Fate/stay night 〜Gluhen Clarent〜 作:柊悠弥
桜がしっかりと眠りについたのを確認してから、士郎の足は居間へと向く。
今頃セイバーたちも疲れを癒し、今後のことについて話し合っている頃だろう。それなら早く話に参加しなければ、と、士郎の足は自然と早足になった。
「……すまない、遅れた」
居間の襖を開けると、セイバーたちの視線が一気に士郎へと集まる。何やらアーチャーの姿が見えないようだが、桜を除いて全員が机を囲って座っている。
「別にいいのよ。桜は?」
「桜は寝てるよ。そりゃもう気持ちよさそうに」
「……そう、よかった」
士郎の言葉に、凛はほっと胸を撫で下ろす。表面上は冷静に取り繕ってこそはいたが、凛にとって桜は実の妹だ。心配じゃないワケがない。
それこそ、士郎以上に気が気でなかっただろう。
「それで、話はどうなった?」
周りに倣って、いつもの定位置へと腰を下ろして問いを投げる士郎。
その問いに応えたのは士郎の目の前にお茶の入った湯呑みを差し出した凛だった。
「あのサーヴァント────キャスターには私たちだけではきっと敵わない。桜もしばらくは戦えないでしょうし……だから、アインツベルンに協力を仰ぐコトにしたわ」
「アインツベルンに?」
今でも脳裏に焼き付いている。
あの凄まじいサーヴァントと、殺意をまとった白い少女。
確かに彼女らと協力までこぎ着ければ心強い……が、
「あの子、何処にいるのかわからないだろ。あれ以来姿を見てないし……」
そう、何処にいるのかがわからない。それが問題だ。
「それなら問題ないわ。私のアーチャーが、郊外の森に城を見つけたの。九割あの子はそこにいるでしょう」
「城……? そんなものがあったのか」
長いこと冬木に住んでいる士郎だが、そんな話は聞いたことがない。
しかし、あからさまに怪しい場所だ。そこにアインツベルンの少女────イリヤが居る、というのは間違いでもないだろう。
「状況を話せば協力もしてくれるでしょうし……まあ問題は、そうねえ……」
言いながら、悩ましげに指が顎に添えられて。凛の視線は、ライダーへと向けられた。
「桜の中から取り出されたのが何なのか、ってところなんだけど。ライダーは、アレが何か知ってる?」
桜の中から取り出された、陽の光を反射して黄金に輝く何か。
アレを体に取り込んだ途端、キャスターの様子は一変した。アレが原因なのはわかるが、重要なのはそれがなんなのか────。
問題はそこだろう。何なのかわからなければ、対策も取りようがない。
一瞬、ライダーの瞳が迷うように揺れる。ここで自分が口にしていい事実なのか、と。
この事実は桜にとって重要なことのはずだ。だからこそ、桜本人の口からではないと。
けれど、同時に桜のことを思っているからこそ、早く事態を終わらせなくてはならない。黙っていては状況は好転しないから。
「あれは、間桐
内心桜に手を合わせながら、いつか話してくれたその事実を吐露する。
あの時の桜の悲しいげな表情を覚えている。日々蟲蔵へ放り込まれるのは、聖杯を体に馴染ませるためだ、と。
「聖杯の、カケラ……?!」
「はい。前回の聖杯戦争は、とある参加者のサーヴァントの宝具によって、聖杯が破壊されることで幕を下ろしたと聞いています。……きっと、その時に採取したのでしょう」
桜の身にソレを埋め込むことで何をしようと考えていたのか、桜の身になんてことをしてくれてるんだ────色々な怒りと疑問が浮上するが、とりあえずソレは押し殺して。
「つまりアイツ、聖杯と直接パスが繋がったってコト……!?」
頭を抱えながら、思わず叫びをあげる凛。頭を抱えるのも無理はない。
即ち士郎たちは、聖杯と同等の
───√ ̄ ̄Interlude
唐突に、自分の中から力が抜けていくのを感じた。
「……なあに、これ」
理解ができない。こんなこと聞いていない。
順調にサーヴァントが退場し、自分の体へ魔力が貯蔵された。ソレは別にいい。
しかしその魔力が、急に誰かに引きずり出されたのだ。
「お嬢様、如何なさいましたか?」
「……この街に、泥棒猫が現れたみたい。気に入らないわ」
背後からかかった声に振り向くこともなく応え、小さくため息をひとつ。
バーサーカーの調子も上々だ。めんどくさいことになる前に、動き出さなければいけないだろうか。
踵を返し、体の調子を確かめながら。玄関へと向かおうとしたところで、
「セラ、そろそろ私も出るわ。その泥棒猫を退治して────」
「▂▅▇▇▇█▂▇!!」
声を遮るように、バーサーカーの声がした。
遅れてやってくる地響きと、寒気がするほどの魔力の波動。
「……あら。向こうの方からわざわざ来てくれたみたい」
◇Interlude out◇
すこぶる短い。そしてまたさらっとネタバレ。
次は書く内容が濃いので、時間がかかるかもしれないです。ガッデム。二日くらい待ってくれると嬉しいです