生まれ変わって、こんにちは 作:Niwaka
01. 異世界(?)転生したらしい
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目まぐるしく移り変わる状況が落ち着いて、よくよく考える時間が増えるにしたがって気づく。私、転生したんじゃね? って、ね。記憶がさ、あるんですよ。ミレニアムを超えて十数年、昭和に生まれ、平成の世を謳歌した日本人女性の記憶が。
聞こえてくるのは英語っぽくて、今度は外国生まれか~、とか。クチャクチャじゃなくてカタカタしてるからアメリカじゃないな~、とか。ネイティブ・イングリッシュ・スピーカーやね~、なんて思ってたんだけど、……何となくの違和感。生活レベルの水準が妙に古臭いんだよねえ。
いやあ、さすがに中世とか言い出さないけど、テレビとかパソコンとか影も形もないし。間接照明って云えばムーディでおしゃれだけど、夜は何だか全体的に薄暗いし。蝋燭とかランプとか現役ですよ、奥さん。
過去に遡っちゃったのかな~? でもなあ、なんか微妙に違うんだよねえ。飾ってある絵とか、ビデオだったっけ? ってくらい動くし、ニコニコ私をあやしてくれちゃうんだよねえ。
ホログラフ? 3Dか? 意思疎通可能って、何それハイテク。
――うん、異世界転生だったみたい。
だってさ、魔法だよ! 魔法!
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あやされてた
ダディ、マミィって一生懸命呼びかけても微妙な表情だったので疑問に思っていたら、言い聞かされたのだ。っていうか、愚痴られた。男性は私の母親の兄で、女性はその奥さん。私の母親は私を産んで間もなく亡くなったそうだ。
まあね、少年が一人、たまにのぞきに来ていて、兄かな~って思っていたんだけど――キミはどこの子? なんて訊ねられればさ。妹に向ける関心とはちょっと違うな~とかね。いやいやこのあっさり加減はこの家族の特徴なのさ、とか、いろいろ考えてたりしたんだけど。判明してみれば納得。
実はうっすら引き渡されたっていうか、預けられたって覚えはあった。でもね、赤ん坊なんて活動時間短いし、ぼんやりな記憶だから、はっきりしなかったんだよねえ。
で、父親はどうしたか、というと、なんか育児拒否っぽい。
母親が亡くなり、葬儀だなんだとバタバタして、幼い子供たち(兄姉がいる。なんとな~く覚えてる)の世話もあり、赤ん坊まで手が回らない。実際、泣きわめく私は放置気味だった。まあ、育児拒否はオーバーにしても、まともに育てられないだろうと、伯父が見かねて預かった。と、いう次第のようだ。
態度とかはあっさりだけど、いい人たちだよ。伯父さんも伯母さんも。もちろん従兄も。しっかりきっちり世話されてるし、何の不満もございませんとも。
よく聞く外国人特有の過度なスキンシップとかないし、親バカとか欠片もないけれど、
うん、ホント、何で彼らが家族じゃないんだろう。
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1歳の誕生日に父親がやってきた。
姉兄たちも一緒だ。
小学生くらいの女の子が一人に、同じ位の年頃の双子の男の子たち、の三人だ。末っ子の私を入れて四人姉兄妹かな? と思っていたら、さらに上に二人いるらしい。六人兄弟だって、多いね! とか驚いていたら、この三人はなんと三つ子! 一番上に姉、次が兄、三つ子がきて、私なんだって。 三つ子って! すごいよ、双子よりもすごいよ!
びっくりしすぎて、心の中では大興奮。たぶん見た目は呆然の態だろう。三つ子ショック! ほぇ~と感心していると、伯父さんと伯母さんが催してくれた心づくしのお祝いの後、どうにも当たり前のように帰って行った。うん、帰って行った。
大事な事なので二度言ったけど、帰って行った。
――三回言っちゃうくらいびっくりしたよ。私また置いてきぼりだよ! 何これ、私ここの家の子になるの? 伯父さんも伯母さんも、そんなつもりはないみたいで、困惑してるんだけど! 私も知らされてないって云うか、そんな気配は微塵もないんですけど!
伯父さんの名前はアルフレッド・ギャヴィン、伯母さんはクレアさん、良くあやしてくれる従兄はダニー――ダニエル。上にもう二人居て、ナッティーとマギー。兄姉だけど何歳上だとか、どういう順番とかはわからない。全寮制の学校に行ってるみたいで、顔合わせたのはちょっとだけだし、会話から聞き取った情報だからね。
とか思っていたら、半月くらいでまた父親が来た。三つ子の姉兄たちも一緒だ。
父親はジョージ、兄たちはアーニィとアーヴィ、姉はオーリィだって。
紹介とかは一切なくて、ダニー(従兄)と遊ぶ声で呼び名が判明した次第。父親もね、ジョージって呼ばれてたから知れた。
そっくりでどっちがどっちだか区別のつかない兄たちと姉は、最初に来た時こそベビーベッドに取り付き、私を珍しそうに覗き込んでた。でも今はすっかり、
どうやら引き取られることが決まったみたい。
何やら大人たちがごそごそ話し合っていたけど、まとまったようだ。ベビーベッドのある部屋で相談してるから、わかりやすいよね。
その日は皆お泊りして、次の日
ハイハイも完璧で二足歩行に移行中だった私に、
ヨチヨチ歩き幼児用リードはいわゆる迷子紐だ。ハーネス状の安全帯の背中にリードが繋がっていて、どう見ても散歩中の犬猫だが、いきなり走り出して迷子になるのを防止する紐だ。ヨチヨチ歩きの乳児が転がりそうな時は、特に真価を発揮して、リードを吊り上げ転倒を未然に防いだりも出来る。中腰にならずに済むので、保護者の腰も安全という、優れものなのだ。……外聞は悪いけど。うん、犬猫の散歩用リードにしか見えないからね。
ベビーベッドはギャヴィン宅で大事に仕舞われていたお古を丁寧に磨いて、むしろアンティークな感じで使わせてもらっていた。外歩き専用の乳母車は消耗も激しいんだろう、さすがに保管されてはいなかったみたい。
うん、うるさく構いつけるような人たちではないけれど、私の安全や健康なんかにはとても配慮してくれる。素晴らしい養い親たちだった。
ありがとう、伯父さん伯母さん――さようなら。
見送ってくれる彼らをしっかり見たかったけど、籠にみっしりだったからね。バランス崩して落とされるのも怖いし、手だけ挙げてフリフリした。
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人込みあふれる大きな駅舎から、蒸気機関の汽車に乗る。
どこぞの少年魔法学校の特急列車もこんな感じだったかな~ときょろきょろしていると、父親と目が合った。……どうしていいかわからないって表情だった。
ワーワーキャーキャーはしゃぎまわる三人を疲れたように
思いのほか慣れた手つきで私を抱き上げ、ちょうどいい温度の哺乳瓶を銜えさせる。その流れるような段取りの良さ、さすが子沢山の父親です。
離乳食もそろそろいけるんだけどな~と思いながら、ごっきゅごっきゅとミルクを飲む。落ち着きのない子供たちが全員食べ終わるのを確認してる父親に、出すもの出したと申告して
くせ~、とかなんとか言いながらコンパートメントを出て行った子供たちを尻目に、てきぱきとオムツを替えて、そのまま抱っこされた。
背中をとんとん叩かれながら、しばし愚痴に付き合う。父親――父さんは日本語も堪能なんですね。
マンマ(私の祖母)がイタリア人で今からマンマの実家、父さんの従兄のお家に行くのだそう。マンマの居る父さんの実家は日本なので流石に遠すぎるから、自分も世話になった事のあるイタリアの親戚宅に預けられるみたい。
父さんは日伊のハーフなんだね。くたびれてて気づかなかったけど、顔立ちはちょい悪親父系で渋い。日本人の中だと目立つだろう茶髪も、ヨーロッパなこの辺じゃダークな髪色で、むしろ平凡だ。目は赤茶色。ちょっと黄色みも混じった感じのアンバー。
今まで私が居たのは母親――母さんの兄の家で、母さんの母親(私の祖母)にバレて引き取りに来なさいとお叱りの手紙が来たそうだ。
謝らなくてもいいよ、わかったから。いたずら盛りでやんちゃ盛りの三人の子供を抱えたシングルファーザーは厳しいよね。
さらに上の二人って何歳か知らないけど、来てないってことは子育てに協力的じゃないのかも知れない。
それに父さんだって若いって感じじゃないし、奥さん亡くして辛いってのも事実だろう。――育児拒否じゃなくて、途方に暮れてるんだねえ。
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その後、(寝台列)車中泊(私はほとんど寝てた)のち連れていかれたのは、南イタリアのブドウ農園をドカンと経営する一族だった。もちろん、不思議現象起こしちゃう系の一族だ。巻き舌も激しいイタリア語は聞き取りづらいけど、陽気な大家族は笑顔が絶えず、温かい。
父さんの背中をバシバシ叩いてるのが従兄たちかな。
おう、お婆ちゃんが出てきて、私は抱っこされた。父さんの従兄さんの
父さんは学校を卒業してすぐの頃、ふらりと旅行で農園に来て、何年か居ついていたらしい。
従兄のマウリツィオさん、ヴィットーリオさん、従弟のレンゾの4人でブイブイ云わせてたみたい。ヤンチャしてたってことね。一番上のマウリツィオさんは家業の手伝いがあったから、半分くらいは不参加だったみたいだけど。
マウリツィオさんを置いて3人でナンパの旅、みたいなこともしてたんだって。そんでもって、観光地でのナンパ中に母さんと出会ったとか陽気に暴露してくれちゃったよ。ああ、父さん、ちょっと涙目で苦笑いだ。
そっくりだな!
名付け親の順番が
夕暮れに長テーブルみっしりでワイワイとご飯を食べた。
私は
薄闇迫れば子供たちはお
大人たちはお酒の時間だ。
グラスやゴブレットをぶつけ合う音、お皿やカトラリーの触れ合う音、笑い声と口笛とともに歌われるカンツォーネ、ドッと上がる歓声。
遠くに
騒がしくも慌ただしく子供の笑い声の響く家庭で、父さんも母さんもすっかり満足していた。
だけど数年後、再び妊娠が発覚。そしてドクターストップ。
スラリとした体形で、限界まで頑張った三つ子の出産で、今後の出産は諦めるように医者に宣告されていた上での
父さんは諦めるように泣く々々説得したらしい。でも母さんは、この末っ子を何としても産むと言い張ったみたい。
説得し返されて折れた父さんは、覚悟を決めてサポート体制に入る。すると今度は親族が諦めるよう忠告を入れてきたそうだ。祖父母とか伯父たちとか、母さんの親兄弟ね。もう5人も居るからいいだろう、と。残念だけど諦めなさい、と。
母さんは頷かなかった。確固たる意志で妊娠の継続を望み、万全の態勢で出産に臨んだのだ。
――うっすらと覚えてる。とても嬉しそうな柔らかな声、優しい香り。誇らしげな笑顔。
数日は側に居たけれど、引き離されてそれきりになっちゃった。
母さんは産褥熱で亡くなったのだ。
父さんは憔悴して時々私の世話を忘れがちになったけど、決して憎しみは向けてこなかった。悔恨も後悔もあっただろうに、私に向かっては恨み言一つこぼさなかった。
母さんが寝込んでる間、ワイワイガヤガヤキャッキャと幼い姉兄たちが
いよいよ母さんが亡くなって、家族中が悲しみに暮れていた時、しばらく放置気味にされていた。こまめに乳飲まないと私も死んじゃうよ~って、控えめに泣いて知らせてた。
このあたりの記憶はうすぼんやり、なんだよな~。排泄とか無意識の範囲だったし、寝てるか泣いてるか乳飲んでるかって生活だったからね。あれっ? って気づいたときには、もう伯父さん家に居たんだよ。
うすぼんやりと云えば、私の前世の記憶もぼんやりしてる。名前とか全然思い出せない。
平成の世で会社の事務員してたアラサー女性ってプロフィールくらいしか浮かんでこない。個人情報保護法の流れかしら、個人名とか浮かんでこないのよねえ。まあ、困らないから良いけど。
異世界転生だから内政チートの私SUGEEE! とか、全く考えてないし。もちろん魔法全開私TUEEEも、ご遠慮願います。私の希望は中の上か、上の下くらいのの
翌日、父さんは名残惜しそうに帰って行った。
三人の姉兄たちと一緒に、――帰って行った。
名残惜しそうにぶんぶん手を振る姉兄たちは、私じゃなくて、昨日転げまわって一緒に遊んだ又従兄姉達に手を振っていたんだろうけど。
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