この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

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討伐

「爆裂魔法は最強の魔法。その分、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

カズマ一行とパーティーを組んだ俺は街の近くにある平原に来ていた。俺が転生してから最初に見た景色との類似点が多い場所だな。近くに小川がないことぐらいかな?違うのは。

 

現在の俺の装備はナルガZ一式。

ネコミミみたいに見える頭防具と……なんだこれ。メッシュ?なんか網状の布的な物で腹部が若干出てるのが特徴的な緑色の装備だな。この装備、本来は黒なんだがナルガクルガの亜種の素材を使ってるから緑色だ。

 

発動スキルは《集中》《スタミナ急速回復》《回避性能+2》《ランナー》《見切り+2》《体術-1》。つまり向こうの攻撃は俺に当てにくく、俺の攻撃は激しさを増すって感じだな。《体術-1》で回避するときに余計に体力使っちまうけどそこは《スタミナ急速回復》でカバーできる。

 

難点があるとすれば腹の辺りが若干冷えることとカズマの視線が少し気になることぐらいか。女性の立場になって分かることってのが増えたけど、こんな増え方はごめんだった。

 

そうこうしているうちに作戦会議が終わったみたいだ。めぐみんが遠くのカエルを標的に爆裂魔法を放ち、カズマとアクアが近くのカエルの足止め。できれば討伐で俺が周囲の警戒と2人が危なそうだったら助ける役だ。

 

流石日本人だ、弓兵の扱いは慣れてるなカズマは。ゲームとかの知識だろうが、ほぼ正解だよ。

 

「なによ、打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力をみせてやるわよ!見てなさいよカズマ!今のところは活躍してない私だけど、今日こそはっ!」

 

カズマに馬鹿にされて怒ったアクアは見事カエルの体内へと侵入し自分の身をもって足止めすることに成功している。流石女神。俺らの身を危険にさらさないために自分から食われに行ったのか。

 

――そんなコントみたいなことをしていると、めぐみんの周囲の空気がピリピリと震えだした。

 

めぐみんの杖から発せられる魔力が空気を震わせているのだろう。何度か魔法使いともパーティーを組んだこともあるが、めぐみんはそれ以上だな。格が違うとも言っていい。

 

呪文を詠唱するめぐみんの声が一層大きくなり、めぐみんのこめかみを一筋の汗が伝う。

 

「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。……これこそが、究極の攻撃魔法です」

 

めぐみんの杖に光が宿り、カエルの足元に魔方陣が展開される。

 

「『エクスプロ―ジョン』ッ!」

 

平原に一筋の閃光が走り抜ける。

 

その直後、凶悪な魔法の効果が現出した。

 

目も眩む強烈な光、あたりの空気を震わせる轟音と共に、カエルは爆発四散する。

あまりの爆風にカズマが吹き飛ばされそうになりながらも踏ん張っているのが見える。俺も若干飛ばされそうになるが、ミコトの力を使ってその場に何とか立っている状態だ。

 

光が晴れると、カエルがいたところには20m以上のクレーターが出来ており、爆裂魔法の強大さを示しているように見える。この威力なら飛龍の甲殻を破壊するくらいはできるのではないだろうか。

 

「……すっげー。これが魔法か……」

 

めぐみんの放った爆裂魔法の威力に若干感動していると、地中から大量のカエルが顔を覗かせた。地中に眠っていたカエルがさっきの爆音で起きたんだろう。

 

「めぐみん!一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

 

カズマの声が段々と尻すぼみに小さくなっていく。当然だ。さっき爆裂魔法を使ったせいで魔力がほとんど空になって倒れているのだから。

 

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ消費魔力もまた絶大。……要約すると、身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょっ、助けっ……」

 

そこまで聞いて俺は背中の弓を抜き放ち弓を構える。『月穿ち(つきうがち)セレーネ』の金の装飾が太陽の光を反射してキラリと輝く。

素早く弓を引き絞り、放つ。

 

Lv.2の状態で放たれた矢はめぐみんを捕食しようと首をもたげるカエルの頭部ど真ん中に命中し、皮膚を、骨を、脳を貫通しながら焼き払い、体内を業火で蹂躙しながら背中から飛び出てくる。

一撃で致命傷を負い、瀕死の状態で前のめりに倒れ込むカエルに間髪入れずもう一度弓を打ち込む。

今度は皮膚に引っかかるようにして軽く放ったため、カエルの胴体は矢に引っ張られるようにして後方に転げた。

 

「…すっげぇ…」

 

俺の攻撃を見たカズマは感嘆の声を漏らしたが、気を抜きすぎだ。

 

「カズマ、私は這い出てきた他のカエルを討伐しておく。キミはそこで食べられてるアクアを救出してくれ」

 

「お、おう!」

 

俺はめぐみんの傍らに立ち、迫りくる4匹のカエルに狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよぅ……。生臭いよう………」

 

討伐の帰り道、俺の後ろを粘液まみれのアクアが泣きながらついてくる。

何とか無事だってめぐみんはカズマの背中におぶさっている。

 

魔法使いというのは魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を使うことになる。ただしここで言う生命力とは寿命などではなく、身体を動かしたりする体力のことを言う。めぐみんの場合は消費魔力が絶大すぎて、魔力が一瞬で空っぽになった反動で倒れてしまうのだろう。どちらにせよ、使いすぎると命に係わるはずだ。

 

「とにかく、今後爆裂魔法は緊急の時以外は禁止な。これからは、他の魔法で頑張ってくれよめぐみん」

「……使えません」

 

 

 

 

「………は?何が使えないんだ?」

 

「……私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」

 

「……マジか」

「マジです」

 

「爆裂魔法以外使えないってどういう事?爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得してない訳が無いでしょう?」

 

あ、カズマがよくわからないって顔してるな。

 

「スキルポイントとは職業に就いた時やレベルアップ時に貰える、文字通りスキルを習得するためのポイントだ。優秀な者ほど初期スキルポイントは高く、このスキルポイントを割り振って様々なスキルを習得することができる」

 

「そう、例えば超優秀な私なんかは、まず宴会芸スキルを取得し、それからアークプリーストの全魔法を習得したわ」

 

「宴会芸スキルって何に使うものなんだ?」

 

超優秀な粘液まみれの女神様はカズマの至極当然な質問を無視して話を続ける。おいまて、俺も気になるんだが。

 

「スキルは、職業や個人によって習得できる種類が限られてくるわ。たとえば水が苦手な人は氷結や水属性のスキルを習得すつるとき、普通の人よりも多くのスキルポイントが必要だったり、最悪スキルの習得自体ができなかったりするわ。……で、爆裂魔法っていうのは火と風系列の複合属性って言って、火と風属性魔法についての深い知識が必要なの。つまり、爆発系の魔法を習得できるくらいの者なら、他の属性なんて簡単に習得できるはずよ」

 

「爆裂魔法なんて上位の魔法が使えるのに他の魔法が使えないのはおかしいってことか」

 

「……私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃ無いんです。爆裂魔法だけが好きなのです。……もちろん他のスキルを取れば楽に冒険が出来るでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでももう違うでしょう。……でも、駄目なのです。私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ私の今の魔力では1日1発が限度でも。たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は爆裂魔法しか愛せない!だって私は、爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

 

 

…………えっ?なんだって?宴会芸スキルが気になりすぎてあんまり聞いてなかった。えっと、爆裂魔法がアークウィザードになった話だっけ。

 

「素晴らしい!素晴らしいわ!その、非効率ながらもロマンを追い求める姿に、私は感動したわ!」

 

あぁ、爆裂魔法の1発屋の話か。ロマンは重要だが命には代えられんし、俺は何とも言えんなぁ…。

 

「そっか。多分茨の道だろうけどがんばれよ。お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに付いたら報酬は山分けってことで。うん、まぁ、また機会があればどこかで会うこともあるだろ」

 

カズマのその言葉にめぐみんの手に力が込められているように俺には見えた。

 

「ふ……、我が望みは、爆裂魔法を撃つこと。報酬などおまけに過ぎず、なんなら山分けでなく、食事とお風呂とその他雑用費を出して貰えるなら、我は無報酬でもいいと考えている。そう、今ならアークウィザードである我が力が食費とちょっとだけで手に入る!これはもう、即契約を交わすしかないのではないだろうか!」

 

食費とお風呂と雑用費って、自分は金払わずに小遣いだけ貰って生活する気満々じゃねぇか。

 

「いやいや、その強力な力は俺達みたいな弱小パーティーには向いてない。そう、めぐみんの力は俺達には宝の持ち腐れだ。俺達みたいな駆け出しは普通の魔法使いで十分だ。ほら、俺なんか最弱の冒険者なんだからさ」

 

「いえいえいえ、弱小でも駆け出しでも大丈夫です。私は上級職ですけどまだまだ駆け出し。レベルも6ですから。もう少しレベルが上がればきっと魔法使っても倒れなくなりますから、で、ですから、ね?私の手を引き剥がそうとしないでほしいです」

 

「いやいやいやいや、1日1発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いから。くっ、こいつ魔法使いの癖に意外な握力を…!お、おい放せ、お前多分他のパーティーにも捨てられた口だろ、というかダンジョンにでも潜った日にはいよいよ役立たずだろ。お、おい、放せって。ちゃんと今回の報酬はやるから!放せ!」

 

「見捨てないでください!もうどこのパーティーでも拾ってくれないのです!ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします!お願いです、私を捨てないでください!」

 

……そろそろ街中で人の目が気になってくるしやめてもらいたいんだが……。カズマは常識的に考えてバカ高い威力を出せるにしても1発しか打てないとかありえないだろって感じで、めぐみんはもう行く当てがないから必死になってるってとこか。

 

しょうがないな……。

 

カズマの肩に手を置き、会話を中断させる。

 

「カズマ。私はめぐみんをパーティーに入れておいた方がいいと思うぞ?」

 

「えぇ……」

 

「まぁそんな顔をするな。今は1日1発しか打てないロマン型の一発屋だとしても、将来的に体力が付けば撃った後も自分で動くくらいはできるようになるだろう。そうなれば強力な魔法使いが普通に手に入ったことになる。それに、もし倒れたとしても今日のように私が何とかしよう」

 

「でもですね…」

 

「ついでに、1つ面白そうなことを教えてやろう。――周りを見てみろ」

 

カズマは俺の言った通り辺りを見渡し、ある一点をみて固まった。当然だ。視線の先には先程の会話を断片的に聞き取った女性3人がひそひそと話をしているのだから当然かもしれないな。

 

「――やだ……。あの男、あの小さい子を捨てようとしてる……」

「――隣には、なんか粘液まみれの女の子を連れてるわよ」

「――あんな小さい子を弄んで捨てるなんて最低のクズね。見て、近くの子はヌルヌルだし、あの子のマントにも少しヌルヌルが付いてるわよ?一体どんなプレイをしたのよあの変態」

 

カズマの顔が目に見えて青くなり、背中のめぐみんは悪人顔でにやにやと笑っている。めぐみんは悪人顔のまま口を開く。

 

「どんなプレイでもだいじょ――むぐっ」

「よーし分かった!めぐみん、これからよろしくな!ミコトさ…ミコトもよろしく!」

 

こうして俺のパーティーが決まった。

変態(誤解)と超優秀(笑)と最強の爆裂魔法使い(一発屋)の愉快なパーティーに入ったことでこれからの冒険にも身が入るというものだ。




もしこの主人公に使ってほしい武器があったら活動報告にお願いします。
このままだと自分の得意な武器しか書かないかもしれないので…

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