暇つぶし。更新なし。

1 / 1
1話はよまなくていいんじゃないかな?


さくっと勇者様

1:なんか、異世界系が人気らしいので、やってみます。

 

 

 異世界転生系。それはよくある書物での事だ。

理由の一つは、現実のしがらみがほぼ何もないということ。

そして地球の物理法則を無視することで、無意味な突っ込みがなくなるというものだ。

 現実で政治の話をすると、イデオロギーから始まり信条・心情・身上・金・権力色々と絡みついてくる。

射撃についても、加速度・摩擦・燃焼速度・空気抵抗・弾丸の回転力・重力など色々必要になってくる。

 

 しかし異世界という地球ではないどこかであると、地球での法則は成り立たなくなってくる。

よくある戦争もその世界でしかおこりえない特殊な事情で、よく分からない展開とともに終了するだろう。

銃撃なんかも魔法とかなんとか言って、”異世界だから”という至極簡単な言葉ですべてを終わらせられる。

つまり妥協と適当な言動で、大まかな物事を収束できるわけだ。

だからこそ皆は、自身の考えや思想を思うが儘に発揮できるその世界を描き続ける。

 

 モチベーションは大事だ。

 心情だって正義や悪やらで、いろいろ上塗りされる。

現実だと功利主義・現実主義・フェミニズム・共産・独裁・資本・個人・レイシズム・リバタリアニズム・権威主義・反動主義…。

これらと環境が相まって、人々を自由に操れない。

 ほかにも老若男女も、その自身の思いで操ることができる。

どこかの普通の小説の様に、お互いの思想をぶつけ合い前や後ろ、停滞しながら展開していく。

そんな単純な思考しかできない生物にとって、苦痛しか生まない物など到底受け入れられない。

 ライトノベルが何故人気なのか。

それは絵により状況を理解できる、登場人物を仮想でなく実際に脳内で思い描けることで、世界観やその文章に没頭できるから。

 

 しかしそんなものは些細なものだ。

 本当は自分と似ている思考と思想に塗れているから、その世界というライトノベルにはまっているだけ。

人気と呼ばれるものは、人の欲望を描いているから人気という集客力を生み出す。

ほかにも広告力という人脈は必要だが、にんきものには理由がある。

 

 クレヨンしんちゃん。下品で巷には人気なアニメ。

しかしよく見れば、親子愛が描かれている。一見虐待に見えても、それは躾と紙一重なものである。

愛か暴力か。下品か現実である幼児の行動をそのまま描いているか。

何故人気がでたのだろうか?大人帝国、アッパレ戦国、ヤキニクロード…。

 心に訴える物から歴史の塗り替え、単純な夕食のために頑張る家族。

 そんな些細なものであっても、一致団結するキャラクター達。

主人公を取り巻く環境。両親・爺婆・友達・隣人・先生・町の人々。

やさしさに満ち溢れながら、実に個性的だ。嫌味はあろうが、どれも悪というものはないかもしれない。

 

 

 よくある殺しや盗みというものが、単純な悪になる。

正義と悪。よくあるが、それは単純な答えでしかない。

本来は自身の持つ自尊心と相手の持つ矜持のぶつかり合いでしかない。

いやオーストリアから始まり、最終的にイデオロギーの対立で世界が分かれたあの時代も、結局同じだ。

国民のため、自身のため、国のため、何のため?

 悪は簡単に作れるからこそ、正義である主人公の盛り立て役にしやすい。

だから小説にとって、イベントはすべてこれとの相対に限る。

 

 よくある慈善事業。施しは正義になりやすい。人は楽をしたいから。

云々はおいといて、生を尊重する動きは基本的に正義になる。

だから主人公は絶対的な正義でなければならない。殺しや盗みをするのは、自分の正義のため。

正義という定義は曖昧だが、広く言えば自分の生を尊重しそれを周囲に振りまき己を貫き勝利することと思われる。

故に主人公は絶対正義なのだ。

 むしろ、悪は少ないだろう。だって、常に悪な一般市民は自分をその世界に、投射・投影したくないから。

現実逃避と夢物語といわれるだろう。だがそれは人の自由であり、思想の自由でしかない。

情報の提示だって、知らされる義務だって色々言われるだろう。 

 どんなに突き詰めたって、どんな現実で塗りたくられようとも甘言が世界を埋め尽くすソレは、常に心情的桃源郷。

 

 度し難い。

 

 非常に理解に苦しむが、現実を投影しながらも現実にない思想と行動を続ける日常系がある。

これも同じように悪やらなんやらの行動で、前に進んでいく。

特大イベントだとか、キャラの心情をどうにかすることで登場人物の絆が埋まっていく。

 喧嘩したり仲直りしたり、憎悪することがなくとも親愛する。

極端な世界は飽きやすいどころか、むしろ泥沼の様に引きずり込まれていく。

そんなあんぽんたんな思考にまみれたものは、世迷言をいう愚者になりさがるが、

そんな愚考や愚行を成せられるほど幻想的日常は尊いものだと思わされる。

 現実だとそんなことはあり得ない。

 仕事・金・喜怒哀楽・憎愛悲恨・現実の情勢・天気。

様々な要素を孕んで、世間を刹那に生きていかなければならない。

 だからこの自愛に満ちた快楽的幻想郷に憧れるのだろう。

 

 

 

 まあ、何が言いたいのかというと、結局読みたいからという欲望だ。

小説だろうと二次小説だろうと、漫画やライトノベル・図鑑・辞書…なんでもいい。

結局は読みたいし、知識を得たい、ハーレムや虐殺を見たいなんてこともあるだろう。

 

 文章なんて、紙や石・地面・鉄・氷・二進数文字列・光で表示できる。

世界最古の官能漫画は、エジプトで発見されている。

最近の若者はという、世間で最も流行りの謳い文句もそこに描かれている。

 

 結局どんな事象が発生しようとも、人は人である限り変わらない。

終結は個人主義。起点や中間地点が、いろんな論理や倫理に満たされていようともコレに集約されれば、結局は同じでしかない。

 

 

 つまり、難しいこと考えず目の前の事を必死で見て聞いて感じて、自分の考えで生きていこうってことだよ。

では、『さくっと勇者様』始めます。

 

2:さくっと勇者様

 

 僕らは日本人。

とある昼。突然の事が起こった。

 

「あの日から1000年!というわけで、君たちの国から我が国へ招待しよう!

もちろんすべての媒体、全世界に儂の姿が映っているのじゃ!

そしてすべての人間に、儂の言葉がわかるようになっておる!

さあ、招待のためのダーツをしよう!」

 

 神様とかいう白髪の老人が、円状のダーツ盤を出してきて手に持った矢を投げて突き刺した。

その場所は『日本』。

いきなりの進み具合に、驚き物の木山椒の木。

わっけわからんぜよ。

 

「日本か~うむ、信仰心や文明度からみて、非常によい!

単一民族というのも、非常に良い!よし、これより日本という土地にいる者すべて、一度死んでもらうぞ?」

 

 つまり、世界の国々が勝手に思っている日本の土地ではなく、日本史と世界史的な日本の領土ということだ。

 

「えー、竹島・尖閣諸島・対馬・北方領土にいる日本国民以外は、この転生攻撃で転生せず死ぬがよろしいかの?

フォッフォッフォッフォ!脱兎のごとくじゃ!実に嘆かわしいのお!」

 

 実に爽快な笑顔を見せてくれるし、一部の人ならかわいい笑顔と思うだろう。

それくらい愉快な笑みを浮かべている。

 

「えーと。転生のために、ちょっとした招待特典を渡そう!持ってない者やいろんな条件で意識を持ってない者は、儂がちょちょいのぱ~で覚醒させてやるぞい!

ほーれ、選びなさ~い。

お、そうじゃ、これから一日時間をあげるから、最後の一日を遊びなさい。

そんじゃ、またの!」

 

 メディアは元の状態に戻る。

ニュースキャスターは、戸惑いながら今日を楽しく過ごしましょうといいつつ、世界は日常へ戻っていった。

そして世界各国は、日本に対して執拗な攻撃をおこなってきた。

どんな攻撃か、それは容易にわかるんじゃないかな。

 

 大半の人は、自分の目の前にある自分にしか見えない項目を選んで、転生準備を行っていく。

赤ん坊・寝たきり・植物人間・死にかけ・身体欠損障碍者・記憶障碍者など、自身の意識を明確にできない人は今日一日だけ9歳以下は9歳になり、不健康者は健康に元気に快活になった!

 

一日だけの夢!歓喜と狂喜に満ち溢れ、日本中を駆け巡る。

 

 

 そして、次の日の正午。

ソレは天空より突然出現した。

日本の領土・領空・了解・排他的経済水域を丸ごとそのまま潰す隕石が落ちてきた。

 

 

「「「なんじゃありゃあああ!!!?」」」

 

 仕事をしなければ日本中は停滞するので、最低限の施設を自動に動かして大半を緊急休暇させて日本中でバカンスをさせている。

そんな中でも仕事をするいつもの方々は、天空に映る歪なソレを見る。

 

 

「「すげぇすげぇよ!!」」

「「メテオ!メテオレイン!」」

「「おお、紙…じゃない、神よ!」」

「「うっせぇな…今日もいい、寝入り日和なんだよ」」

 

 

 世界で一番の人口密度を誇る東京は、今日一番閑散とした都市となる。

地下鉄や新幹線は、運転手の故郷に一番近い駅で停車する。

それは正午少し前の事だった。

インフラは自動なところだけ動く。それ以外は停止した。

 

 そして閑散とした田舎は、その時だけ非常ににぎやかになった。

 

 世界が変わるのならば、それを受け入れるしかない。

結局官邸も、静寂なまま国政を行わないままほっぽりだされた。

ただNHKの一部の報道陣が、隕石の物理法則を無視したゆっくりとした降下を映すだけの報道が

放映されるだけだった。

 

 外国人はすべて外国へ帰った。

しかし日本国民は、その日本にいる。

 

 そして、転生条件を99.999%の人は記入した。

 

 締め切りは、30分後。

しかし隕石は大気圏外で徐々に降下しているだけ。

30分で到底来るとは思えない。

 

 

 29分30秒。この時、神様が現れる。

 

「記入漏れはないの?

 ん?書いてない者もいるのか。残念じゃ。

お?記入漏れだからって、そこらへんの小説みたく特別な力を渡すわけがないぞ?

つまり、記入というのは、転生するその魂にわしらの世界になじんでもらうためのわかりやすい措置のことじゃ。

これを怠るというのは、転生する気がないということじゃな。そんじゃ、あばよ!」

 

 30分。記入を完了していない者は、転生せず死亡が確定した。

あるものはSNSで苛立ちを周囲にぶつけるけれど、自業自得なのでだれも同情しなかった。

 

45分経過。上空8000Mにまで降下してきていた。

徐々に加速しているようで、航空自衛隊が確認している。

 

「あと十五分じゃな。お、国民登録の奴は、もうやってないんじゃな!

残念。儂が転生させてやるのは、日本の戸籍をもっておらんとだめなんじゃな。

あと通名もだめじゃな。自分をさらけ出せや!」

 

 この神のいたずらは、日本国民として三代にて仕えてきた大陸の民として移民したものにとって衝撃的だった。

国籍登録を裏ルートで登録したり、あてつけで日本人をきずつける者が出現している。

 

「おお、先に死んだ日本人は儂の世界に招待しておる。なぁに、最後は違えども、最初は同じじゃ」

 

58分。

 

「最終確認じゃ。日本国民約1億2000万人。日本国籍外の国内にいる外国人は、日本人とは認めない。

さらにほかの血筋から濃度を見て、日本国民として認められないのが一千万ほどいる。

そこらはどうでもいいのじゃ。さて、待ちに待った転生じゃ!

社畜郎党ども、儂の世界で過労死しないよう頑張って生きてくれ!そんじゃの!」

 

 この会話で二分経過。

そして、NHKメディアで自衛隊機が圧殺され映像が乱れたことで、世界はその時を垣間見る。

 

 

日本はその日を境に、日本列島およびその海域に住まう人・その歴史や存在そのものすべてが消え去った。

また隕石の影響で、周辺諸国に影響があったのはいうまでもない。

 

 

3:さくっと魔法使い

 

 神様に選ばれ運び込まれた世界。

そこは違い異なるということで違世界とも異世界とも言える。

世界に生れ落ちた転生者となる日本人は、思い思いに世界で過ごす。

もちろん因果関係なんてものはない。

 時期は全く違う。

記憶があろうと、才能やらなんやらが同じであっても、家族が一緒になることはない。

 

 

 一度必死に生きてきた者が、記憶有りでもう一度世界に生まれようとするものは意外に少ない。

それは以前の自分に対して、侮辱しているとか。

だがここにいる人物は、必死ではなく十数年しか生きていない若者。

それゆえに記憶継承で、この世界に転生する。

 

 

 僕は魔法使いのラティス。

いや、別に魔法使いっていっても、そんなに強くないよ。

この世界じゃ魔法は、弓より腕はいらないけど頭がいるって感じだから。

つまり筋力を作りにくいとか身体能力に関して関心がない人は、魔法を習った方がいいっていうのが多い。

 

 僕は転生前17歳の青二才だった。

だから記憶ありで、この世界で生きている。

 

 転生前の記入では、記憶継承と天啓職業を魔法使いにした。

魔法の適正は、火属性特化で他の奴も火属性が優位になるやつにした。

適材適所があるから、器用貧乏になる意味がないしね。

 幸い僕が生まれたところは、水と大地と風が上手く調和している豊かな渓谷の村なんだ。

周囲にモンスターは出現しないし、たまに商人隊が来て物の売り買いをしている。

実にそれだけで、僕は転生前の知識を少しだけ使いながら、ゆったりと過ごしていた。

 

 でもそんなのは13歳までの事。

これ以上の年齢になると、この村が所属している軍隊に常備兵の一部として招集されるんだとか。

徴兵じゃないの?なんて思ってしまったけれど、今の僕は転生前と同じただの一般国民。

なにもできないんだな、これが。

 だから此れから逃げるために、ギルドとかいわれる場所で傭兵になって依頼をこなしてお金を入手する

仕事に就こうと思ってる。

別に魔法使いで頭がいいから、優遇されるわけがない。

むしろ酷使される未来しか見えない。

 

 これから外へ出るのならば、少し準備しないといけないなー。

 最低限の準備を進めて、村長のところへ足を向かわせる。

何をするためにこの村の一番の頭領のところへ向かうのか。

それはギルドに参入するということを伝えるため、そして村を出るということを明確にするためだ。

そうじゃないと、いつまでも甘えてしまう。

 幸いモンスターは弱いし、周辺に村はまだある。

モンスターの討伐を討伐する人は居ても、それを生業にする人は意外に少ない。

だから討伐した証を持っていけば、普通に接してくれる。

 

 

 あ、畑仕事をしている村長発見。

目の端にいる存在を確認しながら、村長に話しかける。

 

「村長」

「ん?何かな、ラティス」

「今日からモンスター討伐を生業にしに行きます」

「死ぬ気か?」

「徴兵されれば、僕は身体的疲労で死にます。それよかましです」

 

 畑仕事をしていた村長はその手を止めて、僕と面と向かって話し合う。

こういう光景は珍しいが、村の人口が少ないのでよく直接民主制を発揮する。

だからみんなとは顔見知り。

おかげで話しかけやすいんだけど、目的を話すとその目は鋭くなる。

 まあ子供なんだから、心配なのはわかるよ。

でも好奇心はともかく、この先に見え見えの死に突撃する気はないよ。

 

「仕方ない。国には訳を言っておこう。

そこで最低限のものはつくろったのか?」

「はい。あ、そうだ。一つ村長からもらいたいものがあるんですけど、いいですか?」

「食料か?」

「いえ、違います」

 

 そんなものどこにでも転がっているじゃないか。

だから僕は違うものを求める。

先ほどから目の端で動く人間を求めた。

 

 

「というわけで、あの普通の人と畑仕事をさせてもらっていない忌子をもらいます」

「む……」

「効率が悪いですし、まず認めてませんよね?ですから、もらいますね」

「しかし……」

「アイツは僕のモノだから。あいつが見えるようになったのは、僕がヒカリの使い方を教えたからなんだよ。

だから決定権は僕にある。違いますか?個人的にアイツの生存権を尊重するなら、僕に決定権を渡せ」

 

 忌子は周囲の子から石を投げられている。

しかし魔法の力でそれらを打ち落としている。

手に持つ道具で畑を耕しているが、来ている着物は実にみすぼらしく差別を助長させるように首輪という趣向を凝らしている。

こういう方法は実にいいが、その効率性にのめりこめばこの村はおしまいだ。

 みんな優しいけど、こういう残虐性を隠せない。

だから今のうちにこの子を連れていく。

 

 村長から鍵を貰う。

 

 僕は忌子に近づく。

 

「あ、ラティス!」

「やあ、久しぶり。突然だけど、僕と生死をともにしてくれる?」

「いいけど、どこに行くの?」

「今から永久に村から出る。帰ってくることはないんじゃないかな?」

 

 僕は忌子に近づき会話をする。

これだけでも周囲からドン引きされるんだ。

全く人は変わらない。

どんな経緯でこいつが差別されているのか、わかっているのか?

まさか周囲に流されるままってか?日本人の集団心理そのまま流用してんじゃねぇよ。

 

 まったく反吐が出る思いだけれど、僕は彼の首輪に手をかけさっさと解除しようとする。

しかし彼は反発する。

 

「だ、だめだよ。これは、みんなが楽しく過ごすためのものだから……」

「んなものいらないよ。だって、この村以外の人間が、君を忌子だなんてしっているはずがないからね」

「ほんと?」

「ほんとだよ。それより外さないと、金属アレルギーで大変なことになるんだ」

「え、じゃあ外して」

「OK」

 

 僕は彼の首輪を外す。

 実際は成長に関してマイナス補正がかかるからっていうのと、あとは頸椎にダメージが入るとか、無駄な加重はしかるべき時と場所に負荷をかけないと訓練にすらならないっていう理由がある。

 

「そんじゃ、行こうか。ノーア」

「うん、ラティス!」

 

 彼には最低限の服装と肩下げバックを装備させて、この村から出ていく。

 

 ノーアについて言っておこうか。

え、僕?僕は日本人と変わらない容姿だよ。普通。

 で、彼はどんななのか。

彼は光沢のある白髪、つまり銀髪。そして染色体異常で失明しているオッドアイだ。

失明した彼。理由の一つは、村長が神への貢ぎ物とか口減らしのために、無駄な力を付与させようとしたからだ。

 そんなノーアに、視力に関して色々教えたら、魔法の力でどうにかなった。

つまり目で見ているんじゃなくて、脳で見るようになったんだ。

だから目が見えなくても、世界が見えているんだ。

形而上学的観点からみて、魔法は実に生命を感じさせてくれる。

 

 さて、道すがら歩いていると、モンスターに出会った。

実にブヨブヨしているゲル状の生物。

そう、スライムだ。

ゲームのスライムじゃないけれど、非常に弱い。

 

「プヨプヨ」

 

 スライムは素通りしていった。

 

 

 そう、ここの村周辺は、スライムしかいないんだ。

さらに全く人間に対して敵対的じゃない。

そのおかげでみんなは安全に暮らしているけれど、モンスターが敵になっているところほど人間内に亀裂が入っているところが少ないって商人隊の人から聞いた。

 結局人は人なんだなぁと感心したよ。

 

「この子、なんていうの?」

 

 ノーアは初めてでもないのに、スライムを見て不思議がる。

 

「スライムだよ」

「攻撃してこないんだね」

「ここらへんのは、攻撃意識が低いんだ。さあ、ギルドのある町まで行こう」

 

 僕らは街道を通って、太陽が出ているうちに町を目指した。

ただ向かっている途中に思ったのは、ノーアが真っ黒に澱んだスライムを抱えて歩いている事だ。

いつの間に拾ったんだよ…。別にいいんだけどさ。

 

「で、こいつの飯はどうするんの?」

「こいつじゃないよ、ライムだよ」

「まんまだよ…とにかく、携帯食料は少ないんだ。もう連れ歩くんじゃないよ」

「うん!」

 

 呆れた。

まあいいか…。このスライムの飯を探さないと、これからさき食糧不足に陥るかもしれないなぁ。

輜重とか兵站がいきなり大事になるとか、予想外だ。

 

 

 夜。

 まあ何もなかったんだが、途中で道に迷ってしまってね。

だから木の実や周辺にある食べられそうな蟲を見つけて、火で炙って食った。

周辺に川なんてない。

 あの村は川ではなくて、源泉湧き水をダムのように周囲を囲って周辺を水底に沈めて池を作った。

だから水を水位の差や堰で、自由に量を決められる。

おかげで豊かな大地で田畑を潤している。

 

 山からの吹きおろしの風のおかげで、湿気はほとんどない。

だから火は起こしやすいし、蟲や蛇を捕まえやすい。

 

「魔法テントの設置完了。ほら、ノーア」

「うん…」

 

 ずっと歩きっぱなしだったから、非常に疲れていると思う。

かなり眠そうにしている。

僕は彼を寝付かせてから、魔法の練習のために魔法のテントから少し離れた位置に松明を設置する。

 

 これは居場所を知らせてしまう悪手なのだけれど、これから僕は魔法の練習をする。

だから帰る場所がわからないと、死ぬ。

うん。仕方ないね。

じゃあ、やろうか。

 

 基本的に魔力を費やすことで、現象を発動することができる。

僕が得意なのは、酸化現象でありプラズマな『火』だ。

まあ難しいことは考えないで、適当に発動宣言をしている。

ちなみに言葉を言わないと、この大地に現象の顕現認可がもらえないようだ。

 ゆえに無詠唱は存在しないと言ってもいい。

でもこの詠唱をどうにかしてごまかしたり、すでに宣言するだけで発動を遅らせることもできる。

だから最初の一発だけはどうにか、相手の意表をつけるんだよね。

つまりマジックのようなものさ。

 タネがわかれば、次は驚かなくなる。

同じネタは通用しない。

 

 

「『火』」

 

 マッチレベルで、火がつく。

 杖なんて必要ない。自身が思っている場所に、それが点くだけ。

 

「『火』ッ『火』ッ『火』ッ『火』ッ『火』」

 

 魔女の様に引き笑いをしても、簡単にマッチ5本分位点く。

 こんな感じに非常に簡単だけれども、これ以上が難しい。

魔力という概念がないので、すこしでも火よりも大きい火が出ればそれは才能という物差しで測られた。

 

 あー、魔力という概念はあるけれど、それを感じ取れる場面がないのだ。

だから魔力が多いからと言って、才能があるとはいいがたい。

使用する魔力量とか比率とか批准とか、圧力やらなんやらで魔法の大きさが変化しているんだと思う。

 

それと先入観も関係しているのかもしれない。

 

あー、むずいんじゃー。

 

 

 この静かな夜の中、ひときわ目立つ音が近くでなる。

それは近くの藪から聞こえる。

僕はそれに視線を向かわせ、何が出てくるか警戒する。

 

「ポヨン」

 

 ライムだった。

上下に伸縮運動をしながら、こちらに出てくる。

 

 緊張状態へと陥った心を拡散させて、一気に警戒をそのライムからすらも解く。

これが間違っていた。

いきなりライムは、その丸っこいゲル状の身体から鞭の様な何かを僕の方に放ってきた。

 僕はその場からすぐ逃げる。

 

 あ、あと一歩動かなかったら、アイツの触手の下敷きになっていた!

 

 

 ざっけんな!ノーアの奴、とんでもねぇ怪物を拾ってきてんじゃねえよ!

いや、手を下さなかった自分も悪いけどさ!

くっそが!死んだら恨んでやる!

 

「『火』!」

 

 マッチ、線香花火、線香の火とも言えるくらい小さな火が、奴に向かう。

ただの火花か何かだ!

 

その火花か何かは、奴の触手によって払い消された。

 

 ライムは徐々に近寄ってくる。僕は必死にライムに指で指して、着弾地点を着火させる。

しかし指先から出た火花は、一瞬にして消される。

 

 僕はこれに絶望して、後ずさりしながら何度も倍プッシュする。でも、無効化。

 

 

 ドゴッ

 

 

 自分の隣に触手が当たり、木一本伐採と直径2メートルのクレーターができあがる。

 僕は自身の死を覚悟する。いや、怖かった。

足が動かない。ただ、奴に一矢報いるだけの勢いで、その場で何度も何度も唱える。

 

 至近距離とも言えるくらい、奴が近くにいるように見える。

 

「ツッ!?」

 

 左耳が痛い。酷くやけどしているみたいに熱い。

 

 おそるおそる触ってみると、ヌルっとする感触。

へんなものを感じる。

それをなめてみると、酷く血の味がする。

 

わけがわからない。

僕がなにをしたっていうんだ?

 

 

「『火』!『火』!」

 

 

 いつしか、頭がガンガンとへんな痛みとめまいが起こってきた。

痛覚はない。

感触もない。ただ、足がマヒしてその場から倒れ、体を支えている左腕が変に生温いことから、このままだと失血死することは確定だろうなって。

 

 

 いつしか何も聞こえない、感じないけど寒くなってきた。

奴はどこだ。殺してやる。僕の憎悪の焔で奴を煮てやりたい。

 

 

4:さくっと勇者様

 

 俺はリューシャ。

これでも勇者なんだぜ!

 

 

今は魔王城の目の前なんだ。

 

「よっしゃ!みんな、悲願まであと少しだ!頑張ろうぜ!」

「うん!」

「よっしゃ!」

「ええ!」

 

 魔法使いのレリーカ、格闘家のヨシュア、僧侶のマシェ。

こいつらはギルドで、俺が誘った自慢の仲間なんだ。

今までたくさんの国家の思惑と戦ってきた。

そしてついにいろんな人たちの犠牲を払って、この場に立ったんだ!

 

いやぁ、きつかったね!

 

やっぱり、俺に恋愛というのはレベルが高すぎた!

でも手を出さないというのは、俺の名声以前に男としての名が廃るね!

だからレリーカと結婚してからこっちにきたぜ!

 

挙式はしたけど、子供はまだなんだ。

仕方ないね。

 

 そんじゃ、ぱぱっと終わらせて国中から祝福される、最高の結婚式を挙げてやるぜ!

 

 

 俺たちはまがまがしい雰囲気を放つ魔王城に入る。

入るときに各地で集めた城への入城キーを証明して、ここらの結界を決壊させた。

これで自由に入ることができる!

 

「よっしゃ、入場料としてかましたるぜ!左右にゴーレム一機ずつ!」

「さすがヨシュア!」

「やります!『圧縮』」

「『剛』!」

 

 自慢のトップアタッカーのヨシュアと妻のレリーカの魔法で、ゴーレムをぶっ飛ばした。

 

「フハハハハ!膝を壊して衛兵にでもなるんだな!」

 

 たまにヨシュアはよくわからない事をいうけれど、本当にあれはなんだろう?

ま、考えるより行動だ!

俺は近くにいる悪魔とか、スライム王をぶったぎる。

 

 俺たちの圧倒的強さに、魔王城の奴らは慌てふためいて逃げていく。

このまま一気呵成に攻め立てる!

 

「貴様ら!ここより先は、魔王様の玉座!馬の骨な貴様らを、奥へ進ませるわけにはいかん!」

「うちらの希望と平和のため、ここで立ち止まるわけにはいかんのや!『聖域』!」

「ぐあああ?!」

 

 鬼神とかいわれるモンスターは、一瞬にして蒸発した。

 

 俺たちは門を破壊して、中に入る。

中に入ると、そこは大きな広間で中央の玉座にそいつはいた。

 

「よくぞ来た、勇者よ。ここにて、雌雄を決しようぞ」

「望むところだ!」

 

 俺たちは苛烈な攻撃をした。

だが攻撃はすべてカウンターされ、魔法は反射されてしまう。

 

 

「ここで負けるもんか!じっちゃんやばあちゃん、かあさんのためにも、屈したりはしない!」

「さすが魔法というだけあるわね。でも、負けるわけにはいかない!

私達に命をも託した人たちのために、絶対…絶対あきらめるもんか!」

「これが魔王なんやな…。せやけど、うちらの断固とする絆とその意思は、頑固な法王ですら屈したんや。

簡単にお前なんぞに負けへんわ!」

「ハハハ!RPGと同じようでよかったぜ!自由奔放、悠悠自適に闊歩されちゃかなわねえからなあ!!」

 

 

 俺たちは賢明に懸命に戦って、ようやく奴の心臓を貫いた。

 

「っし!」

 

 奴は一瞬あっけにとられたような顔になる。しかし、すぐに奴は笑った。

それがなんなのか、よくわからなかった。

その刹那。今思えばこれは、初めての物理攻撃だった。

 

魔王は俺の額に頭突きする。

 

「ぐあっ!?」

 

 その瞬間なんか気持ち悪くなった。

一体何なんだ!?

 

 

「うぐっ……な、え……?」

 

  俺は……俺はなぜ、俺が目の前にいるんだ?

 

「だ、大丈夫!?」

「あ、ああ、俺は大丈夫だ……」

 

 するとレリーカから、魔法で焼かれる。

 

「何言ってんのこいつ。リューシャ…?」

 

 ソイツはレリーカに見えないように顔を隠しながら、俺にやってやったという表情を見せた。

まさかと思うが、こいつ?!

やっぱりか、何か座っていると思ったら、俺は今魔王なのか!

 

「あ、ああ。大丈夫…、今、魔王から思念攻撃を受けただけだ。

ちょっと頭が混乱する……すまん、ちょっと攻撃できねぇ……」

「大丈夫だ!俺がぶっ潰すぜ!ハイヤー!」

 

 ヨシュアが俺に向かって、拳を突き出してくる。

俺はひどく悲しくなった。

かつての仲間が、俺に向かって問答無用で死を突き付けてくる。

そして肉体も俺の人生も奪われた。

これ以上何を奪われればいいんだ……。

 

 するとヨシュアの拳はおれのめのまえで止まって、攻撃属性を持たず輝きだけを放った。

俺は絶望し涙する顔を上げ、ヨシュアを見る。

奴は真剣な目で、俺を貫く。

それは憎悪なのか…魔王な俺を、無慈悲に射殺す視線だ。

 

「おい。レリーカを取り戻したいなら、俺の攻撃を反射して俺とあいつらを隔てろ」

 

 小声で言ってくる。

俺は最後の望みということで、カウンターを自力で行う。

そしてヨシュアとあいつらを隔てる。

 

「「ヨシュア!?」」

「くそっ!魔王が強すぎる!あと少しでやれるぜ!俺一人よりも、レリーカ・マシェは

そのまま国王に話してここを破壊しろ!俺は時間稼ぎをするぜ!こんな、カウンターしかできない雑魚は余裕だ!」

「せやけど、ヨシュアさん!」

「魔法使いは正直じゃまだ!マシェ、元気でな!」

 

 ヨシュアは口角を上げて、大声をあげる。

適当な攻撃を周辺の物体に当てて戦闘しているふりをしている。

たまに攻撃をしてくるので、それをカウンターして適当な場所にぶつけている。

 

 

「ヨシュア!絶対死ぬな!待ってろよ!?」

「ああ、勇者リューシャ、待ってるぜ!」

 

 

 嗚呼。去っていった。

 

 

「さて、話し合おうか、リューシャ。って、お前、涙もろいなぁ」

「ごめん。本当にごめん」

「兎に角だ……。魔王軍だったか?俺も手伝う、奴を一度がんじがらめにして精神を再度乗っ取るぞ」

「それよりも、なんで俺がリューシャなんてわかったんだ?」

 

 

 すると、ヨシュアは素っ頓狂な顔をする。

 

「くく、ハハハ!なぁに、昔やってたゲームでこういう展開があるんだ。

ソレによく似てたんだよ」

 

 よく出てくるゲーム。よくわからないけれど、今はそれに感謝感激だ!

 

 俺は魔王として魔物の統率を行い、王国を作り上げることにした。

 

 そして今までの冒険により培ったいろんなことを使って、再建とともに人間の軍を退けた。

さらにヨシュアは大臣として働いているんだけど、やることは無茶苦茶だが筋が通っているので軍事やその他の魔物大臣から新たな学問を作り出し教育するよう提案されるほど、

その知識は重用された。

 

 俺は勇者を殺すかどうかの時、勇者・レリーカ・マシェを暗殺するように指示した。

理由は元魔王の側近から、その現在の勇者の危険性を伝えられたからなんだ。

能力は勇者だが、使う技が勇者と魔王の物で近づくことさえ危険だということ。

 

 さらに意識の切り替えは脳が大ダメージを受けるので、今では洗脳を受けたレリーカ・マシェを含めた

周辺の男女と勇者は廃人同然だろうという事。

なのであれから数十年経過していることもあって、いろいろなじんできていたり最後まで勇者を偽物と気づけなかったレリーカに魔王としての一撃を加えてやった。

 

 今ではレリーカのおなかの中にいた俺の息子とサキュバスの娘とともに、今の魔王ライフを過ごしている。

あと俺の天敵は『魔神』というらしい。

これは世の中の負の感情がどーのこーのというやつだったので、平和を崩す存在は破壊するように伝えた。

 

「では、宗教の禁止を…」

「ハハハ!ばっかだなあ!そんなんじゃ、意味ねぇよ。

 確か信仰だっけ。そんな反動主義的権威は、すべて資本主義で塗れさせてやる」

 

 

 よ、よくわからないけれど、俺たちは上手くやっているんだぜ!!

 

 

 

--さくっと占い師

 

「お主、やっと仲間を見つけたんだなぁ」

「いや、あんたも来るんだよ、ロリババァ」

「何でだ!?」

「人材不足なんだよ!」

 

 マイルドな表現で、この一話を表現。

―――

 あー僕の名前はラティス。

そう、一度死んだラティスだよ。

 

昨晩、ライムに殺された。

でも目が覚めると、体に何かみなぎる感じがしたのといろんな欠損が直ってた。

わけわからんけど、まあよしとしようか。

 

で、『火』が火花から、火の粉になった。

 

大して変わってないって?

でもこのは一枚を包み込むくらいでかいよ?

 

 

 あーとにかく、僕の隣で寝ているライムを足でけって、テントのところまで転がしていった。

するとテント前にいる銀髪の人物がいた。

ノーアだ。

 

「あれ、ラティス?どこいってたの?」

「ちょっとライムとじゃれあってた。うざかったから、適当に遊んでたんだよ」

「そうなの?」

「うん」

 

 嘘をついておく。

たぶんこいつは、毎晩襲ってくるんだと思う。

だから今はこの程度だが、次からは練習なんてせずにノーアと一緒に寝ることにする。

 

「あ、ライムがなんかあったかい」

 

 澱んだライムには、たまにぽつぽつと赤い火のようなものが見えた。

全く何なのかよくわからないけど、こいつにゃ体温でもあんのか?

ま、いーや。なんか、今日は疲れたよ。

 

 

 色々準備して、出撃準備完了!

 敵対心のないスライムを色々蹴っ飛ばしながら、町にくる。

ここはギルドがある場所だ。

いやぁ、ここまで長かったね。

別に一回しか野宿していないけれど、精神的に摩耗しているから長く感じられるよ。

 

「この町はなんていうの?」

「『エルヴェキスタン』という名前らしいね」

 

 入口にアーケード街にありそうな二つの支柱に、看板をはっつけたような何かで示している。

僕はノーアとライムを連れて、ギルドへ登録しにいく。

そんな時、街角で声を掛けられる。

 

「おーっと、そこの少年たち、ここは初めての口かい?」

 

 なんか呼び止められた。新手の詐欺かもしれない、さっさと立ち去ろう。

 

「《日本人なら、聞いていく価値があるかもよ?》」

 

 僕は思いっきりその占い師風の少女に振り向いた。

その流暢な発音、発声、中国語にあるような四音ではないソレ!

 

ノーアを置いて、無我夢中にソイツのところへ行く。

あいにくとここは普通の田舎町なので、人が込み合っているわけでもないので置いて行っても普通にわかる。

 

「《おい、どういうつもりだ!お前も、記憶継承したのか!?》」

「そうさな。さて、同士である君に、占いをしてあげよう」

「そんな胡散臭いもの…」

「正解率75%だで?」

 

 仕方ない、無料より高いものはないんだ。

聞くだけ聞いておいてやろう。

 

「で?聞くだけ聞いてあげるよ」

「なかなか高圧的だなぁ。いいぜよ、占い位やってやろうぞ」

 

 ぶれない質素なローブとフードを羽織る少女。

あ?正体不明のくせにわかるって?骨格と服装だ。

ここら辺に男性でも、スカートを履く文化はない。

で骨格的にも、幼いころは大差ないが何故かはっきりとでているんだよなぁ。

 

「これからギルドに行くんだろ?そんだばそこで、ボッチがいるのぉ。

そやつを仲間にすれば、基本上手くいくぞい」

「おまえババアみたいな話方するんだね」

「生まれつきじゃ、しゃあないんだぜ」

 

 話を一区切り終えると、ノーアが僕の隣に来た。

もちろんライムを抱えている。

 

「ねえ!あなたの名前なんなの?教えて!」

「うちか?うちはリェッシーマ=ヴラン!こう見えて、見習いという仮の被り物をしたプロの占い師なのだ!」

 

 胸張って言うことか?

それは大々的に、表立っていえないってことじゃねえか。

それとそこまでいけば預言者だ。まあ、責任を負いたくないっていうのはわかる。

だからそうやって占い師をやっているってことだろう?

 

「で、ヴラン。占い師なんだから、もう少しボッチについて情報がないのか?」

「ふーむ。まあこう見ても鑑定士じゃかんな。お主等若者の資質を見てやることもできるぞい」

「ふーん。じゃあ、僕の資質を見てもらおうかな」

「あ、ボクも見てほしいな!」

 

 僕はともかくノーアはすごく乗り気だ。

しかしそんなノーアの健気なお願いは、このロリを騙ったババアっぽい少女の欲求により唾棄される。

 

「フフフ。そのぼっちをつれてきなさんな。そしたら、教えてやらんこともないで」

「仕方ないな。ノーア、やってほしかったら、ボッチを救済してこいってさ」

「うん、わかった!それじゃ、シマちゃんちょっと待っててね」

 

 ノーアはそう言って手を振ると、僕と肩を組んでギルドへ足を運ばせた。

仕方ないので、そちらを優先した。

まあボッチを仲間に入れれば、なんとでもなるか。

 

 

「ようこそ、『エルヴェキスタン』のギルド支部へ」

 

 普通に木造の家に入って、受付嬢のところにいく。

カウンター越しに、普通の女性がいて営業スマイルを掲げている。

 

「えーと、ギルド登録しにきたんですけど」

「わかりました。では、このカードに手のひらを載せてください」

 

 取り出されたのは、CDを入れるカバーっぽい大きさの紙。

和紙の表みたく、つるっつるだ。

ここに手を載せるんだな?

 

 ノーアも受付嬢から差し出された紙に、手のひらを載せた。

そしたらカードが光って、紋章が浮かび上がった。

 

「はい、完成です。それがあなたたちのギルドカードになりますね。

それとギルド会員になりましたら、パーティを組んでみてはどうでしょう?

きっと依頼達成効率がよくなりますよ」

 

 つまりさっきからこっちを見ているボッチのように、一人ではままならない事があると。

 僕はそれを聞いてから、ギルドカードを貰う。

ノーアも大事そうに、バッグの中に入れる。

さあてそこにいるボッチに話しかけようか。

 

「やあ、君。さっきからこっちを見てたけど、新人いびり?」

 

 僕はにこやかに挨拶する。

新人いびりっていうのは、先輩とかが自分の力を見せつけたりいろんな手段で相手を従わせることだね。

非常に厄介極まりない。

だからさっそく彼をいけにえに捧げ、僕らの人生に捧げてやった。

 

「ああ、ちがいます。お願いですから、パーティに入れてください」

「やけに積極的だよね。何、僕らを狙う何かなの?」

「違います。一人では手詰まりなんです」

「なぜ?」

「魔法使いなので、接近戦ができないのです」

「なるほど」

 

 魔法使いな彼は名前をツルという。

見た目はたれ目で気弱な感じがするが、気がしっかりしていて答弁が明確だ。

なんというか…見た目で損しているよね、この人。

 

 まあ、なんとかなるっしょ。

 

「それで、使える魔法はどんな属性?」

「水と風です」

「へぇ、土砂崩れとか天候を操れそうだね」

「実際操れます」

 

 なんだろうか…。丁寧すぎる。ノーアへの対応も柔らかな物腰で、子供っぽくない。

まさかの年齢詐欺か?

まあ異世界だし、そんなもんだろうさ。

もし裏切られたら、僕の魔法で目玉を炙って視力を奪ってから、徐々に痛めつけて殺すよ。

 え、性格に合ってないほど残忍だって?

ごめんねー復讐法とかそんなの関係ないんだ。

 

僕に歯向かったら後悔するよう魂と肉体の髄にしみこむくらい、痛烈な被害を与えるのが僕の信条なんだ。

 

 

 さてパーティとして組み込むことは確定しているんだよね。

だからこのまま依頼を張り付けているところまで行って、どんなのがあるのか見る。

幸いこの村周辺は、魔物より野生動物のほうが恐ろしい。

だからこの掲示板は、採集や探索、動物退治しかない。

いや雑務もあるけど、本当にここらは現実でもかわらないなぁ。

 

「この依頼より、こっちがいいと思いますよ」

 

 ツルが僕の隣に立って、依頼に関して指摘してくる。

 僕が最初にやろうとしたのは、採集の奴で比較的報酬がいいやつだ。

だけどツルがとったのは、田畑の番でイノシシやスズメを追い払うカカシ役を行うといったものだ。

 

「なんでこっち?」

 

 頑固になって拒否するより、一応意見を聞くのはパーティとして過ごしていくには必要なこと。

いちいち目くじらを立てるのは、元高校生としてあまり心象によくない事だと思うからだよ。

 

「そっちは金をもらうだけです。ここら辺の物価は安いですが、その金では三人分どころか普通のごはんを

食べられません。宿になんて、普通に無理です。

しかしこっちは一週間の番で、宿のような待遇を確約してくれてます。

 出現する野生動物は、クマなどがしゅつげんするかもしれませんし敵対的な魔物も出現するかもしれません。

ですが私やラティスさん、ノーアさん、ライム殿がいれば、そこらはどうにかできるでしょう。

田畑なので気候的にサトウキビやトウモロコシなどはありえません。

有効視界は広いと確信できます」

 

 つまり採集のように未確定ばかりの遭遇や待遇がないってことかな。

うん、こればかりはこっちの田畑のほうを選ぼう。

きっと交通整理の警備員並にきついだろう。

だけど背に腹は代えられないし、なにより温暖な気候でありながら低湿だ。

きっと日中は快適な時を過ごせるんじゃないかな?

 

「見てきたような物言いだね、ツル君?」

「私はこれで今まで生きてきました」

 

 あ、はい……。

日々のたまものですね。

 

 ああそうか、ツル君と魔法に関して練習できるかもしれないのか。

だったらこれはありだな。そうしよう。

謀られたら異端審問として、謀った仇を返すだけさ。

 

「ノーア、これでいいよな?」

「うん!ラティスの指針に従うよ」

「わかった。それとライムのクソゴミは、問答無用で許諾だ。拒否したら、サッカーボールにしてやる」

「コクコク」

 

 ライムも普通にうなずく。

よし、これで決定だー。

この依頼を持って受付嬢とは違う椅子に座る人に、この依頼用紙を渡すと無言で地図を突き付けられる。

そこには依頼主の現住所と労働勤務時間とか、いろんなものが書かれている。

こいつを手に取って、さっさと閑散としたギルドから出て行って、あの占い師のところへ行く。

 

「おーいヴラン、連れてきたぞ。占い聞かせろ」

 

 こういうとツルが一気に後方から前方へダッシュしていった。

 

「君の斡旋か!?」

「ふふふ、そうだで。うちに感謝しなや?」

「じゃ、じゃあ、彼らは…!」

「《記憶継承の日本人さ》」

 

 僕はそれを聞いて、彼らのところへ行く。

いや、もともと行こうとしていたけれど、ツルの猛スピードに驚いて呆然としていたんだ。

 

「ラティス、日本人って?」

「世界は二つの事象にまみれている。それは知るべきことと知らなくていいことだ。

これは知らなくていいこと。さ、彼らの言動は無視して、聞いてみようか」

「う、うん」

 

 僕は彼らの言動を妄言として、ノーアに処理させる。

まあ先ほどまで僕は、ヴランとその話題で盛り上がったんだけどね!

 

「とにかく占ってくんない?」

「OK!そんじゃ、ついでにツルもうらなったげんよ」

「ついでですかぁ…」

 

 というわけで水晶体に、順番に手を置いていく。

 

「えー、結果がでましたー。ラティス。君は法王になるって出てるね」

「フランシスコ・ローマ教皇?」

「おーっとそれ以上はいけない」

 

 とにかく胡散臭い占い結果だ。

というか預言か予知っぽいなーおい。

 

「よくわからんけど、法王って事だでな。ほいじゃ、次、ノーアちゃん!」

 

 ノーアはニコニコと楽しそうにしている。

ちなみに今水晶体の上に、ライムがいる。

腕が疲れたんだそうだ。あいつ意外と重いんだよ。

蹴っていても普通に重いとわかる感触があるからね。

 

「ノーアちゃんは、女神ってなっとんね」

「女神?こいつ男だよ?」

「無茶な口調せぇへんでええで、ラティス」

「お前も関西弁を隠すために、変な方言使うな」

 

 無茶な口調っていうのはわかっているさ。

でもね、この姿と声と色々合わせるためには、こういう口調の方がいいんだ。

その方が、いろいろ辻褄が合う。

 

「で、女神?」

「戦場の女神とかそういうやつでしょう。ノーアさんは、非常に男受けがいい容姿です。

というより男性というのを初めて知りました」

「せやせや。まあ年齢的に男女わからんしな。大抵二桁もいってへんやろ、この子。

二桁に乗り始めたらわかってくるし、そん時判断やな」

 

 表情が見えないが、口元が盛大に笑っているのがもうね。

 

「次にツル。あんたやで。ほんでま、あんたは天皇やな」

「ああ、天皇杯ですね」

「天皇陛下の方や」

「なんてこった…!」

 

 あー教祖と王が組み合わされたパワーワードの一つね。

知ってる知ってる。

 

「天皇ってなんなの?」

「すんごい人。ものすごいよりはるか上のすごい人」

「へえ、ツル君すごい!」

「語彙力溶けてますよ…」

 

 次はライムか。

 

「ライムは魔王やって!」

 

 爆笑してる。

ノーアは無邪気に笑ってる。

僕は失笑してる。

ツル君は苦笑いしてる。

 

「まあ、あり得ないな」

「強そうだね、ライム!」

「そういう資質があるのですか…」

 

 ヴランは水晶体の上に乗るライムを、ぷにぷにして遊んでいる。

 

「あ。うちは守護神やって」

「ヴランがか?壊れてんじゃないのか?」

「ヴランにしては嘘が過ぎますよ?」

「かっこいいね、シマちゃん!」

「ありがとーノーアちゃん!」

 

 さて占いも終わったし、そろそろ行くか。

結構時間も経過した。

あまりおくれると、依頼主がなんか起こしたらまずい。

 

「これで占いが終わったか」

「せやな。ほんなら、あんたらの出世払いを鑑定料としよか」

「あ?そんなのきいてないぞ?」

「今言ったかんな」

「……よし、イラついた」

 

 僕はこいつの自由奔放な言い草にイラついていたんだよ。

同郷とかボッチを拾ってこいとか、ボッチは仕掛け人であったとか。

もうめんどいしうんざりだ。

こいつに痛い目を見させなくてはならない。

 人を欺くことが、どんなに罰当たりなのか。

身をもって知らせなくてはな!

 

「あのさ、ヴラン」

「ん?」

「詐欺というのは二種類ある。そのうち一つをお前がやったんだ」

「どしたんや?負け惜しみか?」

 

 僕はこいつの腕を引っ張って、立ち上がらせた。

 

「いたっ!」

「おい。お前も僕らの仲間だ」

「はあ!?」

「仲間にならないなんて言ってないなんていうなよ?

そもそも、ボッチっていうのはただの商売に関する撒き餌でしかなかったわけだ。

だったらこっちも相応の手を使うからな。

 僕らは金に飢えている。ともに来て、金を稼げ」

「あんた、バカか?」

 

 批難を浴びるけれど、知らないなぁ。

というか後出しじゃんけんは、ずるいんだよ。

だからこっちも使ったまで。それを今回行使しているに過ぎない。

 

「ライム。水晶玉をもっていけ」

「コクコク」

 

 そういうと、水晶玉の上に載っているライムは台の上に落ちて、玉を頭の上に乗せた。

そしてそのまま後方へ、話しているノーアとツルに向かった。

 

「店仕舞いだ」

「そないな事いっても、うちは見習いや女将の許可もらわへんと、移動できへんで」

「見習いの皮をかぶったプロといったのはなんだ?もしかして詐欺か。

ならば、その見返りに金かその身をもらわないとなあ?」

 

 僕はヴランの腕をひねり上げる。

痛みに表情をゆがめているが、ローブでその鼻より上はわからない。

 

「仕方ない。ここより南10キロのところに、奴隷商の館があるんだけど。

奴隷やってく?」

「誠心誠意、仕えさせて戴きます!」

「だったら、初めからそういえ馬鹿野郎!!」

 

 閑散としているが、それでも人がいないわけでもない。

だからこっちの痴話げんかに、いやな表情を浮かべている。

でも僕はそんな外野に向ける意識なんてないので、適当ににらみつけておく。

 

「プルプル」

 

 処す処す?と水晶玉を、触手二本で頭上に掲げているライム。

僕は割らないでヴランに返すよう言った。

ライムは玉をヴランに投げ渡す。

そしてノーアのところへ帰った。

 

「で、ラティスさん。これより向かいますか?」

「まさかと思うけど、知り合いじゃ……」

「そうです。では、行きましょう」

 

 僕らはその農家に向かって歩き始めた。

 

 

ーーさくっと獣王様

 

 俺は井上幸太郎。

しがない土木作業員さ!

 

いやぁ、あの神様とかいうやつのアレはこたえたね。

上空に隕石があって、朝日とその数時間後の太陽しか見れなかった。

 

 土やほこりにまみれ、夜間から早朝にかけての路面切削から路面整理。

水道管や路肩の花壇整備、草抜き、間伐、いろいろやってきた。

その中で俺を毎日見続けてきたのが、あのさんさん輝く太陽だ……。

 

 恵をくれたり旱魃とかいろいろやらかす太陽。

だけど常にともにあった。

 

 体はすでに慣れてるから、時期によって差が出るにもかかわらずアイツが地平線より

頭を出したら目が覚めた。

まあ眠たい時は、寝たんだけどな!

 

 

 そうそう。俺が今回転生で選んだのは、まあ普通の生活ができるってやつと

魔物とか動物と仲良くなれる奴にした。

異世界物は今まで休憩時に、若い者と話をして仲良くなって離職率を下げる事を目標にある程度目を通してた。

だから今回は予想外の危険性を持つであろう、魔物や生物に対して対策をしたのさ。

 

 そして今回の目玉である記憶継承!

 俺はまだ若い!といえるが、なんというか…俺…妻がいねぇんだわ。

だから今度こそ無念を晴らすため、記憶継承はありにした。

別にありにしなくても、転生したという事実とそういう気配はするらしい。

でも記憶は全くないから、事前に選択した奴を生かせない可能性がある。

 それらも踏まえて、継承したんだ。

いや、俺は妻を娶りたいというのが本音だぞ?

ほんとだぞ?

嘘じゃないからな?

 

 ちなみに記憶継承は、ポイントが少し失われるものだった。

いるかいらないかで言われると、有ってもなくても本当に少しの差異だからどっちでもいい設定なんだ。

ま、俺はありにしたけどな!

 

 

 そうそう。

最後目にしたのは、かつての仲間とうどんを啜りながら談笑した光景だ。

 

 これで最後かと思うと、寂しいもんだ……。

 

 

 さ、俺の物語をご覧あれ!

 

 

 俺は転生したという実感を持ちながら、山地である農家に生まれた。

 俺は牛車とか使っていながら、舗装が全然だめなのを見て俺の魂が燃え上がった。

すぐにコンクリートの原料となる石灰と糊状のもの、水分を父さんや周辺の農家の皆に聞いて探した。

幸いここは死火山なのか、5Mほど友人であるフォードに風魔法で掘ってもらって火山灰を入手できた。

しかもきれいな白に近い灰色だ。

 

 

 すぐにこの地層にそんざいする火山灰や凝灰岩を集め、粉状にしたところに糊状の液体を入れてセメントを作り上げる。

そして筵や木材など、整地するための道具を集め行動を開始した。

 普通の農家の人だと、頑固で俺の言う舗装路案を蹴ってきた。

しかしこんな田舎でも革新を知っている人は、俺の言う舗装路というものを見て手伝ってくれることになった。

そこで俺の父さんは、この舗装路に反対していたのでフォードのところを優先して舗装した。

 

 

 ここら一体は温暖だけれでも多湿。

セメントがこの湿度で膨れ上がって、変に劣化したり水分が過度に増えて混合比が崩れてしまわないか心配になった。

まあ杞憂だったんだけどな!

俺はこの土地を離れてしまう5年後まで、主要の街道をセメントで舗装路として作り上げていった。

 

 ちなみに技術は伝えた。

万が一のために、鉄筋コンクリート造りとか色々試作しているので、ある程度分かってくれていると思う。

この俺が携わって8年は、有意義な時間だったとでも伝えておきたい。

なにせ俺は、ここを離れてしまう事件が起きてしまったんだからな。

 

 

 ある日俺は奇麗な石が出るという情報を貰って、この死火山から10キロ離れた火山に向かっていた。

その山は俺が住んでいたすぐそばにある死火山よりも標高が低い。

ハワイにあるキラウエア火山のように、なだらかな丘陵なもんだった。

 

 この山の名前は知らない。

そして俺はここで周囲を見渡しておけばよかったんだ。

近くには多くの火口。

水が張っており、周囲は湯気が立っている。

 音がした先には間欠泉がある。

麓は色とりどりの着色がされている火口があって、イエローストーンのような景色がたびたび見られた。

さらに周辺に生息している草木は、繁殖力の強い雑草レベルのものが『芽』で生えているということ。

 

「おーい!ジェイドー!」

「おー、フォード!」

 

 きれいな石というのは、フォードが教えてくれたんだ。

 

 きれいな石……。

それは山の中腹にある、エメラルドよりも透き通っている翠碧の結晶だった。

 

「奇麗だろ!?」

「あ、ああ…ここまできれいだとは……」

「火山にあるってことは、耐火性がいいってことだよな?

だったら、こいつを破片にすれば、観光名所にでもなりそうじゃないか?」

「さすがだよフォード。そのとおりだ。俺はこれを火山灰からガラスを抽出して、行おうと思ってたんだ」

 

 フォードの観光資源と道としての重要性を両立した視点がすごい。

彼は今後、ものすごい人になるかもしれない。

 

 

 

そう思っていた時期があった。

 

 

 

 こんな感じに談笑していた時、突然地面が揺れ始めたんだ。 

そして俺は突然の地面の隆起に驚きながら、頭に何かが当たって気絶したんだ。

 

 俺が目覚めたとき、俺の周囲はまっくろくろすけだった。

いや俺がいるところは、大きな岩の上でその周辺は冷めた溶岩や流動性の溶岩が流れていた。

あまりの熱気とこの地域の特徴である多湿によって、俺は地獄を味わっている最中だ。

 

 俺は岩の上で寝ていたので、空を再度見ることにした。

別に周囲が溶岩しかなかったので、見飽きて空を見ることにしただけなんだ。

 

だくだくと汗を流して、自身の高温による眩暈とのどの渇きを我慢しながら、上を見る。

するとそこには火山の煙が、俺がいる方向とは逆の方向へ流れているのがわかった。

さらに台風の目のような雲の壁が、周囲一帯を覆っているのもわかる。

 

 そしてなによりも違和感を発しているのは、俺の目先4Mほど空中に浮いている翠の結晶。

 

 そうだ、フォード。フォードはどこだ!?

 

 って、助かるわけがないよな…。

周囲は溶岩ばかり。いくらフォードでも、助かりようがないだろうな。

 

 俺の初めての路面舗装計画に、一番の革新性をもって賛同してくれたフォード。

できれば一瞬で苦しまず逝った事を願うばかりだ……。

俺は体から力を抜いて、大岩の上で寝る。

きっとこのまま体は枯れて、脱水症状と熱中症で死ぬんだろうな。

 

あー、やだなぁ。

 

折角転生したのに、何もできないで終わるのか……。

辛い、辛すぎる。いや、フォードもきついだろ。

俺もきついけど。

 

 きっとフォードはその先見性をもって、この先ここら周辺を豊かにできたはず。

あーあーあ。もういいや、寝よう。

きっと、夢に違いない。

 

<夢ではない、現実だ>

「へ?」

 

 

 俺は空中で光り輝く、翠の結晶を見る。

その結晶は割れて、中からなんか燃えている獣が出てきた。

 

「あ、はは……もう、どうにでもなれ…」

 

 高温の中、頭痛で意識を失った。

 

 

 

<目覚めよ>

「ハッ!?」

 

 

 俺は溶岩の孤島、大岩の上で死んだはずじゃ!?

 

<生きている。安心せぃ>

「あー、あなたが俺を助けてくれたんですか?」

<いかにも>

 

 

 なんか、助けられた。

しかも周囲は普通の草原。

しかし俺がいるのは、大岩の上だ。

 

<この大岩は儂の肉体の一部でな、転移することができる>

「なんと!?」

<何、お主が儂を開放してくれたんだからな、当然のことだ!>

 

 ガハハと豪気に笑う獣。

全体的に赤く、一部金色のものだったりする。

なんというか、魔物…だよな?

でもどうみても、魔物とは違う次元のものに見える。

 

<ふむ……よし、気に入った!儂とともに来い!お主ならば、獣を制御できるかもしれん!>

「よくわからんけど、困っているんだな?だったら、手伝うさ!」

 

 

 と豪語してこの獣についてきたわけなんだが、怪我している獣が多く何とも言えない状況なのがわかった。

さらに獣が言うには、迫害されている獣人や亜人もここにいて隠れ住んでいるという。

 俺は彼らを人並みの生活基盤を築くか、連合国家としての統率をしてほしいとのこと。

もちろん俺の技量を超えているとして、拒否した。

それでも個々人として、それぞれにあたってほしいと言われた。

全体的なものは、この獣がやるらしい。

 

<儂はお主に仕えよう。なにせ、この国はお主が王なのだからな>

「は、はぁ……。ところで、あなたの名前は?」

<儂は火の神の僕、神獣カルテ>

「俺はジェイドだ。よろしくお願い致します」

<うむ!>

 

 

 俺はこの土地で、獣王をやることになった。

もちろんインフラ整備とかするけどな!

 

 

ーーさくっと暗殺者

 

 私は西田真弓。

しがないOLよ。

 

 今年有名な企業に入社したんだけど、まさか入社して数か月後に努力が水の泡なんて

考えてもみなかった。

私は最後、好きな山内竜也君と抱きしめあって転生したわ。

 

 正直転生の時、記憶の継承なんていらなかった。

こんなつらいことが、二度もあってたまるもんですか。

いや、三回目はないかもしれない。

 

それでも私は転生の記憶継承を拒んだ。

 

 

<それでよいのかね?>

 

 ええ。私は一度すべてを、やり直す。

ただの一般人として。

 

 能力は本当に、今までと同じようにした。

でも死にたくないのは明白なので、すべてのポイントを使って『神才』のところにチェックを入れた。

これが未来の私。さあ、リセットよ。

 

「また会おうね」

「応よ、また来世でな」

 

 私は彼と最後まで、一緒にいた。

 

 

 

 

 転生した。そんな記憶なんてリセットされたと思ったのに……。

ううん。隅々の記憶なんてない。親やきょうだい、今までの累積された軌跡や知識はない。

それでも私は、どんな人生を歩みどんな個人観念を持っていたかわかってしまった。

私は転生を拒んでいた。

 これから幸せな人生を送ろうとした矢先のこれだ。

ふざけないで。本当に、ふざけるな。

 

「アリス!何しているの!」

「お、お母さま。私は別に……」

 

 私は思案に浸っているとき、お母さんが私の右手にある短剣を奪い取る。

 

「『治療』」

「あ・・・」

 

 お母さんは私の右手首についた傷を、魔法で直した。

無痛の出血は、瞬く間に治った。

 

「私はアリスの母親よ?何で、私に不安をぶつけてくれないの?

 そんなに私は親じゃないの?」

 

 あたりまえじゃない。私はあんたの子供でも、心は地球の日本人なんだから。

 

「私は親なんていらない。一人で生きていく」

「そう……。わかったわ。レンジ!」

「ん?どした、母さん」

 

 私の仮の父親レンジが、顔をひょっこりとだした。

今までそこで見ていたっていうのかしら。

だったら止めなさいよ。これだから父親は嫌いなのよ。

 変な意地っ張りと欲求と見栄っ張り、何もできないくせしてやろうとするその無能な頭。

 私が付き合っていた彼とは全然違うわ。

彼とは私が入社したら、その祝いに結婚する予定だったらしい。

でもその前に転生してしまった。

 

「レンジ。アリスに生き残る術を教えましょう。

私達じゃアリスの心を癒せないわ。きっと来るであろう、戦争の波を乗り越えられるようにね」

「いいのか?母さん、アリスに剣術は教えないって…」

「あれは私のエゴよ。アリスはアリス。拒絶されたのは悲しいけどね」

 

 私は両親を見ないで、近くにある窓から外を見る。

真昼間からこんな無駄に豪華な服を着せないでほしい。

ああ、外で遊びたい。

 

 お母さんは私を、貴族の餌として育てた。

 実際わたしは鏡を見て、以前よりも非常に美少女だった。

私ですら引いた。これはやばいって。

きっと私は地球よりも治安が最悪な、異世界の中で確実にやられるって思った。

 実際そういうのは見てきた。見せられてきた。

奴隷というものに身を落とした女の子が、デブの異臭を放つ豚とともに養豚場に入っていく様を見た。

そしていやな音と声を聴いた。

 

 だから私は貴族への政略戦争に入るのは嫌なのよ。

 こんなくそったれの場に居たくない。

さっさと剣術や魔術を習って、外に出ようと思う。

でも私は友人がいない。だから、強い心と何物にも動かされない思考をもって、この世界を生きてやる。

 

 

 そして私はお母さんと父さんより、治癒魔法・高等魔術・短剣・弓術を学んだ。

 私はお母さんの無駄なこだわりのせいで成長できなかったけど、

父さんはそんなものなかったのはよかった。

だから素直に剣術を習った。

 お母さんは治癒魔法を教えている途中でも、私が政略戦争に戻るよう甘言を伝えてきた。

私はそれを一切無視して、魔法を学んだ。

娘を道具扱いしている時点で、お前に興味なんぞないから。

 

 

 私は父さんを信頼していた。でも、結局男は男だった。

 最後の試練。それは何だったと思う?

普通は父親と今までの修練のための実践と実戦よね。

でも違った。奴は現実というものを教えたいという名ばかりの矜持で、

実際は私の体を目当てに戦闘というもので隠し襲ってきた。

 

 私はこいつの男としての象徴をぶっ潰した。

というより、斬り落とした。こんな野蛮な人間は、去勢したほうが世のためになる。

 結局こいつらからは、あまり学べなかった。

 最後私は家からいろんなものを奪って、外に出た。

そう、私は『神才』だから、一瞬にして身に着けてしまう。

だから用がなくなれば、立ち去るのが普通なんだ。

 

 

 あれから数か月。

私は短剣をもって、一人で暗殺をやっていた。

だって簡単なんだもの。

 訓練しなくても、戦うだけで戦闘能力が上がっていって敵を倒せる。

あり得ないくらい大きな敵も、あり得ないくらい小さな敵もすべて制圧してきた。

こんな簡単な世界。

だからこそ私は『死』を欲しがった。

 あの時の私はもういない。幸せになるはずだったあの世界。

何でよりによってあの時に……。

 

私の怒りは虚空へと消える。

 

 むなしい気持ちに支配されながら、今日も今日とて他者の人生を奪い金に換えていく。

それは無限の地獄だった。

 

 

ーーさくっと時を戻す魔法使い

 

 デュフフフ、きょ、きょうもオデのリュシアちゃんかわいいんだナ。

お、オデ、の名前……中川 蓮[レン]。

べ、勉強?ナニソレ、美味しいのかナ?

 

 ……。

オデは小学校の時に受けたやけどで、奴らに馬鹿にされてきた。

だから引きこもった。

痛くて、辛くて、だれも助けてくれなくて、何癖オデを悪者扱い。

 

 少し声をかけただけで汚物扱い。

ふ、プジャケルナアアア!

お、オデだって恋愛したいんだヨ!おにゃのこと、キャッキャウフフしたいんだヨ!

なのにデブで臭くて小さいだア!?

テメェラの心の方が短小じゃねえカ!

 

 ッフウ……最近、体が重いんだナ。

オデだって最近はバイトで、金を稼いで生きているんだナ。

人並みにしゃべれなイ。それでも、オデだって生きているんだヨ!

 

くっそガ!あいつらを……アイツラを見返したい……!

 

 

 オデは今日も今日とて、アニメを見る。

そんな時、オデの脳内に直接何かが話しかけてきタッ!

 

簡単に言うと、転生するとの事。

 

オデは呆然とした。

そして興奮が徐々にオデを支配する。

 

(アイツラを見返せルッ!オデは強くなル!)

 

 

 転生前の記入をすル。

書類審査の入国なんて、どんな世界にもありはしなイ。

オデはちゃんと記入するんだナ。

 

深呼吸をして、オデのなりやまない興奮を抑えていク。

変な事をやらかさないなんテ、補償できなイ。

 

ちゃんとした次の人生ダ。アイツラ、腐った野郎共をこます為、しっかりするんだナ。

 

 

「記憶の継承の有無?もちろん、有りなんだナ!」

 

 あの透けこましたかのようなうざい顔、顔・顔!

忘れないんだナ!オデを怒らせるとどうなるか、おもいしりゃせてやル!

 

 

家族構成・使用できる先天性能力、後天性能力・天職。

色々書きこんでク。

 

「うおっしゃ!できたゾ!」

 

 記入して転生手続きを終了した。

 

 オデはこの世が終わるまで、先天性能力や後天性能力で取得するであろう魔法などの知識をPCで取得してっタ。

考えず感じることで、オデの脳に吸収させてく。

 

 

 

 そして、オデは転生した!

 

 

 転生してオデは感動した!

最初は赤ちゃんだったが、スリムな肉体・なかなかの肉付き・髪……色々とオデの正反対になった!

首周りの脂肪だったりや咀嚼問題で、呂律や言葉の刻みがひどかっタ。

でも今回は……最高の人生を送れそうなんだナ!

 

 そしてオデは転生書類に家族構成やどんな職についているか、いろいろ記入していタ!

 

 だからオデは、今の状況に感謝してもしきれない!

オデは不屈の精神を付け、神童を付与したんだナ!

そして時戻りもできるようになったんだナ!

 両親は武術と魔術に秀でた家系にして、兄弟もオデを超える天才ばかりにしタ!

オデは冗長しないように、アイツラにならないためそうしタ!

 

 

 きっと死ぬほど辛いんだろうな、なんて後悔はしていル。

だがオデはやらなくてはならなイ!隣のクラスだった市原のようニ!

完全に屈服してはいけないのダ!

 

 あ、オデの今世紀の名前は、ローチ・フリードリヒ。

なんか落ちそうな名前なんだナ。

 

 

「ローチ!なんなのこれは!」

「お、お母さま!?」

「またへんなのをやって……また大けがをしたらどうするの!?」

「も、申し訳ございません!」

 

 いきなり怒られた。

えーと、この状況は……。色々あったんだな。

オデ――俺は魔法を使える。

 

 その中で上位魔法と呼ばれる雷属性、最上位魔法の力属性を扱っている。

これを見ればわかると思うんだナ。

 

 実をいうと、コイルガンとレールガン。

磁力で物体を間接的に動かす銃と磁力で物体を直接動かす銃。

それを使うために最初の形態として、サーマルガンというものをやっているんダ。

まあ、よくわからんね。

 

 しょうがない、諦めよう。

 

 それでこれを使うとき、プラズマがなんなのかわからなかった。

兎に角両腕で金属を挟んで、強力な電気を流して磁力を発生させたら金属が溶けたんダ。

あの時俺は近くにいた執事に、溶けた金属を水属性の魔法で冷やされ火傷を治療してもらった。

 おかげで両腕の一部は、火傷痕が残っている。

 それと溶けた金属は地面に付着して剥がれなかったので、錬金術師を呼んで排除してもらってた。

 

 で、結局お母さんに怒られタ。

俺のせいではあるが、少しは見逃してくれよ……。

齢10歳なのは認めるけどサ……。

 

「お兄様!」

「ん?」

 

 俺は声を掛けられる。

掛けたのは妹の”リュシア・フリードリヒ”。

なんと地球の俺が好きだったキャラの名前なんダ!

 

あ、見た目は違うゾ?

 

 ちなみに妹のリュシアは、俺よりも優秀なんだ。

でも神童時代であれば、俺の方が優秀。

神童はPCで調べたけれど、周囲からそう呼ばれる子供の事らしい。

それに大人になればなるほど、『賢い』の範疇が広くなっていくから俺の『神童』の効果は12歳ほどだと考えている。

 

 だから俺は日々をある程度、密度を増やして過ごしている。

 

 だけど、俺は……一年後の戦争で、妹たちを見殺しにしてしまった。

武術を積んでいればと思った。

 

そこで俺は時戻りをして、最初の生まれたときから開始した。

 

 

 記憶と経験は今まで積み重ねている。だから、強くてニューゲームなんダ。

しかし時戻りは、無制限じゃない。

最初は特典で、制限はないけれど二回目からは一年になる。

よって俺は一年経過したら一年戻って、12歳を結果的に24年かけて成長することにした。

 

 結果が同じでも結末が違えば、どうとでもなる。

俺は父から武術を母親から魔術を学び、都市の人から知識・知恵・技術を学び、

兄弟たちと成長していった。

 俺以外結果と結末を知らない。だから、やり直している。

安易な理由でも、俺の中では大切な存在なんだ。

 

 

「立て!そんなものでは、来るべき結末を救えないぞ!」

「わかってるよ、師匠!」

 

 結末の事を話したことはない。

しかしそういう感じの占い結果というのを伝えたら、いろんな師が本気で俺を成長させにきた。

神童と付与された不屈の精神のおかげで、死ぬほど痛くても辛くても前を向いて行動を起こせる。

成長していることが感じ取れるのは、すごくうれしいんダ。

 

「『電磁砲』!」

「どわっ!?」

「弟よ。貴様のいう磁力を理解してやったぞ!どうだ、私こそが最強なのだ!」

「死ぬかと思った!兄さん、もうちょっと過激にやってくれませんかね」

「そうかそうか!恐れをなしたか!手加減――ん? 過激?いいだろう、やってやろうじゃあないか!」

 

 兄は将来の俺の如く冗長しているから、扱いやすくて助かる。

それに兄は俺よりも優秀だから、俺は兄に知識を試させて試験という名の戦闘している。

これで兄と俺、妹が次々強くなっていった。

 

 それと俺は普通に24年間生き抜くことはしない。

一年経過したら一年戻すことができる。

しかし一年経過しないうちは、11か月・10か月と戻すことができる。

俺は何度もそうやって生きた。

 一年を何回生きているんだろうか?

発狂?んなものはない。

 

 不屈の精神で、何度も同じ敵を以前よりもよりよい結果で撃破する。

それが俺の目標になっている。

そして無駄を省き、最大効率を図って訓練をよく行う。

 

 そういえばアイツラはどこいったんだろうナ?

 今は復讐よりも、結末を変えることが先決なんダ。

ここでくじけるわけにはいかない。

 

「お兄様?」

「何かな?」

「先ほどより、なんというか……まとう空気が変わりませんでした?」

「そんなことはない!よし、まずは研究だ研究!」

 

 転移先でいきなりの事に驚くことも多い。

それでも俺は頑張った。

 

 

 できなかった電磁砲も、何度もループすることでできるようになった。

『神童』様様なんだナ。

多分俺はこの方法に慣れてしまって、一年を12+11+10+9+8+7+6+5+4+3+2+1か月――。

3週間+二週間+一週間+一日+半日+6時間+3時間+1時間+30分+15分+1分+30秒+15秒+5秒+1秒。

こんな感じに生きてしまうんだろうナ。

 

 つまり1年が78か月になる。6年5か月。結果78年を生きるだろう。

この間どんな展開が来るかわからないし、結局結末を変えられるかわからない。

それでも、やるしかないんだ。

 

妹が生きる時代を、未来を作り上げる。

 

 

「お兄様が教えてくれた”ばれんたいん”なるもので、”チョコ”を作ってみました!

食べてください!」

「あ、ああ、うん。ありがとう……美味しいよ」

「っ!ありがとうございます、お兄様!」

 




 私の暇つぶしにお付き合いくださりありがとうございました。

 続きなんぞありはしません。
俺たちの戦いは、これからだ!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。