生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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11. それなんてハリポt……

 

 気が付けば三つ子の兄たちに担ぎ上げられて、脱兎の一兎に。

 

 さすが不思議な事が出来ちゃう系の一族。幼児とはいえ子供一人、二人掛かりとはいえ担ぎ上げて、飛ぶように走って行くのは圧巻だ。

 映画かアニメかというような息の合った足並みで、ひょーいひょーいと走り抜けていく。いつもはオーリィを担いで走ってるらしく、軽いなって私に振り返って笑って見せる余裕もあるのだ。

 

 今年十歳の従兄のフィルは、髪の色が三つ子の兄たちにそっくりで、後ろ頭だけ見れば、お前たちが三つ子だろうって似具合の男の子だ。八歳のサミーは鳶色の髪でそばかすのある赤毛のアン系。目が水色で儚げだけどちょうお転婆だ。

 学生組も居れば私は担ぎ出されずに済んだのかもだけど、彼らは彼らで宿題に追われてる。がんばれ。私なんか連れてっても、人数合わせにしかならないだろうにね。

 

 騎馬戦のように軽々と私を抱え上げて走る二人の後を、フィルとオーリィとサミーが両手に一本ずつ箒を持って付いてくる。あ、サミーは片方箒で片方は旗? 布がぐるぐる巻いてある。そこだけ不揃いだけど、某スタイリッシュ戦国ゲームの日の本一の(つわもの)の槍のようだ。この辺ではチャンバラは刀じゃなくて両手の槍が標準装備なのかなあ、などと軽く現実逃避。

 

 それから丘の麓に降ろされて、彼ら5人は彼らで走り回る。兎を追いかけたり、不思議な事が出来ちゃう系の遊びも織り交ぜて跳ね回っている。

 

 キャーキャー言いながら箒に跨り始めた。わぁ~、それなんてハリポt……、――うん、いや、もう、たぶん……そうなんだろうけどさあ。

 ――確定的な証拠と直接的な係わりがない限り、ここは私の知ってるハリポタそっくりな、全く別の異世界だって悪あがきする所存です。……はあ。

 

 砂浜のパラソルよろしく日傘を縛り付けた棒を地面に刺して、ばさりとピクニックラグが広げられてる。ここに居なさいよと云われた私は、寝転がってうたた寝する気満々だ。草はら気持ちいいよね! 虫さん蛇さん鼠さん、あっち行ってバイバーイ、と呪文っぽく唱えておけば、近寄って来ないだろう。っていうか、そういうお(まじな)い効果が敷物にはあるらしい。さすが不思議製品。

 

 この日傘は開くと倍以上の大きさになり、雨傘にもなる晴雨兼用の、やっぱり不思議製品で、サミーの持っていた旗みたいなモノの正体だ。持ち手のだいぶ長い傘にぐるぐるとピクニックラグが巻き付けられていたというわけ。ラグは正方形で長さは大体三尺半(106cm)。私は余裕で寝転がれます。

 

 頭だけ日陰になるように寝転がって、遠目に低空飛行な箒に跨ったお子様たちを眺める。

 

 学校に入ってから習い使う箒は大人用と全く同じものだそうだ。その気になればどこまでも高く舞い上がれるし、世界一周だってできちゃう。でも就学前の子供たちには、子供用の箒しか与えないのが通例なんだって。幼児用なんてのもある。

 

 子供用は基本、本人の身長より高くは飛ばない仕様だ。たとえ落ちても、悪くて骨折ってレベルの怪我で住むような配慮だ。ちなみに幼児用は本人の腰より高くは飛ばない。落ちても、歩いてて転んだのと変わらない怪我にしかならないように、だ。

 

 彼らがキャッキャッと跨ってるのは子供用の箒らしい。ただし限定解除してあるらしく、本人の身長じゃなくて、箒の長さまでの高さに飛べる様にした代物のようだ。まあ、とびぬけて長いというわけじゃなくて、身長よりはちょっと長いかなあって位だけど。そのちょっとがイイみたい。

 

 元気だねえ、子供たち。落ちても怪我なんかするんじゃないぞ~。

 

 飛び回る従兄や姉兄たちを眺めながらウトウトと寝そべっていると、何やらブツブツ聞こえた。崖というにはささやかな、ちょっとした段差のあたりの草の陰からだ。

 

 草葉の陰からヤッホーするのは鬼籍に入った人たちって定番だけど、私は(いま)だシルキーよりゴーストっぽいモノは見ていない。シルキーが最高のゴーストらしさで、後は(すべか)らく実体を伴っている。居るのかな? ゴースト。――居るんだろうなあ、この世界ならば。

 

 そーっと目を向ければ、兎か狸の穴かと思っていた陰から、小人が顔を出して周りを見回していた。

 

 何アレ、アレが噂の庭小人? 良かった、ゴーストじゃなかったよ。

 害獣扱いされてたハリポタのジャガイモみたいな庭小人と違って、こっちでは土妖精? もっとずっとスマートでフォルムが人間らしい。お洒落な帽子としっかりしたブーツを履いている。ハイホーハイホーして仕事が好きそう。

 

 ジーっと見つめていたら、気が付かれたみたい。ひゃって引っ込んだ頭が、再びそろーっと出て来て、こちらをチラチラ見ている雰囲気。なんかカワイイ。餌付けとかしたくなる。

 何かあったかな~、と上体を起き上がらせてポケットを引っ繰り返すと、ドラジェがポロポロ出てきた。

 

 ドラジェは砂糖菓子だ。アーモンドの粉糖掛け。縁起が良いお菓子って事で、祝い事には欠かせないらしく、先月従姉の結婚式の際に大量に作られたんだって。エディとヨランダの上の三人の姉の内の一人ね。みんなに配ったお余りが大量常備されていた。節分の豆っぽく年の数だけ食べるのかなあ、とか思っていたけど、そんな仕来りはないらしい。ただ五個ずつ配るのが縁起が良い、とは聞いたけど。

 

 蛇の卵っぽくてカワイイ、と褒めたら、微妙な顔をされた。例えが悪かったみたい。白と黄色が同じくらい大量にあって、ピンクにグリーンにブルーは同じくらい少ししか残っていない。色付きはお残りが少なかったのかな?

 ちなみにグリーンはほのかにミント味、黄色はかすかなレモン味。赤はルバーブジャム? 青はアレかな、お茶の時出て来た目の覚めるようなブルーのハーブティー。味はホントに(かす)かにしかしない。味付けじゃなくて色付けだからだと思う。パステル系の淡い色で可愛い。

 

 ワシっと鷲掴みでポケットに詰めても怒られなかった。洗面器みたいな大きな器2つにぎっしりあったからね。

 

 そのドラジェを、はいって手渡し状態でキープ。気分はナウシカ。怖くなーい、怖くなーい。ほーら、怖くなーい。

 チラチラ視線を寄越しながら、そろそろと近付いてくるのを辛抱強く待つ。……噛まないよね?

 

 間近で見ると目が特徴的なのが分かる。正面から見ると黒目がちで白目が見えなくて、チラッと視線を逸らすと僅かに白目が分かる。逆か。白目が覗いて視線が動いたのが分かる。犬の目みたい。色も黒っぽい色ばかりだし。藍色とか深緑とかも居たけれど。サイズといい姿といい、動くお人形のようだ。

 

 最初こそビクビクしてたけど、一つ貰ってからは大胆に両手を差し伸べるようになった。後から後から。――そう、一人じゃなかったんだよねえ。たくさんいる全員に行き渡るといいなあって思いながら、はい、はい、と一つ一つ手渡しであげる。

 

 ポケットに詰めてた数より明らかに多くのドラジェを飽きることなく手渡してると、ついに最後の一つになった。

 

 最後の一つだよ、と渡すと、その貰った小人は驚いた顔をして両手で受け取ったドラジェと私の顔を何度か見比べた後、慌てたように返して寄越そうとした。いいよ、貰って、と返却を拒否してるとしぶしぶ小脇に抱えて、穴へと帰って行った。うん、カワイイ。

 意思疎通のできる不思議生物、とてもカワイイです。

 

 

 やがて、三つ子と従兄姉の5人が私を回収に来たので、またぞろ担ぎ上げられ連れられる。来る時と同じ配置だ。兄たち二人(アーニィ&アーヴィ)が騎馬、(オーリィ)従兄姉たち(フィル&サミー)が両手に一本ずつ(両手槍風に)箒を掲げてついてくる。一本はパラソルだけど。

 ひょーいひょーいと走る割に揺れない兄たちの背中にしがみ付きながら、庭小人ってカワイイねえ、と言ってみた。

 ええっ、こんなとこに庭小人は居ないよ! という従姉(サミー)に、じゃあ何を見た! って兄たち二人(アーニィ&アーヴィ)も振り返る。そっくりな仕草で左右対称に同じ動きをされるとビビる。ミラー双子か。

 土精霊の一種、ノームじゃないの? と云っても、庭小人も同じノームと云うからややこしい。土地の魔力が多ければ何処にでも()()んだろうけどさ。

 

 結局、私が何を見たかははっきりしないまま帰りつく。

 

 屋敷に帰ってみれば、積み上げてあったドラジェがキレイさっぱり消失していたそうで、従兄姉と姉兄たちが疑われていた。

 

 食べても良いとは言ったけど、全部食べるのはさすがに多すぎです、と説教モードだ。なので私がは~い、と手を挙げながらノームにあげたけど、ポケットからいくらでも出てきてびっくりした~、みたいなことを舌足らずに説明する。

 

 ノームじゃないよ、居ないよ! と声が上がるが、にっこりスルー。だって正体が分かるかも知れないじゃないですかー。

 

 けれど大人たちは、嬉しそうに歓声を上げ始める。庭小人でもノームでもどうでも良いらしい。なんでも魔法力の発現の一環だそうだ。これでスクイブじゃないって決定されるらしく、父さんと私にかわるがわるおめでとうと声がかかる。

 

 似たような事はクヮジモド家でも遇ったけど、誰もお祝いなんか言わなかったけどなあ。魔法力はあって当たり前、みたいに思われてた節があるし、私。こまっしゃくれてたのが、すでに魔法力の発現と思われてたのかなあ?

 

 エルミーさんが止めてくれたから良かったけど、軽くパーティとか言い出してたからね、テリーさん(お祖父さんにこう呼ぶよう言われた)たち。

 エルミーさん曰く、歯が生え変わりの為に抜けるのと同じように魔法力が発現するのは当たり前のことです、だって。魔女だと疑ってないって事だね。代々魔法族の旧家だからね、ギャヴィン家。

 聖なんちゃら一族(未)には「(英国以外の魔法族も血筋には多いので)謹んで辞退します」と返事したから(つら)ならないみたいだけど。

 

 聖なんちゃら一族ってのはまだ名称未定だけど、ノット氏って人が提唱してて、英国の純血一族の血筋について聖別しようって考えなんだって。魔法族の旧家と云われる各家を訪ね、家系図を確認させてもらったり、婚姻関係を聞き取りしたり、姻戚家系を辿ってみたり。そういう調査をずっとしていたノット氏がギャヴィン家にも来たんだって。()()の純血の家系って処がミソだ。島国根性だよね。

 

 ギャヴィン家に来た時も家系図をチェックしたりしてたけど、頻繁に他国から嫁や婿が入るし、何より前当主のテリーさんや現当主のザカリアスさんの意向でそのような一族に名を連ねなくても構わないだろう、と断ったようだ。テリーさんはお母さんはアイスランドの人で奥さんはフランス人だ。ザカリアスさんだって奥さんはドイツ系だもの。まあ、はっきりと献金をねだられたという事もあったみたいだけどさ。

 何でも纏め上げた内容は豪華本に装丁してお贈りします、なんて言われても、出版費を集める言い訳のようにしか聞こえませんでしたよ、とエルミーさんはお怒りだ。せっかくの純血家なのに外人の血が入って惜しいとか言われちゃったみたいだからね、そりゃあ怒るだろう。

 

 って云うか血統書だよね。競走馬とか犬とか猫とか、父母が誰で、祖父母が誰々で、曾祖父母が誰々で、ってさ。おまけに名目が「そのような血筋を保つために」ってまさしく血統書扱い。

 

 もともとギャヴィン家はケルト系で、ケルト家系ならば国境など全く関係なく婚姻を結んできた経緯(いきさつ)がある。昔は厳密にケルト民族って括られてたみたいだけど、近頃はスペインとかドイツ出身でも、ウチは昔からケルト系で~って(いわ)れがあれば、今の外見100%その土地由来になっちゃっててもOKらしい。スラブ人的でもゲルマン人的でも、先祖的にケルト系を名乗ってればよろしいでしょうという訳。寛容です。

 

 現当主ザカリアスさんの奥さんのアンゲリーナさんはドイツ系イギリス人で、ちょっと顎の割れてる厳ついゲルマン人的容貌だ。ドイツのケルト系と云われている家系の出身だ。

 ケルト系に拘ってるのは当主に限っているので、当主以外ならどこの誰に嫁ごうが婿に行こうが本人の自由だそう。だから母さんも心置きなくイタリア系(日本人)の父さんと結婚できたのだろう。

 それゆえ、間違いなく純血(おそらくケルト系)ではあるけれど、英国に拘らないお家柄なので、むしろこちらからお断り~って感じらしい。純血魔法使い血統書聖なんちゃら一族は英国国内のみ有効です。もっとも、純血なのに違いはないので、純血家の一つとは記載されるらしいけどね。

 

 魔法力発現おめでとうパーティーはしないと決まったけど、お祝い的な言葉はみんなから貰った。最初に預けられてたアルフレッド伯父さんたちにも、すごく嬉しそうにおめでとうを云われる。ありがとう。お祝いは一人一回で良いと思うんだけど、みんなにわやくちゃにされるのは疲れます。

 

 ちょっとぐったりしてたら、父さんが救出してくれた。以後、おめでとうと云われて肩叩かれる係は父さんで。

 

 クヮジモド家ではこういうのなかったよねえ、と呟いてみたら明かされた真実。

 

 なんと、あの黒犬のウーゴって魔法生物なんだって! 犬じゃなかったの? 犬型? ニーズルみたいな感じの混血? へえ~。

 

 もともと闘犬とか牧畜犬とか魔法生物を掛け合わせて、賢く強い犬を目指した交配だったみたいで、その成功例の一種だそうだ。公式に発表されたりしてないから、地方限定でそれほど広まってないらしい。特色は魔法族に従順な事。非魔法族には獰猛になるんだって。――ああ、それで時々農園に来た人たちの中で吠えられてる人が居たんだ。

 あの辺りの魔法族の家にはたいてい飼われている種で、非魔法族除けの一環となっているみたい。獰猛に吠え掛かっても、闘犬の血が~って云えるらしい。なるほどね!

 

 そんなウーゴに子守されて、乗ろうが寄り掛かろうが唸り声一つ上げられもせず、ジッと傍に付き従われていた私を、魔女だとクヮジモド家では疑っても居なかった。むしろ魔女じゃなかったらびっくりだよって感じだったそうだ。

 

 父さんがウーゴを見るたび毎回ドキッとしてたのは、イギリスにいるガルムっていう魔法犬に似てたからだって。とても不吉な黒犬らしく、目撃すると間もなく死んじゃうとか謂われてる、別名『死神犬』。

 もうちょっとずんぐりしてたり、茶色で黒い縞がはっきりしてたり、昔はしてたのに、あの犬(ウーゴ)はスマートで黒くて、学校で習った挿絵のガルムにそっくりでなあ、と苦笑い。父さんが農園で暮らしてた頃も守護犬として飼われてた種だけど、そのころは黒よりも焦げ茶って感じの縞模様で、もっとずんぐりと皮が余ってた印象だったんだって。マスチフっぽい闘犬の血かな。ウーゴはグレートデンよりのシルエットだったものね。

 

 農園とウーゴを思い出してちょっと寂しくなってると、ナターレ(クリスマス)にクヮジモド家に行こうか? とカミッロに誘われる。ホントに顔出す程度で良ければ、って言われて思わず

「Grazie, voglio andare!」(ありがとう、行きたい!)

 万歳して答え、とたんに機嫌が上向く。私ってチョロい。

 

 


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