女神との再会から1週間ほど経過した。彼らは土木工事のアルバイトをしていたようだ。神がバイトとは、世界が平和な証かな?
さて、俺のレベルは23とアクセルの街では比較的上位のレベルになったが、まだ街から出る気はない。というのもこの街にいると何やら面白いことが起きるという俺の勘が働いているのだが…まぁ、いつそんな面白いことが起こるのかは不明だ。
パーティーメンバーとして俺に依頼する冒険者が増え始めたが、「自分の時間も欲しい」と一言言ったらある日ぱったりと来なくなった。いいことだ。最近俺任せで一切努力しない奴が増えてきたからな。
というかそろそろ1つのパーティーに留まりたくなった。毎回初対面の冒険者と自己紹介から始めて、相手のことだけ聞いて依頼が終わったらはいさようならではなんだか寂しい気もする。
というわけで適当なパーティー募集の張り紙を確認しているのだが、どれも平凡すぎて面白くなさそうだ。出来れば俺のことを詳しくは知らないような初心者が集まっているようなパーティーに行きたい。リーダーがやりたいわけではないが、それとなくメンバーをサポートする強キャラってなんだか憧れるしな。
さて、目を引くのはまるで呪詛のようにメンバーの条件が長ったらしく綴られているのとクッソ汚い字で書かれている募集の張り紙だ。
正直呪詛の方は行く気どころか読む気が失せてしまったのでクッソ汚い字の方を読んでみる。
『急募!アットホームで和気あいあいとしたパーティーです。
美しく気高いアークプリースト、アクア様と旅をしたい方はこちらまで!
【このパーティーに入ってから毎日がハッピーですよ。宝くじにも当たりました】
【アクア様のパーティーに入ったおかげで、病気が治ってモテモテになりました!】
※上級職の冒険者に限ります』
文面からIQの低さがにじみ出ているが、まぁ面白そうなのでよしとしよう。
このアクアというのは確か女神の名前だったか。あいつらも冒険者として活動を始めたのかもしれない。
周囲を軽く見渡すと、テーブル席で落ち込んでいる二人組を確認できた。
軽くため息を吐いてその二人の元へ向かう。
「パーティーメンバー募集の張り紙を見て来たんですけど、申請してもいいですか?」
2人に声をかけると、少年は驚いたように、女神は嬉しそうにこちらを見る。
「も、もちろんですよ!どうぞ座ってください」
「ありがとうございます。では早速ですが自己紹介から。私はミコト。職業は
「あっ、はい。えっと、俺はカズマって言います。職業は冒険者で、ナイフを使って戦おうと思っています」
「私は水の女神、アクアよ!職業はアークプリースト、浄化魔法と回復魔法が得意よ!…ところで
「
「えっと、ミコトさんが使える武器ってどんなのがありますか?」
「ミコトでいい。…大剣、太刀、片手剣、槍、銃槍、ハンマー、双剣、弓やボウガン……他にも使える武器はある…得意なのはこんなものか。他に何か質問は?」
そんな感じで2人の質問に答えていった。
○○○○○○○○○○
「まぁ、私の実力は口で説明しても想像しにくいだろうし、実戦で確かめて欲しい」
「はい!よろしくお願いします!」
10分ほどの会話だったが、2人にいい印象を与えられたのではないかと思う。あとは実戦でしくじらなければいいのだが……。
「上級職の冒険者募集を見てきたのですが、ここでいいのでしょうか?」
さて狩りに行くかと立ち上がりかけたところで、後方から声がかかった。
振り返ると、そこにはなんとなく気だるげで、眠そうな赤い瞳をした全体的に黒いロリだった。
目の前のロリは黒いマント、黒いローブ、黒いブーツに杖を携え、トンガリ帽子まで被った典型的な魔女のイメージにぴったりの子だった。顔についてはけっこう整っているのではないだろうか。……うーん。女神の時と言いあまり人と接していなかったから美人とそうじゃない人の境界が曖昧になっているな…。
その、見た目の年齢が13歳くらいの、眼帯で片目を隠した少女は突然マントを翻して高らかに自己紹介を始めた。
「我が名はめぐみん!アークウィザーを生業とし、最強の攻撃魔法、『爆裂魔法』を操る者……!」
「……冷やかしに来たのか?」
「ち、ちがわい!」
思わずといった感じで素の口調で突っ込んだカズマ。いや、そういいたい気持ちは分からないわけではないが……。
「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」
アクアがめぐみんに質問をする。
「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……!……というわけで、優秀な魔法使いはいりませんか?……そして、図々しいお願いなのですが、もう3日もなにも食べてないのです。できれば、面接の前に何か食べさせてはいただけませんか……」
アクアの質問に答え終わるのと同時に、めぐみんの腹部からキューと音が鳴る。
「……飯を奢るのは構わないけどさ、その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしてるなら、こいつに治してもらったらどうだ?」
「……フ。これは、我が強大なる魔力を押さえるためのマジックアイテムであり…。もしこれが外されることがあれば…、その時はこの世に大いなる災厄がもたらされるであろう………。あの、冗談なので、私の眼帯をじっと見つめないでください。特に外しても何も起きませんから」
おっと、無意識に眼帯を見つめていたようだ。流石戦闘狂と化しつつあるミコトの身体だな。災厄と聞いただけで古龍の進行並みの被害を予想したのだろう。
残念ながらジエンモーランやラオシャンロン並みの大きさの生物はこの世界にもいないと思う。というか竜の討伐依頼すら少ないからな。たまにあったらいいくらいだろう。それでも精々ワイバーンくらいなものだけど。
「…えっと、カズマに説明すると、彼女たち紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は、名前の由来になっている特徴的な赤い瞳と……。そして、それぞれが変な名前を持っているの」
「変な名前とは失礼な。私から言わせてもらえば、街の人たちの方が変な名前をしていると思うのですよ」
「……ちなみに、両親の名前は?」
「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー!」
「「「………」」」
紅魔族の独特なセーミングセンスに思わず閉口する俺達。
いや、紅魔族の独特の感性ではこれが普通なのだろう。俺達が今の感性でこんな名前つけられたら泣くわ。
「………とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな?仲間にしてもいいか?」
「おい、私の両親について聞きたいことがあるなら聞こうじゃないか」
カズマに詰め寄るめぐみんにアクアが冒険者カードを返す。
「いーんじゃない?冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも、高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄いことよ?爆裂魔法は極めて習得が難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」
「私は爆裂魔法の使い手を見たことがないので何とも言えないが、この子の加入を認めるかどうかはリーダーであるカズマの判断に任せる」
「おい、彼女とかこの子ではなく、私のことはちゃんと名前で呼んでほしい」
抗議をするめぐみんにカズマはメニューをそっと渡した。
「まぁ、何か頼むといいよ。俺はカズマ。こっちの青いのがアクアでそこの人はミコトさ…ミコトだ。よろしく、アークウィザード」
めぐみんは何かを言いたげな表情だったが無言でメニューを受け取った。
さて、どんな武器で行こうかな……。
前の回から時間が結構経過してるのでアクアはミコトのことを忘れています。