生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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02. 南イタリアの青い空

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 数日たって落ち着いてみると、この家は意外と裕福で、結構な大家族で暮らしていると判った。

 

 まず、長老なお婆ちゃん、父さんのマンマ(父 方 祖 母)の兄の妻。みんなノンナって呼んでるけど、名前じゃなくて『お祖母ちゃん』って意味だよ。グランマってことね。ノンナの旦那さんで大伯父さん(祖母の兄)はすでに亡くなってるとのこと。

 

 家長で大黒柱なのがマウリツィオさん、父さんの従兄。その奥さんのジェルトルーデさん。二人の娘で私の又従姉のヴィヴィアーナ、中学生くらいかなあ? そのお兄さんはロレンツォ、イケメンで20代前半位、次期当主。間に二人居るけど、今は学校に行ってる。

 

 ナンパ仲間だった従兄のヴィットーリオさんは近くの別の農園に住んでる。父さんのマンマのもう一人の兄の息子なんだって。つまりマウリツィオさんとも従兄同士ってわけね。

 

 レンゾさんはこの同じ農園の別棟っぽい所に一家で住んでる。それからレンゾさんの奥さんフランチェスカさん。二人の娘のレーナは小学高学年か中学位、上に兄が二人。この二人も学校に行ってるんだって。

 

 あと、エレオノーラさん、マウリツィオさんとレンゾさんの妹で、父さんの従妹。娘のソフィアも小学高学年か中学位で、上に姉が一人。エレオノーラさんは離婚して二人の娘を連れて実家に戻って来たんだって。この又従姉二人はサンタンジェロって苗字だ。通称でクヮジモドって名乗ってるみたいだけどね。

 

 今は学校に行ってる子って全員同じ学校なのかな? クヮジモド家ばっかり何人も居るんじゃ紛らわしくない? あ、バラバラなんだ? へえ、全寮制ねえ、ハイソだこと。

 

 中学生くらいからハイソな全寮制の学校に入るから、それまでは普通の小学校っていうかむしろ自宅学習って流れみたい。教育機関的にゆっるゆるで、最終的にハイソな学校さえ卒業しとけば、その前後の学歴なんかどうでもいい、とのこと。その全寮制の学校は中高一貫校って感じらしい。

 

 小学校に相当する学校に行かなくても、大学に相当する学府なんか知らなくても、ブドウ農家には問題なし、だとか。ワイナリーもな!って感じらしい。子供のうちは遊び倒しとけ、てのがクヮジモド家の方針のよう。

 

 学校卒業したいい若いもんの父たちがナンパ旅行とかしてたぐらいだからね!――当時はかなり目を盗んでの、ヤンチャの限りだったそうだけど。

 唯一の学校を卒業したなら、後は社会人研修となるのが当たり前なのに、仕事も覚えずほっつき歩きおって! ってところらしい。

 

 当時の当主、マウリツィオさんの父で、父さんの伯父さんにかなり小言を食らったみたい。……あまり反省はしてなかったみたいだけどね。

 

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 さらにひと月ぐらいたつと、わらわらと家長の従兄弟一家たちが頻繁に(おとず)れてきて、常に賑やかな声があふれかえった。

 バケーションで学校が夏休みの子供連れで、泊りがけで遊びに来るのだ。どの家族も数日単位で滞在していく。とても名前を覚えきれるものではない。というか、紹介はされないし。

 

 いや、私はされるんだよ? 日本に嫁いだ叔母さんの孫だよ~って。ジョルジョの娘だよ~、ジョルジョってどこの? ジャポーネ! レンギュ ウニート! インギリテッラ! ロンドラ! イタリア語は聞き取りにくいねえ。地名とか日本しかわからん。そして、儂はウントカ~、俺はスントカ~、私はナントカ~って名乗られるんだけど……。リスニングまだまだっす。

 

 学校に行っていたっていう寮暮らしだった子供たちも軒並み帰ってきて、なんかすごい騒ぎだ。私ぐらい小さい子も、訪れてくる一家の中で連れてくる家もあるにはあったけど、紛うことなき赤ちゃんなので話が合うはずもない。そもそも、片言でもイタリア語だもの。

 

 暑い盛りに何度も供されるホームパーティは室内じゃなくて、庭の木陰で開催される。

 

 テーブルをいくつも繋げて、みっしり座る人々とごっちゃり並ぶ料理。

 

 私は離乳食メインだけど、果物は美味しいし、煮込み料理の柔らかい野菜なんかを、あーんして食べていると、みんなニコニコしている。

 これも大丈夫か? みたいに潰してくれようとする人もいる。両隣のお婆ちゃん(ノンナ)叔母さん(父の従妹)が目を光らせていて、許可が出るとスプーンが差し出されてくる。パクリと食べればカリーナ! アンジェーラ! バンビーナ! と歓声が上がる。ノリが良い人たちだよねえ、陽気だ。

 

 意外に私が人気な理由が知れた。泣き喚かないからだ。

 

 そりゃあ中身はアラサーだもの、癇癪とか気まぐれとかじゃ泣かない。お腹空いたとかオムツ汚れてたとか、日差しが強いとかそろそろおねむです~とか、理由がないと泣かないよ。

 

 それに、いつもニコニコしてるってのもあるみたい。

 

 英語は知らない言語じゃなかったから、赤ちゃん言葉もそうじゃなくても、何となく意味が理解できてたけど、イタリア語はそうはいかない。巻き舌から始まる単語とか、会話とかね。聞き取れないし意味わからない。なのでニヘラッと愛想笑いするしかない。日本人の得意技だね! 愛想笑い。でもって赤子なもんだから、かわいらしく見えるみたいで、私大人気。まあ、訪ねてくるのは親族ばかりみたいだから欲目もあるだろうけどさ。

 

 お婆ちゃん(ノンナ)は前当主の奥さんで、現当主のお母さん(マンマ)。前当主の兄弟や甥姪は、当主が代替わりするとこの家から独立する(なら)わしみたい。つまり、レンゾさんはロレンツォが当主になるまでに離れから引っ越さないといけない。エレオノーラさんもかな。引っ越ししてもレーナはお婆ちゃん(ノンナ)にとって孫なのは変わらず、ロレンツォさんの従妹なのも変わらない。なので、親戚付き合いをする、ていう感じが、代々続いて、この親戚訪問ラッシュみたい。

 

 マウリツィオさんの従兄弟(父さんもここの枠)とか、お婆ちゃん(ノンナ)の旦那さんの従兄弟(父さんの母(父 方 祖 母)にとっても従兄弟)とか、その子供世代とか、とにかくごちゃっと親戚が訪れるのだ。それより遡ると、親しい親戚づきあいではなく、儀礼的なモノにフェイドアウトしていくらしい。

 曾祖父(父さんの祖父)の兄弟や従兄弟やその子供たちは、もうほとんど訪れては来ない。ほんの時々、マウリツィオさんの又従兄弟(父さんの伯父の従兄弟の子)が訪れるくらいで、さらにその子供とは、あまり面識がないみたい。

 

 ホントなら私もその当主の又従妹枠なんだけど、こうして預けられて家族の一員として育てられてる都合上、きっといつまでも訪問しても快く迎え入れられるだろう。又従妹じゃなくて従妹くらいの親しさになってるっぽいからね。

 

 それでもってクヮジモド家は、不思議なことが出来ちゃう系の一族だけど、できない人も中には居る。お嫁に来たとか、お婿に来たとか、生まれつき出来なかったとか、いろいろで。まあ、飲み食いに出来る出来ない(不 思 議 な 力)は関係ないし、酔っぱらって隠し芸とか披露するのでもなければ、そうは違いはない。

 

 大人たちに酔いが回る前に子供たちは別室に集められてたけれど、その中でも不思議なことが出来る出来ないは関係なく一緒くただ。

 基本的に弱い者いじめや小さい子を小突いたりすると、さらに年長者に取り囲まれてガツンと制裁を加えられる。挑むなら自分より年長者で強い者に、というのがここでの流儀だ。年下で弱い者は守るべし、と年長者たちから躾けられる。伝統だね。

 

 中でも私みたいな赤ん坊は、すぐさま寝間へ転がされ寝かされちゃうのさ。寄って集ってイイ子イイ子されて、挨拶(チュッチュカ)されれば――おやすみ、3秒です。すやぁ~。

 

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 騒がしいバケーションが終われば、そろそろ農場が忙しくなる季節だ。

 

 子守担当じゃない者は、一族総出で収穫に駆り出される。ブドウはもちろんの事、自家用の柑橘類やオリーブ(庭の木陰の木)も収穫して加工処理までが一連の流れのようだ。

 

 ワイナリーはレンゾさんの指揮のもと、収穫したブドウでワインを仕込み始めたし、ヴィットーリオさんの果樹園の柑橘類も順調に出荷している。食べる専用じゃない果樹とかなら差別化できるんじゃないかな~と、アールグレイが好きだった前世の日本人アラサーは思うけど、まあ、その辺はおいおいね。

 庭にあったベルガモットは陳皮のように皮を利用して、レモネードとかサングリアの香りづけに使われてるし、()()発想なワケではないでしょう。うん、私SUGEE(笑)

 

 

 このあたりでも冬はやっぱり寒い。

 

 イギリスのアルフレッド伯父(母 の 兄)さんの家では暖炉が赤々と炎が踊っていても窓辺は寒く、どうかすると凍り付いてたりしてた。

 イタリアではその点、暖炉があればけっこうぬくぬくだ。まあ、暖かい特等席に居られるようになったってことだけどね。

 

 それから竈がある。台所に間口の大きなドアがあって、ほとんど外に。ピザ釜っていうか、パンとかロースト料理とか作られる結構な大きさの竈だ。

 煮炊きがガスコンロメインじゃなくて竈とか釜メインなんだよね。薪が壁一面に積んであったりする。蛇腹式の()()()とかもぶら下がっている。古き良き時代って感じ?

 

 ヨチヨチ歩き始めたり、この家に滞在する子供たちが一番最初に言われる注意が、決して竈の中に入ってはいけない、ということだ。

 たとえかくれんぼでも、入ってはいけないし、誰かを入れたり閉じ込めたり、ジョークとか遊びとかちょっとの間でも決して入ってはいけないと注意される。もし万が一入っているのを見つけたら、二度とこの家に招待しないし滞在させないし、すぐ出て行ってもらう、と、厳しい表情の当主の妻(マンマ)に注意されるのだ。

 

 毎年聞きなれた子供たちは、ハイハイって耳タコな感じだけど、まだ幼い子供たちは、出て行ってもらいます!って、びしっと出口を指さされて、びくぅってなってた。まあ、当然っちゃ当然の注意だ。暖炉と違って竈は密封空間で温度を上げる仕様だ。うっかりすると、とんでもない事になる。

 

 来て最初の年は、私は1歳だったので、たいてい誰か大人に抱っこされてて、そういう注意は聞かなかったけど、次の年からは最前列のまるかぶり席で注意を受けた。歩けるようになってから、あっちにフラフラこっちにヨチヨチ、じっとしてない子って認識されてみたいだからかも。……解せぬ。

 

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 スローライフ最高。

 

 語学がチートだったのか、イタリア語もすんなり覚えて、このあたりの方言のシチリア訛りもバッチリだ。訪れてくる親族には英語を話す人やドイツ語を話す人、フランス語訛りなど多様だったがそれもするするすと覚えられた。うん、語学チートだね。

 

 離乳食が幼児食になって、美味しいイタリアンな毎日。

 

 コロコロと遊びまわって疲れれば眠って、お腹が空けばおやつをねだりに行く。アレだ、食う寝る遊ぶ。お元気ですか~。

 

 そんな私のお供は一匹の黒犬だ。

 

 顔はブルドックっぽいマスチフ系でドーンとでかい。毛色は甲斐犬みたいな黒地にうっすらと茶色の縞模様があり、毛は短い。大きさ的にシュッとしているセントバーナードみたいな感じだ。骨太なグレートデンでも可。

 

 名前はウーゴ。何歳か知らないし犬種もはっきりしないけど、この地方では番犬とか牧畜とか狩猟とかに使う使役犬だそうだ。守り犬っていう感じで呼ばれてる。大きいよ、欠伸する口の中に私の顔が丸ごと入っちゃうくらいデカい。

 

 (ウーゴ)にすっかり守護されるようになって、いつも一緒に農園を走り回っていた。残念ながら柑橘系の匂いがキライらしく、レモネードをごっきゅごっきゅと飲んでる私を、信じられないモノを見る目で見たりしてくるけれどね。

 それ以外は大抵一緒で、いつも傍に寄り添ってくれてる。

 

 不思議な事が出来ちゃう一族に飼われてるだけあって、外犬なのにとてもキレイでピカピカだ。月に一回、指揮棒みたいな杖を突き付けられて、ディラーヴォ(洗い清める)されて丸洗いされてるのだ。その後、カリドゥムシックゥム(暖かく乾かす)されて、ふかふかになる。ウーゴはすっかり慣れてて、その不思議事をされてる間、目を(つぶ)ってジッと耐えてる。うん、慣れてるけど、我慢するのに慣れてるのだ。

 

 父さんが来た時、ウーゴを見てギクッてなってたけど、犬が苦手なのかもしれない。農園に出入りする人の臭いを必ず嗅ぎに行くウーゴにビビってたからね。時々(うな)ったり吠えたり牙をむき出して見せたりする人たちが居るんだけど、何だろう? 番犬だから邪な考えを持つ人たちだったりしたのかな?

 ウーゴの基準は分からないけど、父さんたちは無事クリアみたい。

 

 あ、父さんたちは夏のバカンス・シーズンじゃなくて、私の誕生日前後にやってきた。

 

◇◆◇ ◆ ◇◆◇

 




語学系は翻訳サイトの丸写しです。
イタリア語――English
ジャポーネ――Japan
レンギュ ウニート――United Kingdom
インギリテッラ――England
ロンドラ――London
カリーナ――Cute
アンジェーラ――angel
バンビーナ――little girl

創作魔法:基本ラテン語
ディラーヴォ(洗い清める) Delavo!
カリドゥムシックゥム(暖かく乾かす) CalidumSiccum!
※イタリアの独自魔法

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