例の魔王軍幹部の襲撃からさらに1週間経ったある日のこと。
「クエストよ!クエストを請けましょう!」
「「えー……」」
現在一番懐が寂しいことになっているアクアがクエストを請けようと提案をしてきた。残念ながらカズマとめぐみんはそれなりに所持金があるので乗り気ではなさそうだが、俺的には無問題だ。むしろばっちこい。
「私は構わないが。…アクアと私では火力不足だし、ミコト連れて行ったらレベルを上げることができないだろう…」
一理ある。俺は巷で流行ってる『モンスター絶対殺すウーマン』とかいうあだ名の通り、モンスターを見たら全力で狩りに行くからな。アクアとかの前線に出て戦わない奴のレベルを上げるには俺が相当手加減して瀕死の状態で転がしとくしかない。昨日日本人転生者っぽい女の子にそれやったらドン引きされたがな。
「お、お願いよおおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なのよぉ!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私、全力で頑張るからぁっ!」
「…しょうがねぇなぁ……。じゃあちょっと良さそうだと思うクエスト見つけて来いよ。悪くないのがあったら付いてってやるから。最悪ミコトがいるし」
カズマの言葉に嬉々として掲示板に駆け出すアクア。
最悪俺がいるってどういう意味なんでしょうかねぇ…と思いつつ監視の意味合いでカズマと一緒に掲示板に向かった。…俺が行っても意味無いってのは自分でもわかってるがな!
「…ねぇカズマ。この掲示板ってこんなに張り紙少なかったかしら?」
「ん?あー、言われてみれば前見た時はびっしり貼ってあったのに、今はところどころ隙間があるしな」
「まったく、早く補充してほしいよな」
「「え?」」
「え?」
カズマとアクアが信じられない者を見るような目で俺を見る。
…いや、確かにこの掲示板の強力なモンスターを駆逐したのは俺とそこら辺にいる転生者だが…。8:2くらいの割合で。
でもそんなに驚くことじゃないだろ?
「いやいやいや、驚くことだわ。なにサラッと冬の高難度クエスト消化して行ってんの?馬鹿なの?バーサーカーなの?」
「私がバイトとかできるわけないじゃん。脳筋だよ?知力最低レベルだよ?」
「嘘つけ、お前知力平均より少し上だろうが」
「あ、ばれた」
カズマとそんな会話をしていると、俺の言葉を聞き流したらしいアクアがカズマの服の袖を興奮気味に引っ張った。
「ちょっと、これこれ!これ、見てみなさいよ!」
「なになに?…『湖の浄化。街の水源の1つの、湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住みつき始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化が出来ればモンスターは生息地を他に移すため、モンスター討伐はしなくてもいい。※要浄化魔法習得済みのプリースト。報酬は30万エリス』……お前、水の浄化なんてできるのか?」
「バカね、私を誰だと思ってるの?というか、名前や外見のイメージで、私が何を司る女神かくらい分かるでしょう?」
「宴会芸の神様だろ?」
「違うわよヒキニート!水よ!この美しい水色の瞳とこの髪が見えないの!?」
アクアとカズマの漫才は見ていて楽しいな。昔似たようなことを学校でやってたな。文化祭の見世物だったか。
「じゃあそれを請ければいいだろ。ていうか、浄化だけならお前1人でもいいんじゃないか?そうすれば報酬は独り占めできるだろ?」
「え、ええー……。多分、湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに寄って来るわよ?私が浄化を終えるまで、モンスターから守ってほしいんですけど」
「えっ」
俺はてっきりアクアが1人でできるものと考えていたから出番はないなと別の依頼を手に取っていたんだが……。
「…ちなみに浄化ってどのくらいで終わるんだ?1時間くらい?」
「…………半日くらい?」
「長えよ!」
「ああっ!お願い、お願いよぉぉっ!他にはろくなクエストが無いの!協力してよカズマさーん!」
掲示板に張り紙を戻そうとするカズマの腕にアクアが縋りつく。
「……なぁ。浄化ってどうやってやるんだ?」
「……へ?水の浄化は、私が水に手を触れて浄化魔法でもかけ続けてやればいいんだけど……」
「…………おいアクア。多分、安全に浄化できる手があるんだが、お前、やってみるか?」
○○○○○○
街から少し離れたところにある大きな湖。その湖は依頼の通り水没林の水レベルで濁っており、確かにこれは浄化が必要だなと思わせる。
さて、そんな湖での今日の俺の装備だが、自分でも趣味が悪いと思う程の銀色の鱗で覆われた装備だ。
この装備はリオレウス希少種。通称『空の王者』の希少個体の素材をふんだんに使ったものだ。
発動スキルは《弱点特攻》《業物》《火属性攻撃強化+2》《体力回復量DOWN》。要するに薬草とかの効き目が薄くなる代わりに火属性の武器の威力が上がって武器が鋭くなるってことだな。攻撃特化な感じだ。
武器は双剣、『コウリュウノツガイ』。これもリオレウス希少種の素材と、その妻的な立ち位置のリオレイア希少種の素材を使った武器だ。手数は稼げるから大型モンスターでも一気に消耗させれるな。
あぁ、こんな水辺になんで火属性の武器を持ち込んだのかっていうと、水生モンスターは火に弱いからだな(モンハン知識)
なんでかは俺も知らん。でも大体火に弱い。これ常識。
俺は後ろで巨大な檻の中に入ってティーバックがどうこうと言っている女神に声をかけて湖に飛び込んだ。
今回の俺の仕事は浄化中に邪魔をしにやってくるモンスターをできる限り討伐し、アクアへの被害を減らすことだ。…と言ってもモンスターが浄化されていることに気付くまで時間があるだろうから、暫くは水面に浮かんで水に慣れないとな。
○○○○○○○○○○
アクアが湖に設置されて2時間が経過した。モンスターが襲い掛かってくる気配はまだないので、水の中で素振りをしたりして少し遊んでいたころ。カズマから声がかかった。
「おーい、2人とも!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?アクアは檻から出してやるからー!」
「浄化の方は順調よ!後、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」
「私も大丈夫だ!少なくとも狩りの最中はな!」
カズマのデリカシーというものを一切感じない質問に答えていると、湖の一部が揺らいだのが見えた。
汚れた水に顔を浸けるのは不快だが、水没林でもう慣れっこだ。汚れた水の中でも目を開けられるハンターって何気に凄いと思う。
そうして水中で警戒をしていると、視界の端から矢のような速さで紫色のワニが大口を開いて襲い掛かってきた。
(甘いわ!)
ワニの上あごと下あごに同時に双剣を突き刺し、口内から焼き殺す。
さぁ、狩りの始まりだ!
めんどくせぇ!
戦闘開始から約1時間と少し、俺はちょっと予想外の事態に襲われていた。
こいつらの牙、防具のおかげで俺自身には全くダメージはないが、鎧の凹凸に牙を引っかけて俺を水底に引きずり込んできやがる。幸いこいつらの攻撃は大口開けて、噛みつくのワンパターンだから対処はできるが、数が多すぎて……!
鬼人化を使っても処理しきれないとは思わなかった。ちょっとこれはきついな。一旦上がるか。追いすがってくるワニを切り払いながら水面まで泳いで上がる。
「お、おい、大丈夫か?」
この作戦を考えた張本人のカズマが心配しているのか何なのか、こっちに走ってきた。
「予想以上に数が多いな。水底に引きずり込まれるから息が続かん」
「無理そうなら休んでもいいんだぞ?なんか水も結構綺麗になってきたし」
カズマに言われて湖の水質を確認すると、最初のとんでもない濁りからよりはいくらかマシで、透明感が出てきたように思う。
……いや、それよりも。
俺は冒険者カードの討伐履歴の欄を確認してみる。
『ブルータルアリゲーター:46匹』
キリが悪いな。
さぁ、狩りの再開だ。
なんか正気を失っていた気がする。冒険者カードのブルータルアリゲーターの欄が100を超過していた事には少し驚いた。
この湖、100匹以上ワニが生息してたみたいだな。こっわ。
あ、俺疲れたから陸上で待っとくわ。
――浄化を始めてから7時間が経過――
湖にはボロボロになった檻と大量のワニの死体があった。
ワニの死体は言うまでもなく俺の所為だが、ボロボロになった檻には俺が取り逃がしたワニの歯形が残されていた。
「……おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーターたちは、もう全部、どこかに行ったぞ」
俺達は檻に近づき、檻の中のアクアを窺った。ちなみに俺はヘルムを脱いだ。べちゃべちゃだよもう。
「……ぐす……ひっく……えっく……」
浄化役のアクアは檻の中で膝を抱えて泣いていた。まぁ、無理もないな。
「ほら、浄化が終わったなら帰るぞ。……俺達で話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。報酬の30万、お前が全部持っていけ」
体育座り状態のアクアがぴくりと反応する。
……別に相談とかしてないけど、まぁ、いいか。俺はレベル上げ出来たし。最後の方とか結局さぼってるしな。
「……おい、いい加減檻から出ろよ。もうアリゲーターはいないから」
「……まま連れてって……」
「……何だって?」
「……檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」
あー、今回のクエスト、アクアにトラウマを植え付けたみたいだな。ちょっと同情するわ。
それはそうと、ブルータルアリゲーターを剥ぎ取った結果、牙と爪と皮が有効活用できそうなことが分かった。鰐革の財布とか日本では割と人気だったよな?牙と爪はボウガンの弾として活用できそうだ。それなりの数狩ってるからしばらくたまには困らないくらいは手に入ったかな?
ミ「うわ、鎧の中までびちゃびちゃだ、気持ちわる」(キャストオフ
カ『<●> <●>』