今回受けたクエストは共同墓地に湧くアンデッドモンスターの討伐。
街から外れたところにある丘の上に金のない人や身寄りのない人がまとめて埋葬される共同墓地にゾンビメーカーというモンスターが出るらしい。
ゾンビメーカー自体は弱いが、そいつの操るアンデッドモンスターに苦労するらしい。包囲されないようにしないといけないらしい。
というわけで荷車から『コウリュウノツガイ』を持ってきた。これで包囲されようが何されようが何とかなる。
『コウリュウノツガイ』はリオレイアとリオレウスの希少種の素材を使った金と銀の双剣だ。
斬りつけたら白い炎が出る。原理は知らん。
それと防具は着てきてない。カズマに変なヤツを見る目をされたが気にしない。流石に下着じゃなくこの世界の一般的な服を着ている。最近は仕方がないとはいえスリルの無い依頼を請け続けてるから欲求不満なんだよな。普段着でモンスターに囲まれたらスリルを感じれるだろう。……思考がダクネスみたいになってる気がするが、俺は正常だ。ただちょっとミコトが頭のおかしい戦闘狂なだけだ。
「ちょっとカズマ、その肉は私が目を付けていたヤツよ!ほら、こっちの野菜が焼けてるんだからこっちを食べなさいよこっち!」
「俺、キャベツ狩り以降どうも野菜が苦手なんだよ、焼いてる途中に飛んだり跳ねたりしないか心配になるから」
「カズマ、好き嫌いはよくないぞ?子供じゃあるまいし」
「ミコトは俺の保護者かなんかか!」
「お前が望んで、それが面白そうならそれもやってやろうじゃないか。最近強敵に会ってないからストレスの発散が上手くいかないんだ」
今はゾンビメーカーが出没するという時間になるまで少し離れたところでバーベキューをしながら待っているところだ。この鉄板の上に俺の集めてきた希少交易品の食材たちを載せたらどうなるか試してみたかったが、おそらく質問攻めになるからやめておいた。いつか役に立つ時が来ることを祈っておこう。
そういえばカズマはレベルアップしたときに『初級魔法』を習得したらしい。
『初級魔法』は火、水、土、風の魔法が使えるようになるスキルだな。どれも威力が低すぎて攻撃には転用できないが、日常で役立つような便利スキルらしい。
今も『クリエイト・ウォーター』で出した水を『ティンダー』で温めてコーヒーを作っているしな。
「あ、カズマ、私にも水をくれ」
「私にもお願いします。…っていうかカズマは、何気に私より魔法を使いこなしてますね。初級魔法なんてほとんどだれも使わない物なんですが、カズマを見ていると便利そうです」
めぐみん爆裂魔法しか使えないだろ。とカズマに水を貰いながら考える。
「いや、元々こういう使い方じゃないのか?初級魔法って。あ、そうそう。『クリエイト・アース』!……なぁ、これって何に使う魔法なんだ?」
カズマは俺達に見せてきたのは土属性魔法の『クリエイト・アース』。掌にサラサラの土を作り出す魔法だな。使い方は俺もよく分からん。
「……えっと、その魔法で作った土は、畑などに使用するといい作物が採れるそうです」
「……えっ、それだけ?」
「それだけです」
「何々、カズマさん畑作るんですか!農家に転向ですか!土も作れるしクリエイト・ウォーターで水も撒ける!カズマさん、天職じゃないですかやだー!プークスクス!」
「『ウィンドブレス』!」
「ぶあああっ!ぎゃー!目、目があああ!」
カズマを煽り始めたアクアに突風と共に舞う土が襲い掛かる。見てるだけでも痛いわあんなん。そういえば風属性の初級魔法だけ突風とかバランスおかしくね?と思ったが、上級魔法になると鎌鼬を起こして切り裂いてくることを思い出した。あ、妥当だわ。と一瞬で納得できた。
「「……なるほど、こうやって使う魔法か」」
「違います!違いますよ、普通はそんな使い方しませんよ!というか、なんでカズマは初級魔法を魔法使い以上に器用に使いこなしてるんですか!」
あ、もし本気で農家やるなら手伝うぞ?なんかゲームではアイルー任せだったのにミコトの記憶では農作業はハンターも一緒にやってたみたいだから。
○○○○○○○○○○
「……冷えてきたわね」
時刻は進み、深夜を回ろうかというころ。『寒さ無効』の俺からして見れば意識しないとよく分からないくらいの変化ではあるが、若干気温が下がった。ホットドリンクを渡そうかと迷ったが、まだ息が白くなってないから問題ないな。
「ねぇカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど……」
「……おい、そういった事いうなよ、それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを1体討伐。そして取り巻きのゾンビもちゃんと土に還してやる。そしてとっとと帰って馬小屋で寝る。計画以外のイレギュラーなことが起こったらどうせミコトがどうにかするから即刻帰る。いいな?」
「OK!」
グッジョブアクア。できれば最低のクズの名が相応しい敵にしてくれ。出てきたのがいいヤツだと切り殺せない。
『敵感知』スキルを持っているカズマを先頭に、俺とダクネスがいつでも出れるようにカズマのすぐ後ろに、めぐみんがアクアと俺達に挟まれるように中衛に配置し、アクアは最後尾で後方の確認。どっかで見たフォーメーションだが気にしないでおこう。
「……何だろう、ビリビリ感じる。敵感知に引っかかったな。いるぞ、1、2……3体、4体……?」
おっと、数が多いな。ゾンビメーカーというのはせいぜい2、3体しか取り巻きがいないと聞いていたが。
そんなことを考えていると墓地の中央で青白い光が走る。
それは妖しくも幻想的な青い光。
遠くから見ればそれが大きな魔法陣だと分かる。
その魔法陣の中心に黒いローブの人影が見えた。
「……あれ?ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……」
めぐみんが自信なさげに呟くが、関係ない。死者の冒涜をするというならそれは敵だろう?強敵の気配にテンションが上がり至る所が疼くミコトの身体を無理矢理抑え込んで隊列を崩さぬように心がける。
「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる異常、アンデッドには違いないだろう。なら、アクアがいれば問題ない」
横を見てみるとダクネスが大剣を胸にかかえソワソワしている。……これはミコトの疼きとはまた違うタイプの疼きなんだろうなぁ…。
「あーーーーーっ!?」
突然大声をあげたアクアは何を思ったのか立ち上がり、墓場に向けて全力疾走し始めた。
あの駄女神…!
「私が我慢していたのになんということを……!カズマ、私はアクアの援護に向かう!こうなったら向こうにもばれているはずだ!」
「ちょっ!おい待てお前ら!」
前傾姿勢のまま走りながらコウリュウノツガイを背中から引き抜き、墓場に到着すると、
「や、やめやめ、やめてぇぇぇ!誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとするの!?やめて!やめてください!」
「うっさい!黙りなさいアンデッド!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもないこと企んでるんでしょ、なによ、こんな物!こんな物!!」
チンピラがそこにいた。
萎えた。
○○○○○○○○○○
とりあえず
実はこのアンデット、普通に街の中にあるとある魔道具店の店主だったりする。特徴もほとんど一致するし、チンピラを捕縛したときに「ミコトさん」を言われたからな。確実に知り合いだ。
彼女の仕入れてくる商品はいわゆる外れ。イロモノが多いのだが、爆発系のポーションは普通に使えるから買ってるが。
さて、俺は先ほどまで狩人としてのテンションが上がりすぎて好戦的になっていたが、冷静になった今、狩人モードから尋問モードに切り替えていた。
「まさかウィズがアンデットとは思わなかったが……、まぁそこはどうでもいい。ギルドの依頼にあったゾンビメーカーってのはウィズのことか?」
「は、はい…。多分そうです…」
「で?何しようとしてたんだ?アクアが言ってた通りよからぬことを考えてるようなら私たちはウィズを討伐しないといけないんだが」
身体から錬気を滾らせてたら質問を始めた時点でウィズは怯えたような涙目で、カズマ達は恐ろしいものを見る目で俺を見てくる。ハハハ、こわくなーいこわくなーい。
「……先程言った通り私はリッチー。ノーライフキング、アンデット達の王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂たちの声が聞こえるんです。この共同墓地の魂の多くはお金が無いためにロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓地をさまよっていました。それで、一応アンデットの王の私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがってる子たちを送ってあげていたんです」
なんだ、根っからの善人じゃないか。これじゃ討伐なんてできないな。罪悪感が凄いことになりそうだ。
身に纏わせていた錬気を発散させ、アクアを押さえつけた時に眼前に突き刺したままにしていた『コウリュウノツガイ』の金の方を引き抜く。引き抜くときも白い炎が発生して綺麗だな。ちなみにアクアは恐怖かなにかを強く感じたのか気絶してしまった。
「……えっと、それは立派なことだし善い行いだとは思うんだが…。アクアじゃないけどさ、そういうことは街のプリーストに任せたらどうだ?」
「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金が無い人たちは後回し……といいますか、その……」
「つまり、この街のプリーストは金もうけ優先の奴がほとんどで、こんな金のない連中が埋葬されている共同墓地なんて、供養どころか寄り付きもしないってことか?」
「え…………。えと、そ、そうです」
その場にいる全員の目線がアクアに向くが、白目をむいて気絶しているアクアは何もできない。正直やりすぎたと思ってる。
「それならまぁ、しょうがない。でも、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここにいるのって、ゾンビメーカーが出たから討伐してくれって依頼を請けたからなんだが」
「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳ではなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人たちが、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが……。………えっと、どうすればいいですか?」
○○○○○○○○○○
墓地からの帰り道。
未だに気絶したままのアクアをカズマが背負い、道を横に並んで帰る。
「――しかし、リッチーが街で普通に生活してるとか、この街の警備はどうなってるんだ」
カズマはウィズに貰った紙を見ながらぼやく。紙にはウィズの魔法具店の住所が書かれている。
「でも、穏便に済んでよかったです。いくらアクアとミコトがいると言っても相手はリッチー。もし戦闘になっていたら私とカズマは確実に死んでましたよ」
「げ、リッチーってそんなに危険なモンスターなのか?ひょっとしてやばかった?」
「やばいなんてものじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法のかかった武器以外の攻撃の無力化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収するアンデットモンスター。ミコトの武器ならひょっとしたら攻撃が当たるかもしれませんが、それでもきつかったと思いますよ」
「マジか……。そういえばミコトの身体から出てた赤いオーラって何だったんだ?」
「……あれは太刀と双剣で使える高等技術、『錬気』だ。体内エネルギーを一点に集中することで何倍もの力を生み出すことができる。例えば小枝とかの脆く、細い物でも棍棒程度なら切り落とすことができる」
「すげー……。……あれ、ギルドカードに表示されない…」
「あれを1日やそこらで手に入れられたら私が困る。私でも1ヵ月かかったのだからな、あれの習得は」
「なんかトンデモな技術ってことは分かった」
「……そういえば、ゾンビメーカー討伐はどうなるのだ?」
「「「あっ」」」
ダクネスの一言で思い出したが、依頼失敗だなこれ。
………。
「カズマ、私は今からでも討伐依頼に行く。今日の昼からの行動は悪いが不参加になると思う」
「え、なんでだ?しっかり休んだ方がいいんじゃないか?」
「強敵と戦える機会を逃したことでかなりストレスが溜まっていてな。ちょっと全力で『狩り』をしてくる……!」
「……お気をつけて」
その時の俺を見るカズマの目は、何かを裏切られたような絶望した目だった。