この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

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変化

さて、この街に到着してから早くも1ヵ月が経過した。

 

俺は毎日のように討伐系の依頼を請けて生計を立てている。

最近では強敵と言われるモンスターなんかを狩りすぎて市民やあまり関わりのない冒険者たちから《モンスター絶対殺すウーマン》だの《万能者》だの言われている。

 

前者はまぁ、初日に一撃熊とかいう街ではそれなりに強いとされていた熊を無傷で狩ってきたこととかも命名の理由に関係しているだろう。

 

不思議なことにこのミコトは飛竜種や古龍種を毎日のように相手していた時のことを身体が覚えており、一見こんなもん振り回せないだろってくらいでかい大剣を使ってすばしっこいホワイトウルフ数匹を各個撃破できるよう位には強い。まぁ、ジャギィとかの相手が出来るくらいだから当然だな。

 

ちなみに一撃熊の攻撃を受け止めたときにふと頭に浮かんできたのはアオアシラだった。実際に攻撃を受け止めたことはないからイメージと合っているのかは微妙だが、武器の時と同様、身体が覚えている感触みたいなものだろう。討伐中(精神)はいつ攻撃を食らうかと内心冷や汗をかいていたが、ミコト(肉体)は満足してなかったみたいだし、なんというか、精神と肉体の認識が別々にあるような感じで少しむず痒い。

 

 

後者については偶に臨時でパーティーに入るときにどんな役でも請け負えるからだろう。

 

初心者と思われる少年に依頼されてパーティーに加入したこともあった。その時は前衛の戦い方を教えてほしいと言われたので、後衛役として弓でサポートすると言ったら大層驚かれた。なんでもアーチャーでもないのに弓が使えるということに驚いたらしい。

 

その子からは報酬は貰わなかった。「今はお金が無いので馬小屋で寝泊まりしてます」とか言われたら報酬を受け取る気にはなれなかった。

 

その時からか忘れたが、依頼として俺を誘ってくる冒険者が増えた気がする。俺だって自由な時間は欲しいが、狩りが出来て分け前があるなら何ら問題はない。

 

今もそこらの冒険者とゴブリン狩りに行ってきたところだ。

 

筋骨隆々とした男冒険者が上機嫌で酒を呷るのを見ていると『これぞ冒険者!』という感じでほっこりする。俺の密かな楽しみだったりするが、断じて男性が好きなわけではない。精神は男だからな。

その男は俺の視線をどう捉えたのかセクハラ紛いの発言をして隣にいた女性冒険者にぶん殴られているが、これはこれで面白い。

 

さて、冒険者として変わったことはこれぐらいか。

 

 

最近女性としての立ち回りも気を付けなければならなくなった。

 

これは性転換の影響が強いだろうが、客観的に見ても一人称が「俺」ではいくら美女でも少し印象が悪くなるかもしれない。男勝りな女性が好きな奴ならば「俺」でも別にいいのだろうが、個人的には「私」といった方が印象はいいはずだ。そんな奴らに好意を抱かれても困るし。

偶に言い間違えそうになるがこれからも努力して人前では「私」と言うようにしよう。

 

それと、なぜか風呂に入っても女性の裸体に興奮しない。

 

何だろうか。不能だろうか。精神まで女性よりになっているのであればこれは由々しき事態だが、なんかもうどうでもいいかと半分諦めている。無意識でこうなっているのだし修正の使用が無い。

 

あと、ミコトは巨乳だった。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

そういえば、狩人(ハンター)のスキルの傾向が何となく分かってきた。

 

『大剣』や『太刀』などの名前で記されているものは武器の扱いやすさの上昇だ。

例えば『大剣』を習得すると大剣の重量が少し軽くなったように感じ、『ボウガン』や『弓』を習得すると狙いが付けやすくなったりする。

 

他は『水流』、『聴覚保護』などの一定の装備を揃えることで発揮されるスキルが沢山あるようだ。これはいちいち防具を一式そろえなくてもスキルさえ持っていれば大丈夫ということだろう。

 

一応今のレベルが19でスキルポイントが溜まっていたのでついさっきスキルにつぎ込んでおいた。

 

現在習得しているスキルは『狩猟笛』以外の全ての武器スキル、『耳栓』、『回避性能+1』だ。このあたりに咆哮を使ってくるモンスターなんてそうそういないから『耳栓』は失敗だったかもな。

 

『狩猟笛』を取っていないのは単純にゲーム時代俺が苦手だったからだな。多分ミコトは十全に使えるだろうけど、気分的に使いたくない。武器は一応揃えてるのにな。

 

「ハッ!」

 

そんなどうでもいいことを考えながらハンマーをモンスターの顎に向けて振りぬく。

 

最近繁殖期に入り凶暴性が増したという一撃熊に、怒れる砕竜の噴気をそのまま

封じたという蒼い爆槌が打ち砕く。

一撃熊の下顎には度重なる攻撃によって緑色の粘菌がこびりついており、その粘菌をハンマーで叩きつけるようにすると、粘菌に秘められた爆発性が牙を剥く。

一撃熊の顎を粘菌によって爆発させると、一撃熊は頭ごと爆散し、その生命活動を停止させた。

 

「流石、《モンスター絶対殺すウーマン》だな…繁殖期の一撃熊さえも歯が立たないとは…」

「バカ。ミコトさんがその異名嫌がってんの知らねぇのかよ」

 

後ろの方では今回のパーティーメンバー……名前忘れた。今回のパーティーメンバーの男2人がこそこそと話をしている。聞こえてるんだが…。なんでこういうのには効果発揮しないのかねぇ、使えん耳栓だ。

 

この2人には他のモンスターの乱入を防いで貰ってた。地味だが重要な仕事を引き受けてくれていたのでありがたい。

 

「見張り役ありがとう。討伐は終わったし、報告に帰ろうか」

 

「「はいよ」」

 

俺はポーチから薬を取り出し服用する。千里眼の薬というもので、効果は周辺のモンスターの位置が分かるというものだ。ゲームの時に全く使ってなかったからかなり在庫がある。

 

「にしても、そのハンマー凄いな。どこで買ったんだ?」

 

一人の男が俺に話しかけてくる。

 

「少し前に私の住んでいた村の鍛冶師の方にオーダーメイドで作った。素材持ち込みが条件だったがな」

 

「へー……ちなみに、いくらぐらいかかったんすか?オーダーメイドって、結構高くなるって聞きますけど」

 

「えっと、238000ゼ…エリスくらいだな」

 

「にじゅうさ……」

 

「最高級の装備を一式そろえれるレベルなんすけど…」

 

そんな会話をしながら冒険者ギルドに帰り、いつも通り飲み食い騒ぎをした。

どうやらミコトは酒に強いらしく、チェイサーなしでもかなりの人数を酔い潰せた。そいつらの介護もしなければならないのが難点だが。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

そんな日々を送る毎日で、1つ大きな変化があった。

 

 

ある日、いつものように冒険者ギルドに赴き適当な朝食を摂っていると、見覚えのある髪色の女性が冒険者ギルドに入ってきた。

 

青くつややかな髪と、まぁ綺麗なんじゃね?と思わせるプロポーションの女性、俺を異世界転生させたついでに性転換させた女神と瓜二つではないか。

後ろにいる緑色のジャージの男は日本人だろうか。あそこまであからさまな転生者に会うのは初めてだな。今まで何度か会った転生者は少なからずこの世界に溶け込んでいたのだが……。

 

どうやらあの女神一行も冒険者登録に来たようだ。真っすぐカウンターの方に行き、受付嬢に話を聞いて、固まった。

そのまま受付嬢に頭を下げ、テーブルに着いた。

 

……金が無いのか?俺の時は普通にあったが、女神自身が来ていると何か違うのだろうか。まぁいい。俺とは直接関係が無いのだからほっといても問題は「ねぇ、そこの貴女」……問題がこっちに来た。

 

「そう、貴女よ。さぁ、宗派を言いなさい!私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ!汝、もし私の信者ならば……!お金を貸してもらえると助かります!」

 

なんという低姿勢な女神であろうか。威厳が欠片もない。

周りでこのやり取りを見ていた他の冒険者がこちらに憐憫の目線を向けてくる。それも仕方が無いことだ。この女神が言い放った《アクシズ教団》。水の女神アクアを信仰し、悪魔死すべしと日夜行動している暴徒だ。他の宗派の教会に物を投げ込む、小便をかける、セクハラ行為など、犯罪行為を繰り返している。

そんな教団の元締めがこんなところにいるのだ。はっきり言って切り捨てたいが、知り合いのよしみで何とか留めておこう。

 

「無神論者ですが。…………いえ、冗談です。登録料が足りないんですね?お連れさんの分も差し上げますので、登録をしてきてください」

 

できる限り丁寧な言葉遣いになるように努力しつつ6000エリスほど握らせる。

 

無神論者だと言ったときの女神と少年の顔はなかなかに面白かったが、その顔で笑い転げるほど性格は悪くないのだ。

 

ちなみに渡すときに「いくら熱心な信者でも、女神を名乗ってはいけませんよ?」と小声で言ってやった。女神って知ってるのにな。……あれ?俺って性格悪い?

 

その後、女神たちの登録で一騒ぎあったようだが、その頃にはパーティー募集の依頼を請けてダンジョン攻略に出向いていたので俺が知るよしも無かった。

 

なんかダンジョン攻略の時に会ったクリスって女性が個性的だったのを覚えている。

ダンジョン探索の結果は上々。それなりに稼げたがモンスターに囲まれかける場面が何度かあったので弓ではなく片手剣を持っていけば良かったと後悔した。

 

 

まぁ、帰りに初心者殺しとか言う猫に遭遇した時には役に立ったからいいか。


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