Fate/stay night 〜Gluhen Clarent〜   作:柊悠弥

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第18話 『崩壊。始まり』

「そらァ!」

 

 セイバーの豪快な掛け声とともに、カキーン、なんて。小気味のいい音が辺りに響く。

 

「な、に……」

「ふははは、この『ばってぃんぐせんたー』ってのも大したことねェなシロー!」

 

 そう、ここはバッティングセンター。野球少年もそうでない者も愛用している、新都の娯楽スペースのひとつだ。

 セイバーの利用しているスペースは、確か130キロ設定だったはず。にも関わらず飛んでくる球の(ことごと)くを芯でとらえ、前へとかっ飛ばしている。

 ちなみに隣の士郎は120キロ設定のスペースで、バカバカ気持ちよく打つセイバーに度肝を抜かれていたところだ。

 

「……楽しそうね、2人とも」

「そうですね」

 

 そんな二人をスペース外から眺める、桜と凛。微笑ましげに笑みを浮かべるその姿は、さながら二人の親……ないし、姉のようであった。

 

 何故四人がこんなところにいるのか説明するとすれば、時は二時間ほど前に遡る。

 

「さて、じゃあ私たちは無事協力関係になったワケだし……親睦を深めるためにデートと行きましょう!」

 

 そんな凛のひと言から始まった。

 戸惑う士郎を他所に話はトントン拍子で進んで行き、気がつけば外へ。凛と桜合作の弁当を片手に、新都へと駆り出された、という塩梅だ。

 

 まずは服屋。セイバーの着せ替えタイムが始まり、女性服専門店で士郎は異様な気恥ずかしさを覚えたり。

 クレーンゲームでやけに力が弱いアームに凛が激怒し、必死になだめる一幕があり。

 ペットショップで、

 

「……衛宮くんはペット、飼わないの?」

「まあウチにはとびっきり大きなのがいるからなあ」

「……ふふ、そうですね。大きくて、頼もしくて、とても強いトラさんが」

「あー、そういうことな。ぶふ、確かに」

 

 なんて会話を交わしたり、と。

 楽しむ四人の姿は、聖杯戦争なんて物騒な戦いに身を置いている人間ではなく────普通の、年頃の少年少女達のような。

 現に士郎達は、この瞬間だけは聖杯戦争のことを忘れていたし。本気で、心の底から楽しんでいた。

 そう、心の底から。今までにない程に。

 

「あの、遠坂先輩」

 

 そして時は戻り、バッティングセンター。ふと、桜が、無意識に零してしまったように名前を呼ぶ。

 

「……姉さんって、呼んでもいいですか?」

 

 失った時間を取り戻すように。空白を埋めていくように、そっと。

 隣に立つ凛の表情は見えない。恥ずかしくて、見ることが出来なかった。

 沈黙が続く。士郎とセイバーがバッド振る音だけが響いて。

 

「……むしろなんでいままで呼んでくれなかったのよ、ばか」

 

 とうとう飛び出した言葉に、桜の頰が真っ赤に染まった。

 

 

 

 ───√ ̄ ̄Interlude

 

 

 楽しかった。今までにないほどに、聖杯戦争なんて使命を忘れてしまうほどに。

 けれど、胸が高鳴る度に黒い思考が脳裏をよぎる。

 

 俺は/わたしは、本当にこんなところにいていい人間なのかと。

 

 ひどく歪で、ギザギザな心で考える。考える度に足元が、地面が抜け落ちて、平穏から転がり落ちてしまうような幻覚を覚える。

 

 俺が笑顔になるなんて/わたしが彼女を姉さんと呼ぶなんて

 

 そんな幸せ、許されるのだろうか、と。

 

 考える度に黒い思考が脳裏をよぎる。後ろ向きな思考が満ちていく。

 

 きっと、平穏は何かの前触れだ。平穏に浸り、退廃していくだなんて、きっと、

 

 この世界が/聖杯が、許さない。

 

 

 ◇Interlude out◇

 

 

「腹減った!」

 

 そんなセイバーのひと言で、一同は昼食へ。雲ひとつない晴天、ピクニック日和だ、ということで、士郎達は冬木大橋付近の広場へと来ていた。

 辺りには草原が広がり、目の前には流れの緩やかな川。弁当を広げるには最高の立地といえよう。

 ブルーシートを広げて、桜と凛の手製の弁当────サンドウィッチが詰め込まれたそれを広げ、各々腰を下ろして。真っ先にセイバーがそれを手に取り頬張った。

 

「んめー……! 本来腹は空かねェはずなんだけどな、身体動かした後の飯は美味えわ」

 

 士郎達が利用したバッティングセンターは二百円で二十球。それを三回も打ちっぱなしでいれば、飯も美味いのなんの。

 士郎も無言でソレを頬張り、家から持ってきた紅茶で喉を潤す。空腹に染みる辛味がたまらなかった。

 

「ふふ、姉さんの味付け、先輩は気に入ってくれたみたいですね」

「ん……む、遠坂が作ったのか、これ」

 

 満足そうに頷く凛に、士郎は目を見開きながら手元のサンドウィッチを見つめる。

 確かに中華風な味付けと言っても良いもので、何処となく凛らしさを感じる。

 そんな士郎に対し、セイバーは桜が凛を『姉さん』と呼んだことが驚きだったらしい。何やらニヤニヤと微笑ましげな視線を送ると、桜の頰が赤く染まった。

 

「あら、士郎は桜に何も言わないの? 私のこと、姉さんって呼んだコト」

「ちょ、ちょっと姉さん……! 揶揄わないでください、恥ずかしいんですから……」

 

 とは言っても敬語は抜けないようで。いつもの調子で返す桜に、さらに凛は意地の悪い笑みを浮かべる。

 そんな微笑ましい光景を眺めながら士郎は口に頬張ったぶんを嚥下して、

 

「いや、何も言わないよ。ソレが本来の姉妹のあり方なんだから、なんの違和感もないし」

 

 何気なく、さらりと、そんなことを言ってのけた。

 そういうとこだぞ、と言いたげなセイバーの視線が痛い。しかし士郎とて今の発言には何の意図もないのだ。二人の頰がさらに赤く染まったのは自分のせいではない、と。

 

 和やかな時間が流れていく。

 何気ない話を繰り返して。これまでどんなことがあったのか、去年の体育祭は、文化祭は。色々な昔話に浸りつつ、時は緩やかに流れていく。

 

「またこうして、出かけられる機会があれば良いですね」

 

 桜が何気なく、ポロリと漏らした言葉。心の底からの本心。

 全員の視線が桜に向く。桜は自分の足を見つめるように俯いていて、その言葉を、この幸せを、必死に噛みしめるような。

 

「当たり前だろ。こんな戦い終わらせて、またみんなで────」

 

 そんな幸せを、ぶち壊すように、

 

「呑気なものね。吐き気がするわ」

 

 ソイツは、現れた。

 

「桜!!」

 

 叫ぶ。喉を振り絞り、凛が、必死に、形相を変えて。

 咄嗟に跳び、手を伸ばし、桜の身体を何処でもいいから掴もうと。

 

 

 

 

 

 

 しかしそんな抵抗も、虚しく。

 

 

 

 

 

 

「せん、ぱ────」

 

 

 

 

 

 

 現れた影の腕が、桜の背中を貫いた。




2500文字……薄っぺらいなぁ。次はもっと書けるはず……

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