生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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21. 誕生会は昼餐会

 

 5月の最後の週、前入りでド・ラ・ゲール家を訪問した。

 付き添いはカミッロ。作家先生は今回もカメラ片手に仕事兼で同行です。

 

 去年貰った服が順当に小さくなっていたので、夏用外套をかなり誤魔化して着て行ったんだけど、到着して訪問の挨拶した途端、見抜かれたらしいフルールさんに連れ攫われた。お着替え&着せ替えタイムだ。

 

 夏物はレースとガーゼが主体。子供服はワンピースが主体で、ひらひらと可愛らしい。ボンネットみたいなお帽子もある。うん、着せ替えされてるのが私じゃなければ、もっと楽しめただろうに。

 着替えるのって意外に気を遣う。自分の服って訳じゃないから、一応、汚さないように破かないように皴にならないように、気を付けて脱ぎ着するし。まあ、ファンタジック種族のメイドさんは指パッチンで衣装の早替わりをしてくれるんだけど、リボンを結んだりフリルを整えたりレースを伸ばしたり、を楽しみたい当主夫人のフルールさんは量より質なのだ。

 素晴らしく丁寧にファッションチェックを繰り返した。

 

 

 翌日は、カミッロの持つカメラに目を付けたフルールさんから夫で当主のグザヴィエさんへ根回しされたらしく、撮影会と相成った。

 

 これは! とピックアップした衣装を着せられて、丁寧に整えられた庭園やバラ園などを背景に写真撮影。フルールさんとお揃いっぽいイメージの服などで、ガゼボから私たちを眺めるグザヴィエさん込みの構図とか。どこの家族写真だよ。

 間にちゃっかり、カミッロ指定のポージング(絶妙に顔が写らない構図)での撮影も挟んだりしてるし。まあ、素晴らしいバラ園だったので、テンション上がった私もノリノリでポージングしちゃったけどね。バラにちゅーするポーズとか、普通のテンションでは無理です。

 

◇◆◇ ◆ ◇◆◇

 

 そして迎えた誕生日。5歳に成りました。

 

 けっこうフォーマルな昼餐会だけど、よくよくメンバーを見れば復活祭(パック)の食事会の時と同じようなメンバー。つまり、親戚関係。

 ド・ラ・ゲール家はエルミーさんの実家で、もう引退しているけど前当主がエルミーさんの弟で、現当主のグザヴィエさんは甥。母さんの従兄だ。

 

 母さんはフランスの学校(ラシェルの母校)に入るにあたって、短期休暇の帰省先をド・ラ・ゲール家にして、書生さんみたいな感じで下宿してた。夏休みはさすがにイギリスの実家『楢の丘』に帰省してたらしいけどね。

 母さんの従兄弟たちは当然の如く男ばかりで、あ、一人だけ従姉がいるって云ってたかな? 母さんはけっこうちやほやされて過ごしたらしい。ド・ラ・ゲール家ではね、女の子はお姫様扱いで大事に大事~にされちゃうみたいだからさ。

 

 お食事はバターとクリームがたっぷりで、くどい感じはしたけれど、お子ちゃま舌に合わせた味付けで、さすがおフランス、美味しゅうございました。近くの海で取れるお塩が有名らしく、そこの海塩が使われてるんだって。

 

 前菜のムール貝の白ワイン蒸しとフリット(フライドポテト)、スープは魚介の出汁が利いててブイヤベースっぽいけど、魚は出てこずドーンとオマール(ロブスター)のオーブン焼きが出て来た。グラニテは口直しで緑色の、果物と野菜な感じ。キュウリとかかな。

 メインの煮込みは子羊で蕪がトロトロ、ローストは鳥で皮がパリパリ。初夏の色とりどりのサラダにはローストビーフが添えられていた。再びのグラニテは柑橘系果物のシャーベット。

 

 そうそう、味もそうだけど、食べる量もお子様に合わせていて、私の分なんかちょう小盛よ。子供は半身のオマール海老なのに、私のは幼児特典で剥いて解してもらった、ハサミと尾のいい所だけだ。

 子供たちから羨ましそうに見られた。一部は大人たちからも。オマール海老、食べ難いからね。

 

 テーブルにあったパンやバター、食事の皿が片付けられてデザートのお皿が出て来る。チーズと果物、お菓子の盛り合わせだ。大人たちだけの晩餐なら、まだまだ一皿ずつお酒と共に供されるだろうけど、子供たち込みの昼餐なので、デザートは一気に出て来た方が騒がしさもいっぺんで済むし飽きがこない、という配慮だろう。

 

 お誕生日らしいホールのケーキが出てきて、不自然に空いていたデザートの皿の一部分に、切り分けられてサーブされた。リング状のケーキでグレイズ(砂糖がけ)たっぷりのレモンケーキ。甘ければ美味しい系だけど、レモンがさっぱりしてるので私も意外に美味しくいただけました。

 

 最後のコーヒーと、プチフールにはものすごくガンバッたサイズのマカロンが出て来た。

 マカロンってフランスだと、煎餅くらいのサイズが普通なのよ。直径で云えば7~8cm前後くらい。それが、3cm弱位のサイズで、コロンと一口感があふれてる。ちまちまとした繊細さはフランスにはない感じだけど、今回は私が主賓の誕生日会なので、全体的に小さく作られていた。

 

 指パッチンで給仕をするレズユーがドヤ顔決めてる感ありありだったので、とても美味しい、サイズ的にも配慮が行き届いている、などと、当主ご夫妻にお礼を言いがてらヨイショしておいた。いや、ヨイショじゃなくても素晴らしい食事だったから、ほぼ本心なんだけどさ。

 

 ちなみに父さんと三つ子たちは欠席。

 フランス語しか通じないってところが嫌厭する最も重大で唯一のポイントみたい。

 

 父さんは日本生まれで母親(マンマ)(私の祖母)がイタリア人だから日本語もイタリア語も出来るし、長年イギリスに住んでるから英語はもうネイティブって感じだけど、フランス語はホントのさわり位で片言もいいトコ。

 三つ子たちも小さい頃にさらっと習ったくらいで、挨拶して自己紹介してお終いって感じらしい。苦手意識が先に立っちゃってるみたい。

 

 替わりに誕生日プレゼントが贈られてきたけどね。

 父さんからのプレゼントはしっかりした書籍で図鑑っぽい。

 父さんは画家で、本の挿絵を主な仕事にしている。不思議なことが出来ちゃう系の本だから、まさに飛び出す絵本に動く絵本だ。プレゼントの本もちょうリアルで詳細な挿絵が全ページに渡って描かれていて、父さんの仕事らしい。『不思議な獣とそれが見つか――、ん? あ、あれ、これって、もしかして……著者がニュート・スキャマ……―― イヤイヤ、偶然ッテ怖イワー。第4版ッテナッテルワー。ホント偶然過ギテ怖イワァ――……よしっ。

 

 三つ子たちからのプレゼントも本だった。絵本だけど。私って本好きって思われてる? 下剋上はしないよ?

 

 他のパーティー参加者からのプレゼントは無し。パーティー開催とその参加自体がプレゼントという事になったみたい。

 私まだ5歳児の幼女だからね。壊れることが前提の玩具メインなプレゼントが普通の年頃だからさ。豪華で正式な昼餐に主賓として招かれ、拙いマナーを微笑ましく見守られ、お祝いを述べられるってだけで、十分な贈り物でしょうってわけ。

 

 パーティも午後には終了し、主催者(ド・ラ・ゲール家)に開催と招待のお礼と、参加者には出席のお礼を述べて、真っ先に私が退出する。マナー的にはどうか知らないけど、切実な事情から致し方ない措置だ。ええ、眠さが限界ですがなにか?

 腹ごなしに自分の足で部屋まで戻り、ウトウトしながら盛装を解かれ、そのままお昼寝に突入です。すやあ~。

 

 夕方か夜か分からない時間帯に起こされて、軽食と身支度を整えて再び就寝。

 あ~んってポリッジ食べさせられると思ったら、口どけの良いブリオッシュと蜂蜜の香りのホットミルクだった。食べさせられる幼児は卒業で、自分で食べる子供に昇格したのかもね。

 

 身支度はお風呂かと思ったら、歯磨きしてお湯で顔を洗っているうちに指パッチンで体中を清められた。ふかふかのタオルで水気を拭き取り、温風乾燥の後に肌触りの良いフレンチ袖の下着とショーツ。

 記憶の中の日本でも全く遜色なく流通してたような感じのモノ、いわゆるグ○ゼの白パンと云えば目安となるでしょう。色的には生成りっぽくて、オーガニックな感じと云えば、ズバり思い浮かぶかな。その上にネグリジェとドロワーズが私の寝間着の定番だ。

 

 

 翌日は、以前の滞在時に声だけ聞いて見に行けなかった、犬たちに会いに行く。もちろん一人で出歩くなんて許されてないので、付き添い付き。

 付き添いはユベール、グザヴィエさんとフルールさんの次男。去年学校を卒業したんだって。

 

 長男のミシェルは、昨日は午餐に出席してくれたけど、今日はお仕事。

 三男のセヴランは学校で寮生活中に付き昨日も欠席。

 

 フランスには不思議なことが出来ちゃう系の小学校もあるから、就学年齢に達する子たちは、今日は軒並み学校です。昨日の午餐の後、皆さんお揃いで帰宅されたもよう。5歳児の私はプラプラ遊んでてもOKなのさ。

 

 犬たちは猟犬だって。セッター系って云うのかな、胸とかの毛がちょっと長い。背中とかは普通の短毛だけど、垂れ耳はおかっぱみたいだし腹の毛がすだれみたいに垂れている。

 毛色は白と赤茶色か茶色の斑。ポインター柄って云えば分かりやすい? 白がちなのも茶色がちなのも居るけど、顔と耳が茶色系がほとんどで、鼻の周りから額にかけて一筋白い毛が通ってる感じ。馬で云う流星? 作?

 あと生まれつき尻尾が短い。断尾って云う尻尾切っちゃう処置されるんじゃなくて、遺伝的に尻尾が短いらしい。

 

 犬種的にはエパニュール(スパニエル)系って云うんだってさ。最近この辺りで流行している猟犬だって。どれだけ流行してるかっていうと、なんと外国人が譲ってくれって言ってくるほどなんだって。

 

 外国ってニュアンスで語られるのは、地続きじゃないところ=ヨーロッパじゃないところだよ。アメリカとか未だに新大陸だし、オーストラリアなんて世界の果てだ。アジアは辛うじて地続きだし、大陸の端っこって認識。

 

 尻尾が二本の(魔法動物系)は居ないのか聞いたら、時どき生まれるみたい。でも不思議なことができない系の猟仲間とか居るから、「長い尻尾の仔が生まれた」と誤魔化して断尾してるんだって。なるほどねえ~。

 

 愛玩用の室内犬じゃないので、犬たちはとても犬臭かった。

 犬の世話係って感じの役職の大人の人が居て、犬たちを訓練している。訓練中は私みたいな子供がまとわりついてヨシヨシしちゃうとまずいからって、春生まれの仔犬たちを見に行くよう促がされた。

 

 コロコロした仔犬たちは大層可愛らしく、元気一杯だ。あまりのもこもこ具合に夢中になって一匹一匹抱き上げては、頬擦りすりすりを繰り返した。ニコニコと飽きもせず、延々と。―― ユベールが控えめに午前のお茶に誘って来るまで。正確にはお呼ばれしたいって申し出だけど。

 

 犬の毛だらけ涎まみれの私の手を躊躇いもせず繋いで、ユベールは朝食の間にエスコートしてくれた。もちろん室内に入る前に洗浄魔法が炸裂したけどね。泡アワになるタイプだ。事前注意が完璧だったので、目も閉じて息も止めて臨んだ。

 ド・ラ・ゲール家の泡アワは残り香がバラの香りで優雅でした。

 

 午前のお茶は、遅く起きた人たちのブランチの席でもある。さすがにド・ラ・ゲール家の家族用の朝食の間じゃなくて、客間の朝食ルームだけど、遅く起きたカミッロのブランチと一緒に、私の午前のお茶も準備されてた。

 エスコートしてくれたユベールのお茶の準備を頼み、カミッロにブランチの席にユベールが同席することを伝えてもらう。

 

 普段は午前のお茶もお菓子もないけれど、ド・ラ・ゲール家では習慣的にある。午後のお茶の時間もあって、子供たちは軽食もたっぷり食べさせられて、宵の口早々に寝かしつけられるのがスケジュールだ。早めの夕食だね。大人は社交とかあって夜が遅いので、晩御飯な時間になる。だから、翌朝はブランチの時間になるのだ。

 つまり、子供たちや普通に起きれば朝食の時間帯に朝寝してた人たちが、午前のお茶にブランチ(遅い朝食)となる。午後のお茶は夕方5時までに終わる感じで、子供たちは夕食として済ませて、8時ごろには寝ちゃう。大人たちは子供たちにお休みを言ってから晩御飯の晩餐と社交をこなして、深夜に就寝ってことらしい。

 

 もちろんラシェルやユベールのように、朝からキチンと起きて時間通りに朝食を摂る大人も居るので、一概にこう、とは言えないんだけどさ。ラシェルは朝キチンと起きて、ここから出勤して行ったし。一緒に朝食をしていってらっしゃい(ちゅっちゅかちゅ)もしたもの。

 

 カミッロとユベールは卒業旅行の話題で盛り上がっていた。カミッロは世界中をあちこち旅して周ったけど、ユベールは暗黒大陸を旅行したんだって。広く浅くなタイプと、一転集中なタイプの好対照だね。そうそう、暗黒大陸ってアフリカのことだよ。

 

 アフリカでは最も古くて権威のあるンガドゥって魔法学校が月の山脈に並々と横たわっていて、アフリカ大陸の膨大な魔法族たちの知識の最高峰とのこと。

 アフリカでは私塾と云うか、遊牧とかで暮らしてる部族ごとで、師匠が数人の弟子に教え込むってスタイルが主流みたい。そうなると、やっぱりどうしても師匠の得意不得意とか出てきて、弟子の習う魔法にも偏りが出るそうだ。

 あっちの部族はアニマギ(動物もどき)が得意で、こっちの部族は星読みが得意、とかね。知識が薄まり過ぎないように、適度に魔法学校に弟子を送り込むのが良い師匠って感じらしい。

 

 そんな事情を盛りだくさんで、ユベールは話してくれた。魔法学校ンガドゥってすごく広大な規模で、山脈に跨って学校が建ってるんだって。あっちの山の校舎、こっちの山の校舎って感じで。その一つの校舎が、ユベールの卒業した学校くらいあったってさ。さすがアフリカ大陸最大にして最古、唯一の魔法学校。あ、ユベールはラシェルの後輩、フランスの魔法学校卒だよ。

 

 

 そんな調子で数日ブラブラと滞在した私とカミッロは、ド・ラ・ゲール家一行に見送られて帰路に就いた。お土産にたっぷりと夏から初冬までの衣装を貰ってね。ロココ調って云うの? おフランスだし、イギリス式より布たっぷりで豪華で宮廷風って感じ。これ、たぶん、ちょっとくらい成長しても、ヴィクトリアン風にお直しして着られるよねえ。

 

 ちなみに、ド・ラ・ゲール家の館はブルターニュ地方でレンヌからナントへ行く中間あたりにある、らしい。詳しくは知らないけど。

 イギリスからケルト族が海を渡って侵攻し、南下して住み着いたって感じの位置だって。塩が取れるっていう所はゲラント、超有名どころキタァーって感じ。もちろん塩もお土産にいただきました。

 

※※ ※ ※ ※※

 

 


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