生まれ変わって、こんにちは 作:Niwaka
カミッロは農園でパシャパシャと大量に撮っていた写真を現像して、丁寧にアルバムに
“農園”だとか“屋敷”だとか、タイトルを付けて写真を貼っていく。そこに私が、このブドウはワイン用、こっちはベルガモットでこれはオリーブ、などと言ったコメントを、カミッロが丁寧な飾り文字で書きつけてくれた。イタリア語とラテン語のちゃんぽんだけど。
単語とか説明はイタリア語で、ちょっとした格言やポエムっぽいのはラテン語。その方が
“言葉を話さない友達”と題された一冊にはウーゴをメインに
どういう技術なのか、駅舎でカミッロが買っていた新聞の写真も動いていた。印刷された写真の動きは、現像された写真よりも限定的で繰り返しが多いけど、動くものは動く。先進的だよねえ、3Dとかホログラムとかとは、また違うんだろうけどさ。あれ、どうやって印刷してるんだろう。
出来上がったアルバムが、あまりに素晴らしいのでラシェルにも散々見せて、カミッロにも何度もお礼を言った。
その後、こういう仕事をすればいいのに、と呟いたらその気になったようで、写真旅行記なるものを企画したようだ。今までの旅行で撮り溜めてた写真を整理し、見本品を作るつもりらしい。
まあ、女の子がメインだったりツーショットだったり、ちょっと
うっかり見始めた私からさり気なく取り上げて、手が届かない所へ仕舞い込まれるほどに教育には悪いらしいから。チュウしてるところとかベッドの上で半裸っぽい姿とか、絡み合ってるとか、ええ、見てませんとも~。
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部屋は快適だ。
シルキーが世話をしてくれるのにも慣れた。彼女たちはシルクのエプロンドレスこそひらひらして目に映るが、本体は透けてる幽霊然とした風体だ。物理的に触れられないので、家事仕事は100%不思議現象になる。魔法だね。
クッキングストーブのオーブンからラムラックのグリルがふわふわと出てきたり、シーツやブランケットがふぁさっと踊ってベッドメイキングされたり、なんとお風呂で髪を洗ってくれたり、背中を流してくれちゃったりもする。
お風呂と云えば、ラシェルのバスルームにもカミッロと共用のバスルームにもバスタブがあるけれど、これは我が家の特注リフォームだ。ラシェルもカミッロも、父さんが日本育ちの日本人ハーフなためか、当たり前にバスタブにつかる習慣がついている。
クヮジモド家でもバスタブはあったから気づかなかったんだけど、この辺りではシャワーで済ますって云うのが一般的だそうだ。つまりバスタブがない。イギリスもそうだって。イタリアではローマ伝来って文言がまかり通っていて、その一つが入浴文化だった。それともクヮジモド家のジョーク? たっぷりの石鹸と大きな海綿スポンジで体中を泡もこもこで洗ってもらったりしてたよ。テルマエだね。
魔法で進行していく家事仕事が、ホント興味深い。見られてると働けないっていう、どこぞの鳥の化身とか職人小人さんと違って、シルキーは私がガン見してても頼まれごとをこなしていく。
羽ハタキや箒や塵取りが独りでに掃除をして、洗い終わって水気を拭いた食器がキャビネットに仕舞われ、ふわりと乾いた衣類が畳まれそれぞれの部屋へ漂う。良いね! これぞ不思議系のまさしく魔法。いつまで見てても飽きない。
シルキーたちは家事仕事をする存在なので、私の
その点、ド・ラ・ゲール家に居たシワシワなメイドのハウスエルフは会話が可能で、もう少し人間味があったなあ。イギリスでは人気の種族だって云ってた。
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ようやく部屋にも慣れたかな~って頃、本格的に夏になって、バカンスに行くことになった。
バカンスと云っても行先はイギリスで、父さんたちの所と母さんの実家のギャヴィン家にご挨拶に行くみたい。
ド・ラ・ゲール家で滞在した数日中にトランク一杯貰った子供服のうち、外出用のサマードレスを着て、エナメルの靴にひらひらの帽子もかぶる。丸い輪っかが持ち手のポシェットを持って。ヤバい、ちょうロリータファッションでマジ可愛い!――ええ、自分ですけど、なにか?
トコトコ歩く私の手を引くのはラシェルだ。カミッロだと手を繋ぐのにちょっと高さが合わなくて中腰になっちゃう。だからいつも抱き上げられるのだ。ロレンツォもそうだったのかな。たいてい抱っこしてくれてたけど。
暖炉ゲートと不思議なステップで、ワープ移動と瞬間移動をこなし、駅舎に着く。思うに、暖炉ゲートのワープ移動はゲートを固定しているから長距離が可能で、不思議なステップの瞬間移動は個人の短距離用なのかもしれない。
暖炉の移動では、やっぱりどこかのロビーみたいなところを中継したし、ステップでくるりの瞬間移動で駅舎に到着したからね。
列車は寝台車だった。車中泊するみたい。
私も
私が持ってたのはアルジェントのリード。けっこう力強くぐいぐい引っ張られたりしたけれど、カミッロが私の面倒を見るようにアルジェントに頼んでからは、近くを歩いてくれた。気を取られてキョロキョロしてると、意外に低い声でミャウ! って鳴いて叱られたけど。うん、私がリードに繋がれてたみたい。よろしくね、アルジェント姐さん!
トイレに行くとき以外は
トイレも一人では当然ダメで、カミッロかラシェル、またはアルジェントを連れて行くように言い聞かされる。個室の並ぶ客車のトイレならば、等級的に安全らしいが、年齢的に単独行動は禁止だそうだ。
夕食は食堂車。子供やペットはお断りな感じだったけど、ラシェルもカミッロも、私やアルジェントは躾けが行き届いてるから大丈夫と、それドコのモンペ? って言葉をウェイターと交わして、何食わぬ顔で4人掛けのテーブルに着く。
ラシェルと私、カミッロとアルジェントに分かれて座る。ファンタジー種族が給仕してくれるのかと思ったら、普通に人のウェイターが料理を運んできた。
ラシェルとカミッロは通常のコース、私はお子様向けの半コース、アルジェントは猫向けのコースだ。
判りやすく言えば、イタリアンな方式で前菜とサラダが一皿、スープとパンに肉料理とチーズ、デザートとコーヒーという給仕だ。
私のはメインの皿に前菜とサラダと肉料理がハーフサイズで並べられ、スープも大人向けのスープボウルじゃなくてスープカップに注がれパンとチーズも半分、それらが一度に来た。カトラリーもオードブル用がサーブされたけど、両手に持った私を見て、ウェイターがにこやかにデザートナイフとフォークを持ってきた。うん、ちょっと大きかった。スープスプーンさえ軽食用のミニサイズだ。
猫用のアルジェントにはメインの皿に細切れの前菜と肉料理が大人コースと同じ
クヮジモド家では
ラシェルの言うアメリカ式とはフォークのみで食べること。片手でね。最初にザクザク切り分けてから、利き手でフォークを握って食べるのだ。最後までナイフとフォークを両手で持って食べるのが普通のマナーだけど、出来ないなら仕方ない、片手で食べても良いですよ、ということだ。ヨーロッパ人はアメリカを一等低く見てるからさ。この植民地上がりが! ってわけ。
刺して食べるだけなら簡単なのでパクリパクリと食べ進める。大人だった記憶があるのでついつい大きく口に運びがちだけど、幼児の私の口は小さいし歯だって乳歯だ。お肉は硬いのでよく噛んで食べましょう。
ガッツリかき込むように食べるような性格の大人じゃなかったから、ちまちま口に運ぶのも、むぐむぐ何度も噛むのも、楽しんでいられるけど……これ、どんぶり
列車でもラシェルの方針なのか、カミッロとはイタリア語で、ラシェルとはフランス語で私は話していた。ラシェルとカミッロとは英語で話す。トリンガルだね。列車のスタッフはフランス語でした。
翌朝、モーニングコーヒーと軽食が
たっぷりのミルクとクロワッサン、蜂蜜とバター。小さなボウル一杯のフランボワーズ。花瓶に花が添えられている。
あまり気にしてなかったけど、ラグジュアリーなこのシート、お高いのでは? グリーン車的に。
この世界では乗り物に一等とか二等とか等級があるのが当たり前だから、この
ほのかに温かく意外に美味しいクロワッサンを一つ食べて、カフェオレをミルク多めで飲み、デザートフルーツの木苺。甘酸っぱい。
数粒ずつ分けた後、カミッロは山盛り一杯のシュガーをボウルに入れガシュガシュ潰し、ミルクをひたひたと注いであーんしてくれた。美味しい。ラシェルも酸っぱかったらしく、横からスプーンを差し込んで食べている。結局カミッロも同じく。
アルジェントは味無しジャーキーみたいなものを一かけ貰っていた。両手で押さえながらクチャクチャ噛んでた。カワイイ。
食後身支度を整えてるとすぐに駅に着いた。終点だ。フランスの北端になるのかな? 海峡を渡るトンネルはまだ掘られてなくて、一度下車して船に乗り換えるみたい。
私がイギリスからイタリアに行った時は途中で寝ちゃったし、眠ってる間に運ばれたらしい。籠
英仏海峡はまだ地続きじゃなくて、イギリスは島国だ。
海峡を渡る船はいわゆるフェリーで、けっこう大きい。船酔いするかと思ってたら、平気だった。素晴らしい。乗り物酔いに苦しまない人生を送れそうだ。――まだ4年しか経ってないけど。
カミッロが駅舎で駅員から切符を買う時、支払いで、シリングだのペニーだのクラウンだの云いながら硬貨を数えている。そうだ、十二進法だったっけ。大元の単位は何だろう。ポンド? 日本ならば円だし、合算金額だから払いも楽だけど、ここでは硬貨支払いだから、ジャラジャラと面倒臭そうだ。
例えるなら、3五百円玉、16百円玉、11十円玉って感じかなあ? 合算でいくらだよ、て話だ。硬貨の種類が複雑すぎる。日本風にいえば、二十円玉とか二百五十円玉とかあるからね。
前世で外国人で暗算苦手な人が、日本人の、お釣りをまとまった硬貨でもらおうとする感覚が分からないってあったけど、こういう複雑な硬貨が存在するならそれも当然って感じ。
よくよく聞けば、不思議な事が出来ちゃう系の専用列車って云うのもあるみたいだけど、フランスで乗って来た列車も、さっきの船も、これから乗る列車も、
ちなみにだけど、魔法が出来ない系の人々の方が圧倒的多数で、
アパルトメントでは普通にバンバン使ってるけど、玄関のドアを一歩出たら使わないようにしてる。アパルトメントの居住者も全部が全部魔法が使える人たちじゃなくて、使えない人たちも居住してるらしいから。
イタリアのクヮジモド家でもそうだったけど、紛れ込む事を楽しんじゃう気質のカミッロは楽しげだ。まあ、だから『旅人』なんて出来るんだろう。
ラシェルは面倒臭いって顔全開にしている。
私はと云えばラシェルに手を引かれ、逆の手にはアルジェントのリードを持ち、トコトコ歩くことに集中していた。路面事情がそんなに良くないからね。気を抜くとコケるのだ。前世の日本並みの道路整備事情など望むべくもない。当時の諸外国中でもトップレベルだったし。変態的に先進的だったから、日本って。
ラシェルの手は迷子防止、人や物にぶつからない様にアルジェントが細かく行き来、そして私は穴に
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