思われたくないからしょうがない。

 

というか、ミコトの健康児っぷりがやばい。最近買った時計を掴んで見てみるが時計が指しているのは5:33。朝の5時。そりゃ小説とかでも狩りの準備を早朝からやってるガンナーもいたけどさ。今まで一回もボウガン系は使ってないんだからそんな早起きじゃなくていいじゃないか。さっきカズマたちの様子を見てきたが、いびきかいてたぞ。アクアが。

 

カズマはアクアに布団盗られてたな。一応アイテムボックスに入ってた毛布を掛けてあげといた。女神の名が泣いているぞ。

 

……さて、適当に狩りでも行くか。どうせカズマたちは昨日の疲れでこのまま寝るだろうし、無理に起こすのも悪いからな。

 

ちなみに今日の装備は白と青が基本色のベリオX一式。一式そろえるとまるでコートみたいな見た目になるから耐寒にはいいと思って装備した。おそらく一番耐寒性に優れているのはウルクX一式だろうが、まだそこまで寒い訳じゃないしこれでいいだろう。あれ防御力低いし。

 

武器は氷属性の太刀、『グラスディーヴァ』だ。氷属性が付いてる武器を使って狩りをするのは初めてなのでどんな効果が出るか楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

とりあえずマンティコアとグリフォンの縄張り争いを両方成敗することで納めてきた。

 

氷属性の武器の効果はなんというか、若干地味なので簡単に説明するだけにするが、刃が触れたところが太刀の冷気で凍るだけだった。激しい戦闘をしていれば氷は剥がれるし、相手の動きに多少制限が付くだけだろうか。あまり好みではないな。

 

浴場で汗を流し、受付で報酬を受け取っているとカズマがようやく起きてきたのでそのまま一緒に昼食を摂ることにした。

 

カズマは意識を覚醒させてから来たようで目がしっかりと開いている。アクアは俺が風呂に入っている間に来ていたようで、ギルドの一角で宴会芸を披露していた。どうやらアクアはおひねりを貰わないようにしているらしいが、あの腕ならばどこかの街の路上でパフォーマンスをするだけでその日を生きるだけの金は手に入りそうなものだが。

 

アクアの宴会芸を見ながら食事を摂り始めてしばらくすると、カズマが口を開く。

 

「なぁ、聞きたいんだがスキルの習得ってどうやるんだ?」

 

そういえばカズマはスキルポイントについての説明も昨日受けたばかりでポイントの振り方を知らないのか。

 

定食を口いっぱいに詰め込んでしばらくは咀嚼するであろう様子のめぐみんの代わりに俺が教えるとしよう。

 

「本来ならカードに職業に応じたスキルが表示されるんだが、職業が冒険者の場合は話が別になる。冒険者は、人にスキルの使い方を教えてもらい、実際に目で見たり体験したりすることでカードの習得可能スキルという項目に教わったスキルが表示される。そのスキルの習得に必要なポイントを支払って選択すれば習得完了だ。冒険者職は基本的に全てのスキルを手に入れることが出来るのが特徴だな」

 

「……なるほど。つまりミコトに教えて貰えば昨日の神業じみた射撃が、めぐみんに教えて貰えば爆裂魔法が俺にも使えるようになるのか」

 

「その通りです!!」

 

 

「うおっ!」

「おっと」

 

カズマの何気ない一言に反応しためぐみんは口の中に遭ったものを一気に飲み込みカズマに詰め寄る。めぐみんとカズマの間に俺が座っていたので俺が太ももでめぐみんを軽く支える形になった。あぁ…胸がない…。

 

「その通りですよカズマ!まぁ、習得に必要なポイントは馬鹿みたいに食いますが、冒険者は、アークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。爆裂魔法を覚えたいならいくらでも教えてあげましょう。というか、それ以外に覚える価値のあるスキルなんてありますか?いいえ、ありませんとも!さぁ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃないですか!」

 

「ちょ、落ち、落ち着けロリっ子!つーか、スキルポイントってのは今3ポイントしかないんだが、これで習得できるものなのか?」

 

「ロ、ロリっ子……!?」

 

「……爆裂魔法は本来優秀なアークウィザードでも数年かけて習得するものだ。ただでさえ習得に必要なポイントが他よりも高い冒険者では十年以上ポイントを使わなくてようやくといったところだろうか」

 

「待てるかそんなもん」

 

「ちなみに昨日の射撃はスキルの補助は一切なしでやったものだが、カズマが使おうと思うなら私は訓練を手伝うぞ?こちらも数年かかるだろうが」

 

「……遠慮しとく」

 

残念。後衛が増えれば多少は無茶な行動をしてもフォローしてくれると思ったのだが。

 

先程カズマにロリっ子扱いされためぐみんはいじけて再び定食に手を伸ばし始めた。宴会芸を披露していたアクアも満足した様子でこちらにやってくる。

 

「なぁアクア。俺もスキルの習得をしたいんだが、お前なら便利なスキルたくさん持ってるんじゃないか?何か、お手軽なスキルを教えてくれよ。習得に余りポイントを使わないで、それでいてお手軽な感じの」

 

「……しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端ないわよ?本来なら、誰にでもホイホイと教えるようなスキルじゃないんだからね?」

 

やたらと勿体を付けるアクアだが、そこら辺のプリーストかアークプリーストに多少金銭を握らせれば聞けることだろう。そこまで自慢げにならなくても……。

 

だがこちらとしてもアークプリーストのスキルというのはなかなか見れるものじゃないので俺も見ておこう。回復系とバフ系が多いと聞くが、一体どんな……

 

「じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちないように載せる。ほら、やってみて?」

「さあ、この種を指で弾いてコップに1発で入れるのよ。すると、あら不思議!このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

 

(「誰が宴会芸スキル教えろっつったこの駄女神!」)

 

「えぇーーー!?」

 

何を血迷ったか宴会芸とか言う使いどころの分からない無駄スキルを享受させようとしたアクアはカズマのツッコミでなぜか落ち込み、めぐみんと同じようにしょんぼりと肩を落としながら先ほど取り出した種をテーブルの上で転がして遊び始める。

 

落ち込んでいるアクアを見ていると、後ろから誰かの近づく気配を感じ振り返る。

 

「あっはっは!面白いねキミ!ねぇ、キミがダクネスの入りたがってるパーティーの人?有能なスキルが欲しいんだろ?盗賊のスキルなんてどうかな?」

 

後方には2人の女性がいた。1人は皮の鎧を身に纏った身軽な格好をした女の子。その慎ましい胸と口調などから童顔の男と勘違いしそうになるが、女の子だ。

 

右頬の小さな刀傷と銀髪が特徴的な子だな。というかぶっちゃけクリスだ。最近ダンジョン探索の臨時パーティーとして一緒に行動したことがある。確かに盗賊スキルは便利だな。特に『窃盗』と『トラップ解除』は。その他のスキルは俺の装備の発動スキルと狩人スキルで何とかなる。

 

「あ、キミもいたんだね。前は助かったよ」と声をかけてくるクリスに軽く返事を返しておく。

 

もう1人は初対面。フルプレートメイルを着込んだ金髪の女性だ。プレートの詳しい材質まではよく分からないが鉄かそれ以上の鉱石を整形して作ったものだろう。こっちは目立った特徴といえるものが美人であること以外は判断できないな。あえて言うならクールっぽい印象だ。

 

というかこっちの金髪は昨日カズマが話していた女性だな。俺達が風呂に入ってる間に面接に来たとかなんとか。

 

「えっと、盗賊スキル?どんなのがあるんでしょう」

 

「よくぞ聞いてくれました!盗賊スキルは使えるよー。罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。持っているだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、初期職業の冒険者なんだろ?盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?どうだい?今なら、クリムゾンビア1杯でいいよ?」

 

クリムゾンビアというのはこの酒場のメニューの酒だ。授業料としてはかなり安いな。

 

「よし、お願いします!すんませーん!こっちの人に冷えたクリムゾンビアを1つ!」

 

 

 




話進んでないですね…

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