この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

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アクセルの近くって川ありましたよね……?


冒険者登録

視界を埋めていた光が晴れると、サラサラと水の流れる音がまず耳に入ってくる。目を開けると、ここ数か月は目にしていなかった小川。それもかなり透明度の高い川だ。うん、異世界転生の最初の光景としては結構いい感じだな。

 

周辺を軽く見渡してみるが、近くにモンスターや人の影は無く、目立った建造物といえば遠くに霞んで見える壁のようなものだろうか。それしか確認できない。近くに馬車のようなものがあるのはおそらく俺の物だろう。動いてないしな。

 

どうやら比較的安全な平原、もしくは河原に転移できたようだ。

 

さて、一応安全は確認できたわけだし、転生特典の確認といきたいが…。

なんとなく身体が重い。かなりの重量で押し付けられているような感覚があったので、自分の服装を見下ろして確認してみた。

 

黒と蒼を基調とした鎧だ。肩からは蒼い突起物が天を指し、胴体には胸部と腹部から装備のつなぎ目を隠すように牙のような欠片が施され、腰から足にかけては黒く頑丈そうな皮が尻尾を連想させるように段々と重ねられている。

 

ここまで観察して、俺は頭にも兜を装備していたことに気が付く。そっと外してみると、中心に緑の宝玉がはめ込まれ、4本の角が特徴的なこれまた黒い兜だった。

 

背中には常にチリチリと帯電している2mはあろうかという剛大剣。こっちも黒と蒼が基調か。

 

…これ、アビス一式か。

ラギアクルス希少種の素材をふんだんに使った雷耐性が高い装備だったか。あとは泳ぐのが早くなったりが特殊効果だったはずだ。

 

そうなると大剣の方は『エンファルクス』だな。特徴的にも一致してるし一度だけ作った……記憶が…。

 

そこまで考えて俺は小川に走り、兜を脱いだ自分の顔を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに映っているのは美女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の光を受け銀色に輝く長髪。白く透き通るような肌。エメラルドのように明るい光を放つ瞳。

 

 

 

 

 

俺がモンハンを始めて最初に創ったキャラクター、『ミコト』が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰が女性アバターにしろって言った駄女神(クソビッチ)……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し深呼吸をして気を落ち着けた。

 

よくよく考えれば俺が女神に願ったのは《俺のモンスターハンター3Gの俺のキャラクターのデータ》であって、《アイテムボックスの中身》はあとからお願いした特典だ。あの女神が前者のことだと思って話を進めていたのであればこちらに非がある。……腑に落ちないが。

 

転生特典のアイテムボックスについては近くにあった馬車の中に置いていた。アイルーの管理ボードや奇面族の仮面は置いてなかったがな。

それと、ミコトの所持金だったゼニー(Z)だが、全てエリスという単位の硬貨に代わっていた。

 

……この馬車、馬がいないんだが?

モンハンの馬替わり、草食獣のアプトノスもいないとか、これただの屋根付きの荷車じゃねえか。…そうなると……引っ張るしかないか。

 

試しに軽く荷車の取っ手部分?なんていうんだこの棒。まぁいいや。ここを引っ張ってみると、荷車は少しだが動いた。……ハンターの腕力って凄いな。

 

んじゃこのままさっき見えた壁のところまで行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

歩き始めて大体2時間くらい経ったか。日が傾き始めてきた頃になってようやく壁に辿り着いた。休憩を何回か挟んだとはいえ、少し時間がかかりすぎている気がしないでもない。

 

割りとでかい門をくぐり、住民の奇妙な物を見る目を抜けて考える。

 

「冒険者ギルドはどこだ…?」

 

こういったファンタジー物だと詳細な設定はともかく、冒険者と呼ばれる団体がいるはずだ。モンハンではハンターがその役だったはずだ。基本何でも屋で、採取、討伐、捕獲と主にモンスターと戦うものだが一応な。

 

アイテムボックスの中にギルドカードもあったが、あれはモンハンの世界の身分証明書であってこちらの世界での身分証明には不十分だろう。

そんな時に活躍するのが今探している冒険者ギルドだ。自分の今の状態(レベル)から討伐数まで記録できるような便利グッズが手に入るギルドも小説によってはあるのでこれを探したい。

 

 

 

 

 

しばらく街を彷徨いながらある情報を手に入れた。

 

この街の名前はアクセル。『始まりの街』アクセルと言い、冒険者になりたいと思うものはまずここに来て基礎訓練なんかをするようだ。ある程度実力が付いたら王都というまぁ、首都だな。そこに行って金を稼ぐのがほとんどらしい。

 

この辺は意外とモンハンっぽさが…あるのか?

 

下位→上位→G級と難度が上昇し、当然危険度も上がる。

この世界で置き換えるとアクセル→王都→魔王城とかか?

 

魔王城に金稼ぎに行けるような奴はさっさと世界を救える気がするのだが、まぁそこは気にしない。

 

 

そんなことを考えていると、酒場のようなところに着いた。

 

ここに冒険者ギルドが併設されているのは珍しくもないが、もしここに冒険者ギルドが無かったとしても情報収集に使えるだろう。差し出す情報料次第だとは思うが、まぁ大した損害にはならない。

 

 

「いらっしゃいま…」

 

扉を開けて酒場の中に入ると、挨拶をしてきたウェイトレスの女の子が言葉を詰まらせた。

中で酒を飲んでいたであろう屈強な男たちも仲間との談笑をやめこちらを見ている気がする。

 

…あぁ、そういえば装備を付けたままだったな。

ごつい鎧を全身に装備して2m台の剛大剣を背負った奴がいきなり来れば俺だって何事かと思う。

 

とりあえず兜を外してから固まっているウェイトレスに話しかける。

 

「…驚かせたならすまない。冒険者ギルドはここで間違いないか?」

 

「…え、えぇ。ここは冒険者ギルドですが……王都の冒険者さんでしょうか?」

 

「いや、そこらの小さな村から来た流浪人だ。ここで冒険者登録はできるだろうか」

 

「えっ。…………はい。奥のカウンターへどうぞ」

 

やばい。早速印象悪くなっただろうか。こういうギルド側の人間に余り不快感を与えて不利な状況になりたくないんだが……。

まぁ、いいか。過ぎたことは気にしないようにしてるからな。これからの態度で補おう。

 

あとそこらの男性冒険者。「えらい上玉じゃねぇか…」とかいうのやめろ。肉体は女だが心は男なんだからそういうこと言われても気色悪いだけだ。

 

とりあえず言われた通り奥のカウンターに向かうと、カウンターに並んでいた冒険者たちがサーっと道を開けてくれる。なんだ?俺はモーセじゃないんだが。

 

だが譲ってもらえるというなら甘んじて受け入れよう。譲ってくれた冒険者たちに頭を下げながら適当な受付嬢のところに行き冒険者になりたいという旨を伝える。

 

「すまない。冒険者になりたいのだが、田舎から出てきたばかりでな。できれば冒険者について詳細に説明してもらいたいのだが」

 

「そ、そうですか。えっとでは登録手数料として1000エリスかかりますがよろしいですか?」

 

「あぁ」

 

腰につけておいた袋から1000エリスを取り出し受付嬢に渡す。

ちなみにこの中には現在1612319エリスが入っている。四捨五入して約二百万だな。

 

「…はい、確かに。…それではいくつか冒険者として必要なことを説明させていただきます。では最初に――」

 

この受付嬢の話を要約すると、冒険者というのはモンスターを狩ることを生業としているもので、それぞれに職業というものが細分化されている。まぁ、剣士とか魔法使いとかだな。そういうのを纏めて記録しとけるのが冒険者カードだ。

 

冒険者カードってのは自分が狩って吸収した魂。経験値を表示したりレベルアップしたときのポイントを使って新しいスキルを習得したりする機能が付いてる身分証明書だ。

 

基本的なことはこのぐらいか。あとは分からないことがあったら聞けとのことだ。

 

「それではこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴などをお書きください」

 

受付嬢が差し出してきた書類に自分の特徴を書き込んでいく。

 

身長164cm、体重◆◆kg、年は18で銀髪の碧眼。

 

身長体重については転移してきたときに目線の違和感とかが無かったからな。少しの違いはあれど誤差の範囲だ。年齢に関してはこっちに来る前の俺の年齢を書きこんだ。モンハンの世界のハンターの年齢とか調べたことから分かんないし。

 

「…はい、結構です。では、このカードに触れてください。それであなたのステータスがここに表示されますので、その数値に応じた職業を選んでくださいね。選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できるようになりますので、そのあたりも踏まえて選んでください」

 

……ハンターの身体って……まぁいいや。どうせ標準値だろう。

そう思いつつカードに触れる。

 

「はっ!?はあああ!?なんです数値!?知力と魔力、敏捷が平均くらいなのに対して筋力、生命力、器用度に幸運、どれも平均を大きく超していますよ!?」

 

ですよねー。

 

人間の数倍のモンスターの脳を揺らしたり尻尾を斬り飛ばしたりする筋力。

致命傷を負っても薬を服薬するだけで全快する生命力。

指南書を読んでいるとはいえ複雑そうな調合を瞬時に完成させる器用さ。

多数の大型モンスターの希少部位を楽々手に入れるほどの幸運。(物欲センサー発動時は除く)

 

どれもチート級だ。知力は中の人が俺だから、魔力は元々魔法の概念が無い世界だから、敏捷は……装備によって多少違うかもだが基本は同じ速度でしか走れないしな。というか俺の知力は平均レベルなのか。嬉しいような悲しいような…。

 

「…それで、どんな職業になれそうなのか教えてもらいたいんだが…」

 

「あっ、失礼しました!高い知力を必要とされる魔法使い職は無理ですが、それ以外ならなんだってなれます!最高の防御力を誇る聖騎士、クルセイダーや最高の攻撃力を誇る剣士、ソードマスターなど……あれ?」

 

「どうした?」

 

「いえ、見覚えのない職業が候補に挙がっていまして……」

 

「一応、教えてもらえるか?」

 

「えっと、狩人(ハンター)です。いままでこの職業は出てきたことが無いのですが…」

 

「…そうだな、じゃあ、狩人(ハンター)で頼む」

 

「はい。狩人(ハンター)ですね。申し訳ありませんが記録がない以上アドバイスなどをできないかもしれませんが…」

 

「構わない。この職が聞いていて一番しっくり来た」

 

「分かりました!では、冒険者ギルドへようこそミコト様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

受付嬢はそう言ってにこやかな笑みを浮かべた。

 

……いや、まぁ、ただ単に最高の防御力も最高の攻撃力も叩き出せる武器を持っているからそれを選んだのだが……。

 

まぁ、なんにせよ。

 

こうして俺の異世界での冒険者生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、手頃なモンスターでも狩りに行くか。

 

…一撃熊…?なんだ、それが強いのか?なに?請けなくていい?薦めたのはお前だろうに。

ただのヤジ?知るか。俺はこれを請けるぞ。


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