生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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23. 再び現われる

 

 今年も『楢の丘(オークヒル)』に従兄や従姉たちが集まるようだ。集合するのは8月に入ってからのようだけど。

 

 フィル[フィリップ:ウィンフレッド叔父さん(菓子職人)の息子]が来年度(今度の9月)から学校に入るので、その入学許可書待ちをしたり何だりと、7月は各家お忙しいようです。

 

 入学許可って云っても、基本縁故入学だから、親兄姉・祖父母や親せきが同校出身ならばたいてい送られてくるものらしい。あとはその地域生まれとか。ここはイギリスだから、イギリス生まれの不思議なことができちゃう系の子供には門戸が広い。

 ほぼほぼ間違いなく許可書が送られてくるだろうけれど、この時期間際の子供たちには、叱るときに「入学許可書が送られてきませんよ!」という脅し文句が使われるのだとか。

 なのでドキドキワクワクで許可書待ちをするそうだ。で、送られてくるのは7月の上旬くらい、決して誕生日とかではないのであしからず。

 

 入学時(9月1日)に11才という条件ならば、もちろん8月31日生まれとかも含まれるわけで、その子は誕生日の次の日に入学式だ。許可証の返事(入学希望)が届くのかも怪しい日程になっちゃうよ。

 逆に9月3日生まれくらいの子に、誕生日に許可書を届けて、実際の入学はおよそ一年後とか、無理でしょ。待てないし、無くすよ。持参品のリストとか。制服だって入学の直前に、成長の度合いを見ながら作るのが普通だし。

 つまり、〈誕生日に入学許可書が届く〉というのはナンセンスってわけ。

 

 そんなわけで、イトコ連中の集まりが悪い。本家の末っ子ヨランダくらいしか構ってくれる従姉は居ないのだ。

 けれど、三つ子たちは三人いるので遊ぶに人数には困らないらしい。到着早々、キャーキャー言いながら箒片手に飛び出していくところを、カミッロと、珍しく日中から在宅していたエディ[エドワード:ヨランダの兄、総領息子(本家の跡取り)]に三つ子のうちの兄たち(アーヴィ&アーニィ)が首根っこを掴まれて捕獲されていた。オーリィはヨランダがガードして引き留めていた。素晴らしいフォーメーションだ。

 

 その後、疲れ切っていた私は軽くハイティーの残りを頂いて、早々に寝た。列車の中で寝倒して来たならもう少し起きてられたかもだけど、モデルしてたので意外に疲れてたらしい。ふかふかソファで腰を落ち着けた途端にウトウトしちゃったよ。なので、速攻、おやすみなさい~。

 

 以前みたいな夜に起こされての軽食はなかったけど、お着替えはされてたもよう。ネグリジェタイプのパジャマにドロワース。相変わらずのヴィクトリアン(ロリータファッション)だ。

 

 割り当てられた客室フロアは去年と同じ場所で、ベッドルームが三部屋に客用居間と広々バスルーム。今年の部屋割りは女の子部屋として私とオーリィの二人が一部屋、三つ子のうちの兄たちも一人一人分かれて、アーニィが父さんと、アーヴィがカミッロと同室になった。

 この部屋割りだと、ラシェルが来たら女の子部屋になるのかな? 去年はイヤって言ってたけど、今年はOKなの?

 

 

 8月に入ってイトコ連が集まってくるまで、遊びの輪の中に自動采配されちゃうんだろうなあ。またぞろ三つ子に強制連行されるのかあ、と思っていた。ところが特攻してきたのは三つ子の兄たちだけで、私は二人に拉致られる。

 

 一人足りないと、私を担ぎ上げて走る二人の背中から振り返れば、オーリィはヨランダと何やら内緒話をして、くすくす笑いあってるところだった。おおう、なるほど、ガールズトークか。女の子特有のグループ行動の一環。三つ子たちは10才だから、そういうお年頃ってヤツなんだろう。

 この年頃くらいから、女の子はおませで男の子はやんちゃになるのだ。でも、いいのかな、ヨランダの宿題は?

 

 オーリィが居ないので、いろいろ準備が足りなく、ポイっと丘のふもとに置き去りにされても、パラソルもラグも何もなかった。ぽつんと突っ立っている私に気づいて、二人の兄は気不味げに顔を見合わせると、箒に乗るよう勧めてくる。

 俺の箒貸すのイヤだけど仕方ないから、でも断れっていうか、チビなんだから大人しく座ってろ。……っていう感じでガン飛ばされながら勧められても、ねえ。思わず、空気読まずに喜んで見せつつ箒に跨りたくなっちゃうよ(笑)

 

 まあ、無難にお断りしてお礼とともに箒乗りを促せば、二人は視線を交わしあいながら、着ていたベストを脱いで地面に敷いてくれた。ここに座ってろってことらしい。せっかくの気遣いなのでありがたく座って見せれば、二人はほっとしたように箒に跨って飛び回り始めた。

 

 

 ちょこんと膝を抱えて飛び回る兄たちを視線で追っていると、足にこつんと何かが当たった。

 

 キラッと透明で黄色い飴玉みたいなモノがころりと転がっていて、傍にはドヤ顔のノッカー(レプラコーンの一種らしい)が居た。ニッと笑っている口元にはズラリと尖った歯がサメみたいに並んでいるけど、気配が楽し気で嬉し気だから一切怖くない。

 

 ハイホーハイホーと行列で来るノッカーたちは、私の足元に飴玉っぽいのをどんどん転がしていく。

 その中の一人が持つものが、洞窟から出るときに赤っぽかったのに目の前で転がされたとき緑色だったので、思わず手に取って陽に透かしてしげしげと眺めていれば、同じようなものがさらにどんどん追加されてもたらされてきた。気に入ったと思われたらしい。

 黄色っぽい緑とか青っぽい緑とか薄い緑から濃い緑まで、様々な色合いだけど緑がたくさんあって、ここでようやく私は気づいた。これって、宝石じゃね?

 

 一つ一つの大きさがコインくらいあるし、角々と複雑なカッティングなんか施されてないからわかりにくいけど、透明できれいな色味の石たちは、ただならぬ輝きを放っているのだ。

 

 ガラスか水晶かって思ってた透明なものを摘み上げて陽に透かす。キラキラとしてて、ヤバい感じに高貴な輝きだ。薄い青とか薄い黄色も同じような輝きでキラッとしてる。

 

 一体全体なんでこんなに……ノッカーたちがこれを私に贈るために持ってきてるのはかなり初期にジェスチャーで確認した。

 食べられるのかと思って食べるそぶりを見せたら止めてきたし、返そうとすれば固辞するように首を横に振り、兄たちにも分けようかと指させば、かなり悩んだ様子で数人たちで相談した挙句、しぶしぶと少しならばと身振りしてきた。つまり、私に受け取らせるべく持参してきているのだ。

 

 そのうち一人がとても自慢げに差し出してきたものを見た瞬間にハッと気づく。これって、アレだ、ドラジェだ。アーモンドの粉糖がけ。それがあまりにもそっくりですぐに分かった。

 よく見れば他のも全て球体だけど楕円っぽい、蛇の卵っぽいよ。形に拘ったモノたちが悔しそうに自分の差し出すものとドラジェっぽいのを見比べているけど、私的にはコインみたく丸くて平べったい方も良いし、この色合いが素敵だよ、となぜかフォローしまくり。

 

 結果、バケツ一杯くらいのドラジェもどきが積まれた。

 

 いつの間にか側に来ていた兄たちも、唖然としている。

 

 兄たちは転がる石を一つ拾い上げ、陽に透かして興奮の歓声を上げ、両手に握りさらにもう一つ、となったところでノッカーたちからカチカチ音が鳴りだした。ずらりと並んだ牙をむき出しにして、ガチガチ鳴らしている。怖ッ!

 穏やかそうな表情だったのが、目が吊り上がり歯もむき出しで威嚇の表情だ。横穴に帰って行っていたハズの仲間のノッカーたちも、目を光らせながらワラワラ出てきている。怖ッ!

 

 兄たちが鷲掴んでいた石を、両手をパッと開いて放すと、ガチガチ言いながら近づいて来ていたノッカーたちがピタリと足を止める。威嚇の表情も戻り始めた。

 少しなら良いって言ってたよね? と私がノッカーたちに話しかけてる間に、兄たちはそろそろと一つ石を摘み上げ、ゆっくりじわじわと二つ目を摘み上げた。もう一つ、と手を伸ばしたところで、ざっと歯をむき出してガチガチガチガチ……。

 

 2個ならいいの? と確認すれば、肯きながらハイっとさらに石を渡された。深い緑色の楕円の石はとてもキレイで、私はニコニコお礼を言う。ノッカーたちの雰囲気もハイホーハイホーな感じになって、やがてぞろぞろと横穴に帰っていった。

 

 見えなくなったので、もっといる? と兄たちに渡そうとしたら怒られた。ああいう魔法生物は無意識な魔法契約を仕掛けてるらしく、見られてないからとか、知られないだろうとか、で約束事を破ると酷い目に合うらしい。

 説明自体は、もっとお子様な言葉遣いの説明だけどね。バッカだな、知らないぞ、腫れ上がるんだぞ、黒緑色のドロドロになるぞ、約束したら破っちゃダメなんだぞ、俺たちが2個までって言われたんだから、それ以上は誰にもやっちゃだめだぞ……ってな感じで。

 

 オーリィにも秘密。もちろん、大人たちにも。

 たぶん、大人たちにすべて話して、しかるべき対処をしてもらえば、兄たちの云う、腫れ上がる系の呪いは解除されるだろうけど、兄たちはこの秘密ごとが気に入ったらしい。

 

 交換していいか? とじゃらっとした山の中から最もお気に入りの二つを選ぶべく、取ったり置いたりしている。

 ウズラの卵くらいの深い緑色のエメラルドっぽい石を両目にあてて、カレンみたいだなって言ってる兄と、同じような大きさの深い青色のサファイアっぽい石を両目にあてて、俺はオーリィと言ってる兄は、まさしく双子(三つ子の中の)だと思い知らされました、まる。

 

 結局、アーニィが赤とオレンジがモヤモヤしてるファイヤーオパールっぽいのと、赤いけど白く『*』の模様が浮いてるスタールビーっぽいモノを。アーヴィが深い緑に黒い歯車模様のトラピッチェエメラルドっぽいのと、片側が緑でもう片側が赤のバイカラートルマリンっぽいモノを。それぞれ選んでいた。

 アーヴィがこっそりバイカラーを舐めて「味がしない……」と呟いていたのを、私はヤレヤレと思いつつアーニィを見れば、ぷっくり膨らました頬をすぼめてプッとファイヤーオパールを掌に吐き出している所だった。あー、うん、このそっくり兄弟め。舐めんな。(飴じゃないんだよ)いや、ふざけるなって意味もこの際加味していいよ。

 

 どうやって持ち帰ろうか考えていると、兄たちがそれぞれ自分のポケットから革製の巾着袋を取り出して、貸してやると言い出した。なんでも今年の誕生日プレゼントの財布で、ちょっと良いものらしい。

 不思議なことが出来ちゃう系の社会では紙幣がないから、札入れタイプの財布はまずない。硬貨オンリーなので、巾着が一般的な財布のスタイルだ。それかがま口。誕生日プレゼントに以前からねだっていたらしく、高性能財布とのこと。

 大きさは化粧ポーチくらいだけど、見た目以上のモノを入れられるし、持ち主以外が中身を出したりできないし、いざとなれば小さく縮んで隠れちゃうって仕様なんだって。へぇ~。

 

 それって、私も取り出せないんじゃない? と聞けば、貸すって形で仮の持ち主になれば使えるんだそうだ。

 二人は財布をひっくり返して、中身(数枚の銀貨と銅貨、瓶の王冠、コルク栓、それから何かの包み紙)をポケットに詰め込み(カラ)にすると、貸すと言って渡してくれた。

 

 云われた通り、借りる、と宣言した後、ざらざらと巾着に入れる。ホントにびっくりするくらいじゃらっと入った。バケツに一杯は余裕であると思われるのに。洗面器サイズの器にみっしり二杯分くらいあったドラジェの、お礼ゆえの量かもしれない。

 

 そろそろ帰るか、と二人に担ぎ上げられて、丘を駆け上がる。去年より足が速くなったのか、あっという間に屋敷に到着。隠しとく場所あるのか? と問われて驚く。隠すつもりなんてなかったからだ。

 バッカ、おまえこういうのはなあ、と足を止めた兄たちに交互に言い聞かされる。曰く、内緒にしとくものらしい。

 

 うーん、例の魔法のスーツケースの中の衣裳部屋に作ってもらったアルコーブベッド風クローゼットとかなら、しまっとけるかも。カミッロにもラシェルにも、内緒の宝物だから見ないで、言っとけば良いし。

 そう答えれば、しぶしぶ納得して、私はようやく降ろされた。そう、担ぎ上げられたまま説得されてたのさ。壁ドンならぬ空ドンだ。さすがに放り投げられはしなかったけどね。

 

 早速、カミッロにアルコーブベッド風クローゼットに隠しておきたいものが出来た、と申告。兄たちが、パタパタと手信号を送ってくるけど、解らずに首傾げている間にスーツケースの準備が整って、私は衣裳部屋へ。

 私の服がしまわれているブースの壁面一杯のクローゼットの足元の抽斗の一つに、適当な敷布を敷いてざらっと中身を出した。借り物の財布だから、早く返したいし。

 

 適当に石を均して抽斗を閉める。

 隠し終えたので、ホッとしながら入ってきた場所に戻って、出たいと思いながら両腕を伸ばした。見えないけど掌にスーツケースの縁が当たる感触がある。出るときの魔法だ。これでよっこいせと体を持ち上げれば外に出られるというわけ。

 魔術的な力が働くから、実際に体を持ち上げるような腕の筋力とかは必要ない。あくまでもポーズで、そういう仕様なのだ。

 

 スーツケースの縁が肩より下になれば、視界も切り替わって外側の景色が目に入る。ぴっしり整えられたカミッロのベッドの上で開かれていたスーツケースなので、出てくる時も同じ場所だ。

 なるべく動かしたり動かされたり、しないようなところで開けるように、という諸注意はすでに受けている。中に人が入っていてもスーツケースを閉めて持ち運ぶことも可能だ。その場合、出るポーズをしても出られない。

 別の方法はちゃんとあるけど、ちょっと面倒な手順を踏まなければならないそうだ。魔法を使うらしいその手順は、まだ教えられてはいないけれど。

 

 無事に隠し終わった、と報告。特に、これは!と思った石は別に枕の下に入れておいた。ドラジェっぽく設えられてる石なので卵型が基本の中に、どう見ても卵だろうってバランスの石があったのだ。しかも色が変わるタイプで。

 ベッドの下の抽斗にざらっと開けたとき、赤っぽい一群があって、その中にね。

 実は兄たちの財布にしまう時、ざっと仕訳けたのだ。全体的に緑の石が多かったので、緑系を片方に入れて、それ以外を全部もう片方に入れて、と。その、緑っぽい石たちの中に、引き出しの中で赤く見える一群があったのさ。カラーチェンジ、アレキサンドライト系だね。深い色合いではっきり色が変わる石は卵型の石は、一目で気に入ったのだ。

 

 兄たちが指を口に当てて息を吹いてシィーとジェスチャーしてくるのに肯いて、私も立てた人差し指を唇につけて、シィーと言いながら、内緒なのよ、とカミッロに言った。

 

 ちなみに、次の日、今度はオーリィも一緒に箒乗りに出かけたけれど、ノッカーは現れなかった。どうやら、兄たちは三つ子の絆に負けてオーリィにバラしたらしい。

 あげようか、という私に、やっぱり怒りながら、でもちょっと惜しそうに若干羨ましそうにしながらも、ダメ! とオーリィは言い聞かせてきた。魔法生物、ナメちゃいかんらしい。

 

 

 


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