生まれ変わって、こんにちは 作:Niwaka
7月の終わりに間に合って、ウィンフレッド叔父さん一家がやってきた。オリヴィア叔母さんと、フィリップとサマンサを伴って。
兄妹の上の二人(ローリーとハティ)は今回も一緒じゃない。来るか来ないか微妙な所……というより、もういい加減大人になったんだからせっかくの長期休暇に家族旅行もないだろう、っていうのが真相みたい。二人とも仕事してるし、一番上のローリーと末っ子のサミー[サマンサ:三つ子たちより一つ下]は15才違いで、年も離れてるし。つまり、来ないと思われる。
顔くらいは見せに来るだろうけど、長居したり泊まったりはしないってことだね。
菓子職人の叔父さんが来ると、置き菓子やお茶菓子、デザートのレベルが一気に上がるのでちょう楽しみ。そんな風にワクワクしてる私は、あっという間に去年のメンバーに連れ攫われた。
いつの間に準備したのか、フィル[フィリップ:今年11才、入学おめでとう!]もサミーもオーリィも
走りながら、入学祝に買ってもらった箒を自慢するフィルに、すかさずアーニィ&アーヴィが羨まし気な歓声をあげる。声の調子に合わせてウェーブみたいに揺れるので止めて欲しい。
乗せて乗せてコールに、ヨランダが来たからOKと云うので驚いて振り返ると、ヤレヤレお守りか~って顔のヨランダが、後ろの方で低速追尾飛行していた。……全然気づかなかった。
ヨランダは
そんなこんなで到着すれば、てきぱき待機場を設置した。私もお手伝い。ピクニックラグを這いつくばりながら広げる。ぱさってできるサイズじゃなかったからね。パラソルも良い感じの影を作るよう地面にぶすりと刺され、クッションもポロポロ転がっている。
いいね、グッジョブ、と内心で親指立ててこぶし握りながら、私はころりとラグに寝転がった。
早速フィルに群がる兄たち。サミーとオーリィはヨランダににじり寄っていたけど、ヨランダは笑顔でNO!だった。なんでも
箒だよ、箒。―― いや、まあ、この可笑しさと虚脱感を分かってくれる人は、どこにもいないけどさ。脳内ツッコミ炸裂だ。
フィルもまだまだ満足いくまで買ってもらった箒を堪能してないらしく、兄たちにNO!と断っている。そしておもむろに飛んで逃げようと箒に跨ったところで、厳しい顔したヨランダに襟首掴まれて止められた。
ひとしきり説教をするヨランダ。子供用の箒と違い飛行空域に安全制御のない箒の扱いは慎重にしないとダメなんだってさ。
正しい姿勢と正しい手順。最初の授業で習うんだよ、と仁王立つヨランダに見張られながら、フィルはエレベーターみたいに上がったり下りたりを繰り返す。飛ぶ練習じゃなくて、下りる練習だって。
両足で地面に着地する姿勢から、片足とか、足を使わず肩あたりで地面に着地するとか。何とかってボールを持ったまま着地するときなんかはこうだよ、って説明が挟まればフィルは途端に真剣に地面に転がっている。うん、ちょろい。
最初の内こそ、一丸となって説明を聞いていた三つ子たち&サミーも、数回転がるフィルを見守った後、それぞれ自分の子供用箒に跨って飛び始めた。飽きたらしい。
2対2で追いかけっこしてるけど、うっかり区別がつかないサミーが翻弄されてるっぽい。その分オーリィが、後ろ姿でもどっちか区別がつくらしく、アーニィ!とかアーヴィ!とか名前を呼びながら追いかけまわしてる。さすが生まれる前から一緒にいる
転ぶ 下りる練習を済ませたフィルと、ヨランダがスイっと上空に上がっていく。子供用の箒とは違い、あっという間に高高度だ。黒豆サイズ。
三つ子&サミーが自分の箒に跨りながら上空を見上げている。さっと同時に顔を見合わせたタイミングが、まったく一緒なのでビビった。これは血筋というよりも同好の士って感じかな。
多分、私の理解しやすい所で例えるならば自転車なんだろう、箒って。子供用の箒は補助輪付きって感じで。自分の自転車を買ってもらえれば自慢たらたら見せびらかしたいだろうし、それが補助輪ナシの大人用ならば言わずもがなだ。
スポーツタイプの自転車を乗りこなすヨランダに、補助輪ナシの普通の自転車を買ってもらったフィル、二人がスイスイ乗りこなすのを、補助輪をガーガー言わせながら追いかけようとする三つ子たち&サミー。―― ね、解りやすいでしょ?
この場合、私も三輪車(超低空飛行の例のアレ)で混ざればよかろう、なんだけど……あいにく箒に興味はないので、幼児用の箒すら私は持っていない。同じ飛ばすなら箒より自転車の方がよっぽど乗りやすいと思うんだけどねえ。せめてキックボードとか、セグウェイとかさ。
自転車ならばちょっと見つかっちゃってもETの真似って云えば誤魔化せない?……無理か。半世紀早いよね。
そして、再びハイホーハイホーと登場したノッカーたち。
お菓子は何かあるかなあ、と、今日は持参していたピクニックバスケットをガサゴソしている間に、ラグの上にコロコロとキレイな石が転がり始めた。ドヤ顔のノッカーの多いこと。
全体的に四角い石が大多数。でも小さな器みたいなのとか、小瓶みたいなのを拾い上げて思わず陽に透かしながら歓声あげてると、同じようなものが並び始める。
すっごく透明でキラキラした瓶などは、いわゆる香水瓶っぽくコロンとしたシルエットや、シュッとしたデザインまで多種多様で楽しい。小さい器も丸かったり四角だったりするミニサイズグラタン皿のようで、私の手のサイズにちょうど良く、まるでままごとセットだ。
お皿に見立てて、いろいろな色石を並べたりして楽しんでいると、いつの間にやら近くに集まっていた
素早く杖を構えていたヨランダがサミーをかばうように足を踏み出しつつ、背中をつまんで引っ張っていた。その間に
兄たちは経験者だからね。前回と同じ轍を踏まない、踏ませないってわけだ。
何も持ってませんと開いた掌をひらひらさせながら数歩下がれば、途端に大人しくなるノッカーたち。吊り上がった目つきも雰囲気まで穏やかになって、持っている薬瓶っぽいものを並べていた。
兄たちが従姉兄たちに早口で説明している間に、私も、あげてもいいよねえ、とノッカーに交渉。前のときと同じく、両手に一つずつ二つまでなら許される模様。
サミーが、虹色になるよう七色の石を乗せていた小皿に手を伸ばした時、再びカチカチと威嚇音がし始めて、かなり頑張って小皿ごと一つとしたかったらしいけど、ノッカーにそのごまかしは効かなかったみたい。残念そうに手を引っ込めていた。
まあ、一緒に遊ぶのなら構わないけれど、私が見ていないところで触るのはダメらしく、ヨランダがガチガチいうノッカーと正面からメンチ切りあっているのを見て、遊ぶ許可を口にすればノッカーたちは引き下がる。彼らはこっちの云うことを完全に理解してるみたいだ。
ヨランダは警戒の表情のまま、水晶でできたシュッとした小瓶を一つをさっと選ぶと、後はどれにしようか迷っている。小瓶は学校でも使えるから選んだらしく、もう一つは寮カラーの緑のモノが良いと、あちこち石を転がしている。
兄たち二人は緑の石と青の石で「カレン」「オーリィ」と私には二番煎じだけど、初見の
みんな水晶製の小物を一つとキレイな貴石を一つ選ぶことにしたようだ。
ヨランダがコロリと拾い出したのは、小粒だけど深い緑色で、トラピチェ・エメラルドっぽいもの。目に良いかも、と陽にかざしてみているのは兄たちの真似っこ? あ、違うんだ。装飾品の目の部分に嵌め込むってことね、なるほど。
フィルもヨランダと同じような水晶の小瓶と、明るい黄色の透明な石を選んでいた。イエローダイアモンドかイエローサファイアかな?
サミーは水晶の皿と、皿にびったり収まるほどの大きさの緑色の石を選んでいた。新緑のような緑はグリーンガーネットかもしれない。小ぶりな鶏の卵ぐらいの大きさだ。
兄たちはささっと自分のを選んでポケットにねじ込むと、熱心にオーリィに青い石をあてがっていた。どうやらオーリィの青い目と同じ色の石で同じ大きさの石を二つ揃えたいようだ。エルミーさん(祖母)の耳にぶら下がっていた巨峰のような大粒の耳飾りみたいな、青い耳飾りを勧めたいらしい。
オーリィはデザインの古臭い(確かにアンティークな)耳飾りよりも指輪とか首飾りとかに加工したいもよう。とはいえ、三人とも青い石って所は一致しているようで、しきりに色と大きさを比べながら、なんとか選び出していた。
残りはまとめてラグの中に入れて、ヨランダが持ってくれようとしたんだけど、箒のところへ向けた足を数歩進めて、いきなりくるりと
呪いだな! とフィルもうんうん肯いて、ものすごく羨ましそうに何とか掠め取れないか狙ってる風だったサミーに注意を促していた。ヨランダが黙って持ち出そうとしたのが不味い感じらしい。
私の代わりに運んで、と気持ち声を大きめで言えば、ヨランダも分かった着くまで預かる、と芝居がかって答えてラグの包みを受け取った。箒に向かう足取りは慎重だったけど、自分の箒を掌に呼ぶ頃にはホッとしているみたいだった。
大丈夫? とオーリィが聞いてるのへ、サムズアップで応えていた。OKらしい。
ワイワイと帰途につき、館が見えてくるあたりで小休止、作戦会議と相成った。いや、なんか、また内緒の方向らしい。
ちゃんと報告した方が良いんじゃない? と私は
報告しちゃえばいいじゃない、と云おうと思っていると、両サイドから必死の説得が来た。兄たち二人のそっくり攻撃だ。なにこのサラウンド効果、しかも私がキャーキャー叫ばれるのを苦手にしてるのを知ってるかのように、抑えた声と口調だ。有能だな! さりげなくがっしり肩に手を置いて抑え込んできてるし。
内緒の方向で、としぶしぶ告げれば、全員で口裏合わせを行い、軽く予行演習の後、再び帰路へと相成った。なに、この謎の一体感。これが血の成せる
まあ、今回も私はサクッとカミッロに内緒だよ、と半ば暴露気味に魔法の
今回のは全体的に細工物が多い感じ。ちょっとしたおままごとができる勢いで、お皿とかグラスとか小物入れとかが並んでいる。キラキラしててけっこう楽しい。
うっとり一つ一つ眺めていれば、あっという間に時間が経ったみたいで、カミッロの軽い咳払いがワードローブのレストルームから聞こえてきた。内緒で秘密だから、見ないようにしてくれてるらしい。
ちなみに、ノッカーたちは出会う度じゃらじゃらと貢物を持ってきた。私も出会う度にホイホイお菓子を配っていたからだと思われるが。
その時一緒にいるメンバーたちは、両手に一つずつ分け前を許されていた。
一度、一緒に来られなかった時の分も欲しい、とサミーが言い出して、止める年長の従姉兄たちを振り切り、さらには両手に一つずつじゃなくてもっとたくさん寄こしなさいよ的な口上で、掌に一掬い分持って行った事があった。フィルも三つ子たちも、ダメだよ腫れるよ! 魔法契約だよ、呪われるよ! と、必死に止めていたにも拘らず。
―― 腫れたらしい。しかも無駄にキレイな青緑色に。
それはそれは大騒ぎの大問題で、ヨランダを筆頭にダニー(中途参戦済み)フィル、三つ子たち、私とキチンと並ばされて状況説明させられた。
一番最初の、
何度か出遭う内に、そのとき同席している者たちが両手に一つずつ、つまり二つまで分け前として貰えるらしいと了解していたのだが、サミーがざらっと一掬い持って行った事が原因だろうと私たちは見ている。と、ヨランダとダニーが代表で、兄たちがかわるがわる口添えして説明していた。
おおむね大人たちの見解も同じようだった。
やっぱり魔法生物との原始的な魔法契約が結ばれていたらしく、サミーが止められながらも持って行ったモノを私に返却した途端、変色していた肌の色が薄れて腫れも収まり始めた。
大泣きしていたサミーは癇癪を起して、投げつけるように全部返して寄こして来たけど、分け前としての取り分は受け取りなさいと、逆に
フィルとサミーは同じ数なはずなので、フィルが促して選ばせていた。
もう行くのは止しなさい、と私は叱られる。
カミッロはおそらく私のクローゼットの抽斗をこっそり確認してるだろうから知ってるだろうけど、もう引き出しがいっぱいなのだ。しかも二杯分。だから私は素直に肯いた。三つ子たちはちょっと残念そうだったけどね。