生まれ変わって、こんにちは 作:Niwaka
※※ ※ ※ ※※
そんなこんなでやってきました、ロンドン!
父さんの家はロンドン市街のフラット、日本風ならマンション、コンバージョンフラット。ベルサイユのアパルトメントもコンバージョンタイプだけど。
3LDKっていうか納戸もあるから3SLDK? 納戸は炭(薪)部屋で裏口付き。地下1階、地上4階の3階だ。似たような外観のヴィクトリア風って云うか、大邸宅がズラッと並ぶ一角の、目立たない一部屋だ。
表玄関の入口ドアを開ければ階段室で、ぐるぐると上下に階段が伸びている。それぞれのフロアには向かい合うように左右にドアがあって、階段室を利用するのは階段を挟んだ各フロア二戸ずつ。地下と1階はちょっと間取りが違って一戸ずつしかないけど、2~4階までの六戸と合わせて八戸が階段を利用している。
そういう建物が何棟もくっついて建っているのだ。炭薪部屋の裏口は殆んど吹きさらしのちゃちな螺旋階段が付いていて、非常口兼石炭や薪の配達用の裏口らしい。
なんだかとっても良い住宅街って感じ。街並みはキレイだし、通りの石畳もちゃんとしてる。ビッグ・ベンの鐘の音も聞こえるし。非常に学校に通いたくなる音色です。
ちなみにベルサイユのアパルトマンから聞こえる鐘の音は荘厳で、ラ・カンパネッラを
こちらでは当たり前の、玄関開けたらすぐさまリビング。靴を脱ぐスペースが必要ないから出来る間取りだ。リビングにはダイニングキッチンが付いていていわゆるLDK。
レストルームを案内され、その奥に廊下が続き、主寝室と二つの寝室が続いている。
父さんとラシェルとカミッロが話し始めて、私は三つ子たちに連れられて奥の彼らの部屋へ案内された。
帽子を脱いでポシェットを置き、クヮジモド家だったらレモネードが出てくるところでお茶会。
すっかり気に入ってるんだよ、とベルガモットティーが出て来て。私がせっせと作った(作ってもらった)ベルガモットティーは、クリスマスプレゼントの後に会った時にも渡した。喜んでもらえたようで私も嬉しい。
で、一息ついたら大人たちのお話合いが始まって、三つ子たちに部屋に行こうと誘われたわけ。
廊下の突き当りを左に曲がると、左側はファミリーバスルームで、右側に扉が二つ並んでた。片方が男の子部屋で片方が女の子部屋とのこと。
元カミッロの部屋には二段ベッドが入れられていてアーニィ&アーヴィの部屋。元ラシェルの部屋はオーリィの部屋だって。ちなみにツアーな展開は血筋なのかも。三つ子たちは嬉々として私を案内してくれた。
バスルームのもう一つのドアから繋がる主寝室も、ダディの部屋! って案内される。――いつの間にかアルジェントがベッドの上に寝そべっていた。
歓声を上げて突進しようとする兄たちに、アルジェントは素早く反応した。近づくや否やサッとクローゼットの上に飛び乗ったのだ。……うん、届きません。
キャーキャー騒いでアルジェントに手を伸ばす三つ子たちに、子供ってこんなものだっけ? と我ながら微苦笑。そりゃあ、落ち着いてるって評判になるはずだわ、私。――エネルギッシュですごいね、どうも。
私を仲間に加えてアルジェントを呼びたいみたいだが、私は笑顔でアルジェントに手を振ってバイバイして三つ子たちをスルー。
男の子部屋に行って二段ベッドの上階によじ登った。上のベッドは小さい子用と云って、アーニィ&アーヴィは毎月一日に身長を比べあっているんだって。小さい方が上、身長が同じなら体重の軽い方が上だそうだ。私は上の方が好きだけど、兄たちにとっては下のベッドの方がステイタスらしい。
アルジェントを諦めたのか、あとから兄たちが二人よじ登ってきて、私を挟んで両側に座る。
女の子部屋のベッドが二段になったら、お前は上だなってニヤニヤしながら言われたけど、別に上でも良いしって云うか上の方が好きだし。いや、それより女の子部屋がどうして二段になるの? 私、ベルサイユのアパルトマンに自分の部屋もらったよ? そんな事をたどたどしく話してみた。
途中で、マジ? 信じられない! とか言われたけど話し通す。マーリンがどうのって慣用句、不思議な事出来ちゃう系の専用句? アーサー王伝説の有名な魔法使いだよねえ。
その後はオーリィも混じって私の部屋がどんなのか聞かれまくり。遊びに来ればいいのにって思ったけど、フランスのド・ラ・ゲール家に挨拶に行くのが苦痛らしい。
三つ子も私の生まれる前にあのアパルトマンには行った事があるみたい。家族でバカンスに。ラシェルとカミッロの前住んでた方の部屋だけど。セカンドハウスって云うか勉強部屋だからね。
さすがに一家7人じゃ狭くて、泊まる時はド・ラ・ゲール家にお世話になったんだけど、言葉が分からなくて、どうにもつまらなかった思い出しかないんだって。まあ、フランス人はフランス語が話せない人にもフランス語を強要しがちだから、英語しか話せないとタイヘンかもね。
カミッロもフランス暮らしでフランス語は出来てたし、ラシェルはもともとフランスの学校に通ってたし。その後、三つ子たちのお勉強にフランス語が追加されたけど、程なく言葉の教師である母さんの妊娠が発覚して(in私)、だんだん授業が減って、今ではもうすっかり埃をかぶってるみたい。それは(私の生まれる)タイミング悪くて申し訳ない。
でもさ、せっかくの機会だから、もったいないよ。出自に4ヵ国あるなんて稀な事を生かさないなんて。……もっとも、やる気のない子供たちに勉強を課すなんて無理か。
年齢を聞いたら9歳になったって教えられた。ついこの前が誕生日だったんだって。もう少し早く来たら良かったのに! って言い出した兄のうちの一人に、また今度ね、と私渾身のアルカイックスマイル。相変わらず兄たちはそっくりすぎて区別できない。
さらに何か言いつのろうとする兄たちの一人に、オーリィが素早く肘で突っ込みを送っていた。
そうそう、私たちは友達じゃなくて兄妹なのだよ。キミの誕生祝をするのならば私の誕生祝もしたまえ。オーリィは気付いて兄たちを
イタリアには私の誕生日で来てたと思ったけど、知らなかったのね。まあ、誕生日に来たのは一回だけだし、それを云ったら通算で二回しか来てないから、知らなくても仕方ないか。お互い様だね――私も無邪気に聞き返した。
ついでに、名前もハッキリ知らないと言えば、呆然とした後、自己紹介してくれた。うん、誰かに呼ばれてるのを聞いて覚えただけだったからさ。
三つ子だけど、産まれた順で云えばオーリィが姉。オーレリア・フェリシア。前にも云ったよね? 黒髪ストレートで目がビックリするくらい青い。白っぽくない青なので濃く見える、いわゆるサファイアブルーの瞳というやつだ。髪は黒髪で、黒褐色って云うか焦げ茶っぽいけど、日本人的な髪質。たぶん1/4の日本人の血が髪に出たんだろう。白人特有の
いわゆる美人顔で、将来じゃなくて今から美少女だ。冴えた美貌って云うのかな?
兄たちは三つ子の内でも同性の一卵性の双子らしく、見事にそっくりで私には見分けがつかない。どちらが兄か弟かって争いは完全に二人の中だけで済ませてしまうみたいで、二人で一セット扱いされることに不満はなさそう。まあ長幼の順を気にする文化じゃないからねえ。兄だろうが弟だろうが、ブラザーです。
アーネスト・クロードとアーヴィング・トール。ほとんど金髪と云っていい明るい茶髪で目も黄色っぽい。ただ肌が白人系じゃなくて、クリーム色の色白な日本人みたいな色で、肌に日本人的要素が出たみたい。全体的に黄色とか金色って感じで、ウケる。
二人は、どっちが
私の名前はクレーヌ・エステッラってフランス風に紹介したら、ちょうど呼びに来た父さんに、カレンだよ、と訂正された。発音的には日本語の『可憐』に聞こえる。
おまけで皆の日本名も教えてくれた。みんなミドルネームにちなんでいて、ラシェルはアグネスにちなんで
オーレリアはフェリシアにちなんで
父さんは日本生まれでイギリスに留学してきて居ついたから、ちょっと怪しい所もあるけれど、ネイティブな日本語が出来る。だからそれぞれの日本名も正確だ。漢字の説明もしてくれた。
誰が名付けたかも教えてくれた。
女の子はファーストネームが母さんメインで考案のフランス風、ミドルネームは父さん(andギャヴィン家)考案のイギリス風、日本名は日本の祖父たちにこういう名前になりましたって報告したら贈ってくれた名前だって。
男の子たちはファーストネームが父さんと母さんが考えて付けた生まれた土地風、ミドルネームは日本名を念頭に父さんが付けて漢字は日本の祖父たちに選んで贈ってもらった名前だそうだ。
アーヴィングは自分のミドルネームが『ソア』じゃなくて『トール』なのを不思議に思ってたらしいけど、説明を聞いて納得していた。日本語の発音の名前を何度も父さんにねだっていた。アーネストも『クロード』を『クラウド』と日本風の発音にしよう、と喜んでいた。その名前、金髪のツンツン頭で「興味ないね」が口癖になりそうです。
話し合いの結果の発表された。
私は当面、フランスのベルサイユ暮らしが決定だって。ラシェルとカミッロと一緒にね。
少なくとも三つ子たちが学校に行くようになってから、私の引き取りを検討したい、それまでは無理、という事らしい。いや、もっと丁寧かつ巧妙にオブラートに包んでいたけど、そういうことだ。
昼食は家で摂るようだ。父さんが主催でラシェルとカミッロも手伝って食事を作っている。魔法を唱えてチチンプイだ。
無から製造することは出来ないらしく、材料を揃えて、作業を簡略化する感じで魔法を使っている。料理番組とかの「この大きさに切って下さい」⇒「切った物がこちらです」、「二〇分煮込んでください」⇒「煮込むとこうなります」のところの、『⇒』部分に魔法を使っている。
シルキーは居ないのか聞いてみると、このフラットのある建物には不思議な事が出来ない人たちがほとんどなので、居ないそうだ。
シルキーはフランスを中心としたヨーロッパ各地に居る
不思議な事が出来ない人たちをマグルって言ってるんだけど、とても嫌な予感がします。ほら、アレだよ。わー、それなんてハリポt……うん、似てるよね。すっごい偶然! ――
食事風景はびっくりの連続だった。子供の食事ってこんなにうるさいんだっけ? と硬直しちゃうくらいだ。
楕円のダイニングテーブルにイスは6脚。父さんに三つ子たち、ラシェルとカミッロで満席だ。私はソファでアルジェントと一緒かと思ったら、何と父さんに抱っこされた。そろそろ重いんじゃない?ってカミッロには遠慮して座らないように心がけてたんだけど、重くなったなあって父さんに嬉しそうに抱っこされれば大人しく膝の上に座るしかない。
メインはコールドミート――チキンだった――繊維に直角に切ってくれたので食べやすい。ハニーマスタードソースが美味しい。
温野菜サラダはマッシュした焼きトマトと削ったチーズがかかっている。
パンはハードでヘルシー、つまりは硬くて製粉的な粗さで灰色っぽい。クリームやバターを付ければ美味しくなるけどね。
スープは根野菜とトマト。隠し味に醤油が垂らされてるらしい。懐かしくもエキゾチックな風味。
デザートはルバーブのクランブルパイのカスタードソースだ。イギリスらしくじゃぶじゃぶとカスタードソースをかける。
イギリス料理はイマイチと定評があるらしいが、父さんは日本育ちで母さんはコーニッシュ、新婚当時はイタリア住まいだったので、純粋なイギリス料理とは言えないだろう。味も良かったし。塩と胡椒のオンパレードなイメージのイギリス料理とは一線を画していた。隠し味の醤油とかね。まあ、チキンのソースのハニーマスタードは今ラシェルにブームが来てるから、伝授されたんだろうけど。
ド・ラ・ゲール家の肉料理で出されていたハニーマスタードソースは粒マスタードだったけど、イギリスでは粉のマスタードが流行中で、今回も粉のマスタードを練り上げたもの。これはこれで美味しい。ラシェルはさっそく粉マスタードを購入する算段を付けていた。
私にマルチリンガル教育を施したいラシェルの意を
カミッロの役じゃね? って思っていたら、カミッロはスウェーデン語とか出来るみたい。何でも、通っていた学校がスウェーデンとノルウェーの国境付近にあり、厳冬期はブルガリアの校舎で学んでいたりしたので、その辺りの言葉が片言でできるんだって。ずいぶんグローバルな学校だな~って思ったら、うん、不思議な事が出来ちゃう系の寄宿学校だってさ。確かロレンツォも同じ学校だったよね? けっこうクヮジモド家からも入学してたりするんだって。ラシェルの通った学校にもクヮジモド家は入学してて、グローバルなのはクヮジモド家でした。さすが南イタリア屈指の大農園。
ドイツ語とかロシア語もいけるよ、と片言で話し始めたけれど、語彙のほとんどが口説き文句な気がするんですが気のせいですかそうですか。そのあたり、親としてどうよ? ってチラリと父さんを見てみれば、うんうん頷きながらイタリア語の言い回しとか教えたり、ドイツ語の常とう句を聞いたりしてる。……忘れてた、父さんも往年のナンパ野郎でした。