「
真っ白な空間で、俺は唐突にそんなことを告げられた。
確かに、新作のゲームの出来が思ったものと違ったからって3日ぐらい寝ないでクリアした後に意識が朦朧とした状態で売り捌きに行ったらそりゃ死ぬわな。ただでさえあそこの道路交通量多いし。
ちなみに売りに行ったゲームはモンスターハンター。最新作のダブルクロスだ。一つ前のクロスは買っていないが、内容は同じだと思っているので特に問題はない。なんというか……肌に合わなかったんだよな。狩りに爽快感が出るのはいいけど、なんか楽すぎた。もうちょっと苦戦を強いられたいんだよな、俺は。
あ、新しく入ってきたモンスターは好きだぞ?初見で何とか攻略しようと奮戦するのは楽しかった。四天王とか、クロロホルム?とかはな。
「私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ」
そんなことを考えていると、目の前の少女に自己紹介をされる。そういえば全く意識向けてなかったな。
「あなたには二つの選択肢があります。一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。もう一つは、天国的な所に行ってお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」
えっなにその二択。どっちも嫌なんだけど。
「…あー、天国的な所ってなんだ?天国じゃないのか?」
「私たちの言う天国ってね、あなた達人間が想像しているほど素敵な所ではないの。死んでるから食べものは必要ないし、物は当然生まれない。作ろうにも材料もないんだからどうにもならないし。がっかりしたなら謝るけど、天国には本当に何もないの。テレビも、ゲームも、漫画も。そこにいるのは、すでに死んで天国に行くことを決めた先人たち。もちろん死んでるからえっちなこともできないし、そもそも霊体に身体なんて必要ないから見た目は少し大きいボールにしか見えないわ。もし天国に行くなら彼らと一緒に意味もなくひなたぼっこか世間話をするかしかやることは無いわ」
うっわ最悪じゃん。特にゲームが無いってところ。
そんな感じの顔をしていたであろう俺に、その女神は満面の笑みを浮かべた。
「うんうん、天国なんて退屈なところ行きたくないわよね。かといって、今更記憶を消して赤ちゃんからやり直しって言われても記憶が無いから新しく生まれた子はあなたとは言えないものね。……そこで!ちょっといい話があるの」
昔こういう勧誘みたいなの見たなぁ、害のありそうな選択肢を先に言っといて本命の勧誘をするの。お隣さんひっかかりそうだったし、意外と効果的なのかもな。
女神は、満面の笑みで説明を始めた。
「あなた……ゲームは好きでしょ?」
OK察した。その話詳しく。
○○○○○○○○○○○○
女神の話をまとめるとこうだ。
・異世界に魔王がいる。
・その魔王のせいでその世界の人間側がピンチ。
・その世界は魔法あり、モンスターありというゲームそのままの世界。
なるほど。定番だな。
「それで、その世界で死んだ人たちが、まぁほら、魔王軍に殺されたわけじゃない?だから、死んだ人たちのほとんどがあんな死に方はごめんだって怖がっちゃって。ほとんどその世界での生まれ変わりを拒否しちゃうのよね。はっきり言って、ただでさえ魔王軍の襲撃があるのに赤ちゃんが生まれないなんてことになると本気で絶滅の危機なのよ。で、それなら他の世界で死んじゃった人をそこに送り込むのはどうかって話になってね?」
要するに移民か。にしても世界をまたぐって、神は随分とスケールがでかいな。
「で、どうせ送るなら若くして死んじゃった未練タラタラな人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの。それも、送ってすぐ死んじゃうようじゃ意味がないからって、何か一つだけ向こうの世界にもっていける権利をあげてるの。強力な特殊能力だったり、とんでもない才能だったり。神器級の武器を希望した人もいたわね。……どう?異世界とはいえ人生をやり直せるし、向こうの世界の人にとっては魔王軍と戦う即戦力になる人がやってくる。ね?悪くないでしょ?」
なるほど。悪くはない。というかいい話だ。俺がやったことがあるゲームなんてモンハンくらいだが、流石にあんなにハードル高いとも思えない。乗るのはアリだ。
だがその前に。
「一応聞いときたいんだが、向こうの世界では言語はどうなるんだ?異世界語の習得って向こうでするのか?」
「いいえ、その点は問題ないわ。私たち神々の親切サポートによって、異世界に行く際にあなたの脳に若干の負荷をかけて一瞬で習得できるようにするわ。もちろん時の読み書きも日本語と同じくらいにはできるようになるわ。副作用として、運が悪いと容量オーバーでパーになっちゃうかもだけど。……だから、あとは凄い能力か装備を選ぶだけね」
「おかしいな。パーになるって聞こえたんだけど」
「言ってない」
「言ったよな」
…まぁいいか。もしパーになってもジェスチャーがある。地球でも身振り手振りで会話することもできるんだから、向こうの世界でも何とかなるだろう。
「さぁ、選びなさい。たった一つだけ。あなたに何物にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは強力な特殊能力。それは伝説級の武器。さぁ、どんなものでも一つだけ異世界にもっていく権利をあげましょう」
女神は俺の目の前にカタログと思われる紙をばらまいた。変なポーズで。
一応綺麗好きな俺にとっては少し不快になる行為だったので1枚1枚拾い、向きも揃えて普通に椅子に座って読んでおく。
そこには《怪力》《超魔力》《魔剣ムラマサ》など、多くの武器、能力の名前が記されていた。
どれもこれは強力ということは目に見えて分かるが、こうも多いと目移りが激しくなる。ゲーマーとしてはこういったものは十分時間をかけて選定したいものだが、目の前に人、というか神がいる以上あまり待たせるわけにもいかないだろう。
……そういえば、モンスターがいると言っていたな。
ふと思いついた質問をポテチの袋を開け始めた女神に投げかけてみる。
「なぁ女神。願う能力ってのはここにないもの、というかステータスに関わるものでもいいのか?例えば《肉体強化》や《知力上昇》なんかの項目が無いから選べないとかはないのか?」
「そう、自由よ。言ったでしょう?なんでも一つって。でも流石に個人が管理できない物、そう、世界なんかは無理ね。もし世界を選ぶとしても、あなたの管理できる最低限の土地に変更されると思うわ」
「そうか、ありがとう。…じゃあ、俺の能力は決まったぞ」
「えぇ、どんなのになったの?」
「俺が欲しいのは《俺のモンスターハンター3Gの俺のキャラクターのデータ》だ。少しややこしいけどな」
「うーん。具体的には?」
「俺が欲しいのは《アイテムボックスの中身》だよ。どれか一つの武器でももちろん構わないが、できればアイテムボックスごとが理想だ」
「うーん。ちょっと待ってね。ちょっと確認してくるから」
そういうと女神は顎に手を当てて動かなくなった。
しばらく待っていると、女神が動きを再開させた。
「うん。問題ないみたい。じゃあその条件で送るけどいいかしら?」
「あぁ、大丈夫だ」
そう返事をすると、俺の足元に巨大な魔方陣のようなものが現れ、青い光を放ち始める。
「香山 命さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を討伐した暁には、神々から贈り物を授けましょう」
「へぇ…どんな?」
「…たとえどんな願いだったとしても、一つだけ叶えましょう。さあ、勇者よ!願わくば数多の勇者候補の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。さぁ、旅立ちなさい!」
高らかにそう言い放った女神の言葉と共に、俺は眩い光に包まれた。
「…さて、あの人のキャラクターを選ばないといけないけど……こうなったら全部のデーターからアイテムと装備を引っ張ってきましょう!被ってるのは除いて……アバターは一番プレイ時間が長いこれでいいかしらね」
3Gのプレイ時間600時間弱の初心者ですが頑張って書こうと思います。