生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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13. 二度あることは三度ある

 

 昼食は学生組と就学前グループの子供たちが一まとめにされて摂った。

 

 ラムラックのローストにたっぷりの温野菜、山盛りのフライドポテトと半マッシュ蒸かしポテト。厚切りバゲットはチーズインのプティング焼き(フレンチトースト)。ホリデーローストの残りのコールドミートじゃなくて、ちゃんと焼きたてのラムで、スローベリーのソースが絶品!

 

 ほかほかの所をハウスエルフの「R」の誰か――レイか、ロブか、ロイ――がチョップにさばいてスローベリーソースを回しかけてサーブしてくれる。昼餐だ。あ、私は両端の小さいの二つで充分です。中の大きいのは大きい人たちでどうぞ。え、中の方が柔らかい? じゃあ、薄めで一つ。(あばら)は数が決まってるからね。

 幼児な私がナイフとフォークで食べられるように、そして通常2本で一皿な完成形に近づけるため、骨ごとに切り分けられただけではなく、間に切り込みが入れられ2本あるように盛り付けられてサーブされた。すごいね、さすが。

 

 スローは小粒のスモモみたいな実で、大きさからベリーって云われてるのかな? 果実酒用の果物ってイメージ。木は黒くてとげとげが生えてるので黒棘の木(Blackthorn)って云ってる。アイリッシュはこの木でこん棒を作るらしい。天然棘バットってことだ。なんて物騒!

 ラムチョップのソースはブルーベリーとかでも良いけど、たまたまスロー・ジン(果実酒)用に大量に収穫してきたから、スローを使ってみたんだって。美味(び み)でございます~!

 

 デザートはたっぷりベリーのトライフル。赤いのがメインで、フレッシュな季節のモノばかりだ。みんな(こぞ)ってカスタードやクリームのところを(すく)ってもらってるけど、果物好きな私はベリーたっぷりでお願いします。

 

 三つ子たちが山盛りよそわれたトライフルの器から私の器にポイポイとベリーを掬って入れてくれる。まるで嫌いな野菜を避けてる風だけど、彼らだって果物が嫌いなわけじゃない。たっぷりのスポンジとカスタードとクリームに飾りのベリーでケーキ風ってのが好みなだけなのだ。私はちょっぴりのスポンジとカスタードにクリームで山盛り果物が好きなだけ。ギブ&テイクだね。

 

 食後の紅茶の最中に飛び出そうとする三つ子たちに挨拶しないとダメだよと促す。学生組が苦笑しつつ遊び相手をしてくれるらしく、話しかけて来る。従兄たちも兄たちも歓声を上げて、箒に乗せて! とねだっていた。学生組の持つ箒は子供用(限定解除)じゃなくて、大人と同じだからね。屋根より高く揚がっちゃうと危ないんじゃない?

 

 私はまったり留守番かと思われたけど、まとめて面倒みるつもりみたい。学生組のヨランダが箒に乗せてくれるって。兄たちや従兄姉たちから羨ましがられる。ヨランダはなんと寮代表選手なんだって。え? 何のって? うん、アレだよアレ。わ~それなんてハリポt……のクィディッチ。イヤー偶然、偶然。――偶然(グウゼン)ッテ(コワ)イワー……っよし!(暗示完了!)

 

 ダニーは選手じゃないけど箒は得意だから、まとめて子供たちの面倒を見ましょうって感じみたい。

 

 外遊び用の服に着替えて、屋敷の外に出ればヒョイと箒に跨らせられて、後ろに安定力抜群で陣取ったヨランダが、トンっと軽く地面を蹴ってすいっと音もなく舞い上がった。あ、音はあった。私のあげたおマヌケな悲鳴。ひょえ~。体の両脇をがっしりと腕で囲われ、ヨランダの足の間に腰を固定されてても、いきなりはビックリします。

 

 それほど高高度ではないにしても屋根よりは高そう。下を見ればポカンとした三つ子たちとサミーの顔。フィルはちゃっかりダニーに乗せてと言い寄ってるみたい、何やら詰め寄ってる。屋敷の側で箒に乗らず、ちょっと離れた丘の向こうまで走って行っていた三つ子たちは、私を乗せたヨランダの箒を夢中になって走って追いかけて来ていた。興奮しているのかピンクの顔で目がきらっきらだ。

 

 ダニーが子供用箒を纏めて抱えて後続に付いてくる。走って付いてくる三つ子たちの側をゆっくり飛んでいる。フィルとサミーは三つ子たちの後を追いかけ、追い抜く勢いだ。乗せてはもらえなかったらしい。

 

 あっという間に丘向こうに到着。いつもの場所に降ろされて、例の穴はどこ? と聞かれたので、すぐそこの横穴を案内する。

 

 大人とほとんど同じ背丈に成長しているヨランダは無理だけど、私なら這って進めるくらいの横穴。何かの草か木の根がぴょこぴょこ飛び出て見える、ホントに兎とか狐とか、何か動物の巣穴っぽい。

 これが坑道に繋がってるのかねえ。私の疑問をヨランダも思ったらしく、サッと杖を引き抜いて横穴に突き付けてる。

 

 と、ヨランダ姉、校外は魔法禁止!ってダニーが叫びながら到着した。手に持っていた子供用箒でバランスが取り辛かったらしく、ちょっとふらつきつつご登場だ。

 

 保護だの錯誤だの撹乱だの言い合っていた二人は、「屋敷内ならともかく、いくら敷地内でも屋外でしかも大人が側に居ないのに、緊急でもない魔法を使うのは不味い」と合意に至ったようだ。揃って杖をしまって私の手を片方ずつ繋いで、その横穴から引き離すように歩きだした。両手を繋がれてる私は連れられた宇宙人だ。

 アレってさ、全身剃られたチンパンジーとかの猿っぽいよね。それかナマケモノ。まあ、フェイク? この世界ではハウスエルフとかが該当しちゃうのかしら。そんな感じで両手をバンザイで繋がれて二人に連行されました。

 

 毎回パラソルをぶっ刺していた所に、三つ子の内の兄たちがいそいそと待機所を設置している。いつもサミーが掲げて持って来ていたパラソルを、手ぶらだと思っていた彼らが運んで来ていたようだ。

 ピクニックラグがバサッと広げられる。ラグはいつものより大きい。4.5 ft(フィート)(≒137cm)四方かな。どこに準備してきたのかクッションが3~4個転がり、私はと言えば靴を脱がされて転がされた。箒に乗るつもりはさらさらないので、クッションを抱えてさっさと日陰に寝転ぶ。おおう、枕、大事! お休み、3秒。すやぁ~。

 

 

 ふと気づくと、待機所なのに誰も待機してない事実。

 

 ヨランダとダニーが片手に箒、片手に杖を持って上空を見ている。かなり小さい黒豆状の粒が私の兄妹の一人と従姉らしい。三つ子の内の姉と兄の一人、それから従兄が身長くらいの高さを飛んでいるのが見えるから、つまり、あの黒豆が残りの二人だ。怖っ!

 古来、箒なんてもので空を飛ぼうと思った魔法使いは、危険察知能力がぶっ壊れてたに違いない、と私は思う。人間は鳥じゃないんだから、飛べないって自覚しなきゃ。落ちたら死ぬよ? それとも昔の魔法使いって高高度から落ちても死ななかったの?

 

 低空飛行の3人が交代を呼び掛けると、みるみる黒豆が大きくなって3人に合流する。それから全員地に降りると学生組の監督の元、メンバーを入れ替えて再び空に飛び立っていった。どうやらそれを繰り返しているらしい。学生組が杖を握っているのは万が一の救助の為だろう、たぶん。

 ただし、ダニーが何度か、こうだよね?って杖の振り方をヨランダに習って確認しているのが怖いところ。そんな魔法で大丈夫か? まあ、落ちなきゃいいのか……大丈夫だ、問題ない。

 

 ひそやかな(はしゃ)ぎ声が聞こえた気がしたので横穴方面へ目を向ければ、ハイホーハイホー仕事が好きなノッカーたちがニコニコと穴から列を作って向かって来るところだった。

 おおう、餌付け完了って感じ。池の縁に立ったら、わーっと鯉が集まって来てパクパクバシャバシャ水面から顔を出してるのを眺めてる気分。何か食べさせなきゃいけない気分っていえば分かる? 責任感って云うか義務感って云うか……野良猫に餌あげちゃう猫オバサンの気持ちが、とてもとてもよく分かる状況だよね。

 

 そして今日の配給って何かあったっけ? 何にも気にせず来ちゃったからなあ~、とポケットを探れば、ぐにゅっとした感触。引っ張り出してみればギモーヴだった。

 

 1in(インチ)(≒2.5cm)の立方体でカラフルなギモーヴは、お洒落でジューシーでとっても美味しかった。ウィンフレッド叔父さんがエルミーさんのリクエストで作っていたのだ。

 特にキレイに立方体に整えられた一角は手土産として包まれ、若干厚みの足りないモノが普段使いのお茶菓子に回され、端っこの切り落とし部分は三角に切り分けられて小鉢に盛られていた。

 私が食べたのはこの小鉢のだ。これまたとても大量に作られていたけど、大丈夫かな? 足りる? 手にした三角のギモーヴとノッカーたちを見比べる。

 

 叔父さんは特に私に言い聞かせるように、手土産として包んだモノはもう(ウチ)のモノじゃなくて持参する家のモノだから、絶対食べたり悪戯しちゃダメだよ、と子供たちを集めて注意していた。私も、なるほどなあ、と納得していた。よその家のモノに手を出すのは単なるドロボウだ。食べちゃいました、てへぺろ、じゃ済まされない。

 つまり、その分さえ安全ならば、他は食べても良いってことだろう。小鉢に盛られていた三角のヤツは完食待ったなしって感じだな、たぶん。うん、そんな感じで作ってた気がするし。

 

 あ、ギモーヴってマシュマロのことだよ。フランス語だね。マシュマロは〈ふわっもち〉って食感だけど、ギモーヴは〈ふかっジュワ〉って感触。材料が違うみたい。果物の香り豊かで、私はギモーヴの方が好き。

 

 そわそわ並んで、キラキラの目で私の手元を見ているノッカーたちにギモーヴを手渡す。ベリー系がメインだからピンクや紫、赤の綺麗な色にノッカーたちは嬉しそう。柑橘系のオレンジとか黄色も爽やかでいいよね。鮮やかなグリーンはキレイな見た目の色と反して、喉に良い薬草味だ。本来のギモーヴって薬草じゃなくて、別の薬草だけど。青みがかったエメラルドグリーンはミント系の味。

 濃い緑の薬草味は唯一()じってる(ハズ)れ味で(アタ)り菓子。菓子としてはハズレな味だけど、薬としては美味しいアタリというわけ。

 

 そういえば彼らが食べてるところを見たことなかったけど、食べ物だって知ってるよね? ドラジェもクッキーも十日くらい余裕だけど、ギモーヴは早めに食べないと……仕舞い込んで飾ったりしてるとカビるぞ。

 私の心配を余所に、貰ったギモーヴの柔らかさを両手でふわふわ堪能して、後ろに並ぶ同輩に順番を譲りながら、パクッとかじり付いてるノッカーも居た。良かった、食べ物だと知ってた。でも、かじり付いたギモーヴを食べきったヤツが、列の一番後ろに並び直すのはどうなんだろう。大事そうに抱えこんでるノッカーは、横穴方面へ向かっているのに。持って帰る分をまた貰おうって魂胆?……カワイイからあげちゃうけど。

 

 今回も最後の一つが私の手に残るうちにノッカーたちは撤収するようだ。うきうきと楽しそうに帰って行く後ろ姿は、とてもカワイイ。

 

 ポケットから引っ張り出したギモーヴが、三角の切り落としの内に収まりが付いて良かった。四角に整形されてるのは客用菓子だからね。

 

 ダニーが杖を握ったまま近づいてきた。歩き去るノッカーに気付いたらしい。カワイイよね、と話を振ったら目を見開いて凝視された。

 

 え? あのヨチヨチ歩きとか、子供っぽいしぐさとか、それなのに大人っぽい等身とか、犬っぽい目とか、人形サイズの小ささとか、小さいのに作り込まれている革製ブーツとか、面白いし……弁護するように言いつのる言葉が尻窄みになる。ジッと見てくる視線は、何言ってんだコイツって物語っていた。

 ――噛まれると腫れあがる位の毒を持ってるらしいから気を付けてね。と、とても一本調子でダニーは言うとタメ息つきながら頭を撫でてくれた。ふう、ヤレヤレって感じで。……むう、カワイイじゃん、ノッカー。

 

 飛び回っていた連中がワラワラと集まって来たので、ギモーヴを配りながらノッカーを見た、と報告。三角の切り落としを二つずつ、ポケットから引っ張り出してはみんなの掌に乗せていく。

 

 私の分は薬草味とラズベリー味。赤と緑のクリスマスカラーだ。実はこの組み合わせで食べると、甘すっぱ苦くて絶妙なハーモニーを味わえるのだ。

 みんながハズレをひいちゃって可哀想にという目で見て来て、ダニーが交換しようか? と言い出したけど、私はニコニコと両方一緒に食べ始めた。うん、この絶妙なハーモニー。美味しいよ、と説明するけど、みんな引いてた。

 

 それから来た時と同じ配置で帰る。私はヨランダの前。三つ子の内の兄二人がパラソルを前後で担いで持って帰るようだ。後は手ぶら。あ、ダニーはまた全員分の子供用箒を持って飛んでいる。ちょっとは慣れたのか来る時よりしっかりしてる。

 

 屋敷に帰り付いたらすぐさま大人にご報告。ノッカーに会ってギモーヴを食べました~。

 

 もしかしたらって切り落としの三角ギモーヴを大量に作っておいたので、消費したこと事態は怒られなかったけど、私が一人でノッカーと相対したのは不味かったらしい。ダニーがちゃんと見張ってたよ、と伝えるも、帰って行くノッカーの行列に気付いて慌てて近くまで行ったんだ、とダニーは正直にご報告。ギリギリお叱りは受けない範囲だった模様。(連れ去る背中を追えるには間に合ったけど)ベストは相対した時、隣に就いて見張って欲しかったようだ。

 

 そして私は、父さんとアルフレッド伯父さんとウィンフレッド叔父さん、三人に囲まれて厳重注意。攫われると暗くて狭い穴倉で怖いノッカーに無理やり働かせられるぞ、と脅される。首を傾げて伝承とかかなあ、と考えているとカミッロが参戦してきた。

 

 取り替え子(チェンジリング)の心配もあるけれど楽しそうとか面白そうって付いて行くと〈妖精の輪〉に誘い込まれて、どことも知れぬ場所に飛ばされるかもしれない。暖炉で移動する訳じゃないから何処に出るかは完全ランダムだし、ヘタをしたら時間も移動するんだ、とメッと叱って来る。

 

 彼らが意地悪でどこかにやっちゃえって訳じゃなくて、喜んでるからって飛ばされるのが一番厄介で、見つけることがとても難しいんだって。

 意地悪なら当事者をとっ捕まえて締め上げれば軌跡を辿れない事もないそう(辛うじて出来るって意味)だけど、善意だとより面白そうな場所へとチャレンジしちゃうらしく、彼ら自身も何処に飛ばしたか分からないらしい。飛ばされた本人が自力で帰って来るしかないそうだ。

 

 場所だけならばまだましで、時を飛ばされると帰還は絶望的と云われているんだって。だから気を付けなさい、と。もう二度と会えなくなったら、寂しくて悲しいよ、と。カミッロに諭される。そうか、悲しいのか。そうなったら私も寂しい。うんうん頷いて気を付けると約束する。カミッロも厳しい表情を緩めて頭を撫でてくれた。

 

 私を囲んでいた大人たちも何とか表情を緩ませて、父さんは抱き上げてくれる。伯父さんたちが頭を撫でたり背中を撫でたり、よしよししてくる。そうか、心配されてたのか。それは済まなかったと、ごめんなさいしておいた。

 

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