この素晴らしい狩人に祝福を!   作:シンセイカツ

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報酬

例のキャベツ収穫クエストから数日が経過した。

 

キャベツの収穫分の報酬が冒険者たちに支払われ、少しだけ俺の財布の重量が増した。具体的にはこの世界に来てからの報酬、食費、その他をいろいろトータルして大体+420万。合計で約600万。……あのな?俺だってこの数値は可笑しいと思うよ?でもしょうがないだろ。この前狩った『隻眼』にかけられていた賞金と成功報酬、キャベツの捕獲、モンスターの素材の売却、約2ヵ月も続けてたらそんな値段にもなるわ。

 

……もうこれそれなりにデカい家買えるんじゃねぇのかな?でもデカくても人がいないと寂しいよな。…とりあえず保留だ。今の荷車でも快適と言えば快適なんだし、俺はデカい買い物に踏み込めないヘタレだからな。あ、そうそう、財布の容量が最近本気で足りないからギルドに預かってもらってる。なんかここ銀行の役割も担ってるらしい。ありがたや。

 

「カズマ、ミコト、見てくれ。報酬が良かったから、修理を頼んでいた鎧を少し強化してみた。……どう思う?」

 

そんなことを考えていると、新しく鎧を強化したというダクネスが装備披露をしてきた。正直どこが変わったとか分かんねぇよ。首元に羽みたいなのが付いたのか?いや、あれは元々あったような気も…。そうだな、とりあえず、

 

「なんか、成金主義の貴族のボンボンが着けてる鎧みたい」

「以下同文」

 

「……2人はどんな時でも容赦ないな。私だって素直に褒めてもらいたい時もあるのだが」

 

「今はお前より酷いのがいるから、構ってやれる余裕はないぞ。お前を越えそうなそこの変態を何とかしろよ」

 

「ハァ……ハァ……。た、たまらない、たまらないです!魔力溢れるマタナイト製の杖のこの色艶……。ハァ……ハァ……」

 

カズマが指さした先には新調した杖を股で挟み発情するめぐみん(変態)がいた。

 

爆裂魔法を愛してやまないめぐみんが聞いてもいないのにしてくれた解説によると、魔力の強化が行える魔法具的な希少金属を杖の先端に付けたことで魔法攻撃の威力をさらに何割か上昇するらしい。

 

まだ強化された爆裂魔法を見ていないから威力の解説はできないが、G級のモンスターでも中型までなら取り巻きごと即死させれる威力があるのかもしれない。……もしそれだけの威力があったとしてもモンハン世界では絶対に放たせれないな。そもそも生態系を保ったりするのがハンターの本来の仕事らしいし。

 

というか、砂原と水没林以外で撃たせてたまるか。渓流は景観が台無しに、凍土は雪崩の危険性、火山はただでさえ噴火し続けてるのにこれ以上刺激したくない。

…いや待て、それだと砂原も水没林も景観が…「なんですってええええ!?ちょっとあんたどういう事よっ!」…いかんいかん。また思考の海に潜るところだった。最近多くなったよな、考え込むの。なんでだろ。

 

それはそれとして、ギルド内に響き渡った怒号は案の定アクアが発したものだった。もはや顔見知りになった受付嬢のルナさんの胸倉を掴んでいちゃもんをつけている。

 

「何で5万ぽっちなのよ!どれだけキャベツ捕まえたと思ってんの!?10や20じゃないはずよ!」

 

「そ、それが大変申し上げにくいのですが……」

 

「何よ!」

 

「……アクアさんの捕まえてきたもののほとんどがレタスでして…」

 

「………なんでレタスが混じってるのよー!」

 

「わ、私に言われましてもっ!」

 

どうやらアクアがいちゃもんを付けていたのは報酬が思ったよりなかったからか。それにしてもキャベツとレタスって簡単に見分け付くだろ……。というかなんでキャベツは高くてレタスは安いんだよ。農家に謝れ。

 

その後、何分間かアクアをルナさんの口論(ルナさんは終始困った顔)を続けていたが、どうやらどれほど言っても無駄と思ったらしく、後ろに手を組み、あざとく笑顔を向けながらこちらに近づいてきた。

 

「カーズマさん!今回のクエストの、報酬はおいくら万円?」

 

「100万ちょい」

 

「「「ひゃっ!?」」」

「……」

 

そういえばカズマは『潜伏』と『窃盗』で華麗なるキャベツ泥棒(効率よく収穫)してたんだもんな。その分金も入るだろう。…俺の報酬が90万ちょい。クッソ、負けた。特に何も賭けてない勝手な勝負だったけど僅差で負けたな。

 

というかアクアの目が獣みたいに光ってるんだけど。金の亡者の目か。

 

「カズマ様ー!前から思ってたけれど、あなたってその、そこはかとなく良い感じよね!」

 

「特に褒める所が思い浮かばないなら無理すんな。言っとくが、この金の使い道はもう決めてるからな、分けんぞ」

 

「カズマさああああああああん!私、クエスト報酬が相当な額になるって踏んで、この数日で、持ってたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか大金入ってくるって見込んで、ここの酒場に10万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど!」

 

半泣きでカズマに縋りつくアクアを横目に酒場の中を見渡すと、柄の悪い男たちがこちらを見ていた。…これはあれか、「金が無いんなら身体で払ってもらわないとなぁ?(アルバイト的な意味で)」とか、そういうものか。いくら美人と言ってもこの女は誰も抱きたくないっていうだろ、外見で判断する奴は引っかかると思うが。

 

「知るか、そもそも今回の報酬は『それぞれが手に入れた報酬をそのままに』って言いだしたのはお前だろ。というか、いい加減拠点を手に入れたいんだよ。いつまでも馬小屋暮らしじゃ落ち着かないだろ?」

 

泣きつくアクアを突き放すカズマ。何も事情を知らないヤツから見ると冷たい印象を持つかもしれないが、今回は全面的にアクアが悪いな。計画性の無さ…というか知力値の低さが仇となったな。絶対サバイブできないわアクアは。

 

ところで、カズマも俺と同じく拠点を手に入れようとしてたのか。向こうが良ければだが、デカい屋敷を買って同居でもするかな。どうせ襲うだけの度胸ないだろうし。

 

「そんなあああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃカズマも男の子だし、馬小屋で偶に夜中にゴソゴソしてるの知ってるから、早くプライベートな空間が欲しいのはわかるけど!5万!5万でいいの!お願いよおおおお!」

「よし分かった、5万でも10万でも安いもんだ!分かったから黙ろうか!」

 

「……あー、まぁ、カズマも男だしな。そう言ったことも必要だろう。それはそうと、拠点を手に入れたいなら私も手伝うぞ。私も欲しかったんだ」

 

「やめろ!申し出は嬉しいけど、その生暖かい視線をやめてくれ!マジで!」

 

アクアの公開処刑じみた発言は多分カズマじゃなくても、というか全ての男がこういう反応すると思う。流石の俺もカズマに同情するわ。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

「カズマ、討伐に行きましょう!それも、たくさんの雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代も無いの!」

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ちいい、すごく強いモンスターを……!」

「個人的にはダクネスに賛成だが、カズマ達のレベルを考えると難しいな。…また今度個人的に行かせてもらおう」

 

「…とりあえず掲示板の依頼を見てから決めようぜ」

 

と依頼掲示板に目を向けるが、いつもは所狭しと大量に張られている依頼の紙が、今はドクロマークの高難度依頼が数枚あるだけだ。

 

「……あれ?なんだこれ、依頼がほとんどないじゃないか」

 

「カズマ!これにしようではないか!山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊を……」

 

「却下だ却下!お前とミコトはいいかもしれんが俺らは即死するわそんなの!なんか他の…――おいなんだこれ!高難度のクエストしか残ってないぞ!」

 

確かに、今日は異様に少ないな。昨日もすこし数が減っていたし……なんかあったっけ……。

 

「ええと、申し訳ありません。最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの古城に住み着きまして……。その魔王の幹部の影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には国の首都から幹部討伐のために騎士団が派遣されるので、それまでは、そこに残っている高難度のお仕事しか……」

 

「な、何でよおおおおっ!?」

 

これがアクアの不幸体質の賜物なら凄いな。同情しかできない。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

「全く……!なんでこのタイミングで引っ越してくるのよ!幹部だか何だか知らないけど、もしアンデッドなら見てなさいよ!」

 

アクアが涙目で愚痴りながらバイト案内雑誌をめくっていた。

 

他の冒険者の様子を見ると、皆同じような表情で酒を昼間から飲んだくれる人の数が多い気もする。確かこの街は冒険初心者の街。名前の通り初心者が技術を少しでも高めようと修業しに来るような場所だ。

 

……何にせよ、カズマ達が動けないなら俺がパーティーとして狩りに行くわけにもいかないし、難度の高い依頼をするとしたら遠くまで出かけることになる。あれ早朝に起きて移動しないといけないから面倒なんだよな。

 

とにかくいろいろと邪魔だからさっさと帰ってくれないかな。討伐しようにも、もし人型だったら俺は倒せないし。ウィズの時みたいに欲求不満で暴走しかけてる時とか、街に攻めてきて応戦しないといけない時ならともかく、今のストレスがあんまり溜まってない状態で来られても困る。今のところこっちに攻め込む気もないようだからこっちから討伐に行く気にもならないしな。

 

 

あー、めんどくせぇ。

 

 

 

「カズマ。ちょっと行ってくる」

 

「え?どこ行くんだ?」

 

「え、さっきの巨大熊討伐だけど」

「私も行くぞ!」

 

「…まぁ、いいか。全力で盾にするけど問題ないな?」

 

「むしろ望むところだ!存分にこき使ってくれ!」

 

「……気をつけてなー」


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