生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

4 / 26
04. 初めまして長姉と長兄

◇◆◇ ◆ ◇◆◇

 

 そんなこんなで(めぐ)ってきた三歳の誕生日。

 

 父さんたちは来なかった。うん、――来なかった。今度はちゃんと姉兄たちと話せるように英語も頑張ったんだけどな~、……残念。

 

 知らされてなかったのは私だけなのか、待ちぼうけを食わされた感覚もなく、みんなで普通に誕生日のお祝い準備してくれてた。父さんたちをお迎えしようとウーゴと一緒に農園の入り口付近でウロウロしてた私を、ロレンツォが迎えに来てくれたのさ。

 

 近頃はすっかりロレンツォに抱っこされるのにも慣れた。髪形がそっくりなので親子っぽいらしい。すかさず髪をくるくるして巻き髪(ロール)に整える。ロレンツォ的にはもっとウェーブを抑えてキレイに撫で付けたいみたいだけど、私が巻き髪(ロール)好きでしょっちゅうくるくるするので、あまり短く切らずに好きにさせてくれるようになった。もちろん私の髪形も縦ロール、くるくるドリルだ。巻き毛に整えなければ、ふわふわの綿菓子ヘアーともいう。

 

 お誕生日席でロレンツォの膝抱っこでパーティと相成った。

 端から端までドルチェで埋め尽くされたテーブルに唖然。ケーキビュッフェみたいだ。

 

 (前世)好き嫌いがあって食べられなかった食材も、今は全ておいしく食べられる。良いことだ。エビとかイカとか食べられたけど好んで食べなかったからね。エビフライとかイカリングとか海老天よりもトンカツとかかき揚げを選んでたくらいだし。ウニとか牡蠣とか刺身とか、セロリもピーマンもバリバリです。

 日本と同じく海に囲まれたイタリアは魚介類とかも新鮮、牧畜酪農なども盛んで、食生活が豊かだ。素晴らしいね。ただしドルチェは注意が必要だ。

 

 ドルチェ、すなわちスイーツ。――私には平成日本で世を謳歌していた記憶がある。お菓子やデザートで「甘くなくて美味しい」というフレーズがまかり通っていた世代だ。

 だがしかし、まさしく駄菓子菓子、この世界のこの時代は「甘ければ美味しい」が普通なのだ。砂糖の塊と云うか、砂糖を煮溶かして飴状になったものに粉モノを入れて練り合わせ、砂糖をまぶす的なものが、当たり前のお菓子として登場したりする。ええ、げろ甘ですが何か? むしろただの砂糖の方がマシなんじゃね?ってレベルだ。

 

 食後のカフェのお供にプチフール的な感じでほんの一口供されるならまだしも、ドドンと盛られるとうええ~ってなる。萎える。アレだ、羊羹は2cm位に切り分けてあるから良いんだよ、丸かじりで、しかも一人一棹が毎食後ってなったらどうよ? それぐらい甘いものが正義なのだ。泣く。 

 

 そして私がクヮジモド家で子供らしい我が儘を発揮する一例となっているのが、この()()()()ドルチェをイヤイヤすることだろう。

 好き嫌いがなくなっておおむねニコニコあーんをしている私が、()()()()ドルチェは一口しか食べず、二口目から首を横に振る(イ ヤ イ ヤ)するのだ。

 

 それを踏まえたこのテーブルは、みんなの祝おうという気持ちが如実に表れていた。

 

 ドルチェでいっぱいのテーブル。私の好物系(甘くなくておいしい)ばかり。フルーツをふんだんに使って爽やかでさっぱり。砂糖は控えめ、クリームもバターも部分使い。「甘ければ美味しい」世代も居るので私のイヤイヤするドルチェもちらほらあったが、メインは私好みばかり。あまりの嬉しさに歓声あげたね。

 

 キャッキャ言いながら、ちまちまと全種類制覇する。それぞれ一口くらいずつしか食べなくても、品数が多いのでかなりな量だ。ほら私三歳児だから。

 

 みんなの祖母(ノンナ)監修、クヮジモド家のジェルトルーデ(マ ン マ)さんとエレオノーラさん制作のドルチェはかなり細かく作られている。まあ全体的に、ではなく私が食べる部分だけ、だけど。かなりな労力だ。フルーツは細かく刻まれてるし、ゴロゴロナッツだってほかの部分はアーモンドを半分か3つくらいに割ったサイズなのに、私にサーブされた部分は5mm角くらいの砕かれている。すごいよね。ありがたい。

 

 おかげで幼児の口にもたいへん美味しゅうございました。うまうま~。

 

 

 三歳児はまだまだ転がりやすいけど、日々農園を駆け回って遊んでいるので、だいぶ足腰が強くなった私です。ウーゴが補助犬のごとく付き従ってるお陰だけどね。

 

 あっという間に陽射しが暑くなり、冷たいレモネードが美味しい季節になれば、バカンスシーズンの到来だ。

 

 クヮジモド家に親戚たちがワラワラ集まるシーズン。

 あちこちから集まってくる彼らと、少しは流暢になった言葉で話す。イタリア語はもちろん、英語、フランス語、ドイツ語。シチリア訛もだけど、ラテン語を話すお爺ちゃんとかも居てびっくりだ。……話せるけど。幼児語メインだけどね。

 

 これがおそらく私のチートだろう、語学チート。頭の中で翻訳するってひと手間がないのだ。どの言葉もネイティブのように操れる、たぶん。メインの思考言語は日本語だろうけど、自動翻訳なのかも知れない。

 今世で日本語は父さんがちょろっと話しただけとか耳にしてないけどね。クヮジモド家には達筆な筆書きのお札が貼ってあったりするし、見知らぬ言語ってわけじゃないのだ。そしてもちろんスラっと読める。う~ん、チート。私SUGEEE! あ、私(語学)TUEEE!だった?

 

※※ ※ ※ ※※

 

 三歳のある夏の日、20歳位の青年が訪ねて来た。

 

 明るい褐色でくるくるしてる髪の英国人っぽい容貌。でも雰囲気はイタリアのナンパ野郎っぽい。普通にイタリア語で話してるし。名前はカミッロ。ビックリするぐらい顔立ちがロレンツォに似てる。二人で並ぶとそっくりな兄弟かって感じだ。

 

 ぎこちない手つきで抱き上げられて、いつも通り挨拶(ちゅっちゅか)してると衝撃の事実を聞かされた。なんと、上のお兄ちゃんなんだって!

 

 Ciao! Nice to meet you. (こんにちは、初めまして)

 

 つまり六人兄弟姉妹の一番上が姉で二番目がこの兄(カミッロ)、次の三つ子は姉が三番目で、二人の兄が、まあ、四番目と五番目。で、私が六番目(末っ子)。三つ子の長幼の順は初めて聞いた。あの三人はごちゃっと一緒くたって印象が強いから、はっきり聞けて良かったよ。

 今回上の姉が一緒に来る予定だったけど都合がつかなくて、とか云いながら、意外に優しい手つきで撫でられる。

 

 ちなみに衝撃なのはこれから。なんと(カミッロ)は私がここ(クヮジモド家)に居るの、知らなかったんだって! びっくりでしょ?

 

 驚いたのはカミッロもだったみたい。久しぶりに訪ねてみたら、末の妹が預けられてるなんて、初耳もいいとこ。はじめはロレンツォの娘かと思ったって。いや、似てるしそう見えるって評判だけれども。よくよく聞けば自分の妹、ロンドンで父さんと一緒に居るものとばかり思ってたのに!って感じらしい。

 

 一日の滞在予定を数日に延ばして、カミッロは私を構ってくれた。イタリア語で話してたけど、お客に合わせて英語とかフランス語とか使い分ける私を見て、驚いて英語で話しかけてきた。ネイティブは英語らしい。父さんはロンドン住まいだし、私も生まれはイギリスだから、英語に慣れた方がいいって考えかな。

 

 数日後、女の人が駆けつけてきた。

 

 カミッロの恋人かと思ったら一番上の姉さんだって! 名前はラシェル。ほとんど金髪っぽい琥珀色の髪がふんわりしてて、すっごく若々しい。そうか、顔立ちがちょっとだけ彫りが浅いんだ。いわゆるハーフ顔って云うか日本人テイストが入ってて童顔ってやつだろう。だから若々しくみえるんだねえ。

 

 Ciao! Ravi de vous rencontrer.(こんにちは、初めまして)

 

 明るい陽射しのもと見る目は濃いオリーブ色。瞳孔周りに茶色の班がある灰緑の目、いわゆるヘイゼルの瞳だ。カミッロはちょっと薄めのオリーブ色、黄色っぽい班で灰緑のヘイゼル。

 

 ラシェルはフランス訛りのイタリア語だったので、フランス語をメインに話しかけたら、喜ばれた。英語でもいいのよ、とネイティブ・()()()()・イングリッシュ。今のイギリスは王様なのでキングスで正解。前世では()()だったからクイーンズだったけど。

 この時代、女王が即位するなんて誰も可能性すら思ってない。まだまだ、当たり前に男尊女卑っぽい考えがまかり通ってるみたいだからね。不思議な事が出来ちゃう系の人たちは、その点女性の権利も強いのかな? イタリアって土地柄もあるかも、だけど。この辺りじゃマンマが最強です。

 

 ――ずっと昔、赤ん坊だった私に、母さんが死んだのはお前のせいだ、的な事を云ったのはこの声だった気がする。顔もこの顔だったような……あの頃は目がまだよく見えなくてぼんやりだったんだけど。

 まあ、あれから3年は経ったので、水に流してくれたのでしょう。私に対する態度も、子供に慣れない戸惑いだけで、あの時の言葉のような怨恨っぽいものは一切ない。腹に一物あったとしても表に出さないのなら、それでいいのさ。ええ、私は幼児なので、気づきませんともー。

 

 一(しき)り私を構い倒して、彼らもそれぞれ帰って行った。

 

 二人とももう独立してて住んでるのはイギリスじゃなくて、ラシェルはフランス、カミッロは今はブルガリアって言ってた。

 カミッロは世界各地に恋人がいるらしい(本人談)刺されるぞ。お仕事は『旅人』って言ってた。なにそれ。イギリス式ブラックジョークだと信じたい。

 

 

 秋になっても父さんたちは来なかった。

 

 夏風邪とか休暇の予定とか、いろいろあって来られなくなったって連絡が来たらしい。

 晩夏から収穫の秋になるまで、ずっと農園の入り口でウーゴと一緒にウロウロしていた私に、迎えに来たロレンツォが教えてくれた。夏休み(バカンス)には来られないんだって、てね。

 

 ロレンツォは無駄な期待を持たせない。不確実な希望的観測は口にしないのだ。だから周り中がナターレ(クリスマス)にはきっと来るよ、と慰めてくれる中、ロレンツォだけはそんな慰めは言わなかった。

 だけど、いつものように膝抱っこしてくれて、私が髪を弄りやすいよう顔寄せて、お揃いにしないの? と囁いてくる。このただ(ただしイケ)イケ(メンに限る)め! その後めちゃくちゃ巻き毛(くるくる)にしてやった。

 

 

 木枯らしが吹き始めプレゼピオ(降 誕 劇)を飾り始める頃、私はクリスマスプレゼントを用意した。ナターレじゃプレゼントはいらないけれど、クリスマスには必要でしょうってね。

 

 お金なんか見たことないし、通貨がリーレだかペニーだかよく分からない。イギリスは未だに12進法らしく、汽車に乗る時の貨幣の支払いが難しいって、前に父さんも言ってた。フローリンとかクラウンとか。日本も円だけじゃなくて銭とか厘の世界だし、世界中が独自通貨でバラバラなのだ。統一化の道は遠いね。

 それ以前に三歳児だからね、お金なんか持ってない。要するにお金要らずの、無料でできるものを準備した。

 

 庭のベルガモットの皮を細く刻んで干して、紅茶の葉にブレンドしたフレーバーティー、アールグレイだ。まだ市販されてないんだよねえ。

 レモネードにベルガモットで香り付けするのを提案してウケたり、レモンティーにもベルガモットだよと勧めて人気を博したので作ってみました。正しくは、作ってもらいました。刻んだり干したり、お疲れ様です。

 

 ベルガモットを保存のために刻んで乾燥させたものを(あらかじ)め茶葉に混ぜるという手法を主張してみたのだ。フレッシュじゃないなら、その方が淹れやすいよねって頼みこんで。完成したのが自家製アールグレイ。クヮジモド茶とか呼ばれちゃうのかな(笑) アールグレイじゃ誰にも通じないのでベルガモット・ティーって言ってるけどね。

 

 一番きれいな紅茶の缶を譲ってもらって、酸味や苦みに注意してブレンドしたベルガモットティーを詰めて、プレゼピオ(降 誕 劇)の飾りのリボンをわけて貰って、準備した。数は用意できなかったから、紅茶は父さんに、姉兄たちにはカードを準備したのだ。

 周り中馬小屋の意匠(プレゼピオ)ばかりなのでクリスマスツリーに星とリボンを飾り付けて塗り絵。Buon Natale! って書いた後、Merry Christmas! も続けて書いて、出来上がりに満足して気づいた。イギリスじゃクリスマスツリーが普通じゃんね?

 

 それから子供らしくお絵かきもつけた。父さんと(オーリィ)(アーニィ)たち(&アーヴィ)カミッロ(上の兄)ラシェル(一番上の姉)。天国から見守ってる、天使の輪っか付きの母さん。家族の肖像だね。出来た!ってロレンツォに見せたら、良く描けてるとのお褒めの言葉。うん、中身アラサーだからね。子供らしい絵を心掛けながら描きました。

 

 調子に乗って、ロレンツォの家族、マウリツィオさん一家も描いた。四人兄弟の長男なロレンツォ、長女ベアトリーチェ、次男ベルナルド、次女ヴィヴィアーナ、お母さん(マ ン マ)のジェルトルーデさん。それからもちろんお婆ちゃん(ノ ン ナ)、端っこにぶどう棚をちょろっと。一枚の絵に納まって、まさに一幅の絵だね。

 

 新しい紙にエレオノーラさん一家、オデッタにソフィアも。二人のパパはどんな人か知らないから描けない。ここは三人だから、ウーゴを付けといた。パパ代わり。

 

 もう一枚にはレンゾさん一家。長男オルランド、次男アルノルド、長女レーナ、お母さん(マ ン マ)のフランチェスカさん。背景にはワイン樽。

 

 どう?ってロレンツォ見せたら、困ったような微苦笑。カリーナが居ないよって、父さんたちの絵を指先でとんとんされる。そうか、自分視点で描いたから、自分は登場しないよね。

 

 それでは自画像といこうかな。新たな紙に立ち姿。白っぽい淡いベージュのような巻き毛はふわふわ、目は濃い緑でぐりぐり。健康的な日焼け肌の幼児。オリーブとベルガモットの庭木を背景に。うん、どうよ?

 

 ロレンツォは微苦笑を浮かべたままジッと私の自画像を眺めて、上手だねって褒めてくれた。嬉しいな。

 カードやお絵描きしていた道具をしまう。ロレンツォの家族の絵は進呈しようとしたら、せっかくだから皆にもあげておくよって言われた。お願いします。

 

 父さんたちの絵はくるくる丸めてプレゼントのリボンに結び付けた。自画像は寝間の私がいつも寝ているベッドの壁にでも貼ろうかと思ったら、良く描けてるから皆にも見せるね、だって。えへへへ、照れるぜ。

 

 クリスマス(ナターレ)は冬なので、農園の入り口でウロウロし続けるのは厳しい。もっこもこに着ぶくれてウーゴに寄りかかるようにして一回り。あとは家に戻って暖炉の側だ。

 夏の時と違って、遠方の来客はあまりないけれど、お祝いだからね。来るはず――……。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。