この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

15 / 16
今回若干いつもより長いです


ミツルギキョウヤ

「ドナドナドーナードーナー……」

 

「……お、おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロの檻に入って膝抱えたお前と全身水浸しなミコトを運んでる時点で、街の住人の注目を集めてるんだからな?というか、もう安全な街の中だからなんだから、いい加減出て来いよ」

 

「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いからしばらくでないわ」

 

少し前までかなり頑丈だろうと思われたボロボロの檻の中でイディッシュ民謡を歌う女神。これ以上シュールな光景はなかなか無いだろうな。

 

約1名を除き特に何事もなく街に帰ってきた俺達はまず、ギルドへの報告を優先するため歩いていたのだが、この女神が外界にトラウマを植え付けられたようで檻の中から出ようとしない。全く、檻の中だからケガは無かったんだが……。あ、俺もケガ無かった。鎧も軽いひっかき傷だけだったし、無事だな。うん。強いて言うなら服がびちゃびちゃになったことだ。引っ付いて気持ちが悪いんだが。

 

『コウリュウノツガイ』をどっかに突き刺して火を起こすかカズマの風魔法を使えば水気自体はすぐに飛ばせそうなんだが、流石に公衆の面前で服を脱ぐわけにも放火するわけにもいかないからな。我慢だ。

 

……人がパーティーの評判を下げまいと全力で我慢してるのにカズマは欲にまみれた目でこっちを見てくる。正直目に力が入りすぎてて怖い。

 

「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですかそんなところで!」

 

カズマの視姦に耐えるという一種の拷問に気を引かれていたからか、アクアに駆け寄り鉄格子を掴むこの男に反応できなかった。

 

青と黄色を基調としたマント付きの鎧を装備したいけ好かない男。略してイケメン。

 

そいつは俺達が反応するよりも早く檻の鉄格子を捻じ曲げ、中にいるアクアに手を伸ばした。その手が唖然としているアクアに触れる直前、

 

「……おい、私の仲間になれ慣れ慣れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしてはアクアがお前に反応していないのだが」

 

我らがクルセイダー、ダクネスが詰め寄った。キャーダクネスサーン!(誰だお前)

 

問題の男はダクネスを一瞥すると、ため息を吐きながら首を振る。自分は厄介ごとはごめんなのだが……みたいな雰囲気で首を振るこの男に若干殺意が湧くが、それはダクネスも同じようで、普段愉悦と快楽にまみれた表情しか出てこないダクネスが明らかにイラっとした。

 

「……おい、あれお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし。お前があの男を何とかしろよ」

 

「……あぁっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」

 

カズマの耳打ちによって再起動したアクアはもぞもぞと檻から出て男の前に仁王立ちする。パンツ見えるぞ。

 

「……あんた誰?」

 

しかも知り合いじゃないのかよ。なんか男の方が驚いてるんだが。

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣(ミツルギ) 響夜(キョウヤ)ですよ!あなたに、魔剣グラムを頂いた!!」

 

「……………?」

 

駄目だこいつ。完璧に記憶に無いって顔してる。

 

……とりあえず名前と『頂いた』ってとこから日本人の、俺らよりも早くこの世界に来た奴だろうなってことは分かった。

 

おかしいな。俺も日本人の転生者には何回か会った事があるが、ここまでイライラさせられる奴は初めて見る。基本的に腰が低くてちょっと臆病な奴が多かったんだがな……男女ともに。

 

「…あぁっ!いたわね、そんな人も!ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって結構な数の人を送ったし、忘れてたってしょうがないわよね!」

 

流石知力値平均以下。そういえば俺のことも忘れてるみたいだしな。しょうがないと言えばしょうがないのか…?

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っていますよ。職業はソードマスター。レベルは32まで上がりました。……ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうして檻の中に閉じ込められていたんですか?」

 

チラッとカズマを見るミツルギ。日本でもこういうタイプの奴には何回か会ったことがあるが、大抵話を聞かないんだよな…。めんど臭くなる予感……。

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

「……バカな。ありえないそんな事!君は一体何を考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストでは檻に閉じ込めて湖に浸けた!?」

 

カズマの説明を聞いていきり立ったミツルギがカズマの胸倉を掴む。…やっぱり面倒なことになりそう。

 

「ちょちょ、ちょっと!いや別に、私としては結構楽しい毎日を送ってるし、ここに一緒に連れてこられた事は、もう気にしてないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど結果的には怪我せず無事完了した訳だし。しかも、クエスト報酬30万よ30万!それを全部くれるって言うの!」

 

アクアが咄嗟にフォローを飛ばすが、その言葉を聞いたミツルギは憐憫の眼差しをアクアに向ける。

 

「……アクア様、こんな男にどうやって丸め込まれたのかは知りませんが、今のあなたの扱いは不当ですよ。そんな目に遭って、たった30万……?あなたは女神ですよ?それがこんな……。ちなみに、今はどこに寝泊まりしているんです?」

 

「え、えっと、皆と一緒に、馬小屋で寝泊まりしてるけど……」

「は!?」

 

アクアの言葉に即座に反応したミツルギはカズマの胸倉を一層強く握った。もうあれは首を絞めているも同然だ。

 

流石に見過ごせないのでミツルギの腕をそれなりに力を込めて横から掴む。

 

「…おい、いい加減その手を放せ。カズマと知り合いなわけでもなく、アクアと親しい間柄でもないお前に私たちの私生活まで口出しされる覚えはない」

 

カズマが何やら驚いた顔で俺を、というか俺達を見ているのは、おそらく後方から聞こえる爆裂魔法の詠唱の言葉のせいでないと思いたい。あれを食らったら流石に死ぬ。

 

ミツルギの腕を掴む手に込める力を少し上げ、指を食い込ませると苦悶の声と共にカズマの胸倉を放した。脅威が無いのであれば絞める意味が無いので俺も手を放す。

 

手を放したミツルギは俺達を改めて観察し始める。…余裕だなこいつ。1回抜いて脅してやろうかな。

 

「……クルセイダーとアークウィザードと……《万能者》か?……それに随分と綺麗な人達だな。キミはパーティーメンバーには恵まれているんだな。それなら尚更だよ。キミは、アクア様やこんな優秀そうな人達を馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、就いてる職業も、最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

ぶっふぉぉ!やばい、吹き出しかけた!

 

職業で判断する奴かこいつ!この中で一番優秀なのカズマだって分からずに煽ってる!笑いこらえるだけできついんだが!

 

「なあなあ、この世界の冒険者って馬小屋で寝泊まりなんて基本だろ?こいつ、なんでこんなに怒ってるんだ?」

 

「あれよ、彼には異世界の転生特典で魔剣あげたから、そのおかげで、最初から高難度のクエストをバンバンこなしたりして、今までお金に困らなかったんだと思うわ。……まぁ、能力か装備を与えられた人間なんて、大体がそんな感じよ」

 

ギクッ。

 

「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは、ボクと一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買いそろえてあげよう。というか、パーティーの構成的にもバランスが取れていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と、クルセイダーのあなた。僕の仲間の盗賊と、アークウィザードのその子、ミコトさんとアクア様。まるでおあつらえみたいにピッタリなパーティー構成じゃないか」

 

……………。

 

「ちょっと、ヤバいんですけど。あの本気で、引くくらいヤバいんですけど。ていうか勝手に話進めるしナルシストも入ってる系で、怖いんですけど」

「どうしよう、あの男はなんだか生理的に受け付けない。攻めるより受ける方が好きな私だが、あいつだけはなんだか無性に殴りたいのだが」

「撃っていいですか?あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に、爆裂魔法を撃ってもいいですか?」

「そろそろ本気で殴りたくなってきた。武器を抜いて斬りかからず我慢している時点で拍手喝采されてもいいぐらいにはイライラしてるぞ」

 

結構辛辣な言葉をこそこそひそひそと言い合っている俺達だが、代表してアクアがカズマのところに歩いて行った。

 

「ねぇカズマ、もうギルドに行こう?私が魔剣をあげておいてなんだけども、あの人には関わらないほうがいい気がするわ」

 

「そうだな。えーと、俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには行きなくないみたいです。俺達はクエストの完了報告があるから、これで……」

 

雑にミツルギとの会話を切り上げ、その場から立ち去ろうとする俺達の前にミツルギが立ちふさがる。

 

「……どいてくれます?」

 

「悪いが、ボクに魔剣という力をくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方が絶対にいい。……君は、この世界に連れてこられるモノとして、アクア様を選んだというわけだよね?」

 

「……そうだよ」

 

「なら、僕と勝負をしないか?アクア様を、持ってこられる『者』としてして指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。キミが勝ったら、なんでも一つ、言うことを聞こうじゃないか」「よし乗った!!じゃあ行くぞ!!」

 

空気の読めないミツルギが仕掛けてきた決闘を即諾し、返事と同時に斬りかかるカズマは若干鬼畜だと思うが、低レベルの冒険者に高レベルのソードマスターが勝負を挑む方がおかしい。

 

その後、なんとかミツルギは反応しようとして剣を抜くが、剣を窃盗されあっけなく気絶させえられた。もはや描写する価値もないくらいには完敗だった。

 

誰がどう見てもカズマの勝ちと答えるであろう決着に、いままで一切目を向けていなかった「お前ら、いたの?」と言いたくなるくらいには影が薄かった少女たちが突っかかってきた。

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

「あぁ、うん。俺の勝ちってことで、こいつ、負けたらなんでも一つ言うこと聞くって言ってたな?それじゃあ、この魔剣を貰っていきますね」

 

「なっ!?バ、バカ言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。すでにその剣は、キョウヤを持ち主として認めたのよ?あんたには、魔剣の加護は効果が無いわ!」

 

自信満々に言ってくる少女だが、さっきの見事な敗北を期したミツルギの醜態でストレス発散してなかったら全力で口を塞ぎに行っていただろうな。喧しいですわ。

 

「……マジで?この戦利品、俺には使えないのか?せっかく強力な装備を巻き上げたと思ったんだけど」

 

「マジです。残念だけど、魔剣グラムはあの痛い人専用よ。装備すると人の限界を超えた膂力が手に入り、石だろうが鉄だろうがサックリ切れる魔剣だけど。カズマが使ったって普通の剣よ」

 

「マジかーー。あ、ミコトこれ使うか?魔剣の効果でないらしいけど、剣としては使えるらしいぞ?」

 

「え、いらないよそんなナマクラ。普通に私の武器と膂力で岩だろうが鉄だろうが切れるし」

 

「それはお前がおかしい。…でもまぁ、せっかくだし貰っとくか。じゃあ、そいつが起きたら、これはお前が持ち掛けた勝負なんだから恨みっこ無しだって言っといてくれ。……それじゃ、ギルドに報告に行こうぜ」

 

「ちょちょちょ、ちょっとあんた待ちなさいよっ!」

「キョウヤの魔剣、返してもらうわよ。こんな勝ち方、私たちは認めない!」

 

そう言って再び踵を返す俺達に、少女が武器を構える。

 

武器を構えられた以上交戦の意志ありとみなし、コウリュウノツガイを構えるが、カズマによって静止された。

 

(待て待て。ミコトの武器で攻撃したらあの子らただじゃ済まないだろ)

 

(攻撃してきたら反撃はするが、一応手加減はするつもりだ)

 

「(まぁ見とけって)…別にいいけど、真の男女平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせれる公平な男。手加減してもらえると思うなよ?というか女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ」

 

さすが淑女のパンツを剥ぎ取ることに定評がある鬼畜カズマ。手をワキワキさせてるだけで犯罪臭がするぜ。同じことを考えていたのかパーティーメンバー全員に引かれているカズマ。普段の行動のせいかな。

 

それにしても、俺はこういった脅しとかは武器を突き付けてやる以外に知らないし、交戦していたらカズマの言う通りあの子たちも無事じゃすまなかったかもな。もう少し平和的に解決できるように頑張らないと…。

 

あと、転がってるミツルギは通るときに踏みつけた気がするが気のせいだろう。




もう少しだけミツラギさんは出てきますがここまでで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。