生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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12. ノームじゃなくてノッカー

 

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 さて、常備のお菓子が無くなったから、大量にクッキーを焼くことになった。

 

 作りたい人たち! と招集が掛かったのでトコトコ近寄ってみる。女の子たち!って限定してない所がイイね。呼び集めたのも、おっちゃんだからね。

 フィルとサミーのお父さんのウィンフレッド叔父さんは菓子職人。プロが居たからこその、あの大量のドラジェだったみたい。納得。

 

 家庭のお菓子は手作りが基本だ。この世界は何でも売ってて買える時代じゃない。保存技術がそれなりな頃なので、お菓子にさえ旬がある。夏にチョコ系は出回らないし、冬のフルーツはドライか瓶詰か缶詰だ。

 需要と供給のバランスの為か、ほとんどが受注生産で、ケーキ屋さんとかパン屋さんとかあるけど、基本的に予約制だ。イベントとか重要ごとの時は結構前から予約して下準備しなきゃいけないし、そうじゃない普通の買い物の時でも前日くらいには予約する。外食のレストランとかもね。

 

 欲しいものが直ぐ買えるって云うのも画期的な事なんだよ。欲しい品物が店にないってざらだから、予約したり配達してもらったりして確保する。御用聞きが勝手口に注文受けに来るのも顧客を逃さないためのサービスの一環だからね。

 日本でも醤油とか砂糖とか隣近所で貸し借りしてた時代があるでしょ? 私の記憶の日本だったらコンビニ一直線だろうけど。お店が閉まってる時間帯が長かったから「貸して」って事態になる訳。店が開いてたら買いに行くもの。

 

 そんなわけで、お茶菓子として大量に焼き菓子を作ることになり、ついでに子供たちも遊ばせようって感じで、叔父さんがおいでおいでし始めたみたい。学生組や未就学グループもまんまと釣られている。もちろん私も。

 

 幼児な私は基本見学で、量ったり混ぜたりは応援に終始する。伸ばして型抜きってところでようやく手伝いを許された。

 

 星とかハートとか花とかの抜型の中から、ジンジャーマンの小さいのを選ぶ。5cm位。抱っこクマみたく片手でアーモンドを抱えさせ、顔に点を打って目とv字の口。ココア生地のハートを抱えさせたり、星は両手で胸元に掲げさせる。

 途中で叔父さんが手伝ってくれて、私の作る抱っこ(ジンジャー)マンよりもクォリティ高いのがずらずら並ぶ。しきりに褒められた。斬新なデザインらしい。うん、半世紀は先取りしてると思うよ。

 

 焼き上がり、ざらざらと天板からクーラーへと移されていくクッキーたち。抱っこ系は焼き損じ率が他の型より高めだ。割れたり欠けたりってのが意外に出る。腕が取れやすい。まあ、味は変わらないから普通に食べるけど。プレゼントとかで作った時は味見や自分で食べる用にしてたし。叔父さんもプロだからササっと選り分けると別にしていた。クッキークランチはアイスに掛けたり混ぜたり、マフィンに掛けたり、チーズケーキとかのボトムに成ったり用途があるからね。

 

 クッキーの焼きあがるバターと砂糖のこんがりした匂いは食欲をそそる。十分に冷めた一つを頂いてみて、微妙に半笑いになった。うん、〈甘ければ美味しい〉系だった。まあ、1個位なら紅茶のお供に何とか。砂糖同じ量使っててもスペキュラースみたいなスパイスクッキーだったら結構いけたんだけど、お子ちゃま(私だ)が居るのでスパイス系は避けられたもよう。けっこうみんなボリボリいってるけど、やっぱり〈甘ければ美味しい〉時代なんだねえ。……私は一つで十分です。

 

 そして、クッキーの抱っこ(ジンジャー)マンは斬新なデザインと大絶賛されました、まる。

 

 

 その後、就学前グループに学習タイムが割り当てられた。

 

 ブーイングの後に逃げ出す算段をし始めた三つ子&フィルとサミーは、振り返って後ろで仁王立ちしている保護者たちを見ると良いよ。

 

 私もメンバーに入ってるのかと思ったら、4歳児はハブられました。お勉強けっこう好きなんだけどな。――ここは幼児らしく遊び倒すことにする。

 

 各家庭が連れて来たペットたちにダイブしてみた。猫も居るけれど犬もいる。首輪を外されると目くらましが解けたのか、尻尾が二本になる種類の犬とか、尻尾が蛇になる種類の猫とか――それって猫?……まあ、いいか。(ペットの)皆さんおおむね友好的で、とても嬉しいです。

 

 どこのご家庭でもキレイに洗って乾かす魔法で、ペットたちを手入れしているのか、抱き着いても獣臭はそれほどしない。でも洗いたてっぽい犬から香る匂いが、クヮジモド家でウーゴを枕にしてた時と全然違うので、驚いた。魔法の系統が違うと使われる洗剤も違うのだろうか。英国では英国の香りがするみたい。

 

 陽の当たる部屋の片隅のカウチに転がってウトウトしてると、バレーボールくらい大きさの毛玉が転がって来た。

 

 あの西部劇で決闘シーンに転がって行く草の塊みたいな調子で目の前を通り過ぎ、大回りで私の死角から近付いてくると、私の顔の横、耳の後ろあたりにピタリと陣取った。色は生成りな感じ。そんでもって何やら棒状のピンク色のものをみょーんと毛玉の中から伸ばしてくる。舌かな。ポチ目でじっと見つめて来るけど、それって捕食者の目? うん、キモ怖い。

 

 怖いよ!って、ぎゃん泣きしてやろうと思っていたら、同じようにすっと伸びて来た蛇にしゃーってされて、毛玉は再び転がりながら行ってしまった。

 

 蛇はどこから来たんだろうと、よくよく見れば、私に腕枕を強請って横になるやゴロゴロ喉を鳴らし始めた猫の尻尾から生えてた。お前か。お礼代わりにちょっと幅広な鼻先に私の鼻先を付けてすりすりしたら、喉の鳴る音がバフンバフンし始めた。ちょっと鼻水飛んできたのはご愛敬だ。へへへ、カワイイ。

 すっかり猫のつもりで相手してるけど、顔立ちがかすかにライオンっぽいのは全力で見ないフリします。

 

 カミッロのアルジェントもペットたちの一団に混ざってて、尻尾が蛇の子はアルジェントと同じくらい大きいのに、顔立ちとか頭の大きさや手足のバランスが子猫特有な感じがする。

 頭はデカくてごろっとしてるし、前足もぶっとくてもふっとしてるし、でも後ろ足がシュッとして蹄があるっぽい。……うん、見ないフリ、見ないフ――ちょ、コレいいの? 飼っちゃダメな不思議種族じゃないの? 大丈夫? ホント平気?

 

 アルジェントに聞いてみたけど、猫だからゴロゴロ喉を鳴らしながら、蛇尻尾の子をザリザリ舐めてあげて、ついでに私の顎もザリザリ舐めて、毛玉の陣取っていた位置にとさっと横になった。うん、私に猫語は無理だった。

 尻尾が二本の犬たちも拍手するみたいな音を立てて尻尾を振りながら側に居るけど、私には犬語も厳しいと判明した。

 尻尾が二本の犬たちは小型犬で、アルジェントくらいの大きさしかない。私は大型種が好きなので、同じ犬ならウーゴみたいな大型犬が好みだけど、この小型~中型の犬もカワイイっちゃカワイイ。四角くてテリア系の顔立ちで。

 

 カウチに山盛り(たか)っているペットたちに囲まれながら、お昼寝タイムです、すやぁ~。

 

 

 お昼寝が遅かったからか、夕食時間に起きれなくて食事をパスした私は、夜に起こされて夜食コースだ。うーん、何度目?

 

 ハウスエルフのゾーイが陽気なお喋りと共に()()()()()でポリッジを食べさせてくれる。コンソメ味でみじん切り野菜入り。美味しゅうございます。

 

 ここの食事はエルミーさんがフランスから嫁いでくるとき連れて来たシルキーの監修が入ってるらしく、なかなか美味しい。クリームとバターの使い方はちょっと重めだけど、あっさりなモノはあっさり爽やかだし、不味いと定評のあるイギリス料理には当てはまらない。こういう食事で育てば、食事を楽しむ習慣がつくのかも、イギリス人でも。だから料理人(菓子職人だけど)が育つのかもね。

 

 ゾーイの指パッチンでシュルシュルとベッドメイクがされ、顔や手足が拭かれ、着替えさせられる。

 ネグリジェだけだと夏でもお腹冷えちゃうから、私はいつでもどこでもドロワーズを履いている。ちょうロリータだ。ちなみに股開きじゃないドロワーズだよ。おへその上までしっかり深履きのだけど、上に着ているワンピースやネグリジェはもっと上まで(まく)れるからさ。トイレの時はガバッと胸まで(めく)ります。

 

 ロリータと云ってもここでは誰にも通じないので、ヴィクトリアンって云ってる。フリルとレースとリボンで出来てる、ワンピースが基本なお洋服のことだ。ウエストの切り替えがかなりハイかちょうローの二択で、はなからウエスト切り替えがない物も多い。幼児体形でお腹がポッコリしてるからね。スポッと被れば着替え終了なワンピース系は楽ちんなのさ。

 

※※ ※ ※ ※※

 

 午前中の学生組の宿題の一環に魔法生物に関するものがあったらしく、ペットたちを一匹一匹種類を特定していた。

 

 アルジェントはニーズル系メインクーンで魔法生物ではない、と特定されている。

 尻尾が二本の犬はクラップと云うらしい。尻尾を振るたびに拍手のような音が鳴っている。これは魔法生物。けっこう賢い犬さん。

 小型の猫の内数匹がニーズルと特定されていた。ニーズルも魔法生物ね。とっても賢い猫さん。

 

 気になってた尻尾が蛇の子、数人が囲んで大人も混じって何やらガヤガヤしてたけど、ニーズル系って決まったみたい。――決まったって(笑)

 

 ニーズル系って、猫型魔法生物のニーズルってネコ科と交配可能な種族の血を引く猫のことで、とても知能が高く人気だ。その知能の高さを猫種に取り入れようとする交配の一環だったらしい。

 猫種って。ぶっちゃければキメラだよね? あれ獅子じゃね? ネコ科って云えばそうだけど、っていうかニーズルって小型猫なんだけど!

 

 まあ、賢い子ならいいか。って云う事らしい。――いいの?……いいのか、飼い主がそう言うなら。いいことにしよう、そうしよう。

 

 

 昼食までのちょっとした時間に、私はまた兄たちに攫われた。

 

 えーっ、箒で遊ぶのに私必要ないじゃん! 末っ子のミソっかすをわざわざ連れ歩かなくても良いのに……って思ってるのは私だけで、彼らは彼らでずっと離れ離れだった末の妹を、それなりに可愛がりたいようだ。自分たちの行動と共にして、姉兄妹(きょうだい)の一員として遇したいみたい。

 

 まあね、イジメられたリ無視されたりよりはずっと良いけど、アウトドアな遊びは、キツいっス。私インドア派なんで。

 

 

 再びキャーキャー言う箒乗りたちをパラソルの陰から眺めていれば、先日のハイホーハイホー仕事が好きたちがワラワラ集まって来た。

 人形みたいにかわいいけど、笑った口元から除く歯は、すべてギラリと尖って鋭く光っている。まあ、犬だってそうだから、あまり怖いとは思わないけどね。

 

 今日の餌付けは何かあったかな~とポケットに手を入れたら、昨日焼いたばかりのクッキーの入っている紙袋が出て来た。ちょっと焦げ色の強い抱っこマン。

 実は私、焼き色が少し強いモノを好むんだよね。きつね色よりも濃く、たぬき色ぐらいが好き。トーストとかも、キレイなブラウンじゃなくて焼けたブラウンの方が好き。

 

 私好みの焼き具合はプロの目からは跳ねられるらしく、ザラッと紙袋に入れてくれたんだ、叔父さんが。私がボリボリ食べないって判ったからみたいだけど。甘みの強いこのクッキーは紅茶かコーヒーのお供じゃないと食べるの厳しい。今の私は半量ほどミルク入りが基本だけど。

 

 そのクッキーを一つあげる。抱っこマンだ。彼らから見たらけっこうな大きさだと思われる。身長が2~30cmなのに、抱っこマンクッキーは5cm位ある。彼らの顔と同じくらいの大きさだ。顔サイズのクッキーと想像すれば目安になるでしょう。

 

 一つ一つ手渡し始めたら、嬉しそうに並び始めた。そんなにたくさん入ってないんだけどなあ、と思いながらも渡していると気づく。まただよ。いつまでたっても紙袋から出て来る。これ、無意識の魔法なの? まあ、便利だから突き詰めないけど。

 

 全員に一枚ずつ行き渡ったらしく、最後尾のモノが後ろを振り返り、自分のクッキーを見て、私が手を入れて取り出していた紙袋を覗き込もうとする。もっと欲しいのかな? と袋の中を見せると、ホッとしたように一つ頷いて満足そうに手にしたクッキーを抱きしめ、スキップしながら帰って行った。カワイイなスキップ。

 崖の陰の穴の中にもぐって行ったのを見送ってから紙袋を覗き込めば、コロンと一つ残っていた。おおう、最後の一個を私にってことだったのか。なんてカワイイ子。

 

 その後、お腹空いた~と従兄姉と姉兄たち5人が戻って来たのでクッキーを見せたけど、一つしかないなら一番ちびっ子のモノだ、とみんな受け取らなかった。端っこの欠けたこんがり焼き過ぎクッキーだからかな。

 

 クヮジモド家でもそうだったけど、ギャヴィン家も裕福な部類だ。食べ物に困った経験などない子供たちは、より大きいモノとか美味しいモノとか狙ってくるけど、取り上げてしまおうとする者はいない。ちびっ子が自分たち程たくさん食べないと云うのも知ったらしく、分け与えられる量が半分以下なので、大いに見逃しているのだ。

 

 例えば、クッキーで云えば、ちびっ子は一つ食べて満足している。自分たちは二枚も三枚も与えられるしもっと食べたいのに。

 ケーキだって切り分けられるのは自分たちのケーキの厚さの半分より薄い。一口貰い!って奪えば三口くらいで無くなりそうだ。ちびっ子はチマチマと何度も口に運んでいるのに。

 それにヘタに奪ってぎゃん泣きされ叱られるよりも、お代わりをねだる方がよっぽど建設的だ、と。

 

 兄たちの騎馬に担ぎ上げられて帰る道行で、再び庭小人(ノーム)が出てクッキーをあげたと話す。居ないよ! と声をそろえる従兄姉たちや姉兄たち。庭小人ではないなら、何だろう?

 

 

 やがて屋敷に帰り付けば、仁王立ちな大人たち。

 

 空っぽになったクッキー入れを示して説教モードだ。再び私が申告すると、今度こそあの大量のクッキーを食べたのかと聞かれる。

 

 ここでようやく庭小人(ノーム)? にあげたと言えば、庭小人(ノーム)は庭にしかいません、お前たちは庭で遊んでいたの? と尋ねられ、従兄姉と三つ子たちは違うと一斉に声をあげた。じゃあ、小鬼(ゴブリン)? と私。小人(ドワーフ)かな? と学生組のヨランダ。

 

 物見高く集まって来ていた学生組の片割れが教科書を開いて挿絵を見せてくれる。ダニーだ。指さし確認で覗き込んでチェックした所、一番近いのはレプラコーンで、地方的にノッカーではないか、とのことだった。精霊の一種らしく坑道に良く現れるそうだ。へえ~、じゃあ、あの穴が坑道の入り口なのかな?

 

 正体は知れたけど、接近禁止を申し渡された。幼子は攫われる恐れがあるから遭ってはならないそうだ。がっくり。姉兄たち位なら連れ去りもないだろうから、独りで会うのでなければ良いとされたが、箒乗りたちがジッとしてるとはとても思えません。

 私を連れ出さずに遊びに行くと良いよ。

 

 


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